最適化されたEngineeredなシステムで顧客に選択肢を~Oracle OpenWorld Tokyo 2012基調講演
OOW Tokyo 2012のテーマは「Engineered for Innovation - 技術の融合が世界を変える」 |
「意思決定の良しあしはビジネスの関係を変えてしまう、だからこそビジネスアナリティクスは世界のCIOにとって最も重要な課題」――。東京・六本木で開催されている「Oracle OpenWorld Tokyo 2012」(以下、OOW Tokyo 2012)の基調講演で、登壇した米Oracle プレジデント マーク・ハード氏は4日、満員の聴衆に向かってこう訴えかけた。
3年ぶりに開催されたOOW Tokyoのテーマは「Engineered for Innovation-技術の融合が世界を変える」。リーマンショック以降、円高、大震災と好転する兆しを見せない経済状況に苦しむ国内企業に対し、Oracleがまず訴求したのは"ビジネスアナリティクス"と"ITのシンプル化"だった。本稿では初日の基調講演でハード氏ら同社エグゼクティブが語った内容を紹介する。
■技術の融合こそが日本を活性化する~日本オラクル 遠藤社長
日本オラクル 代表執行役社長 最高経営責任者の遠藤隆雄氏 |
基調講演に先立ち、日本オラクル 代表執行役社長 最高経営責任者の遠藤隆雄氏があいさつを行った。「今回テーマに掲げている“Engineered for Innovation”には、技術の融合(Engineered)こそが日本を元気にする、という強いメッセージを込めている。AppleのiPhoneが既存の技術を組み合わせてまったく新しいイノベーションをつくり出した結果、携帯電話の世界を変え、それを使う人々のワークスタイルを変え、そして世界を変えてしまった。日本もきっとEngineeredで新しく変わることができるはずだ」と変化への期待を強調、その変化をOracleのITソリューションでもって支援していくと語る。
■ITのコンシューマライゼーションの流れは止まらない~ハード氏
米Oracle プレジデントのマーク・ハード氏 |
ハード氏が挙げたデータを取り巻く大きな変化の流れ。コンシューマレベルからやがてエンタープライズへの世界へと流れてくるのは必至とのこと |
網羅的なスタックと完全な選択肢によるOracleの“Simplify IT”が顧客のコスト削減を支援する |
Oracle OpenWorld Tokyo 2012基調講演のトップバッターは、米Oracle プレジデントのマーク・ハード氏。同氏はスマートフォンを例にとり、「現在のITはコンシューマがエンタープライズを追い抜いている状態。例えば私の世代は20年以上前のレガシーなビジネスアプリケーションの遅い反応にも我慢できる。だが私の子供たちの世代はそうはいかない。彼らが手にしているデバイスは20年前のメインフレームよりもずっと高い性能をもつ。彼らは遅いITというものに我慢がならない。質問したらすぐに答えが返ってくることが当然だと思っているのだ。そしてコンシューマの世界でそれが実現している以上、エンタープライズにも同じことが求められる」と、ITのコンシューマライゼーションがソーシャルやクラウドを通して確実にエンタープライズにも影響をもたらし始めているとする。
コンシューマライゼーションが進み、ITへの要求が高くなれば、当然ながらITは複雑化する。だがハード氏は「ITの複雑性にユーザーがかかわる必要はまったくない。これからは複雑性が排除された製品が求められるようになる。それがユーザーのコスト削減や運用負荷の軽減につながる」と強調、複雑になりがちなITをシンプルに見せていくための努力をITベンダは惜しんではならないとする。
ではOracleはITのシンプル化をどのようなソリューションでもって支援するのか。ハード氏によればそれは「ベストオブブリード」「垂直統合されたスタック」「インダストリ特化」「Fusion Applications」の4つに集約され、さらに顧客に対し、すべてのスタックにわたってオンプレミスからクラウドまでを含む“選択肢”を提供すると約束する。
「OracleのソリューションでもってITのコストを削減し、その分を投資に回してイノベーションを生み出してほしい。顧客が新たなIT投資を行うに値する製品を提供するため、Oracleは研究投資にも力を入れ続ける」(ハード氏)。
また、ITのコンシューマライゼーションを語るとき忘れてはならないのがセキュリティだ。ハード氏は「エンタープライズの世界ではITが安全に使えるということは絶対の条件」と語り、今回紹介する製品を含め、すべてのOracle製品はセキュリティを十分に考慮した設計であることを強調する。
もうひとつ、ハード氏が強く訴えかけたのがビジネスアナリティクスの重要性だ。冒頭でも触れたように、スマートフォンのような手のひらに収まるサイズのデバイスに、かつてのメインフレームより巨大なデータが格納される時代になった現在、データ量は増え続ける一方である。その膨大なデータから「正しいタイミングで、正しい意思決定を行う」ことが非常に重要になってきているという。
「人は“悪い意思決定”をされたらそれを絶対に忘れない。意思決定は人と人の関係、そしてビジネスの関係をも変えてしまう。少なくともコンシューマの世界ではもう悪い決定、遅い決定を我慢する風潮はない。データの量が膨大になってきているからこそ、エンタープライズは緊急に分析の精度を高める必要がある」とし、それを実現するのがOracleのビッグデータ関連製品だと強調し、自らのパートを締めくくった。
誤った意思決定は取り返しのつかない結果をもたらす場合も多い。的確なタイミングで的確な意思決定を行うにはITの力が欠かせない | Oracleのビジネスアナリティクスはあらゆるデータソース、あらゆる環境を想定している |
■あらゆる範囲をカバーするOracleのビッグデータ製品~バラジ氏
Oracle アナリティクス/パフォーマンス・マネジメント製品担当シニア・バイスプレジデントのバラジ・ヤラマンチリ氏 |
ハード氏のパートを受け、データ分析に関する講演を引き継いだのはOracle アナリティクス/パフォーマンス・マネジメント製品担当シニア・バイスプレジデントのバラジ・ヤラマンチリ氏。
同氏は、現在のITがパラダイムシフトにあり、ユーザーは「すべての情報が、考えるのと同じスピードで分析されることを望むようになってきている」としている。それは過去、20年かかって得た情報とその分析を、一瞬で提示するという要求に近い。それも、「どんなデータソースからも、クラウドからでもモバイルからでも、すなわちどんな環境においても」提供できるものでなくてはならないのだ。
バラジ氏は「ビッグデータとはこれまで誰も体験してこなかった、本当に大変な世界であり、すごい世界。ありとあらゆるデータをただ分析するだけでなく、例えばオンプレミスのERPデータと、センサーからリアルタイムで流れてくるデータを組み合わせて即座に分析するというニーズもすでに生まれている。それらの複雑な分析ニーズに応えるには、ハードとソフトの両方の力を駆使する必要があり、これができるのはOracleだけだ」と明言する。
その第一の成功例が、DWHとOLTPを統合したOracle Exadataだったとバラジ氏。「例えば顧客のロイヤリティを高めることができた、失った売り上げを取り戻せた、など形あるビジネスベネフィットをExadataで得られたというお客さまが世界中にたくさんいる」とExadataのアプライアンスとしての成功例を強調。
そしてExadataに続く重要なアプライアンスが「Oracle Big Data Appliance」だとする。そのメリットについて、コンカレントな処理能力、InfiniBandによる高速性、既存のIT資産との統合のしやすさなどを挙げ、「大量のデータを管理し、高速に分析するというビッグデータの抜本的な目的を容易に達成することができる」と語る。
OracleのEngineered Systemの先駆け的製品となったOracle Exadata。同社のビッグデータ戦略においても中心的な位置を占める | ビッグデータのほぼ全ライフサイクルをカバーするOracle Big Data Appliance。Exadataと組み合わせることで最強のビッグデータソリューションとなる |
さらに、新たなExaファミリとして注目が集まっているのが、分析に特化したインメモリアプライアンスの「Oracle Exalytics」だ。“Engineered”を象徴するかのように、インメモリに最適化されたハードウェア構成を採っており、「非構造化データを含むどんなデータにもキューブでインメモリに展開し、1秒以内にレスポンスを返すことができる。つまり何週間もかかっていた作業が数時間、あるいは数分に短縮できるということだ。いつ誰がどんなデータにアクセスしているかもすぐにわかるヒューリスティックなアルゴリズムも特徴」(バラジ氏)という。
このExalyticsには、Oracle BI、TimesTen、EssbaseなどのOracleが誇る分析ツールが含まれている。また「どんなデータをアグリゲートすればよいのかわからない」という声に応え、サマリアドバイザ機能を搭載、集計の生成と管理を自動化している点も特徴だ。
もうひとつ、「オンプレミス/クラウドにかかわらず分析機能を提供する、これがOracleのゴール」とバラジ氏が言うように、モバイルデバイスとの親和性の高さもExalyticsの注目すべき点だ。
バラジ氏は壇上で、バックエンドでExalytics(Oracle)、フロントエンドにiPad 2を使ったデモを行い、どこにいても財務分析や顧客満足度を閲覧できる機能やセグメント分析する機能を紹介、インメモリによるスムーズなオンデマンド分析が実現する様子を見せ、Exalyticsのカバー範囲の広さを印象付けた。
バラジ氏が行ったExalytics on iPadのデモ。さくさく動くモバイルBIに聴衆も注目していた |
■Engineeredを支えるハードウェアソリューション~ファウラー氏
Oracle エグゼクティブ・バイスプレジデント システムズ担当のジョン・ファウラー氏 |
3人目のエグゼクティブとして登場したのはOracle エグゼクティブ・バイスプレジデント システムズ担当のジョン・ファウラー氏。同氏からは主にハードウェア関連製品に関する説明がなされた。
同社のハードウェアの代表的なものとしては、専用の目的での利用を前提としたアプライアンス(Exadata、Exalogic、Exalyticsなど)と、汎用のSPARC SuperClustersがある。そしていずれも“Engineered System”であることがポイントだ。
今回のOOW Tokyoに限らず、Oracleが常に強調する“Engineered”は、ごく簡単に言ってしまえば“Sun MicrosystemsがもっていたハードウェアポートフォリオとOracleのソフトウェアをネットワークも含めて最適化(融合)して提供すること”を意味している。そしてEngineeredを推進してきたことで、「驚異的な成果、予想以上の結果を出してきた」とファウラー氏は強調する。
Engineeredの成果とは主にコスト削減効果を指す。「ハードウェアとソフトウェアを融合させたことで、ソフトウェアの展開コストや管理コスト、統合コストを下げ、さらにはどのマシンでもJavaアプリケーションが快適に動作し、カスタムメイドアプリケーションなども問題なく動作する。OLTP専用やDWH専用にマシンを用意する必要もない。ビッグデータにも個別ソリューションにも対応できる。さらに高速ネットワークInfiniBandを共通のファブリックとして扱える。こんな成果はOracle製品以外に出せない」とファウラー氏。
ハードウェアとソフトウェアをそろえ、最適化して提供することで、他に類を見ないメリットを提供できるという | OracleのEngineered Systemとアプライアンス |
またOracleには現在、4つの領域をカバーする“ストレージ”ラインアップがあるとファウラー氏は言う。「ストレージは今後、データセンターにおける最も困難な課題であり、かつ需要が急増する分野。Oracleとしても真摯(しんし)に開発を行っていくつもりだ。しかし、それはスタンドアロンベンダのストレージとはかなり意味合いが異なっている」(ファウラー氏)そうだが、ファウラー氏によれば、その4つのストレージ分野とその代表製品は以下になる。
・データベース: Exadata……ストレージベンダが決してまねできないアーキテクチャでOracle Database 11gを使うのに最適なマシン。圧倒的なパフォーマンスが特徴
・NAS: ZFS Storage Appliance……Sunの技術をもとにした基幹系のビジネスワークロードに適したマシン。仮想環境で利用するユーザーも多く、NetAppの2倍の高速性と半分の価格
・SAN: Pillar Axiom 600……買収したPillar Systemsをもとにした効率性の高いストレージ。シェアードクラウドで重要な製品に。QoSとHCC(データウェアハウス)が特徴で、EMCの2倍の稼働率
・テープ: StorageTek Tape……大規模環境でのバックアップやアーカイブなどを自動化して提供する。拡張性も高く、IBMの5倍の効率と1/3のTCO
4つのストレージ製品 | StorageTek Tapeのテープ製品 |
そしてファウラー氏の率いるチームが現在最も注力しているのが、最大8コア/64スレッドのダイナミックプロセッサ「Oracle SPARC T4」だ。Oracleソフトウェアの稼働を前提に設計されたチップで、SolarisとOracle Linuxの両方に対応する。複数のスレッドを利用できる「ダイナミックスレッディング」を特徴としており、これによって幅広いアプリケーション実装が可能になるという。
なおファウラー氏のパート中、Oracle Enterprise Manager 12cの関連製品である「Oracle Enterprise Manager Ops Center 12c」のリリースが発表された。IaaS型のクラウドを構築/管理する機能のほか、物理/仮想/クラウドを含むあらゆる環境に展開されたすべてのOracle製品を管理する機能を備えており、「セキュリティリスクまでを含めてアプリケーションからハードウェアを管理できる唯一無二の製品」(ファウラー氏)で、今後のEnterprise Managerファミリーにとっても重要な存在となりそうだ。
現行の最新CPUであるSPARC T4 | 同日発表されたOracle Enterprise Manager Ops Center 12c |
基調講演に登壇したエグゼクティブ全員が何度も口にしたのは「Oracleは顧客に“選択肢”を提供する」というフレーズだ。同社の製品は、例えばOracle LinuxとSolaris、Oracle DatabaseとMySQL、といったように一見、競合しているように思えるラインアップが少なくない。SPARCチップを独自開発しながらIntelとの協業も続けていることも同様だろう。
だがこれはすべて“顧客の選択肢のため”だとOracleは断言している。特にクラウドとモバイルが一般に広く普及したことで、オンプレミス/クラウドといった二者択一的な環境だけでなく、ハイブリッドな環境やモバイルデバイスにおいても、システムの稼働を求められる。あらゆる環境、あらゆるデバイス、あらゆる使い方を想定して製品を提供し続けるのであれば、この程度のラインアップは必要という認識だ。
あえてOracleの方で「このユーザーにはこの製品」というすみ分けのラインは引かず、顧客自身の選択に委ねていくというのは一貫した同社のポリシーだといえるだろう。