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「Hitachi Physical AI Day」で見えた、フィジカルAIと「HMAX」の全貌
「Lumada 80-20」の達成時期を2030年度と初公表
2026年5月21日 06:30
株式会社日立製作所(以下、日立)は20日、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京で、フィジカルAIをテーマにした「Hitachi Physical AI Day」を開催した。
ゼネラルセッションの中では、同社が長期ビジョンとして掲げている「Lumada 80-20」の達成時期を、2030年度とするスライドが初めて示された。「Lumada 80-20」は、Lumadaの売上収益比率を80%、Adjusted EBITA率では20%を目指す計画であり、Lumadaが日立の成長と収益性向上を支えるエンジンであることがあらためて強調された。
Hitachi Physical AI Dayでは、社会や産業を支える重要システムなどでのフィジカルAIの活用や、フィジカルAIがもたらす変革などの具体的な事例を紹介。日立グループのOTとITを組み合わせた次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」による取り組みなどについても説明した。
約2000人の参加申し込みがあり、ゼネラルセッションやパネルディスカッション、ブレークアウトセッションのほか、展示会場には、ロボットをはじめとして実際に動く物理展示を用意し、フィジカルAIの適用事例などのデモンストレーションを実施した。あわせて、HMAXの全体像や特徴、導入に向けた考え方についても説明した。
フィジカルAIが拓く、社会インフラの新たな未来
同日午前11時から行われたゼネラルセッションでは、「フィジカルAIが拓く、社会インフラの新たな未来」と題し、日立の細矢良智執行役常務が、同社のフィジカルAIの取り組みについて説明した。
「日本の社会インフラは、大半が老朽化し、限界を迎えようとしている。これを救うのがAIである。生産性向上、業務の効率化だけでなく、技能の継承、競争力強化が期待できる。フィジカルAIとAIエージェントの2つのトレンドが重なり、控えめに言っても、2030年には100兆円の市場があると見ている。中でも、フィジカルAIは、モノづくり現場におけるロボット活用や、物流倉庫での仕分けの自動化など、さまざまなユースケースが生まれている」と説明。
「日立は116年にわたって社会インフラを支えてきた制御技術や製品を提供してきた経験があり、止まることが許されないミッションクリティカルに関わる運用ノウハウとドメインナレッジも持つ。品質に厳しい日立グループの企業が、最初の顧客となって活用するカスタマゼロの取り組みと、幅広いパートナーとのAIエコシステムも特徴である。フィジカルAIを世界に浸透させ、正しく機能させるために、これらの日立の強みを生かすことができる」とした。
2016年にスタートしたLumadaは、今年で10年目を迎えている。IoT活用のためのLumada 1.0からはじまり、DXに対応したLumada 2.0を経て、2025年度からは、社会インフラ事業とAIを掛け合わせたLumada 3.0に進化し、新たな価値を創出しているところだ。そして、Lumada 3.0が目指す事業モデルの象徴となるのがHMAXとなる。
細矢執行役常務は、「エナジー、モビリティ、インダストリーといった社会インフラやシステムなどのデジタライズドアセットから稼働データを収集し、日立のドメインナレッジで強化したAIで分析して経営課題や社会課題を解決するのが、次世代ソリューション群のHMAXである。このサイクルを拡大、加速するのがフィジカルAIとAIエージェントとなる。日立はHMAXの成長を通して、社会インフラをデジタルで革新するグローバルリーダーを目指す」と宣言した。
電力系統を安定化するHMAX Energyが複数顧客に適用されていること、鉄道運用の効率を最大化するHMAX Mobilityも同様に複数顧客で運用されていること、自律継続的な生産性向上を図るHMAX Industryが技術実証済みの段階にあることを紹介。HMAX全体で、事業初年度となる2025年度には売上収益3000億円、Adjusted EBITA率は22%を達成。130件の案件パイプラインを獲得していることを明らかにした。
また、今回の説明の中では、2027年度のLumada売上比率が50%、Lumada利益率が18%、HMAX潜在案件パイプライン1000件を目標に掲げるとともに、2030年度には、Lumada売上比率が80%、Lumada利益率が20%、HMAX潜在案件パイプラインを2万件にまで拡大する計画も示された。前述したように、2030年度には、Lumada売上比率が80%、Lumada利益率が20%とする目標は、長期ビジョンとして掲げている「Lumada 80-20」を意味しており、2030年度という達成目標時期が、明文化された形で明らかにされた。
細矢執行役常務は、「日立は、2025年10月に、『世界一のフィジカルAIの使い手になる』と宣言した。優れたデジタル技術に加えて、ビッグデータ、生成AI、AIエージェント、フィジカルAIに関する世界最高峰のパートナーと戦略的パートナーシップを組み、それを拡大させながら、社会インフラを圧倒的に進化させていく」との姿勢を見せた。
戦略的パートナーの1社として登壇した日本マイクロソフトの津坂美樹社長は、「ナレッジワーカーとフロントラインワーカーの比率は50対50であり、少子高齢化や労働力不足といった課題解決において、フィジカルAIは重要な意味を持つ。AIは、データ収集、データ学習、データ適用が重要であるが、フィジカルAIはデータ化されていないものがある。また、フィジカルAIの世界でも人が中心となり、最終決断をすることが大切である」と前置き。
「日立が持つ現場のアセットには強いものがある。ここに、マイクロソフトのテクノロジーを組み合わせることで、AIが持つ潜在的な課題を解決できる。AIを使う際に大切なことは、セキュリティ、セキュリティ、セキュリティである。マイクロソフトでは、22万人の社員のうち、3万4000人がセキュリティの専門家であり、さらに各事業部門にもセキュリティ人材を配置している。Secure by Design、Secure by Default、Secure Operationsの3つのフレームワークにより、なにを作るにもまずはセキュリティである」と述べた。
また、「2028年には全世界で13億のAIエージェントが生まれるとの予測がある。これは13億人の従業員が増えることにもなる。日本は新たな技術の実装が遅いと言われるが、すでに日経225の94%の企業がCopilotを使用し、70%の企業がAIエージェントにトライしている。これからは、人のセキュリティ、ロボティクスのセキュリティ、エージェントのセキュリティが大切な時代になる。そして、フィジカルAIの実現にはエコシステムが重要になる。日立と結んでいる戦略的パートナーシップは、その点でも重要な意味を持つ」と語った。
日立の細矢執行役常務は、5月19日に発表したAnthropicとの戦略的パートナーシップの締結についても言及した。
「日立が蓄積してきたドメインナレッジと、Anthropicの先進的なAI技術を融合させ、Lumada 3.0を強化し、次のステージに進化させることが目的である」と説明。「顧客のAX(AI Transformation)の加速」、「日立グループ約29万人へのAIの適用」、「HMAXの高度化」、「AI適用の加速に向けたFrontier AI Deployment Centerの設立」の4点に取り組むという。
このうち「Frontier AI Deployment Center」については、「世界190カ国に広がる日立の顧客に対して価値を提供するものであり、約29万人の日立グループ社員に対しても、最新AI技術の活用を支援する。AnthropicのApplied AI担当者と、日立のOTやIT、プロダクト、セキュリティの専門家で構成するFDE(Forward Deployed Engineer)が協働し、ユースケースの創出やソリューション開発を支援する」と述べた。
なお、日立の阿部淳副社長は、グーグル・クラウド・ジャパンの三上智子代表とともに、米国からビデオで参加。阿部副社長は、「AIは、単なるITの進化ではなく、企業の技術、業務、人材、オペレートそのものを変える転換点である。PCやクラウドとは比較にならないスピードで普及している。特に、日本の製造業は強固なハードウェア基盤を持ち、フィジカルAIは武器になりうる。そこでは、ハードウェアに知性を乗せることができるかが勝敗を決める。日立グループは、世界規模でフィジカルAIを実装する中で勝ち筋が見えてきた。フィジカルAIの価値はデータで決まる」と述べた。
また、グーグル・クラウド・ジャパンの三上代表は、「AIは試すものから、業務に組み込むものに変わってきており、進化のスピードが速い。ミッションクリティカルにおいてAIを活用するには、どこにどんなインパクトがあるのかといった目的の設定、業務を理解したアプリケーションの活用、ハイブリッドクラウドでの実行環境、運用設計やセキュリティ設計が大切であり、さらに日立が持つ業務の知見も重要である。社会インフラを実装してきた日立だからこそできることがたくさんある。OTとITをつなぐ力にAIを絡めていくことは、日立が得意とする『一丁目一番地』である。Google Cloudはそこに貢献したい」と述べた。
同じくビデオメッセージを寄せた、アマゾン ウェブ サービスジャパン 常務執行役員 エンタープライズ事業統括本部統括本部長の堤浩幸氏は、「AIは社会にとって必要不可欠なものであるが、現場で、リアルタイムで、自律的に動く存在にならなくては、真に社会を変えることはできない。AWSは、このジャーニーをエンドトゥエンドで支える。現場で生まれた膨大なデータを、クラウドの巨大な頭脳で学習させ、スマートになったAIとして現場に戻し、安心安全に展開する。AWSのエッジコンピューティングの技術と、日立が持つOTの深い知見と融合させることで、真のフィジカルAIを作り、今後の社会を動かす力になる」と述べた
ビデオメッセージでは、NVIDIA 日本代表兼米国本社副社長の大崎真孝氏が、「フィジカルAIは、NVIDIAが目指す未来そのものである。AIはデジタル空間だけでなく、現実世界で機能してこそ真価を発揮する。AIが物理世界で自律的に動作する未来を創造しようと考えている。だが、それを実現するには信頼性の高い神経や身体が必要である。そこに社会インフラを支えてきた日立と、AIコンピューティングの力を持つNVIDIAが協業する理由がある。HMAXを中核とし、ミッションクリティカルな問題解決を可能にすることで、社会インフラの変革を実現する。NVIDIAと日立は、技術パートナーではなく、社会課題を解決するビジョン共有パートナーである」と語った。
続いて登壇した日立の谷口潤執行役専務は、「Physical AI in Action:実践段階に入ったフィジカルAI」と題して、HMAXを活用したモビリティ、インダストリー、エナジーの各分野におけるフィジカルAIの具体的な取り組みについて説明した。
谷口執行役専務は、戦略SIBビジネスユニットのCEOと、デジタルシステム&サービスセクターLumada 3.0戦略推進室長を兼務している。
「社会インフラは止めることができない。この領域に携わっていることが、日立のデジタル事業の特徴である」と切り出し、「Lumada 80-20」の達成に向けては、「社会インフラにAIが実装されていない部分がまだ多い。それらがLumadaのマーケットになる。Lumadaが社会インフラを進化させていくことになる」と述べた。
また、HMAX誕生のエピソードにも触れ、2024年に日立の德永俊昭社長兼CEO(当時は副社長)がNVIDIAのジェンスン・フアンCEOと面談し、両社の組み合わせによって、社会インフラが持つ課題を解決できることに着目。それから半年後に、HMAXをリリースすることになった経緯を紹介した。
「日立のスピード感では、わずか半年間で、新たなソリューションをゼロから開発し、世の中に導入することは考えられないことだった」と苦笑しながら、「HMAXは、世界をリードするパートナーとの協働によって完成したものである」と振り返った。
また、HMAXの具体的な事例として、HMAX Mobilityについて説明。「ドクターイエローのようなセンシングトレインである」とたとえ、「鉄道車両だけでなく、線路やケーブルなどの様子もモニタリングし、分析して不具合を予知。障害が発生する前にインフラを保全する。フィジカルのことを考えて、対策として動かすところまでをAIがカバーする仕組みとなっている。これを社会実装している」と述べた。
Hitachi Energy CEO Service BU兼日立 Corporate OfficerのWolf Mueller氏は、HMAX Energyについて説明。
世界のバッテリー蓄電容量が10年間で12倍に成長し、米国の電力需要のうちの50%をAIデータセンターが占めるといった予測があることを示しながら、「フィジカルAIによって、電力システムの柔軟性、レジリエンス、系統容量を劇的に変化させることができる。リアルタイムでの予兆診断、自律的な運用により、障害が発生する前に対処できる。シリコンバレーでは、多くの失敗をすることが成長につながるとしているが、ミッションクリティカルの世界ではそのコンセプトは通用しない。HMAXは電力環境の変化において、安心安全を実現しながら貢献できる」とした。
日立ビルシステム 代表取締役社長の山本武志氏は、HMAX for Buildingによるビルシステムのメンテナンスなどへの活用について説明し、「ウェアラブルカメラ、作業支援デバイスを活用し、現場とデータを組み合わせて、人の能力を拡張することができる。例えば、現場の安全確保は、事前および事後対応であったが、フィジカルAIにより、リアルタイムに支援できるようになる。カメラ映像から危険を検知すると、現場に対して即座に警告する。AIがバディとして、作業者の安全を守ることができる」と述べた。
データの活用により、稼働品質の向上、故障や災害からの早期復旧を実現するという。
また、Hitachi Rail, Ltd. VP Digital TransformationのGianfranco Messina氏は、ロボットの進化が、ルールベースからトレーニングベース、そして、コンテキストベースへと進化し、推論と理解が進んでいることを指摘。フィジカルAIによって、「考える工場」を実現するためには、データ基盤の構築が重要になることを示した。
最後に、谷口執行役専務は、「AIは人々の意思決定をサポートするツールから、ともに動き、ともに判断をするパートナーになっている。鉄道を動かすためにはエネルギーが必要であり、そのためのエネルギーはどうすれば最適な環境で得られるのか、あるいは、フィジカルAIを動かすためのデータセンターをどう構築し、運用するのかといったように、インダストリー、エナジー、モビリティといった社会インフラが、ともにつながり、ともに協調するハーモナイズドソサエティの具現化がますます重要になる。パートナーとともにより良い世界を作っていきたい」と語った。



















