インタビュー

ITインフラにも自動化の波が――、ネットワールドが進めるVMwareを核とした自動化への取り組み

ネットワールド、Puppet Labs、Cumulus Networksの3社に聞く

 サーバー仮想化およびクラウドの普及は、ビジネスに大きな変革をもたらした。例えば、負荷増加によって新たなサーバーが必要になった場合も即座に調達することができる。ただし、そのネットワーク設定は別途実施しなければならない。サーバーの台数が少ないうちは対応できても、数千台、数万台という規模になるともはや手に負えない。

 こうした課題解決に向けてネットワールド、Puppet Labs(以下、Puppet)、Cumulus Networks(以下、Cumulus)の3社がパートナーシップを結び、日本市場に向けたITインフラ自動化ソリューションの展開に乗り出した。この取り組みの背景からユーザーに提供するメリット、今後の展望まで、広範にわたる話を3社の代表者に聞いた。

ITインフラ自動化は仮想化、クラウド化に続く必然の流れ

――データセンター事業者を中心に、数千台、数万台といった大規模なIT機器をいかに少人数で効率的に運用していくかが課題となっています。その先に広がる「ITインフラの自動化」という市場を、皆さまはどのようにとらえてアプローチしているのでしょうか。

ネットワールド 森田氏
 十数年前にサーバー仮想化技術が立ち上がってきたとき、私はお客さまやパートナーに向けて「ITが、マニュアルシフトからオートマチックに変わった」と説明しました。それに続く大きな変化が、今まさに起ころうとしています。自動化されたITインフラの上で、運用管理やパフォーマンス制御、セキュリティ対策も行われる時代を迎えつつあるというのが、ネットワールドとしての見解です。

ネットワールド 代表取締役社長の森田晶一氏

Puppet ナイジャル氏
 なぜITインフラの仮想化やクラウド化が進んできたかというと、「より少ない工数とコストでITを活用し、今まで以上に大きな価値を生み出すこと」が求められるようになったからにほかなりません。そうした中から必然的に重要テーマとして浮上してきたのが自動化です。Puppetが提供している構成管理ツール「Puppet」は、その先鞭(せんべん)をつけるものです。私たちは“Automation makes IT better”(自動化がITをより良いものにする)というスローガンを掲げ、マーケットのリーダーを自認しています。

Cumulus リーク氏
 ITインフラの自動化に対する認識はお二人と同じです。特にCumulusが課題としてとらえてきたのは、自動化の対象がサーバーにとどまっていたことです。自動化はもっと多様な機器で行われるべきものであり、私たちはLinuxサーバーと同様の方法で管理できるネットワークスイッチの自動化を進めています。

米Puppet チーフ・インフォメーション・オフィサーのカーステン・ナイジャル氏
米Cumulus CTO兼共同設立者のノーラン・リーク氏

――ITインフラ自動化は、具体的にどんなメリットを生み出すのですか。

Puppet ナイジャル氏
 自動化による最大のメリットは、一度「あるべき状態」を決めてしまえば、その定義を何度でも流用できることです。どんな大規模なデータセンターにも適用できるため、ITインフラの運用負荷は加速度的に軽減されていきます。

――いわゆる“Infrastructure as code”のコンセプトを実践できるということでしょうか。

Puppet ナイジャル氏
 そのとおりです。Puppetを使えばITインフラの「あるべき状態」を、すべてコード(マニフェスト)で表現することができます。新しいサーバーのプロビジョニングはもちろん、ソフトウェアの更新やバージョン管理の自動化も可能となります。「idempotence(べき等性)」という特徴によって、さまざまな機器が自らの設定内容をそのコードに記述された「あるべき状態」へと自動的に遷移させるのです。

 これまでITインフラの構築や構成変更は設計書や手順書などのドキュメントをもとに行われてきましたが、パラメータシートに間違いがあったり、既存の機器の実際の設定値と異なっていたり、うまく動かないことがよくあります。そもそも管理対象の機器が増えてくると、人間が手作業で行うのは限界があります。Puppetを使うことでコードと実際のITインフラの間のかい離はなくなり、完全に一致します。すなわち、だれがそのコードを実行したとしても、同じ「あるべき状態」のITインフラを構築することができます。

Cumulus リーク氏
 私たちが提供しているCumulus LinuxもPuppetをサポートする一方、ハードウェアとしてはすでに30機種以上のオープンなホワイトボックススイッチ(ベアメタルスイッチ)に対応しています。Infrastructure as codeの枠組みのもとで、ネットワークスイッチの導入や設定変更も自動化することができます。

ネットワールド 森田氏
 お二人の話からも言えるように、ITインフラ自動化の本質はデータセンターの機能を抽象化し、すべてをソフトウェアでコントロールできるようにする点にあります。すなわちSDDC(Software-Defined Data Center)が現実のものとなるのです。

VMwareプラットフォームを共通点に統合されたソリューションを展開

――ITインフラ自動化のソリューションを、どんな業種・業態の企業をターゲットに展開しようとしているのでしょうか。

ネットワールド 森田氏
 日本のマーケットでは、当面のところデータセンター事業者が中心ターゲットになると考えています。ただ、ニーズは確実に一般企業のお客さまにも広がっていくと見込んでいます。可能性として大きいのは、インターネットを使った新規ビジネスを立ち上げる企業やベンチャーなどです。これらの企業はできるだけ迅速にサービスを展開したいと考えており、クラウド上にITインフラを構築するのが一般的です。そこにもPuppetを適用することができます。

Puppet ナイジャル氏
 実際、グローバルではクラウド上のITインフラの運用管理をPuppetベースで行う企業がどんどん拡大しています。

――なるほど、データセンターやオンプレミスだけでなく、クラウド活用の領域でもユーザーの潜在的なニーズは高まっているのですね。ここであらためて伺いたいのですが、こうしたITインフラ自動化のマーケットを日本で開拓していくにあたり、ネットワールド、Puppet、Cumulusの3社が手を組むに至った、そもそもの経緯や狙いなどもぜひお聞かせください。

ネットワールド 森田氏
 ひとつの共通点となったのが「VMwareプラットフォーム」に対する高い経験値と親和性です。ネットワールドはVMwareプラットフォームのディストリビューターとして国内No.1の導入実績を誇っています。Cumulusが提供するCumulus Linuxは、VMwareのネットワーク仮想化プラットフォームである「NSX」の認証を受けた唯一のLinuxをベースにしたホワイトボックス用スイッチOSです。そしてPuppetは、VMwareから出資を受けた開発会社です。

 ネットワールドとしては、グローバルなリーディングカンパニーである両社と手を組むことで、VMwareプラットフォームをご利用いただいているお客さまに対して、より洗練されたソリューションを提供できると考えました。

Puppet フィン氏
 ありがとうございます。おっしゃるとおりPuppetにとってVMwareは技術面での最大のアライアンスパートナーであり、VMwareプラットフォームにPuppetやCumulus Linuxを統合したITインフラ自動化のソリューションによって、さまざまなユーザーの課題を解決したいという思いは森田さんと同じです。

 また、ネットワールドが有するパートナーのポートフォリオは非常に広範囲にわたっており、ITトレーニングサービスを提供している日本サード・パーティ株式会社をご紹介いただけたことも、今後のビジネス展開に向けた心強い支援となりました。

Cumulus チョー氏
 Cumulusにとっても、ネットワールドは同じビジョンを共有するとともに、優れた実行力を備えた企業であり、アライアンスを組む上で願ってもない相手です。

 先ほどフィンさんからネットワールドが有するパートナーのポートフォリオのお話がありましたが、こちらについても同感です。ネットワールドは、例えば(スイッチを提供している)Quantaと提携し、同社のホワイトボックススイッチを取り扱っています。この製品はCumulus Linuxとの相性も非常によく、日本のお客さまにITインフラ自動化の統合されたソリューションを提供していく上での大きな武器になると考えています。

米Puppet ディレクターのロブ・フィン氏
米Cumulus プロダクト&アライアンス担当 バイスプレジデントのウィリアム・チョー氏

すぐに使えるリファレンスモデルを提供し、ユーザーの課題解決に応えていく

――ただ、ITインフラのアーキテクチャを変えることに対して、日本企業はパートナーもユーザーもまだまだ保守的なように思えます。

ネットワールド 森田氏
 たしかに、お客さまはさておき私たちのパートナーであっても皆がITインフラ自動化ソリューションを「ウエルカム」で受け入れているわけではありません。どうしても日本企業には、変化を望まない文化があるのかもしれません。

 しかし、先にも申し上げたとおり、ITインフラが仮想化からクラウド化を経て、この先に自動化に向かっていくのは必然の流れです。ならばパートナーやお客さまには、その技術やノウハウを先取りしてほしいというのが私たちの願いです。

――そうした“文化の壁”を崩し、3社のITインフラ自動化ソリューションを普及していくための策はありますか。

ネットワールド 森田氏
 すぐに使えるリファレンスモデルを提供することが重要と考えています。

Puppet ナイジャル氏
 同感です。森田さんは日本企業の文化とおっしゃいましたが、ITインフラに対して企業が保守的に構えてしまうのは、実際には米国でも欧州でも豪州でも同じだと思います。ようするにどんな企業も、しっかり検証された手堅いソリューションを求めているのです。

Cumulus チョー氏
 いずれにしても変化の流れは止めることができません。リファレンスモデルの提供に付け加えるならば、地道な啓発活動や成功事例の紹介なども重要です。ひとつひとつは小さなステップかもしれませんが、積み重ねていくうちにマーケットはせきを切ったように動き始めるのではないでしょうか。

Puppet フィン氏
 啓発活動という意味では、私たちは「Puppetキャンプ」というイベントを世界各地で開催しています。ユーザーが集まり、Puppetを使って実際にどのような問題を解決したのかを語り合ったりするイベントです。来年は東京でも開催したいと考えているので、どうかご期待ください。

ネットワールド 森田氏
 幸いなことにPuppetについては、ある大手SIベンダーのエバンジェリストの方がボランティアの手を挙げてくれて、日本でもユーザー会が発足することになりました。私たちにとって、これ以上にない後押しです。

 この機を逃さすことなく、私たちとしても日本語による情報提供やサポートなどの体制を早期に整えて、多くのお客さまの課題解決に応えていきたいと考えています。

小山 健治