インタビュー

データベースの会社からクラウドの会社へとイメージを変えたい――、日本オラクル オーバーマイヤーCEO

 2017年6月に、フランク・オーバーマイヤー氏が、日本オラクルの執行役 最高経営責任者(CEO)に就任して約4カ月を経過した。この間、約30社の顧客を訪問したほか、クラウドシフトを加速させるため、従業員に対するクラウドに関するトレーニングを強化。さらには、SMB(中小企業)向け営業体制を倍増する強化策も明らかにした。

 「今後は、パートナー企業と直接対話する時間を増やしたい」とも語る。直接、声を聞く活動を優先するのは、オーバーマイヤー氏の手法のひとつだ。

 一方で、「日本では、AWSに対して攻撃することはあまりなかった。だが、顧客の理解を深めるためにも、このあたりをもっと訴求したい方がいい」と、同氏流の戦略転換にも言及する。

 さらに、「4カ月間、日本にいてわかったのは、日本の食事が予想以上においしいこと」というジョークも飛ばす。

 オーバーマイヤーCEOに、就任後4カ月間の日本オラクルCEOとしての取り組みと、今後の方針について聞いた。なお、インタビューは、米Oracleが米国サンフランシスコで開催した「Oracle Open World 2017」の会場において、共同で行われた。

データベースの会社からクラウドの会社へとイメージを変えたい――、日本オラクル オーバーマイヤーCEO 日本オラクルの執行役 最高経営責任者(CEO)、フランク・オーバーマイヤー氏
日本オラクルの執行役 最高経営責任者(CEO)、フランク・オーバーマイヤー氏

顧客訪問を優先

――2017年6月に、日本オラクルの執行役 最高経営責任者(CEO)に就任してから、どんなことを優先してきましたか。

 私は日本オラクルのCEOとして、顧客のニーズを理解すること、クラウドの専門家になること、日本の顧客に対して最適な環境を提案すること、という3つの方針を打ち出しています。

 特に優先したのが、この4カ月の間に、重要なすべてのお客さまを訪問するということです。お客さまとの対話を通じて、顧客の課題をきちんと理解し、彼らの戦略を把握し、その戦略がどこまで進ちょくしているかを知り、そこにわれわれはなにができるのかを把握することに取り組みました。

 話し合いのなかで感じたのは、トヨタ、ソニー、NTTといったすべての企業が、デジタル変革を加速しており、そこに、OracleのSaaS、IaaS、PaaSの強みが生かせるということです。実際には、競合他社のパブリッククラウドを活用しているケースがありますが、むしろ、それはいいことであると考えています。

 というのも、今回のOracle Open World 2017では、競合他社のパブリッククラウドに比べて、Oracleのパブリッククラウドが、パフォーマンスやコストにおいて、大きな優位性があることが示されました。コストはどこの企業にとっても優先することですし、むしろ、競合製品を使っていることは、ビジネスチャンスが生まれると考えており、懸念するようなものではありません。

従業員の“クラウド知識”を高めた

 もうひとつ重視したのは、日本オラクルの従業員たちのクラウドに関する専門知識をさらに高めることです。Oracle Cloudに関する商品知識や専門知識だけでなく、競合他社のクラウドサービスに関する知識も高め、他社とも競争ができるように、約2500人の従業員を対象にトレーニングを強化しました。

 まだ日本では、クラウドのOracleというイメージが定着しきれていません。データベースの会社であるというイメージの方が強いといえます。これも変えていく必要がありますね。

 さらに、すべての従業員が働きやすい環境にしたいと考えていますし、女性をもっとリーダーシップチームのなかに取り入れたいと考えています。シングルマザーや身体に障害を持った社員、あるいは両親の介護をしなくてはならない従業員など、さまざまな人が働けるようにしたいと考えています。政府の協力を得て、社内に託児所を設けるといったことも検討していきたいですね。

 また、若い社員が活躍できる場も増やしたいと思っています。日本オラクルでは、Oracle Digital Hubを社内に設置しています。大学を卒業したばかりの社員と多くの経験を持っている社員が一緒になって仕事をしたり、遠隔地と結んでビデオ会議をしたり、ライブデモができるスペースもあります。来年半ばには、この設備が本格的に機能することになります。

 一方で、SMB向けに特化したチームを200人で構成していますが、これを倍増させる予定です。私は、ドイツ時代に、国内の各拠点にSMBの担当者を配置したこともありました。日本では、東京の拠点に集約し、そこから国内をカバーする形にしていますが、ここはもう少し学習しながら、必要に応じて、ローカルに人を配置する必要があれば、それも検討していきたいです。

 ただ、AWSも、地方に多くの拠点を持っているわけではありません。もちろん、都市部にも、地方にも、強いユーザーグループがあることは理解していますが、当然、われわれにも強力なユーザーグループがあります。私自身も、日本のSMB市場の構造をもっと理解したいと思っています。

パートナーを重視する戦略は変えない

 あとひとつ付け加えると、パートナーとの対話にもっと時間を割かなくてはならないという点を課題に感じています。

――日本のパートナーに、Oracle製品の良さがパートナーに伝わりきれていないのではないでしょうか。

 日本において、パートナーとの連携は重要です。パートナーを重視する戦略は、これからも変えるつもりはありません。そして、パートナーのトレーニングもしなくてはならないと考えています。

 確かに、Oracle Cloudのポートフォリオの広さが理解されきれいないことや、AIやブロックチェーンなどの最新技術が、すぐに取り込めるようになっていることについての理解は、まだこれからです。これはパートナーにとって、大きなビジネスチャンスを生むことになりますから、もっと多くの情報や、正確な情報を伝えなくてはなりません。

 私も、すでに数社のパートナー企業のトップと話す機会を設け、そこで情報交換を行い、パートナーと一緒にやっていく重要性を再確認しています。顧客のことを熟知しているパートナーとの連携を強化していくことは重要なテーマです。

インフラだけではなく、すべてが統合された環境を完全な形で提供する

――パブリッククラウドでは、AWSが先行していますが、Oracleはそこからどんなことを学んでいますか。

 AWSは素晴らしい仕事をしている会社だと思います。AWSは、多くの顧客に対して、IaaSをどう使うべきかということをしっかりと伝え、パブリッククラウドを使用することの利点を、多くの人たちに理解させたといえます。

 特に、多くの人がクラウドを導入する際に懸念していたセキュリティについて、しっかりとした回答を提案できたことは、クラウドビジネスを行っているOracleにとっても、Salesforce.comにとっても、Workdayにとっても、プラスになっています。業界全体に対して、大きな貢献しています。

 しかし、OracleはAWSとはクラウドビジネスの仕方が違います。当社は、IaaSだけを提供するのではなく、SaaSやPaaSも提供する会社です。アプリケーションレベルまでカバーする会社なのです。そして、データベースでは長年の歴史があり、その上で、さまざまなサービスを提供することができます。

 さらに、Oracleは世界で最もパフォーマンスの高いコンピュート、ストレージ、ネットワークを提供することを目指しています。私たちにとって重要なのは、インフラだけを提供するのではなく、すべてが統合された環境を完全な形で提供するということです。

 いま、注目すべきは、クラウドをひとつの統合した環境で使いたいという顧客が増加しているという点です。こうした流れは当社にとってはプラスですし、AWSを使っているユーザーであればあるほど、統合することの重要性と課題が理解できると思っています。

 Oracleは、AWSよりもいいソリューションを持っています。AWSは、IaaSの会社であり、少しだけPaaSをやっている。それに対して、Oracleは、さまざまなクラウドサービスの価値を提供できます。これは、AWSの顧客に対しても、価値を提供できるというの同義語です。

 日本オラクルは、これまで日本において、AWSを攻撃するような発言はあまりしていません。私は、AWSの違いについて、顧客に対して、もっと訴求した方がいいと思っています。その方が、顧客もクラウドに対する理解が進むはずです。そして、競合がいるということは、私たちにとっても、顧客にとってもいいことです。

 当社は、AWSにはない統合環境を提供できる企業であり、はるかに高いパフォーマンスを実現する環境でありながら、それを素晴らしいプライスで提供できる。その点を訴求していきます。

日本企業のクラウド導入はそれほど遅れていない

――世界各国のクラウド導入に比べて、日本の企業におけるクラウド導入が遅れていると感じますが。

 私は、日本でのクラウド導入がそれほど遅れているとは思っていません。ドイツに比べると、日本は約1年遅れているといえるかもしれませんし、米国は新たな企業が多く、クラウドから導入を始めているケースが多いですから、圧倒的にクラウドへの移行が進んでいるのは確かです。

 いま、日本の企業を見ると、どのワークロードをクラウドに乗せるのが最適か、ということを、注意深く検討している段階にあります。なかには、すぐにクラウドに活用するのが難しいワークロードもありますから、そのあたりのリスクを評価中だといえます。ただ言い換えれば、日本は大きな可能性を持った市場です。

 私が最も注意しなくてはならないと考えているのは、日本の顧客のスピードにあわせて提案をしていく必要がある、という点です。無理やりクラウドに移行させる提案は失敗します。顧客のペースにあわせて、少しずつ歩みを進めたい。

 クラウドへの変革は困難を伴います。まるでマラソンのようなものであり、パートナーとして、長い付き合いが前提になります。企業には、マラソンが得意な会社と、短距離競争が得意な会社の2つに分類できますが、Oracleは、これまでの歴史を見てもわかるように、マラソンが得意な会社だといえます。

――クラウドビジネスとオンプレミスのビジネスとの差はなんですか。

 顧客がクラウドサービスの導入する際の多くは、現時点では、ビジネス側が中心となったり、ビジネス側の動きがきっかけになったりする場合が多いですね。つまり、現場部門が主導することが多く、すべてを、情報システム部門を通して行うものではありません。顧客のニーズをしっかりと把握するという観点でいえば、顧客のなかで、決定権がある人が誰かを見極めなくてはならない点も大切です。

――日本の顧客から、日本オラクルに求められている最も大きな要望はなんですか。

 最も大きな要望はコストダウンです(笑)。コスト削減をしながら、高い価値が欲しいと言われています。これは全世界共通の要望ではないでしょうか。そして、コスト削減して生まれた資金を、新たなイノベーションに投資したいという声もあります。具体的には、人工知能などの新たな技術や、データサイエンティストの採用などといった領域です。日立やパナソニックは、自らがIoTの会社になりたいと考えています。そうした意識を持った会社こそ、新たな投資に予算を振り向けたいという意向が強いですね。

――今回のOracle Open World 2017では、自律型のOracle Autonomous Database Cloudを発表しました。日本において、どんな成果を発揮すると考えていますか。

 Oracle Autonomous Database Cloudは、機械学習を活用することで、自律化し、アップデートやパッチの適用、チューニングもすべて自動で行うことができます。また、これによって人件費が不要になるだけでなく、人手を介さないためヒューマンエラーもありません。セキュリティの強化にもつなげることができ、既存のOracleユーザーに対しても、ソリューションの効率化を提案できます。

 2017年12月から市場投入する予定ですが、新たな時代のデータベースであり、クラウドやデータベースの領域において、大きな変化を及ぼすものになります。

日本が重要な市場であることは変わりない

――日本で自前のデータセンターを新設する予定はありますか。

 いまのところ、日本国内に自前のデータセンターを新設してほしいという強い要望はありません。もちろん、基幹系システムでの利用拡大が進めば、自前のデータセンターの設置を検討していくことも必要でしょう。その点は、要望にあわせていきたいと思っています。

――日本オラクルのCEOとして、ラリー・エリソン会長兼CTOと会う機会は多いのですか。

 それはあまりありませんが、ラリーは日本びいきなので、その点での問題はありません。日本オラクルが担当する日本の市場は、Oracleにとって米国市場に次いで2番目に大きな企業です。Oracleの経営トップから見て、日本が重要な市場であることに変わりはありません。

――日本オラクルの経営トップとして、最初のゴールはどこに置きますか。

 その答えは極めてシンプルです。顧客の知識を担う会社になること、そして、クラウドに関して、最高の専門知識を持った会社にならなくてはならないと考えています。それができれば、さまざまな定量的な目標、定性的な目標を達成することができます。これが、私のトッププライオリティです。

 今後、クラウドシフトを加速し、売上構成比を高めていくことになりますが、クラウドサービスによる収益性は、オンプレミスと同じように高く、クラウドシフトによる収益性の低下という課題はすでに払拭されているといえます。

 日本オラクルでもそれは同様です。Oracleは、日本でも強いブランドであることに変わりはありません。それを生かしながら、日本オラクルを大きくしたいと思っています。