インタビュー

クラウドへのアプローチはAWSともOpenStackとも競合しない~米VMware パット・ゲルシンガーCEO

 8月25日~29日(米国時間)の5日間にわたり、米国サンフランシスコで開催された米VMwareの年次イベント「VMworld 2013」。最初のVMworldから数えて10年目にあたるアニバーサリーイヤーにふさわしく、2万2000名を超える参加者を集めた初日の基調講演では、パット・ゲルシンガーCEOにより、数々の発表が行われた。

 VMwareは現在、「ハイブリッドクラウド」「Software Defined Datacenter(SDDC)」「エンドユーザーコンピューティング(EUC)」の3つを事業の柱に置いている。世界No.1のシェアを誇る仮想化技術でもって、エンタープライズクラウドの世界に3方向から挑んでいるというイメージに近い。特に今回のVMworldで一般提供開始が発表された「VMware vCloud Hybrid Service」は、Amazon Web Services(AWS)に対抗するパブリッククラウドサービスという言われ方をすることも多く、その展開に注目が集まっている。

 AWSという強大な覇者が君臨するクラウドコンピューティングの世界で、VMwareはどのようなアプローチを取ろうとしているのか。今回、VMworld 2013の会場において、ゲルシンガーCEOにグループインタビューする機会を得たので、これを紹介したい。

既存の自社製品ユーザーを中心にクラウド製品を提供

――今回のVMworldではハイブリッドクラウドおよびSDDC関連の製品がいくつか発表されましたが、そもそもVMwareがクラウド市場でターゲットとしているユーザーはどういった層なのでしょうか。

米VMwareのパット・ゲルシンガーCEO

 われわれのクラウド製品は、基本的にすでにVMware製品で仮想環境を構築済みで、vSphere上でワークロードを稼働させているユーザーが対象です。VMwareが提供するクラウド環境は、オンプレミスで利用中の仮想環境となんら変わることがなく、アプリケーションの改修も必要ありません。マネジメントツールも同じものが使えますし、セキュリティも担保される。VMware環境の“ナチュラルなエクステンション”といえます。

AWSのパブリッククラウドとは立ち位置が異なる

正式にローンチするVMware vCloud Hybrid ServiceはAWS対抗のパブリッククラウドといわれることが多いが、あくまでVMwareの既存ユーザーの“ナチュラルエクステンション”であるという

――5月に発表されて以来、VMware vCloud Hybrid Serviceについて「AWSに対抗するパブリッククラウド」とする記述をときどき見かけますが、AWSのようなパブリッククラウドと言うよりはむしろ既存のVMware環境を、オンプレミスのデータセンターだけではなく外部のクラウドでも利用可能にするというイメージでしょうか。

 vCloud Hybrid Serviceはオンプレミスとクラウドをシームレスかつスムーズに行き来するためのソリューションです。AWSのようなIaaSベンダが提供するパブリッククラウドとは明らかに立ち位置が異なります。

 AWSが10年前にクラウドサービスを立ち上げ、新しい市場を開拓してきたことは事実で、われわれも深く尊敬しています。しかし、AWSがクラウドのすべてとはいえない。ことにエンタープライズ分野においては、(SLAに関してなどで)AWSに不満をもつユーザーも少なくありません。その点、われわれはデータセンター事業などで長い期間にわたり、エンタープライズで実績を積んできました。企業としての歴史や顧客に対するフォーカスポイントがVMwareとAWSではあまりに異なるため、同じレベルで比較するには適していないといえます。

 また、AWSからVMwareへと移行を図っているユーザーも存在します。例えばフェニックス大学のオンラインエデュケーション環境はAWSでサービスが提供されていますが、現在、これをVMwareに移行する作業が進んでいます。大幅な統合が行われており、既存の仮想マシン(VM)数を1/15程度にできる予定です。この例のように、AWSからの移行を検討するユーザーにはそのためのブリッジを提供していきます。

――しかし、vSphereやNSXといったVMwareの仮想化技術を中核にクラウドサービスを提供するのであれば、AWSのようなコストメリットは望めないのではないでしょうか。

 今回でVMworldは10週年を迎えましたが、この10年、VMwareほど企業のROI向上に貢献する技術を提供してきたベンダーはほかにありません。VMwareが仮想化を推進してきたことにより、多くの企業がハードウェアにまつわるコストから解放されました。同じメリットをさらにクラウドにも拡張していくのですから、「VMwareは(クラウドで使うには)高い」という批判は当たらないでしょう。

VM密度の高さがVMware最大の強み

――VMwareの仮想化技術は10年前からずっとトップにありますが、(Hyper-VやKVMなど)競合のハイパーバイザーに比べてどういった点が強みなのでしょうか。

 最大のポイントはVMの密度が高いことです。競合の製品に比べて、少なくとも1.5倍のVMを立てることができます。そのため、消費電力や冷却、マネジメントなどもすべて含め、あらゆるITリソースを効率的に運用することができます。その効果の大きさは、顧客が競合に移ることなく、ずっとわれわれの製品を使い続けていることからもわかるでしょう。

――VMwareはサポートするハードウェアが多いことも支持されている理由のひとつだと思いますが、現在話題になっているARMプロセッサをサポートする予定はありますか。

 当面はありません。その理由はARMサーバー上で保護すべきアプリケーション資産が少ないということ、加えて私自身、ARMサーバーの成功に疑念をもっているからです。

 モバイルの世界ではARMは大きな成功を遂げています。しかしサーバーとしてモメンタムを形成できるとは現時点では思えない。ARMを核とするエコシステムが周辺テクノロジーを含めて確立する状態には至っていません。もちろん、顧客からの要望が強くなれば対応しますが、いまのところそうした声も聞きませんね。

OpenStackと組み合わせたニーズが増えてくる

――基調講演ではVMware製品におけるOpenStack対応を進めると発表され、こちらも話題になりました。OpenStackとのすみ分けはどのように行うつもりなのでしょうか。

「VMware製品だけで仮想環境を作る顧客がほとんどだが、、一部だけOpenStackを使いたいニーズがあるため、APIを自社製品に取り組んだ」と話す、ゲルシンガーCEO

 はじめに強調しておきたいのは、クラウドソリューションとしてVMwareとOpenStackを見たとき、両者はあまりに違い過ぎているということです。OpenStackは自分自身でクラウドをビルドしたいというユーザー向けのフレームワークです。一方でVMwareは、すでにある環境をプリインテグレートして提供します。

 この10年でVMware製品はハイパーバイザーを中心に着実に進化してきました。高可用性、リソースの動的なスケジューリング(DRS)、ストレージ仮想化、オートメーション、ロードバランシング、マネジメントツールなど、非常に成熟した、ロバストなクラウドプラットフォームに成長しています。

 ほとんどのユーザーはVMware製品だけで仮想環境を構築することを望みますが、一部だけOpenStackを使いたいというニーズも増えています。われわれは顧客に選択肢を提供する必要がありますから、OpenStack APIをVMware製品に取り込むことに決めました。

 具体的な例でいうと、eBayはvSphereをハイパーバイザーとして使っていますが、マネジメントレイヤはOpenStackです。今後はサービスプロバイダやネットワーク事業者によるOpenStackと組み合わせたニーズが増えてくる可能性は高いですね。

――オープンソースがらみで言うともうひとつ、VMwareは今年、EMCからスピンアウトしたビッグデータベンチャーのPivotalにPasSソフトウェアのCloud Foundryを移管していますが、こちらとの関係はどうなるのでしょうか。

 Cloud FoundryはすでにPivotalのアセットなので、われわれとは独立した関係にあります。もちろん、PivotalにはVMwareも出資していますし、同じEMCグループの一員として重要なパートナーですが、組織としてはまったく別になります。Cloud FoundryはPivotalがビジネスを行っていくための重要な基盤であり、VMwareも協力していきますが、あくまで運営はPivotalになります。

 VMwareもEMCも、そしてPivotalも、同じグループ企業とはいえ、独立性は非常に高いです。例えばPivotalはHadoopディストリビューションのGreenplumを保有していますが、VMwareはGreenplumのライバルであるClouderaと深いパートナーシップを結んでいます。ストレージにおいても、EMCのライバルである日立や富士通、NetAppはわれわれの重要なパートナーです。それぞれの独立性を尊重しつつ、必要なときはグループ内で協力しあうという感じですね。

 「ミッションクリティカルなアプリケーションの仮想化は10年前に比べてずいぶん進んでいる。だが、まだ半分以上が物理環境で動いている。われわれのやるべきことはまだまだ多く、ロングジャーニーが始まったばかり」――。

 VMworld 2013初日に行われた基調講演でゲルシンガーCEOはこう語った。AWSと同じインフラレベルでのクラウドサービスに本格的にフォーカスしはじめたVMwareだが、AWSのようなパブリッククラウドではなく、これまで構築してきた仮想環境の利用シーンを、オンプレミスのデータセンターからVMwareのクラウド環境に広げることがメインだと主張する。

 期間中、プレス陣から何度も対AWS戦略について聞かれていたゲルシンガーCEOだが、常にAWSとの土俵の違いを主張し、マーケットシェアの奪い合いになるようなことはないとしている。実際、AWSがユーザー層を拡大したところで、VMwareのユーザーが減ることはあまり考えられないだろう。AWSを無視することはできないが、AWSを意識したマーケティングはしない姿勢を明らかにしている。

 AWSのクラウド市場における独走が続く中、仮想化というクラウド構築の核となる技術でもってエンタープライズ市場から高い信頼を得てきたVMwareが、AWSとは異なるクラウドのニーズを広げていくことができるのか。ローンチ後の展開に引き続き注目していきたい。

五味 明子