インタビュー
やりたいことにこだわったクラウド作り――、IDCフロンティアが「IDCFクラウド」で目指すもの
(2015/12/25 06:00)
株式会社IDCフロンティアが2014年10月に、セルフサービス型クラウドサービスを「IDCFクラウド」ブランドでフルリニューアルしてから、1年がたった。
IDCフロンティアはこれまでも、クラウドサービスの強化やリニューアルを何度も行ってきたが、何が目的だったのか。今回、IDCFクラウドの開始1周年にちなみ、これまでのサービスの変遷や、IDCFクラウドの狙いと特徴などについて、同社の寺門典昭氏(技術開発本部 UX開発部 部長/クラウドアーキテクト)と、梶本聡氏(技術開発本部 UX開発部 サービスディベロップメントグループ グループリーダー)に話を聞いた。
Hyper-Vベースで始まったクラウドサービスの変遷
――IDCフロンティアでは、最初のクラウドサービスから何度かサービスのリニューアルを経て、現在はIDCFクラウドを展開しています。その変遷について教えてください。
寺門:
最初は2009年6月に、ハイパーバイザーにHyper-Vを採用した「NOAHプラットフォームサービス」を始めました。2008年ごろから検討していたものです。Amazon EC2は2006年に始まっていたものの、当時は、仮想マシンをすぐ作れるという時代ではありませんでした。
Hyper-Vも出たばかりのころで、マイクロソフトと話しながら導入しました。Hyper-Vの導入事例としては早いものだったと思います。
その後、お客さまからVMwareの安定性を求める声を多数いただき、2010年6月にNOAHプラットフォームサービスで、VMware vSphereを基盤としたサービスを開始しました。
ちょうどそのころ、ソーシャルゲームのプラットフォームのニーズが大きくなって、事業として飛躍的に伸びました。
――ちなみに、当時と今と、全体でのゲームの比率はそれぞれどのぐらいでしょうか?
梶本:
おおむね3割ぐらいです。
寺門:
当初のほうがゲームの割合が多かった。その後、ゲーム以外でも使われるようになって、ゲームの比率が下がりました。
梶本:
Hyper-Vでサービスしていた時代は、クラウドは検証用ぐらいでしか使われていませんでした。クラウドが必要になる爆発的なキャパシティということで、ゲームがうまくはまったわけです。
寺門:
インフラを持っている会社が少なかったのもあって、最初は飛躍的に伸びました。サーバーの導入が10年償却から日割りになり、ゲームタイトルごとに契約できて、増やしやすいということもあったでしょうか。
今は広告系やメディア系を主力で攻めていて、比率を変えながらサービスを続けています。
さて、2011年9月からはセルフサービスクラウドの「NOAHセルフタイプ」を開始しました。それまでは仮想マシン作成が依頼ベースだったので、自分たちでやりたいという要望が増えてきたためです。その要望に応える技術を探していて、ちょうどCloudStackが出てきたことから、Cloud.com(編集注:CloudStackを開発した企業。後に米Citrixにより買収)のCEOと話したりしながら採用を決めました。
CloudStack採用もたぶん日本で初めてだったと思います。こうした“初めて”はけっこう意識していて、(後のIDCFクラウドでの)オールフラッシュストレージやioMemoryなどの採用も、そうした流れです。
そうして昨年の2014年10月に、「IDCFクラウド」という名前でフルリニューアルした新しいサービスを開始しました。
リニューアルしたのは、セルフサービスクラウドでも課題が見えてきたためです。商用版のCloudStackをベースにカスタマイズを加えていたのですが、自分たちでコントロールできない範囲が大きいと感じていました。
特に、UI/UXを自分たちで作りたいという意識が強くありました。エンジニアの考える管理画面は、ロジックが画面に詰め込まれていて、難しい。本当はもっとやさしくできるはず、と考えていました。
企業内個人のエンジニアに使ってもらう金額設定
――フルリニューアルして、既存のユーザーの反応はどうでしたか。
寺門:
既存のユーザーにとっては、仕様がほぼそのままでリニューアルしているのがうれしいと思います。一方で、われわれにとっては、ハードウェアもフルリニューアルできたのが幸いでした。仕様はほとんど変えないように気を付けながら、UIなどを変えて、納得していただいている形です。
――リニューアル前のサービスは終了したのでしょうか。
寺門:
旧プランは今も動いています。新規申し込みも止めていませんので、そのまま利用することもできます。選べる形です。
――各クラウドベンダーが値下げをしている中で、リニューアルした新サービスも月額500円からの低価格を打ち出していますね。
梶本:
AWSが定期的に下げていますね。当社が500円サービスを出したのは、競争というわけではありせん。IDCフロンティアはそれまで法人への認知しかなかったのですが、AWSはエンジニアに好まれて認知されていました。そこを変えたい、企業内個人のエンジニアやプロシューマーをターゲットにして、その人たちが個人でも使ってくれる金額にしようと思って付けた価格です。
寺門:
クラウドで陣地をとりたかった、という思いです。シリコンバレーのエンジニアは非常に給料が高いのですが、日本のエンジニアはそうではない。日本の活性化を狙って価格を付けました。
ただし、500円プランでもメモリは1GBとしました。1GBにこだわったのは、500円プランだとしても、きちんと使っていただくには500MBでは足りないと思ったからです。
――今年の10月には、S2プランの性能を増強するとともに、月額を約半額に引き下げましたね。当初は500円のS1の次が3500円のS2という構成で、やはり間が欲しいという声があったのでしょうか。
梶本:
ありました。高すぎるという声もいただきました(笑)
寺門:
Twitterで、スペックから逆算するとS2は700円ぐらいにできるはず、という声もありました。それは違うんだけどなあと思いましたが(笑)、いずれにしても開発者を意識して値段を再設定しました。
――価格より性能のインパクトを狙ったのでしょうか。
寺門:
それもあります。「価格半分、性能倍」というインパクトを狙いました。
梶本:
S2をリニューアル前に調べたところ、個人でけっこう使われているのですが、法人にはあまり使われていない。その原因はCPUクロックだろうと思ったのが背景にあります。
――個人ユーザーが3500円のコースを使っていたのですか?
梶本:
自宅でサーバーを動かすような人であれば、ランニングコストを考えて、妥当な額だと思っていただいたのでしょう。VPSという選択肢もありますが、IDCFクラウドはクラウドサービスですから、S2もS1からスケールアップできます。そこがVPSと違うところです
寺門:
性能面では、NginxとMariaDBで構成したWordPressで限界点を試した人がいて、「限界が来ない」とTwitterで報告していました。そうした評判がうれしいですね。
梶本:
そうした評判はSNSで横に広がりますからね。
――先ほども話に出ていましたが、パフォーマンスではオールフラッシュストレージもいち早く採用しましたね。
梶本:
パワーユーザーから、ストレージの性能を安定させたいという要望がありました。そうなると、オールフラッシュストレージしかない。ちょうどコストも安くなってきたところでしたし。
寺門:
今はコストが厳しいのですが、今後安くなる想定でアグレッシブに価格付けをしています。クラウドでインフラの性能を気にしなくていい時代が来ているかと思っているので、それを最初にやりました。
新機能を毎週リリース
――そうした上り基調を社内で感じていますか?
寺門:
開発部門がその雰囲気を感じた上で、開発してくれています。今は、新機能をほぼ毎週リリースしています。けっこう大変ですが、ユーザーも盛り上がって、話題にしていただいているので、それもモチベーションになっています。
毎週リリースは、最初は社内で「えー!?」と言われていましたが、最近はできるようになってきました。体制が強くなっている実感があります。
――最近の新機能や強化点にはどのようなものがありますでしょう。
梶本:
リリースノートに日付順にすべて書いていますが、一番大きいのは西日本リージョン開始ですね。そのほか、ハードウェア専有タイプやテンプレートエスケープなどがありました。
寺門:
例えば、OSイメージの検索機能を強化しました。OSイメージがたくさんあって目的のものを見付けづらい、という声があったので、インクリメンタルサーチによって、入力していく端から選べるようにしました。
あと、プライベートIPアドレスの一覧表示機能があります。ランダムに割り当てるのではなく、一覧から空いているところを選んでIPアドレスを順番に並べるようにしたい、という要望に対応したものです。
APIの送信IPアドレスを制限する機能も提供開始します(注:現在は開始済み)。Twitterでも要望が出ていた機能です。
梶本:
認証用のAPIキーを退職者がそのまま持っていることもありえますからね。IPアドレスを制限できれば、セキュリティ的に高まります。
寺門:
ゾーンの名前にもこだわっています。よくあるのが「tokyo1」「tokyo2」のようなものですが、それは気にいらなくて。例えば、利用を分散させようとして「2」が先に表示されるようにすると変ですし、「2」が無効なときに候補として「1」と「3」だけ表示すると変です。利用側でも、数字が付いていると無意識にマスターを「1」にしがちですし。
そこで、東日本リージョンではSI単位系(国際単位系)の単位名をゾーンに付けました。最初は、密度高く取り組んでいたという意味も込めて(笑)、磁束密度の「tesla」にしました。うまくいったと思います。
梶本:
西日本リージョンのゾーン名は私が付けました。単位系よりなじみのあるもので、伸びていこうという意味、ユーザーが増えて見られているという意識をあわせて、観葉植物から選んでいます。まずは「augusta」が最初です。
ネットワークの技術やインフラにもこだわり
寺門:
ネットワークも売りだと思っています。もともと通信系の会社で、バックボーン回線を持っています。通信品質には自信がありますし、こだわりがあります。ネットワークならICDFクラウドと言ってもらえるようにしたい。
クラウドを使ううえで、エンジニアがネットワークの知識がないといった悩みをときどき聞きます。当社はネットワークの知識や経験があるので、それをもとに営業することもありますね。
梶本:
ビジネスでクラウドを始めるときに、インフラのコストを下げたいというのが選択ポイントの上位にあると思います。しかし、使っているうちに、バックボーンなどが気になってきます。当社はもともと通信事業者なので、ネットワークの技術者もバックボーンもあります。クラウド事業者として必要なものを持っています。
寺門:
サービスとして、コンテンツキャッシュ(CDN)を提供していますし、開発者にも使えるロードバランサーのサービスも1月ごろをめどに予定しています。
梶本:
それから、ユーザーコミュニティも重視していきます。リニューアルしたサービスで企業内個人への認知を狙っていることもありますし。われわれの開発もコミュニティに参加しています。Twitterの声も参考にしていて、気軽にダメ出しできるのがいい、という声もいただいています。
寺門:
率直な意見が聞けるのがいいですね。一般には、ネガティブな意見はなかなかこちらに届かなかったりするのですが、Twitterは容赦ないので(笑)。それを真摯に受け止めて対応していくことで、サービスが良くなると思っています。