イベント
【NTT Com Forum】クラウドを駆使する海外企業と戦うには、クラウドしかない~IDC Japan講演
(2013/10/28 06:00)
NTTコミュニケーションズは24日・25日の両日、「NTT Communications Forum 2013」を開催した。ここでは2日目に行われた、IDC JapanのITサービスアナリストである寄藤幸治氏の講演をレポートする。寄藤幸治氏は、企業の海外進出の現状と、グローバル化におけるクラウドのあり方、活用の仕方について解説を行った。
海外進出先の多様化がビジネス課題を増やしている
「企業のグローバル化を支えるITのありかた~クラウドが実現するグローバルITガバナンス~」と題した講演の冒頭で寄藤氏は、経済産業省の調査データを引き合いに出し、日本企業の海外進出の状況について紹介した。
日本企業の海外現地法人の売上高は、いわゆるリーマンショックなどによって2008~2009年にいったん大きく下落しているものの、海外進出している企業数は毎年一定と言えるペースで増え続けている。10年前は欧米での売上高が全体の6割を、企業数も4割を占めていたが、2011年度にはその売上高は5割に、企業数も3割に減少しており、「この10年で中国を中心としたアジア各国へと進出が広がり、多様化している」と指摘。業種についても、商社や製造業が中心だったものが、最近は業種や企業規模を問わず海外展開が進められている、と語った。
進出先としては、JETROの調査によれば中国が最も多い。ただし、販売機能と生産機能に分けて考えると、前者ではタイ、インドネシア、ベトナムといったASEANの割合が高くなってきており、2011年度と2012年度を比べても中国からその他へのシフトは顕著。「少し前にチャイナプラス1という言葉が流行ったが、そのプラス1は今のところASEAN」と同氏は見ている。
海外進出にはIT/ICTの活用が欠かせないが、そこで多くの課題が出てきているとし、中でも“集約”、“ガバナンス”、“標準化”といったキーワードが課題として挙げられる傾向が強いというIDCの調査結果を示した。こうした課題が出てくる理由として寄藤氏は、独立したシステムが海外の各拠点に分散してしまっており、「“グローバルIT”ではなく、“マルチナショナルIT”になっている」と指摘する。
なぜこのようにバラバラになるのか。同氏の分析によれば、ASEAN諸国など進出先が多様化していることが大きな理由だという。
現地を“販売市場”として見るケースが増え、海外売上高の増大を経営目標に掲げることが多く、そのため現地法人でも売上拡大を重視することになる。しかし、「タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシアをASEAN諸国とひとくくりにしてしまいがちだが、マレーシアはイスラム教国、タイは仏教国、フィリピンはカトリックが多いというように、宗教がまず異なり、ビジネススタイルもライフスタイルも違う。本社のやり方を押しつけても売り上げは上がりにくい」ことから、現地の商流、文化、業務プロセスに合わせたシステムを構築してしまい、結果“マルチナショナルIT”になってしまうのだという。
システムが各拠点に分散することで、予算も分散する。同社の調査では、特に海外売上高比率が60%までの「海外進出中期にある」企業においては、本社が把握していない現地法人独自に決めた予算の存在は、海外売上高比率に応じて増していく傾向にある。
逆に、海外売上高比率が60%を超えると、本社が把握していない予算は明らかに減少する。「日本市場の方がマイノリティというようなグローバル企業だと、ITに関してしっかりガバナンスを利かせることができる」。ガバナンスを利かせて本社が予算を把握できなければ、ITの集約、標準化はままならないとする。
ここで同氏は、海外進出しているIDCの顧客の例として、大手の流通業A社と製造業B社の2社を挙げた。それぞれ新興国市場で販売を拡大しているが、A社は1000台近いサーバーの集約、アプリケーションのワールドワイドでの統一が進んでおり、B社は「マルチナショナルIT」だったところ、90年代半ば頃からシステムの統一やITインフラ拠点を少数に集約するなどした結果、どちらの企業も海外で大きな成功を収めている。
例に挙げた2社は、「ITが経営にしっかり組み込まれている」、「ITに関する意志決定を(ベンダーなどに頼らずに)自身で行っている」、「本社からのガバナンスが利いている」といった点で共通していると語り、これらが「最適なコスト管理で、最適な効果を得るのに非常に大きなポイントになる」とした。
ガバナンスを利かせられることがクラウドの最大のメリット
もちろん、コスト管理、業務効率、システム連携などの面で「マルチナショナルIT」はベストではないとどの企業も考えてはいるものの、経営目標の達成や独自システムの存在、集約による効果の不明確さ、経営層のITへの理解不足など、「やれない理由」が原因で思ったように動けないのが現実だ。しかし、これを解決する1つの方法が、「クラウド」にあると同氏は説いた。
SaaS、PaaS、IaaSをはじめとするパブリッククラウドの国内市場は今後、IDCによれば年平均28.9%増の勢いで成長し、オンプレミス環境を含めたプライベートクラウドは同34.5%で拡大し続けるという。
初日の講演でNTTコミュニケーションズの有馬 彰社長が言及したように、米国ではクラウドの導入が進んでいる。「キャズムを超えて当たり前になってきた」ことから、クラウドを使ってビジネスを変えていく動きは日本でも当然の流れになると予測している。
また、これも有馬社長が示したように、クラウドの利用はERPや生産管理などの基幹システムへと広がっていくと寄藤氏も見ている。
IDCの調査結果では、あらゆる分野における国内企業のクラウド導入について、利用中、検討中、情報収集中を合わせるとほぼ全体の半数を占め、導入予定がないとした企業は2割程度と低い。「あと5年もすれば、市場で“クラウド”を口にする人はいなくなる」という知人の話も紹介し、それほどまでにクラウドが当然の存在になるだろうと語った。
クラウドの導入は、これまで“コスト削減”が主要目的として挙げられることが多かったが、「それだけじゃないぞ」という部分も見えてきていると同氏は力を込める。「クラウドの利用促進要因は何か」を調査したところ、最も多かったのは、コスト削減の効果、運用管理の効率化、投資対効果、システムの可用性向上などにおいて、それぞれが「把握可能になる」ことだったという。
「何が起きているのかを素早く把握できる、ガバナンスを利かせることができる、こういったことがクラウドの非常に大きなメリット」であると明言した。
では、「やれない理由」に対してクラウドは何ができるのか。「やれない理由」は“業務プロセス変更への抵抗”と“効果が不明確”の2点に集約されるとし、ここにクラウドの特性を当てはめることで「できるようになる」という。
業務においてアプリケーションとインフラの分離は重要だが、業務プロセスの変更による混乱はアプリケーションが変わることで起きることが多い。これについては、まずインフラの統合から進めること。そして、全世界の拠点のインフラを一気にクラウド化するのではなく、スモールスタートで効果を明確に見せる。このような部分的な統合やスモールスタートは、クラウドだからこそ実現できる手法だと訴えた。
さらに、海外進出している、あるいは海外進出を考えている国内企業の競合は、米国、中国、あるいはASEAN諸国など海外の企業であり、彼らはすでにクラウドやシステム統合による標準化、その他の新しい技術を用いてROIを高めているという事実を忘れてはいけないと釘を刺す。「どうすればそれら海外の競合と戦っていけるのか、ぜひみなさんに考えていただきたい」と投げかけた。