週刊海外テックWatch

外洋に浮かぶAIデータセンター 波力で世界を変えるか、夢で終わるか

 地球上で最大の「未開発の電源」に、AIの電力危機を解決するヒントがあるかもしれない。それは“外洋の波”だ。洋上AIコンピュート・インフラ構築を目指すスタートアップPanthalassaが1億4000万ドルを調達してユニコーンの仲間入りを果たした。投資ラウンドを率いるのは、「PayPalマフィア」の一員である投資家Peter Thiel氏。だが、波力発電には長い「失敗の歴史」がある。夢の海上データセンターは本物か、それとも泡と消えるのか――。

シリコンバレーの重鎮が賭けた「海洋フロンティア」

 「地球上には、数十テラワット規模の新規発電能力を秘めた3つのエネルギー源がある。それは太陽光、原子力、そして外洋だ」。Panthalassa共同創業者兼CEOのGarth Sheldon-Coulson氏はこう胸を張る。

 Panthalassaは、外洋の波力エネルギーで発電するデータセンターの開発・運用を手がけるPBC(公共的利益の追求を掲げる営利企業)で2016年に設立された。SpaceX、Boeing、NASA、Tesla、Appleなど出身のエンジニアを擁し、2027年の商用展開を目指している。GeekWireによると、現在従業員は120人で、共同創業者のBrian Moffat氏はかつて波力エネルギー企業Spindrift Energyで波力システム開発に携わっていた。

 Panthalassaが5月4日に発表したSeries Bラウンドの調達額は1億4000万ドル。GeekWireによると、累計調達額は2億1000万ドルに達し、評価額は約10億ドルとユニコーンの仲間入りを果たした。

 そして投資家の顔ぶれが期待の大きさを物語る。ラウンドを率いるのは、シリコンバレーを代表する論客でもある著名投資家Peter Thiel氏だ。Thiel氏は個人ファンドを通じて出資しており、同氏が共同創業したFounders Fundも既存投資家として今回も参加した。

 ほかに、Salesforce CEOのMarc Benioff氏が率いるTIME Ventures、PayPalおよびAffirmの共同創業者Max Levchin氏のSciFi Ventures、Google・Amazon・Uberへの初期投資で知られるJohn Doerr氏など、テクノロジーとサステナビリティの両分野の重鎮が名を連ねた。

 Thiel氏は、Panthalassaのプレスリリースの中で、「未来が求めるコンピュートは想像を絶する。地球外のソリューションは、もはやSFではない。Panthalassaは海洋フロンティアを切り開いた」とコメントしている。

 背景にあるのは、AIブームが引き起こす電力危機だ。科学メディアのNew Scientistは「AIを動かすデータセンターはすでに一部の小国より多くの電力を消費している」と伝え、国際エネルギー機関(IEA)の予測として2030年までにデータセンターの電力需要が年間945テラワット時に達する可能性を指摘している。これは日本の全電力消費量を上回る水準だ。

 Panthalassaは、この問題を海が解決できると考えている。