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パット・ゲルシンガーCEO、SDDC実現に近づくための製品群を発表〜VMworld 2013 初日基調講演レポート

 Software Defined Datacenter(SDDC)――。エンタープライズ業界にかかわる人なら、ここ1年ほど、米VMwareとパット・ゲルシンガーCEOが、このキーワードをことあるごとに繰り返していたことをご存じだろう。仮想化の世界で圧倒的なシェアを誇り、クラウドコンピューティングにおいてもAmazonに続く“勝ち組”と称されるVMwareが次に切り開こうとしている分野、それがSDDCである。

 8月25日(現地時間)、米国サンフランシスコでスタートしたVMwareの年次イベント「VMworld 2013」の初日基調講演に登壇したゲルシンガーCEOは、新たに4つのアナウンスメントを行った。いずれもSDDCの実現を具体化するためのソリューションである。本稿ではゲルシンガーCEOの講演をもとに、VMwareが目指すSDDCの概観を探ってみたい。

ITインフラを理想に近づけるSDDC

米VMwareのパット・ゲルシンガーCEO

 ゲルシンガーCEOは新製品の発表に先立って、理想的なITインフラストラクチャに求められる3つの要素として

・すべてのITリソースの仮想化
・ITマネジメントの自動化
・互換性を担保するハイブリッドクラウドの遍在化

を挙げている。そしてITインフラをこの理想に近づけるには、SDDCの存在が欠かせないというのがVMwareの主張だ。

 そのSDDCを実現するには、以下の4つのステップを踏む必要があるという。

1.すべてのアプリケーションを仮想化する
2.アプリケーションの要求に応じてストレージを仮想的に構築する
3.効率性とスピードを兼ね備えた状態でネットワークを仮想化する
4.仮想化されたITリソースをツールで自動的にマネジメントする

 今回、ゲルシンガーCEOが発表した製品は、いずれもこのSDDC実現のステップに沿ったものとなっている。

VMware vSphere 5.5/VMware vCloud Suite 5.5

 最初にゲルシンガーCEOがアナウンスしたのはVMwareのフラグシップである「VMware vSphere 5.5」、vSphereをもとにプライベートクラウドを構築する「VMware vCloud Suite 5.5」の一般提供(GA)開始である。

 多くの機能が強化されたvSphere 5.5では、前バージョン(5.1)に比べて2倍のCPU、メモリ、およびNUMAノードを利用でき、さらに最大64TBの仮想ディスクファイルを新たにサポートする。

 また「Flash Read Cache」と呼ばれる、サーバーサイドフラッシュを仮想化する機能を新たに追加しており、アプリケーション実行におけるレイテンシを大幅に改善することが可能となっている。

 その他、可用性の向上、Hadoopコネクタ(Big Data Extensions)の追加なども含まれており、トラディショナルなアプリケーションから次世代アプリケーションに至るまで、あらゆるミッションクリティカルなアプリケーションの仮想化を強力に推し進めることを目指す。

 SDDCアーキテクチャの基本型ともいえるvCloud Suite 5.5には「vCloud Automation Center」が新たに加わり、ITアプリケーション/サービスのデプロイやリソースマネジメントの自動化が強化され、スイートとしての完成度がより高まっている。

VMware Virtual SAN

Virtual SANはアプリケーションセントリックな仮想ストレージを構築する

 2つめの発表は、「VMware Virtual SAN」のパブリックベータ開始だ。ゲルシンガーCEOは「私がEMCに入って理解したこと、それはストレージというものは非常に複雑だということだ」とコメントしているが、その複雑なストレージをシンプルなITリソースに変えるための“Software Defined”な製品がVirtual SANだとしている。

 Virtual SANは名前の通り、仮想的なSAN環境を構築するソリューションである。vSphereのハイパーバイザ機能を拡張して、コンピュートリソースとそれに接続されているストレージのプールを作成し、アプリケーションの要求に応じて仮想ストレージを割り当てる。仮想ストレージの作成やマネジメントはvSphereのWebクライアントから簡単に行える。

 ゲルシンガーCEOはVirtual SANの特徴を

・ポリシードリブン
・エラスティック
・ハイパフォーマンス
・レジリエンス

と紹介している。ソフトウェアのニーズに応じて柔軟にスケールでき、スモールスタートも可能な、まさにSDDCの中核となるストレージソリューションといえる。一般提供開始は2014年前期の予定だ。

VMware NSX

 3つめの発表である「VMware NSX」は、おそらく今回のVMworldにおいて最も注目度が高いソリューションだろう。昨年買収したNiciraの技術を初めてVMwareブランドに取り入れた、ネットワーク仮想化のためのプラットフォームである。2013年第4四半期に提供が予定されており、HP、Juniper Networksなどパートナー企業20社がローンチに参加する。

 NSXは、サーバーのための仮想化テクノロジーであるESXのネットワーク版ということができる。ハードウェアはもちろん、ハイパーバイザーやクラウドマネジメントプラットフォームに非依存であるため、どんな構成のネットワークでも仮想化できることが最大の特徴だ。もちろん、既存のネットワークアプリケーションも変更することなく利用できる。

 コア機能には、物理ネットワークから切り離して利用できるL2 over L3のロジカルスイッチング、仮想ネットワーク間のロジカルルーティング、そしてどんなクラウドプラットフォームにも統合できるRESTful APIの「NSX API」が含まれる。

 さらにオプションでは、カーネルレベルで統合できる高速分散ファイアウォール(ロジカルファイアウォール)、ソフトウェアでアプリケーションロードバランシングを行うロジカルロードバランサー、ソフトウェアでVPNのリモートアクセスを提供するロジカルVPNが提供される。

 つまり、ネットワークの基本レイヤであるL2およびL3はコア機能でカバーし、その上のサービスレイヤであるL4からL7まではオプションで提供されるかたちだ。「L2からL7までをサポートするネットワーク仮想化プラットフォーム」とゲルシンガーCEOはNSXを称していたが、Virtual SANとともに、SDDC実現のためのキーテクノロジーであることは疑いない。

ネットワーク仮想化テクノロジであるNSXのローンチに参加するパートナー企業は20社。CitrixやJuniper、Red Hatなどが参加するが、Ciscoの名前はない

VMware vCloud Hybrid Service

 アプリケーション、ストレージ、ネットワークの仮想化をもとにクラウドが構築できたら、次に必要なのは異なるクラウド間をつなぐハイブリッドな接続環境である。VMwareは5月に「VMware vCloud Hybrid Service」の早期提供を開始したが、今回の4つめのアナウンスメントとしてvCloud Hybrid Serviceの一般提供開始が発表された。おもな新機能としては

・オンプレミスのデータセンターとのダイレクトな接続
・アプリケーションやデータを自動でレプリケートする"Disaster Recovery as a Service"機能
・オープンソースソフトウェアであるCloud FoundryおよびCloud FoundryベースのPivotalのフルサポート
・"Desktop as a Service"として提供される「Horizon View Desktop」

が挙げられる。

 vCloud Hybrid Serviceの一般提供開始に伴い、VMwareはサンタクララとスターリングの2カ所に新たにデータセンターを開設、既存のラスベガスとあわせて合計3カ所の専用データセンターをもつことになる。また、ゲルシンガーCEOはIaaSベンダのSavvisとのパートナーシップも発表しており、vCloud Hybrid Serviceとの互換性を拡大していく方針を示している。

vCloud Hybrid Serviceは異なるクラウド間を接続するニーズに応えるためのソリューション。とくにオンプレミスのデータセンターとの接続が期待されるとしている

 なお、ゲルシンガーCEOは今回、オープンソースのクラウドアーキテクチャであるOpenStackのサポート強化を表明している。すでにvSphereではサポートしており、Niciraにも統合することが可能だったが、OpenStackユーザーの増加を受けて、さらに対応を進めていくという。「ほとんどのユーザーはVMwareスタックでコンプリートしたいと言う。だが中にはほかのベンダの製品やサービスを使いたいというユーザーもいる。そうしたユーザーの選択肢を奪わないようにしたい。OpenStackのサポート強化はその一環だ」(ゲルシンガーCEO)

OpenStackのサポート強化は「顧客の選択肢を増やす」ための施策

 「われわれはモバイルとクラウドの時代を生きている。この地球上のすべての人が何億ものアプリケーションを通してつながるようになるのは間もなくだろう。膨大な人、膨大なアプリ、膨大なデータが行き交うようになったとき、ITは真にサービスとして提供されていなければならない。IT-as-a-Serviceを実現するためにはSoftware Defined Datacenterの存在が欠かせない」――。

 基調講演の最後、ゲルシンガーCEOはあらためてSDDCの重要性を強調する。すべてのITを仮想化するというVMwareだが、その究極であるSDDCは、ゲルシンガーCEOの言葉を借りれば「実現への旅がまだ始まったばかり」であり、普及にはまだ長い時間がかかるだろう。だが、机上の空論ととらえられがちだったSDDC具現化へのソリューションを、今回のようにまとめて提示できた意義は大きく、この分野におけるVMwareの影響力が一段と高まったのは間違いない。

 VMworld 2013のテーマは「DEFY CONVENTION」- 常識を打ち破るという意味が込められている。世界のすべてが仮想化されたITでつながったとき、そこに見えるのはおそらく現在の常識では考えられない世界なのだろう。「つながる準備は、もうできている。何度でも、何度でもつながることができる」と締めくくったゲルシンガーCEO。SDDCが本当に未来へのブリッジとなり、世界をシームレスにつなぐ役割を果たす存在になるまで、それほど時間はかからないのかもしれない。

(五味 明子)