インタビュー

マルチベンダー対応を強化する富士通エフサス
~「EMCストレージ構築サービス」開始の狙いを聞く

 富士通エフサスは12月9日、「EMCストレージ構築サービス」の提供を開始すると発表した。富士通エフサスは、事業領域を従来のITインフラ・サービスから、ICTをコアとした「トータルサービス」とすることを目指している。その施策の1つがマルチベンダー化だ。「EMCストレージ構築サービス」のメニュー追加は、マルチベンダー化への第一弾と位置づけられる。

 富士通エフサスは、サーバーやストレージなど富士通製品を導入する顧客企業のシステム構築や運用保守をメインに手がけてきており、同社の「FUJITSU Infrastructure System Integration ストレージソリューション」でも富士通のストレージ製品「ETERNUS」を中心に展開してきた。

 一方で、サーバーを所有するオンプレミス型のリスクを避け、クラウドや仮想化に切り替える企業が多くなっているという大きな流れがある。富士通エフサスがこれまでソリューションとして提供してきたのは、その多くが顧客の要求仕様に合わせて組み上げるオンプレミス型のシステムとなっている。

 クラウドと仮想化が本格化を迎える時代に、富士通グループ企業としてシステム構築を手がけてきた富士通エフサスは、EMC認定パートナーとなってどう変わっていこうとしているのか話を聞いた。

認定のための資格取得に、4人が3カ月半

株式会社富士通エフサス サービスビジネス本部 マルチベンダービジネス支援センター長 武野正浩氏

――まず、富士通エフサスの事業と今回の発表内容について改めてご紹介いただけますか。

武野氏:
 富士通エフサスは富士通の保守会社として平成元年(1989年)に誕生し、現在は、ストレージ構築などのインフラインテグレーションサービス、システムの保守、運用サービスの3本柱で事業展開しています。全国160箇所に5200名のサービスアカウントエンジニアがおり、運用のサポートを行うLCMセンターと呼ばれるコールセンターや、OSC(ワンストップソリューションセンター)によるサポートデスク、製品保守サービスなどを運営しています。

 これらを活用して、コンサルティングから設計・構築、データ移行、運用までをソリューションという形で提供しています。ストレージについては、コンサル、設計・構築によるシステムの最適化、必ず発生する作業であるデータ移行から運用まで、ライフサイクル全般をサポートしています。

 今回の「EMCストレージ構築サービス」は、このうち“設計・構築”のストレージインテグレーション、「FUJITSU Infrastructure System Integration ストレージソリューション」のメニューを拡充するものです。資格を取得してEMCジャパンの構築パートナーとして認定を受け提供させていただくサービスです。

 EMC構築パートナーとして認定されたのは国内では14社目、富士通グループとしては初めてですね。我々は富士通グループの一員ですので、これまで富士通製品のETERNUSを中心に構築してきましたが、お客様のシステム環境や要望に応じて今後はEMCのストレージを組み込んだシステム構築も可能になります。富士通製品だけでなく他社のストレージも品揃えしながら、ソリューション、サービスの幅を広げていきます。

――これまで他社製品は一切扱っていなかったのですか?

武野氏:
 個別の案件については、以前から富士通やEMC以外の製品についても契約を結んで構築は行ってきました。しかし、本格的にサービスとして実施するための資格を取得して取り組むのは、EMC製品が初めてと考えていただいてけっこうです。

――EMCの資格を取得するのは難しいのでしょうか?

株式会社富士通エフサス サービスビジネス本部 マルチベンダービジネス支援センター 中川美穂氏

中川氏:
 EMCの資格取得にはいくつか条件があります。まず15日間ほどトレーニングを受けました。資格取得のために設計、構築、運用でそれぞれ資格が分かれておりまして、私は設計・構築の資格を4つ取得しました。

 15日間のトレーニングの後に、2カ月間のOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)という形で、EMCのエンジニアと一緒に設計と導入のトレーニングを実機を使って行います。マニュアルを見ればわかる部分も正直あるのですが、EMCのエンジニアと一緒に取り組むことで、EMCとして標準的な導入方法がどういうものなのかなど、きちんと教えていただけます。OJTを含めた約3カ月半のトレーニングにより、実践力を身につけることができ、貴重な経験になりました。

 トレーニングとしてはそれに加えてeラーニングもあります。資格取得までの期間は、7月から本格的にスタートして9月いっぱいまでかかりました。もちろん通常業務もありますので、期間中はやはり大変でした。

 EMCパートナーの認証を得るには、資格取得者の最低人数のほか、設計と構築でそれぞれ別の資格を取得しなければならない、といった条件もあります。それらの条件をすべてクリアすると、構築パートナーという形で認定していただけることになります。

――EMCの資格取得にあたったのは選抜メンバーということですね。

武野氏:
 現在はEMCのストレージ構築について中川を含め4人が資格を取得していますが、今後、EMCを使ったソリューションを構築できる技術者を増やし、2016年末までに技術者を200名とすることを目標としています。

 EMCストレージの保守・運用の資格は、構築の資格とは別に必要です。保守・運用の資格取得に向けて、トレーニングの受講やOJTを進めています。この保守・運用の資格も2013年度中には認定いただける予定ですので、これにより、EMCを使った構築から保守・運用までを一貫して提供する体制を整えたいと思っています。販売価格は1台当たり90万円からで、2016年末までの販売目標は製品の売り上げ分も含め累計40億円としています。

クラウド、仮想化にはストレージが重要な位置を占める

――富士通製品を持ちながら、なぜマルチベンダー化を推進することにしたのでしょうか。

武野氏:
 マルチベンダー化に取り組んだ背景には、今後仮想化においてストレージが非常に重要な要素になり、幅広い製品の品揃えが必要になるだろうという考えがあったからです。我々は、バックオフィスとフロントオフィス、つまりサーバー・基幹システムの仮想化という領域と、シンクライアントを含めたデスクトップの仮想化という領域の、両方について数多く対応させていただいています。仮想化に関連する製品はいろいろありますが、その中でもストレージが非常に重要な位置づけになるというのが我々の認識です。それはクラウドに対しても同様です。

 また、ストレージには性能を重視する分野に向けた製品や、ビッグデータのために大容量を重視したもの、その間に位置づけられる汎用ストレージがあります。グローバルレベルで見ると、目的や用途に応じて使えるストレージの種類が非常に多い。お客様にご満足いただけるサービスを提供するためには、これら売れ筋の製品については一通り設計・構築、保守・運用できる体制を富士通グループのためにも整えたい、というのが大きな理由の1つでもあったんです。

富士通エフサス ストレージソリューションにEMCストレージ構築のメニューが加わった

――マルチベンダー化にあたって、なぜ初めにEMCを選んだのでしょう?

武野氏:
 EMCはグローバルではNo.1のシェア、日本でも常にベスト3に入るほど高いシェアを誇ります。それだけお客様に支持されているメーカーと言えます。あらゆる分野に全方位的にストレージを展開するとともに、常に最先端技術にも取り組まれている。EMCはサーバーを作っているわけではないので、富士通グループの製品を含め、他のサーバー機器との豊富な検証実績もあるというところに我々としても魅力を感じました。

中川氏:
 機能面で言えばETERNUSでも満たせる場合もあるのですが、既存環境がEMCのストレージなので移行後もEMCの方がいいとおっしゃるお客様も多く、「そこもできます」と言えるのが大きいですね。

――EMC製品を扱うことで売り上げに与えるインパクトは?

武野氏:
 我々は富士通グループの一員ですから、率直に言うと富士通グループの製品を第一に販売したい。PRIMERGYとETERNUSの組み合わせが一番いいんですけれども、ストレージはEMCがいい、とお客様が判断されてしまうと、その上にあるサーバーの商談も当然ながら逃してしまうことになります。ストレージ単体の販売というよりも、我々はソリューションを提供していくという考えで事業展開していて、ストレージが取れなければサーバーも取れないということですから、売り上げに与える効果は大きいのではないかと考えています。

――今後富士通のETERNUSとはどういった形でバランスを取っていくのでしょう?

武野氏:
 ETERNUSもいろいろなカテゴリーに向けた製品を提供しており、これにEMCの製品を組み合わせると、ストレージの仮想化、重複排除、スケールアウト、フラッシュストレージなど、ほとんどのカテゴリーが埋まるんですね。商談の際にはETERNUSを望まれるお客様も多いんですが、そうではないケースもあります。富士通はストレージだけでなく、サーバー、パソコンも取り扱っています。“PRIMERGYとEMCのストレージ”という組み合わせ方も非常に多いので、こういった方向にも力を入れていきたいと考えています。

――他社製品についてEMCと同様に取り組む予定はありますか?

武野氏:
 お客様のご要望に応じて、他社製も扱うことになるでしょう。日本国内の他社製品についてもお客様からの要望が多く、ストレージに限っては今後も広げていきたいと思っています。

年間数十万件の事象を網羅したDBが、サポート力、技術力のベースに

――SIerは、オンプレミスのシステム構築ではハードウェア込みで販売することで売上額が大きくなっていたが、クラウドの時代にはハードウェアの売上部分がなくなるので売上が縮小するという指摘があります。

武野氏:
 我々はデータセンターを持っているわけではなく、いわゆるオンプレミス型をメインに手がけ、SIerに近いビジネスをしています。ですので、データセンターにサーバーが集約されて“所有”の世界から“利用”の世界へ徐々に移っていく中で、ある種の危機感として、規模的な縮小は避けられないという考えはあります。

 したがって、そういうことに対応する1つの策が“マルチベンダー化”なのです。トータルサービスとして「オフィスまるごとイノベーション」という形でも発表していますが、もう少し既存のビジネス領域を広げていかないと我々自身厳しい状況になる、と認識しています。

――とはいえ、現実的にはプライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせたシステムが多いとは思います。最後までパブリッククラウドにはならないものもありますよね。

武野氏:
 特に基幹系のシステムでは、セキュリティ上の都合からオンプレミスがゼロになることはないでしょう。ただ、インタークラウドという言い方もされていますけれども、プライベートクラウドとパブリッククラウドの組み合わせ、あるいはパブリッククラウドの複数のサービスを組み合わせて提供するなど、そういったシステム形態になっていくのかな、という兆しが見えてきていると思います。

――ネットワーク仮想化なども進み、システムがますます複雑化しているようにも思います。

武野氏:
 富士通グループでは垂直統合型など、さまざまなモデルでシステムを統合していますが、ネットワーク、ストレージ、サーバーを統合してソフトウェアで全体を制御するようになってきますと、今後はそれぞれの切り分けが非常に困難になってくると思います。我々は保守・運用がベースの会社ですので、単なる製品だけの保守ではない複合化したシステムの運用や、トラブル対応が必要になってきます。

 他社製品も含めマルチベンダー化してそれらの構築にも力を入れていくのは、その部分に対応できないと保守・運用も今後できなくなってしまうからなんです。システム構築した情報をいかに保守・運用の部隊に引き継いで、複雑化したシステムの安定稼働を図るか、といったところは、うまくやれば我々の強みにもなり得ると思っています。

――SIerによって保守の対応力の差というのはどれくらいあるんでしょうか

武野氏:
 24時間365日対応というのは今は当たり前ですけれども、一時対処をして業務復旧できるまでのスピードと、原因究明の部分に差があると思いますね。復旧はしたものの原因はわからないといったパターンが保守・運用では多いんです。原因がわからず、3カ月後にまた同じ問題が発生してトラブルを繰り返す、ということもあります。我々は富士通グループ全体の保守・運用を担っている会社ですので、多くのノウハウ、経験の蓄積というのは強みとしてあると思います。

――技術者がトラブルの原因究明を進めていく中で、「これはハードウェアが原因くさいぞ」みたいな感覚的なところから手がかりにすることも多いと思うんですが、技術者の育成には御社ではどのように取り組まれていますか?

武野氏:
 そういうのはよくありますよね(笑)。資格を取ることも含めて、技術者1人1人のスキルがベースにあることは事実ですが、それ以外に弊社にはナレッジデータベースという、今までの障害の履歴を分類したデータベースが数万件あります。この30~40年間分の障害事例、あるいは障害の切り分け事例がずっと蓄積されてきていて、キーワードを入れると類似検索もできるようになっています。

 こういった情報は一口にノウハウとは言っても、一朝一夕にはできないものと考えています。トラブルを二度と繰り返さないように、万一起きてしまった時にはいち早く対応できるようにということで、そのデータベースが大きな役割を担っていますね。富士通グループのSEに向けては、Web上の自動質問応答システムも提供していて、個々人が技術を高める活動に役立てています。

 また、富士通の製品が1000万台以上稼働していることもあって、ハードウェアに何らかの障害が発生して対処することは年間数十万件はあるんですけれども、サーバーが壊れた時にどこが悪いのか、マザーボードなのか電源なのか、というような情報は、「アクションマップ」と呼ばれる仕組みで把握できるようになっています。たとえば、ある事象が発生した時にこの部品を取り替えれば95%の確率で再現しない、という部品の候補が表示されます。長年の部品の交換実績をすべてデータベース化していて、しかも毎日そのデータは更新しています。こういったところは我々のアドバンテージだと考えています。

――トラブルなどの事象を1件ずつ報告書にしてDBに登録しているんですか?

武野氏:
 もちろんそうです。富士通のサポートデスクの例でいいますと、お客様向けにサポートデスクWebというホームページがあり、一度対応した後にどういう内容でどう対処したかを1件ずつデイリーで掲載していきます。いわゆる障害のビッグデータですよね。これを分類して、実際のサポートサービスに活用していますので、この分野は相当進んでいると自負しています。

――EMC製品がすでに組み込まれているサーバーもあると思いますが、他社製品のノウハウも貯まっているのでしょうか。

武野氏:
 富士通製品に比べるとはるかに少ないですけれども、ゼロではありません。富士通のサポートデスクには“マルチベンダーサポートサービス”というのがあり、EMCやその他のメーカーに不具合を問い合わせた事例もあります。今後は、メーカーに連絡するだけではなく富士通製品と同様に原因と対処の内容を社内で報告をするようになりますので、より深いノウハウが蓄積されていくことになります。

システム全体をカバーできる力があるのが富士通エフサスの強み

――グローバル展開の計画はありますか?

ハードウェア、OS、ミドルウェア、アプリケーションまでシステム全体をカバーできるのが富士通エフサスの強みだという

武野氏:
 富士通エフサスは現在のところグローバル展開はしていません。何年後かにはしたいということを社長も表明していますが、まだ具体化するレベルには至っていないという状況です。

中川氏:
 弊社の拠点ではないのですが、富士通グループとしてはシンガポールなどに拠点がありますので、日本と海外拠点とでDR(ディザスタリカバリー)システムを作りたいというような案件では提案・導入をさせていただいています。

――ズバリ、富士通エフサスのビジネスとしての強みはどういったところにあるとお考えですか。

武野氏:
 日本全国に拠点があること、仮想化の技術者が多いこともそうですが、富士通グループとして、垂直統合モデルでパソコン、プリンタ、サーバー、ストレージ、ネットワークからミドルウェアまで、全方位的に製品を作って扱っているというのは、グローバルレベルでもなかなかありません。そこは間違いなく強みと言えます。システムというのは、ハードウェアの製品があって、OSがあり、その上にミドルウェア、さらにその上にパッケージやアプリケーションがあって、それでシステム全体になるわけです。

 そういうシステムを売った後の障害対応では、原因の切り分けをした時に、サーバーを扱ってないベンダーや、ストレージを扱っていないベンダーだと、どうしてもブラックボックスがあって原因を見つけられないことが多いんです。その点、我々は富士通製品で組んでいますので、システム全体をカバーできる力があるというのが強みだとも思っています。

――一番扱いやすい、おすすめのストレージというのはあるんでしょうか。

中川氏:
 その質問はよく聞かれるのですが、使いやすさという意味では慣れたものが1番ですから、私どもでもっともノウハウの蓄積があるのはETERNUSということになります。

 ただし、ストレージ製品は多くが汎用的に使えるものですから、どの製品を選んでいただいても、どんな用途でも基本的には使えるんですね。ただ、お客様の求めるレベルや動かすアプリケーションによって、ETERNUSが適切なこともあれば、EMCやNetAppがいい、ということもありますので、一概にどれがベストとは言えません。私どもはそういった製品のことをすべて知っているからこそ、お客様の求めるものをご提案できるところが強みだと考えています。

 要求レベルなど仕様面だけでなく、今までEMCを使ってきたからEMCを使いたい、というお客様もいらっしゃいますし、私どもはまずお客様ありきで考えたいと思います。

――最後に何かメッセージをいただければ。

武野氏:
 これからクラウド化がさらに進展していくと、今までみたいにストレージがサーバーのオプションとしてあるのではなく、ストレージがシステムの中で重要な構成要素になるでしょう。我々はビッグデータを含めてお客様のストレージに関するあらゆる要求に対応するために、今後もソリューションの幅を広げてお客様のご要望に少しでも答えられるようにしたいと考えています。ストレージ関連でお困りのことがあれば、ぜひ富士通エフサスにお声がけいただければと思います。

――本日はありがとうございました。

日沼 諭史