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ファナック、Ciscoら4社が協業、工場の稼働率を向上する新たなIoTプラットフォームを提唱

 ファナック株式会社は18日、米Cisco Systems(以下、Cisco)、米Rockwell Automation、株式会社Preferred Networks(PFN)と協業するとを発表した。4社は製造・生産を最適化するプラットフォーム、「FANUC Intelligent Edge Link and Drive(FIELD)system」を共同で開発する。提供開始は2016年秋以降になる予定であるという。

(左から)シスコの鈴木みゆき社長、Cisco IoT兼アプリケーション担当シニアバイスプレジデントのRowan Trollope氏、ファナック 稲葉清典専務取締役、ファナック 稲葉善治社長、Rockwell Automation シニアバイスプレジデント 戦略的開発兼最高技術責任者 Sujeet Chand氏、Preferred Networks 西川徹社長兼CEO、Preferred Networks 岡野原大輔副社長

 すでにファナック株式会社とCiscoは1月に、“製造現場のゼロダウンタイム化”を目的とした協業「ZDT(Zero Down Time)Connected Robot Project」を発表しており、FIELD systemでこの取り組みをさらに拡張したものとなっている。ZDTは工場で稼働しているロボット、および周辺デバイスのセンサーをネットワークに接続し、常に稼働状態のデータを取得して分析を実施する。その結果、単なる稼働監視にとどまらず、取得したデータの変化から障害の予兆を検知し、故障する前に異常を知らせることで工場のダウンタイムを限りなくゼロにすることを目的としている。

 FIELD systemでは、ロボットなどの制御に人工知能(AI)を活用し、単にプログラム通りに稼働させるだけではなく、学習して習熟度を高め、自律的に動作を最適化することで作業の効率化を実現することができる。

 FIELD systemは、Ciscoが提唱する「フォグコンピューティング」アーキテクチャに基づいて開発されている。すべてのデータをクラウドに集約して分析を実行するのではなく、工場内でデータの処理と分析を実施し、本当に必要な情報だけをクラウドで共有するしくみだ。膨大な量のデータを工場内で分析するため、よりリアルタイム性が高くなる。「クラウド(雲)」よりも、現場であるネットワークの辺縁部(Edge)に近いことから「フォグ(霧)」と呼ばれる。

FIELD system

 各社の役割については、ファナックがマシンの信頼性、品質、スピードの向上に必要な主要指標を追跡するためのセンサーが埋め込まれたCNC(Computerized Numerical Control)とロボットを提供し、CiscoとRockwell Automationが、CNC、ロボット、その他セル装置をFIELDアプリケーションに接続するためのネットワーキング、コンピューティング、セキュリティインフラを、共同開発による「Converged Plantwide Ethernet(CPwE)アーキテクチャ」をベースに提供する。

 なおCiscoは、ミドルウェアプラットフォームも提供している。そして、オープンなディープラーニング(深層学習)フレームワークである「Chainer」、IoT向けのストリーム エンジン「SensorBee」、機械学習・深層学習の技術基盤の「DIMo(Deep Intelligence in-Motion)」をPFNが提供する。

工場内の膨大なデータを、CISCO UCS C220 M3Sで処理する

 「人件費の高騰や労働人口の減少によって、生産現場での自動化への要求が高まっている。FIELD systemは、こうした自動化生産現場の要求に応えるための新しいオープンなプラットフォーム」とファナック 代表取締役社長 稲葉善治氏は述べる。また、同氏は「ファナックでは常に現場(Edge)を重視している」と述べ、FIELD systemも製造の現場を重視した"Edge Heavy"なしくみであることをアピールした。

 ファナック 専務取締役 ロボット事業本部長 稲葉清典氏はフォグコンピューティングについて、「何でもクラウドに送るのではなく、フォグで処理して必要な情報だけをクラウドに送ることでコストを削減し、よりセキュアな環境を実現することができる」と述べている。

ファナック 代表取締役社長 稲葉善治氏
ファナック 専務取締役 ロボット事業本部長 稲葉清典氏

 また、過去にファナックが販売した既存のロボットやCNCについても、イーサネット I/Oコンバータなどを使用することでFIELD Systemに対応させることができるという。「ファナックがこれまで出荷したロボットやCNCなどの製品は、全世界で200万台以上にのぼっている。古い機械でもFIELD Systemと組み合わせて機能を向上できる」(稲葉清典氏)。

 そして、FIELD systemの最大の特徴は、PFNが提供する深層学習や機械学習などのAI関連技術が搭載された点だろう。PFNとファナックは、すでに2015年6月に産業用ロボットにAI技術を応用する目的で技術提携しており、すでにAI技術によってロボットに対するティーチング(作業内容の習得)時間を数日から数時間に短縮する技術などを発表している。

 今回の記者説明会においても3台のロボットによる深層学習の例が紹介された。バラバラに積まれた部品を画像認識でアームでつまみ上げる動作を3台のロボットがそれぞれ学習し、その学習結果を共有しあうことで、90%の部品をつまみ出せるようになるまでの学習時間を1/3程度に削減することに成功しているという。

分散強調型の強化学習
ロボット3台による分散深層学習の実演

また、既存の手法では壊れる直前まで検知できなかった故障が、深層学習によって40日前に検出されるようになる例もあると説明している。PFN 代表取締役社長 CEO 西川 徹氏は、「これまでIoTといえば"見える化"に重点がおかれていた。しかしIoTの世界でAIを活用すれば、単なるセンシングにとどまらず、デバイス同士で直接コントロールできるようになる」と述べた。

PFN 代表取締役社長CEO 西川徹氏

 なお、FIELD systemはオープンプラットフォームとして提供されるため、サードベンダーのデバイスやアプリについても、認証をうければ開発することが可能である。

 また、また顧客との窓口を一本化することを目的として、ファナックは「トータルインテグレーションパートナー」という資格を新たに設ける。ロボット、FA、ネットワークのインテグレーションサービスをトータルで提供できるパートナーを募集し、育成していく方針であるという。

北原 静香