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ニュータニックス、富士通や東芝の事例を公開――国内企業は仮想化インフラ基盤の見直しが急務に
2025年10月23日 06:15
ニュータニックス・ジャパンは10日、都内で開催した年次プライベートイベント「.NEXT On Tour Tokyo」において、富士通とのパートナーシップ強化および東芝や東急不動産ホールディングスのVMware環境からの移行事例など、国内でも急速に増えつつあるNutanix製品のユースケースをいくつか紹介した。
本稿ではそのなかから、富士通と東芝の事例に関して、報道関係者向けに行われた説明会の内容をもとに概要を紹介する。
富士通:わずか2カ月で完了した既存仮想化基盤からの無停止移行、その経験を新たなサービスに
富士通は10月10日付けで、同社の顧客3000社が利用するサービス運用基盤を、既存の仮想化基盤からNutanixのハイパーコンバージドインフラ(HCI)サービス「PRIMEFLEX for Nutanix」に、約2カ月かけて移行が完了したと発表した。本移行により、仮想化基盤の導入コストの30%減、基盤メンテナンスの作業工数の90%減を実現したという。
富士通が“既存の仮想化基盤”からNutanix環境に移行した理由について、富士通 サービスインフラ事業本部長 関根久幸氏は「“既存の仮想化基盤”の更改が半年後に迫るなかで、既存環境の継続か移行かで検討した結果、Nutanix環境への移行が最適と判断した」と語る。
検討にあたって富士通が重要視したポイントは以下の3点だった。
・移行期間 … 目標期間内に確実に移行を完了する
・コスト低減 … ライセンスコスト、サポート、メンテナンス工数を合わせた全体コストの低減
・サービス継続性 … サービス無停止での移行およびその後の安定稼働、互換性の確保
移行期間に関しては、アプリケーションの変更や再設計なしで仮想マシンを移行できるツール「Nutanix Move」により、期限内に確実に移行できるという結論に達した。また、全体コストもメンテナンス自動化などの効果により大幅に下げられることが判明したという。
最後のサービス継続性、特にサービスを停止することなく移行するという条件について、関根氏は「3000社のエンドユーザーに対する説明責任がある以上、どうしても譲れないポイントだった」と語るが、Nutanixはすでにグローバルで多数の大規模移行の実績がありその能力は実証済みで、加えて移行前と同じIPアドレスを移行後も利用できること、サポートレベルの改善が期待できることも決め手となり、Nutanix環境への移行を決断した。
移行作業は運用中のサービスに影響を与えないよう「深夜などの限られた時間帯に行った」(関根氏)が、結果的にはエンドユーザーに対するサービスを継続したまま、2カ月というスピードで移行を完了(8月30日に完了)している。すでにNutanix環境に移行してから1カ月半ほど経過しているが、サービスの停止は一度もなく、想定通りの結果を得られているという。
このプロジェクトの成功を受け、富士通は「我々の成功体験をもとに、顧客のDXを推進したい」「市場における“既存の仮想化基盤”からの移行ニーズに応えたい」という思いから、今回の事例発表と同時に“オンプレミス既存仮想化基盤からNutanix仮想化基盤への移行を支援するサービス”の提供を開始している。具体的には以下の2つのサービスが新たに提供される。
・MC(Mission Critical)マイグレーション支援サービス for Managed Service … ミッションクリティカルなオンプレミス既存仮想化基盤からNutanix仮想化基盤への移行をサポートするサービス
・Fujitsu Managed Service for New On-Premises … セットアップ済みのハードウェアとインフラ運用保守をトータルで提供するマネージドサービス、顧客の運用負荷を軽減
MCマイグレーション支援サービスは、富士通が自身の移行プロジェクトの内容をベースにパッケージ化したもので、顧客のNutanix環境への確実で高品質な移行を支援し、さらに富士通自身が受けた恩恵と同様に、ビジネスの継続性と安全性の確保を実現する。なお関根氏によれば、富士通は同サービスを開始するにあたり、同社のNutanix認定技術者をそれまでの27名から249名へと大幅に拡充しているという。
また、Fujitsu Managed Service for New On-Premisesは、顧客の専用環境(ハードウェア、仮想化基盤、生成AIモデルなど)を富士通のデータセンター内に設置し、セキュリティや安全性を富士通基準で提供する月額従量課金のサブスクリプションサービスで、関根氏は「運用保守をトータルで提供することで、顧客を運用から解放することを目的としたマネージドサービス。Nutanixという非常に強いツールがあるからこそ実現した。顧客にとって生成AIの活用などで大きな武器になる環境」と語る。
「Nutanixの伴走があったからこそ今回の移行は実現した。この経験をもとに、今後は顧客のNutanix仮想化基盤への移行を強力に支援していきたい」(関根氏)。
東芝:VMwareのライセンス改定をきっかけに、国内最大級の大規模VM移行を今後2年かけて実施
東芝は現在、既存のVMware仮想化基盤環境からNutanix環境への移行プロジェクトをまさに進めているところだ。
説明を行った、東芝インフォメーションシステムズ 技術統括責任者 フェロー 濁川克宏氏によれば、9月までに設計フェーズを終了しており、10月から本格的な移行フェーズに入るという。
同社は、2025年5月に米ワシントンD.C.で開催されたNutanixのグローバル年次カンファレンス「Nutanix .NEXT 2025」において、社内環境のNutanixへの移行を決定したことを日本の報道陣に向けて明らかにしており、「約2年かけて2200の仮想マシン(VM)を移行させる予定」(濁川氏)としていたが、いよいよその計画が本格的に動き出すフェーズへと入った。Nutanixはグローバルで数万VMの移行案件も数多く成功させているが、東芝の2200VM移行は国内では最大規模の移行プロジェクトである。
東芝がVMware環境からの移行を決断したのは、BroadcomによるVMware買収と、それに伴うライセンスコストの大幅な値上げが大きかったと濁川氏は語る。代替インフラの検討にあたっては「社会インフラを提供している企業である以上、情報システムの安定性は不可欠で、移行にあたってもシステムへの影響を最小限にすることが条件」(濁川氏)だったが、Nutanixに移行することで、コストの低減はもちろん、高い品質を維持しつつ、継続的なサポートを受けられ、さらに運用管理性が大幅に改善することが判明し、移行を決断したと語っている。
富士通と同様に、東芝もまたNutanixの移行ツールであるNutanix Moveへの信頼が厚い。濁川氏は「移行ツールとしての性能の高さは信頼しているが、それ以上にNutanixから安定的なサポートを得られるという安心感がある。VMを2200台も移行すれば何かトラブルが起こることは避けられないだろうが、移行が完了するまで必ずサポートすると確約してくれた」と語っており、Nutanix Moveを含めた同社のサポート体制を高く評価している。
「社会インフラ企業の情報システムとして、ビジネスの持続的な競争力を維持/成長するプラットフォームを構築する、それができると信じて移行を進めていく」(濁川氏)。
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Nutanixは現在、「Run Anything, Anywhere」というコンセプトのもと、
・インフラのモダナイズ
・モダンアプリケーション(アプリケーションのコンテナ化)
・エージェンティックAI
という3つのインフラ戦略の柱を掲げている。そして日本企業にとってまさに直近の課題ともいえるのがインフラのモダナイズ、具体的にいえばVMware環境からの移行だ。東芝のケースにもあったように、BroadcomによるVMware製品のライセンス改定は仮想化基盤をVMwareに依存していた多くの企業に衝撃を与え、その混乱は現在も続いている。次の更改までにVMwareの利用を継続するか、それともNutanixやパブリッククラウドなどの別の環境に移行するか、いまも検討を重ねている段階のところも少なくない。
東京でのイベントのために来日したNutanix プロダクト&ソリューションマーケティング担当シニアバイスプレジデント リー・カズウェル(Lee Caswell)氏は、調査会社のGartnerが公開した「2028年までにコストに関する懸念から、エンタープライズ規模のVMware顧客の70%が、仮想ワークロードの50%を移行する」という調査結果を紹介しており、その移行先としてNutanixが高い評価を得ていることを強調している。
今回の富士通や東芝の事例はまさにそうした仮想化基盤市場の変化を象徴したものだが、将来のコンテナ化やAIアプリケーションの活用なども含めたインフラ基盤の見直しが、あらためて多くの日本企業に問われているといえそうだ。