インタビュー
元AWS小島氏×元Azure砂金氏特別対談。二人が考えるクラウドの未来とは?(後編)
2016年12月14日 06:00
二人が見据える先は
――Fintech、IoTとか新しいテクノロジーの話が出てきましたけども、砂金さんはその中でもAIやボット、そういった文脈で今LINEでやられてますが。
砂金:
そうですね、あんまり何をどこまで言っていいのかわかんないんですけど、LINEみたいにエンドユーザーのリーチラストワンマイルを持っている。そこにあと何を追加したら、もっとみんなの生活が便利になるんですかとか、それを取り巻くエコシステムが大きくなるんですかってのを考える。で、その第一歩で今目の前の実現できるテクノロジーと存在してるのがチャットポットみたいなやつだったり、それを支えるAIの技術だったで。
りんなみたいなプロジェクトも、昔は人工知能と言いつつも人工無能みたいなものがたくさんあって、ルールベースで定義するとキーワード検索でかえってきますみたいなものもあるんですけど、りんなは自分で日本語を紡ぎ出してるんですね。ニューラルネットワークを活用して自分で考えたことを発言してる。やはりそういうテクノロジーのシフトが、またもう一回きてるんじゃないかなと思います。
アルゴリズムは当然改善し続けるんですが、学習データを与えてあげたらある程度の予想の範囲内でキチンとソフトウェアが動くようになる。それは今までのサービスの作り方とだいぶ違う状況になってくるひとつの兆しだと思っていて、そのAIとかディープラーニングを真剣に取り組むっていうのは、次の僕のキャリアをかけてもいいんじゃないかなっていうのでLINEに移ってきたと。
小島:
かっこいいなー。
砂金:
いや僕も旅に出たかったです(笑)。
――小島さんはその辺り話せる事はありますか。まだ今は充電期間中みたいな感じ?
小島:
自分が次どうなるかはちょっとわかんないですね。わかんないっていうのは、働き方は何かトライをしたいと思っていて、できれば複数の事業体にかかわる仕事ができればいいんですけど。技術の人には何人かいるんですけど、マーケティングでそれやってる人ほぼいないんですよね。なんとかコンサルタントとかを除くと。
砂金:
社外取締役いっぱいやってるおじさんとか。
小島:
ちょっとそういう人じゃないんですよね。リアルにいろんな会社のマーケティングに携わって、僕自身もいろんなインプットもらえたり、アウトプットしたり。そのロールモデルがないので、それを作れるかどうかがちょっとわからない。いまいろいろお話しいただいたのは基本的に100%コミット、つまりうちに就職して下さいなんですよ。だから複数のビジネスにかかわるってことができるかどうかトライ中で、できなかったらどっかに就職するとなると思うんですけど。
自分が向かう場所かどうかは別にして気になってるテクノロジーでいくと、"決済まわり"、これは本当にレガシーな世界で決定的に使いにくい。誰に聞いても誰も使いやすいって言う人いないので、これは絶対イノベーションがきます。
あと、Amazon Echoを結構好きで見てるんですけど、音声入力のAlexaですよね。なんでこんなこと(指で入力)しなきゃいけないのかですよ。うちの子供とか見てると、キーボード入力しないんですよね、サーチするときは音声なんですよ。ボイスコマンドの世界は音声で話すと音声で返ってくる。その後ろに膨大なAIとかいろんなものが隠れてるようになると思うんですけど、音声っていうのは次来ると思うんですよね。
それから個人的に僕がおもしろいと思ってるのが、複製できないものをビジネスにすること、体験とかです。ソフトウェアだとバーッと複製できるじゃないですか、だけど複製できないものって結構ある訳ですよ。例えば昼に4組しか入れないレストランとか、いろんな物理的に制限があるものなんですよね。
砂金:
音楽でいうとCDとかを売るとか、ダウンロードで試聴するとかじゃなくてライブに来てくれて、その限定された空間でしかないみたいな。
小島:
その場しかないものを、もっと簡単に行きやすくしたりとか、必要な人に入手しやすくするみたいなところにITが向く気がしますね。
砂金:
いろんな違うアプローチでそれぞれやってきたんですけど、クラウドみたいな仕事を通じて、クラウド普及させたかった訳じゃない、まあそれもやりたかったけど。
どちらかというとかかわった人たちのキャリア感とか働き方とか、新しいチャレンジを見つけてくれるとか、そういう真実の瞬間をできるだけ多く見つけ出したいと思っていました。恐らく初期のJAWS-UGにかかわった人たちって人生変わってるし、インストールマニアックスに出てくる人とかクラウドにどっぷりな人生にシフトしてる。
それは扱うものが変わったというよりは、扱うものが変わることによってエンジニアとしてのものの見方というか、人生の考え方がだいぶフレキシブルになってきた。クラウドを一緒に戦ってきた人たち、今も一緒に頑張ってる人たちは、さっきの100%コミットじゃない働き方とか、今までと同じじゃなくていいんだという視座を持ちやすいんじゃないかなって思います。
小島:
なんかすごい教えられましたね。僕はクラウドにかかわってて、いろいろやってきたように言われてますけど、基本的に仕事でやってるわけですよ。アマゾンって会社でクラウドを普及するという、僕がやるのは当然なわけです。だけど僕の話とかその場にいて、事業のありかたを変えたりとか転職したりとか、リスクを冒して次に行った人がたくさんいるんですよ。そこからすると僕はこの7年保守的に生きてきてインスパイアされたので、新しいことやってみたいなって風にはなってますね。どうせやるなら、ちょっと今まで無いものを僕もやってみたい。
――最近、ライフワークバランスという言葉をよく耳にするようになりましたが、そういうことできるようになった背景には、クラウドみたいなテクノロジーの変化があったと。
小島:
テクノロジーのバリアが下がりますよね。クラウドがあるからいろんな人がサービスをローンチできています。それがなければデータセンターを借りるとこからスタートするので。
いろんな人がサービスを作るからいいサービスが勝ち残って、個人で使えるいろんなツールがすごいたくさんある時代になって。そこで取られる時間が少なくなりもっと本質的な事に時間を使える。だから働き方にみんな目行くようになったんですよ。それ以外のところがだいぶ楽になったから。お客さまにお話しするためにいちいち会社に戻る、ってところが解放されることから始まってですよ(笑)。
じゃあ本質なところをもっと極めようと思ったときに、もっといい働き方があるんじゃないのっていう会話ができるレベルに、やっとなったんじゃないかなって思います。これまでITはずいぶん不自由だったと思うんです。それがすごく自由になった。いろんなアイデアが形になるようになったって意味では、もうクラウドっていうのは間違いなく変えてますし、これからも変えるんじゃないかなって思います。
――最後にお互いに、この場で聞いておきたいこととかありますか。
小島:
いろいろありますけどね。
――一応、記事になる前提の上で(笑)。
小島:
LINEでやることは聞けないと思うので、LINEの次に行くとしたらどんなビジネスにかかわりますか?
砂金:
絶対やめるってわけじゃないんですけど、逆に2020年まではLINEにいるコミットをしたいと思っています。今海外から皆さんがやってきたときに、日本に来るときはLINEっていうアプリ入れとくと便利らしいよと、別にコミュニケーションだけではなくて、いろんなものの手配とか予約とか、それこそ決済とかいろんなものが、日本の中だったらLINEさえ入れておけば日本語話せなくても翻訳も含めてOKだと。そういう体験をした人たちが、LINEのそのユーザーエクスペリエンスだけじゃなくて、日本ってすごくよかったよって。アンバサダー的な形で各国に帰っていってくれて、日本のソフトウェアやサービスが生み出すユーザー体験と日本の文化みたいなものと、いろんなものがより広まるキッカケを作れたらいいなと思っています。
それができるポジションにLINEっていう会社が今2016年の時点で可能性としてはあるんで、そこはコミットしたいですと。
で、僕がマイクロソフトやめるんですよって話しをしたときに、いろんな人からフィードバックがあって、玉川さんみたいに起業するんですかってよく言われるんですよね。僕は起業したいわけじゃない、社長にどうしてもなりたいわけじゃないし、起業家を目指してるわけでもないんですけど、ただどっかのタイミングで僕がやりたいことは組織に所属するんじゃなくて、自分でこう新しい流れを作り出さないと、そもそも実現できなさそうだと。そういう気づきの種みたいなやつが2020年までの間に見つかったとしたら、チャンスがあればしたいと思っています。
2020年くらいまでには、きっと何らかの次のチャレンジの種みたいなのを見つけていて、新しいビジネスを起こしてるんじゃないかなという。そこまで僕のビジネススキルとかいろんなものが、すごくうまくいってたりすると、さっきびグローバルの話ね、日本の文化も持ち帰っていろいろ文化的に広がりを持ってくれたら。
小島:
2020年いいですよね、オリンピックあるからインバウンドはめっちゃあるわけで。
砂金:
で、そこから先は自分を輸出したいんですよね。それが必ずしもサンフランシスコ、北米で何かをやるってことではなくて、アジアでもどこでもいいんですけど、なんか砂金がやってきたことが生み出す価値っていうのを自分のまま輸出して、現地で何か広げる仕事をしたいと、そっち側にふれるかなとは思ってます。
小島:
最終的には輸出されちゃうんだ。
砂金:
うん、そう。輸出するに足るなんか付加価値のある人材になれたら。
小島:
でもそれって、最終的に自分の個が高まったり、セルフブランディングがあがるっていうことになってないといけないってことですよね。
砂金:
まあ、そうですね。それは非常に大きなポイントかなっていう風には思ってます。
小島:
それは、そういう時代になってるなと思っていて、僕らが辞めるにあたって辞めることが記事になるわけじゃないですか。そういうのちょっと前までの会社だったら、たぶん考えられなくって、会社のいち担当が辞めたところで会社は変わらないし。
砂金:
役員でもなんでもないですからね。
小島:
そうそう。だけど、どうも個々の人に対する注目の集まり方とかセルフブランディングは、クラウドとともにだいぶ変わってきた気がしますよね。記事になるってことは読者がいるってことで、なんかすごく面白いですね。
――では砂金さんから小島さんへ。
砂金:
もしこのタイミングで小島さんが、マイクロソフトでAzureの責任者として何でもやっていいというポジションで入ったとします。俺が担当だったら、絶対変えるみたいな、なんかそういうところってあったりしますか。
小島:
なるほどね。完全無責任、空想話しなんで好きに話しをしますけど、もっとハードランディングしたほうがいいと思いますね。結局、ソフトランディングをずっとやって、いろんな人たちに角がたたないといいながら、新しいものもやるよって言ったがゆえに、なんか歩みがたぶん遅かったと思うので。
例えばその僕が前いたアドビって会社は、クラウドへいくときにパッケージを出荷しないという選択肢をとったわけですよね。それって既存の流通の人たちとの関係をほぼクラッシュしてるんですよ。クラッシュしたんだけど、一気にいったんですよね。だから今のニュージェネレーションのアドビがあるって思ってるんですけど。
マイクロソフトもほんとはそれをやればいいのに、で例えば一時的に収益が下がります。それから株価に影響あるかもしれません。株価とかって基本的には期待値のギャップが問題であって、初めから下がりますって言っとけばたぶんいいんですよね。
僕はシアトルと品川の関係よくわからないですけども、2、3年後の強靭なクラウドカンパニーになるんだったら、今のしがらみにかられずに、ぐいっといくプランをドライブするほうにかけたいなと思うんですけど。
砂金:
なるほど。
小島:
だってどうせそこに行くってみんな言ってるわけでしょ。クラウドに行くってみんな言ってるんだから、じゃあぐいっといこうぜみたいな。ソフトランディングしようとしたから、なんかこう少し歩みが遅く見られてるんじゃないかなと思うんですね。
砂金:
八方美人ですよね。
小島:
うしろから撃たれるって言ってましたが、うしろから撃つほど企業リソースの無駄遣いはないわけで、本来はみんな同じ方向を向いてないといけない。僕だったらハードランディングプランを実行しますね。
砂金:
そのぐらいの人事をやらないといけないんですね。ここ最近採用した採用で関わった人を見てると、新しく入ってきた人がクラウド文化をスクラップアンドビルドしてもいいタイミングかもしれません。
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エバンジェリストとマーケッターという視点は違えど、ちょっと前まではバリバリの競合会社で働いていたお二人。彼らの体験談はきっと、これからクラウド上でサービスを企画開発する上で参考になるのではないか。