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ターゲットは「人間」から「AIエージェント」へ。Adobe CX Enterpriseが切り拓く次世代マーケティングの姿

 Adobeのデジタルマーケティングツール「Adobe CX Enterprise」(従来はAdobe Experience Cloudと呼ばれていた製品の上位版)の年次イベント「Adobe Summit」が、米国時間4月20日~4月22日に米国ネバダ州ラスベガス市で開催された。

 会期初日の4月20日に行われた基調講演では、新しい製品となるAdobe CX Enterpriseの詳細などに関しての説明や、NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏などのゲストの講演が行われたが、会期2日目の4月21日午前には、発表された製品が具体的にどのように使えるのかなどを説明する講演が行われた。

 また、4月21日の夕方には、Adobeの年次イベントでは恒例となっているSneaks(開発されている製品がプレビュー公開されるイベント)が行われ、開発中の多くの製品が公開された。

Adobe 会長 兼 CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏(左)とP&G 社長兼CEOのシャイレッシュ・ジェジュリカー氏

人間だけでなく、LLMに対するブランド認知向上の対策が必要に

 Adobe Summitの基調講演は、例年、初日の基調講演で新製品の発表が行われ、2日目の基調講演では顧客事例などを中心に紹介されることが多い。

 今年は、これまで「Adobe Experience Cloud」と呼ばれてきた製品群の名称が「Adobe CX Enterprise」に変更されるという大きな発表が初日の基調講演で行われ、その概要などの紹介も行われたため、技術的な詳細については、初日の基調講演ではあまり触れられなかった。

 そうしたこともあり、2日目の基調講演では、Adobe 会長兼CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏とP&G 社長兼CEOのシャイレッシュ・ジェジュリカー氏による対談など、いくつかの顧客事例の紹介は行われたものの、前日発表されたAdobe CX Enterpriseの詳細説明などに時間が割かれた。

 Adobe 顧客体験オーケストレーション 製品担当 上級副社長 アミット・アフジャ氏は「現在の社会は人間とエージェントという2つが共存する世界だ。これまでは人間のために最適化することに時間を割いてきたが、これからはエージェントやAIに対しても最適化していく必要がある」と述べ、以前はブランド認知度を上げるために、人間の心をつかむことに注力してきたが、これからはAIエージェントに対しても対策を行っていく必要があるとした。

Adobe 顧客体験オーケストレーション 製品担当 上級副社長 アミット・アフジャ氏

 そうしたことは、Webの世界ではすでに起こっている。例えば、自社のWebサイトに誘導したいときには、検索エンジンで上位に表示されるようにコンテンツのタイトルや作り方を工夫するSEO対策が行われている。

 しかし今の時代は、多くのユーザーが自ら検索するよりもAIに聞くことが多くなり、その結果、AI(この場合はLLM(大規模言語モデル))に認識されたWebサイトへのアクセスが増えるということが起こっている。

 つまり、従来は検索を利用している人間をターゲットにマーケティングしていたのだが、今はAIに対してマーケティングすることが必要になっているのだ。

今や、デジタルマーケティングのターゲットは人間だけでなく、AIエージェントも対象になった

 アフジャ氏は「多くの企業は、AIエージェントからの流入をきちんと認識していない。今後は人間に代わってAIエージェントが処理を行うことが増えるので、そうしたAIエージェントに対する認知度を上げていく必要がある」と述べた。

 例えば、現在は、海外旅行のチケットを取る場合、人間が航空会社やOTA(Online Travel Agent)にアクセスして、安かったりコストパフォーマンスが高かったりするチケットを購入するだろう。

 だが、近い将来に、人間に代わって旅行のアレンジをするAIエージェントが一般化した場合には、そのAIエージェントに認知されていなければOTAや航空会社は使ってもらえなくなるだろう。そこで、航空会社やOTAはAIエージェントに対する認知度を上げる必要があるということだ。今回、Adobeが「ブランド認知度の向上」(Brand Visibility)という言葉を使って表現したのは、そういうことだ。

LLMのブランド認知度を上げるような施策が今後必要に

 アフジャ氏によれば、その対策としてAdobeが用意しているのがLLM Optimizerだという。「すでに600社以上の企業がLLM Optimizerを利用しており、LLMからの引用数が増えたり、LLMからのエンゲージメントが増えたりといった効果を顧客に実感していただいている」とのことで、アメリカのスポーツ用品小売店である「Dick's Sporting Goods」では、実際にLLM OptimizerとAEM(Adobe Experience Manager)を利用して構築したところ、ChatGPTに製品などが推薦されるようになったという事例が紹介された。

LLM Optimizerのデモ

人間がソフトウェアを操作する時代からエージェント型AIがソフトウェアを操作する時代へ

 Adobe 顧客体験オーケストレーション エンジニアリング担当上級副社長 アンシュル・バンブリ氏は「これまでは人間がソフトウェアを操作していたが、これからはAIがソフトウェアを操作する」と述べ、人間がPCなどを操作して行っていた作業が、今後はエージェント型AIがソフトウェアを動かして処理していく時代になっていると説明した。

Adobe 顧客体験オーケストレーション エンジニアリング担当上級副社長 アンシュル・バンブリ氏

 今、AI業界では、そうしたエージェント型AIが1つのブームのようになっている。AnthropicのClaude Coworkを代表としたクラウドベースで有料の製品も話題だが、OpenClawと呼ばれるオープンソースのエージェント型AIも大きな話題になっており、そのOpenClawにセキュリティ機能を追加したNVIDIAのNemoClawが3月のGTCで発表され、大きな話題になっている。人間に代わってローカルのソフトウェアを操作して処理を行うものや、クラウドベースで従来人間が行っていた操作を代替するものなど、そうしたエージェント型AIが現実になっているのだ。

ソフトウェアを人間が操作していたのだが、今後はソフトウェアをエージェントが操作するようになる
AIファブリック(エージェンティックAIのこと)
AIファブリックの3つの特徴、オープンで、柔軟性があり、自動化

 今回、Adobeが発表したAdobe CX Enterprise Coworkerも、そうしたエージェント型AIの1つになる。エージェント型AIでは、MCP(Model Context Protocol)のような標準を通じてAIが別のAIエージェントを見つけ、自律的に調和を取りながら動いていく。今後はそのような未来が実現されていくとして、AIエージェントを調停し、エージェント型AIとして動いていくのがAdobe CX Enterprise Coworkerになる。

MCPに対応してほかのエージェントとオープンに接続できる
柔軟性がある
自動化を実現
Adobe CX Enterprise Coworkerが発表された

 具体的には、すでに顧客が導入しているAdobe CX Enterprise(従来のAdobe Experience Cloud)の製品群(RT-CDP、Journey Optimizer、Customer Journey Analytics、Target)などに蓄積されているデータに、AIの処理レイヤをかぶせることで、自社のマーケティング活動に最適化されたAIとして利用できるようになる。

 その上に、AIアシスタント(プロンプトベースのチャットボット)やコマンドなどのユーザーインターフェイスをかぶせて、ツールとして利用できるようにする、それが今回発表されたAdobe CX Enterpriseの基本的な考え方だとバンブリ氏は説明。

 「そうしたAdobe CX Enterpriseのデータと外部の市場データやSNSのデータなどが横断的に結びつくことで、エージェント型AIが完全自律でキャンペーンを動かす、顧客体験ファブリックとして機能する」と述べ、Adobe CX Enterprise Coworkerを利用することで、マーケティングキャンペーンの半自動化が可能になっていくと説明した。

従来のAdobe Experience CloudのアプリにAIレイヤをかぶせることでインテリジェント化

 バンブリ氏は「20年前にAdobeはデジタルマーケティングを定義し、それを助けるツールを提供した。10年前には、顧客体験とは何かを定義し、それを助けるツールを提供開始した。そして、今は顧客体験向けのエージェント型AIを定義し、その提供を開始しようとしている」と述べ、これからのデジタルマーケティングがエージェント型AIを活用していくものになると強調した。

20年前にデジタルマーケティングを提唱し、10年前には顧客体験を提唱し、今はエージェント型のデジタルマーケティングを提唱

今後爆増するコンテンツ制作ニーズに、GenStudioが効率よく自律的に対応

 Adobe 上級副社長 GenStudio・Firefly Enterprise 事業部長 バルン・パーマー氏は、コンテンツの制作から承認プロセス、評価などのコンテンツ流通の一連のワークフローを一貫して管理できるGenStudioに関しての説明を行った。

Adobe 上級副社長 GenStudio・Firefly Enterprise 事業部長 バルン・パーマー氏

 パーマー氏は、動画だけで考えてみても、Tik-Tok、X、Facebook、Instagram、YouTube、Linked-inなどなど、複数のSNSに向けて効率よく投稿していく必要があり、膨大なコンテンツを作らなければならない現状を指摘。

 「今後企業が必要とするコンテンツの量は、次の2年で5倍以上になるだろう」と述べ、従来のような人手による制作体制では、必要な量のコンテンツを制作することは不可能だと述べた。そのため、GenStudioのようなツールが必要になるのだという。

動画だけでも、ちょっと考えただけでこれだけのサービスが
今後2年でコンテンツの需要は5倍になる

 今回のAdobe CX Enterpriseの発表に合わせて、GenStudioにも新機能が追加されている。その1つが「Adobe Brand Intelligence」になる。

 パーマー氏によれば、Adobe Brand Intelligenceはブランドの基本的な管理機能と、ブランド管理に特化したコンピュータビジョンモデル、そしてリーズニングエンジンがセットになったもので、それを利用することで、大量のコンテンツの自動生成、法令順守などの確認、オーディエンス別の効果の予測などがAIの機能で実現でき、ブランドのアイデンティティ(例えばコーポレートカラー)や法令順守などを守りながら、ブランド認知を上げるようなプロセスを自動で回していくことが可能になるという。

Adobe Brand Intelligence
Adobe Brand Intelligenceの仕組み

 また、3月にNVIDIAとの提携で発表された「Adobe 3D DigitalTwin」を利用すると、製品の設計に利用した3Dモデルデータから、キャンペーンに利用する3Dモデルを作成し、それを元に動画を作成するといったことが可能になると説明した。

Adobe 3D DigitalTwin

 さらにGenStudioを利用したデモも行われ、ServiceNowの広告を作成するコンテンツをWorkfrontから呼び出し、Adobe Brand IntelligenceとFirefly Creative Productionを使って、ターゲットオーディエンス別、チャネル別のコンテンツを一括で作成できる様子が紹介された。

GenStudioを利用してServiceNowの広告バナーを自動で大量生成しているところ

 なお、Adobe Brand Intelligence、Adobe 3D DigitalTwin、Firefly Creative Productionはすでに提供中で、AIエージェントなどは今後順次提供されていくことが明らかにされた。

Adobe Brand Intelligence、Adobe 3D DigitalTwin、Firefly Creative Productionは既に提供中

Adobe Summit Sneaksが開催、将来のデジタルマーケティングをより便利にするAIツールのプロトタイプをお披露目

 Adobeの年次イベントは、例年、デジタルマーケティングツール向けのAdobe Summitが春に、クリエイターツール向けのAdobe MAXが秋にそれぞれ開催されるが、どちらのイベントでも行われている恒例の催し物として、「Sneaks(スニークス)」がある。

Adobe Summit Sneaksの様子。Adobe エヴァンジェリスト エリック・マティソフ氏(左)、コメディアン・俳優のイライザ・シュレシンガー氏(右)が司会を務めた

 Sneaksは、Adobeの研究開発部門である「Adobe Labs」に所属している若手研究者など、Adobeの従業員が日々研究して、製品として提案したものが発表される場となっている。

 Sneaksが特殊なのは、イベントの会期2日目夕方という、イベントがほぼ終了する時間帯に行われることだ。

 米国のテックカンファレンスの多くは3日間の日程で、基調講演は初日と2日目に行われ、2日目の夜にはパーティーなどを開催、3日目は分科会や展示などが中心で、基調講演は行われないため、多くの参加者が3日目には帰路につくというのが一般的だ。

 従って、多くの観客は「大変だったカンファレンスも、あとはこれを見てパーティーに出れば終わりだな」という気分で講演を観に来る。しかも、このSneaksでは、パーティーの前段階として、ビールなどのお酒が配布されるのが一般的で、観客は「すでにできあがった状態」でこのSneaksを見ている。

 このため、本当に面白くて有益なツールだと思えば“ヤンヤヤンヤ”と歓声を送るし、つまらなければ、ブーイングまでいかなくてもシーンとなったりする。プレゼンをする若手研究者にとっては晴れの舞台でもあり、悪夢の舞台でもあるが、このSneaksで公開された開発中のアプリケーションが、その後実際の製品になった例は多数あり、若手研究者にとっては文字通りの「登竜門」となっているのだ。

 こうした特徴を持つAdobe Summit Sneaksだが、米国のコメディアン・俳優のイライザ・シュレシンガー氏とAdobe エヴァンジェリストであるエリック・マティソフ氏の2人の司会によって行われた。

Project Concurrent

 マーケターは、インフォグラフィックやチャートなどのビジュアルを活用してキャンペーンを魅力的にする。しかし、基となるデータが変わると、それらのアセットはすぐに古くなり、再構築や更新が必要になるのが悩みだ。

 Project Concurrentは、静的なデザインを「生きたキャンバス」に変えるアプリ。Adobe Expressを使い、マーケターはAdobe CX Enterpriseのライブデータソースと連携したビジュアルを作成でき、情報が変わると自動で内容が更新されるので、再構築の手間は不要になる。

 さらに、高度なデータマッピングもサポートしており、AIアシスタントの助けを借りて数式を適用したり、ダイナミックなビジュアルを生成したりできる。また、Adobe Expressのオープンソースプラグインを通じて、常に最新の魅力的なビジュアライゼーションを作成できるという。

Project Face Off

 マーケターにとって、一般消費者が直面するどのデジタル体験が接点を増やすのか、あるいは一般消費者の選択につながるのかを理解することは重要だ。しかし、その調査で、効果の低い選択肢を使ってテストすると収益に悪影響を及ぼすリスクがある。

 Project Face Offは、公開前にA/Bテストをシミュレーションできるツール。生成AIがオーディエンスのペルソナを生成し、それぞれが異なるデザインバリエーションとどのように関わるかをモデル化し、最も効果的なものを特定する。

 マーケターは特定のペルソナを指定してA/Bテストを数秒で実行でき、どのバージョンが勝ったかだけでなく、その理由も把握できる。これにより、実際に構築・公開する前にデザインのモックアップや改善が可能だ。

Project Page Turner

 顧客ごとにニーズに合った体験を提供することは、ブランドロイヤルティや顧客満足度の向上に不可欠。しかし、すべてのやり取りをパーソナライズし、スケールしていくのは難しい課題。

 Project Page Turnerは、ユーザーの意図に基づいてリアルタイムでパーソナライズされたWebページを生成するツール。Webサイトの訪問者はブランドサイト上で自分の要望を直接記述でき、ページは即座に適応し、Adobe Experience Managerのコンテンツから関連するユーザー体験を組み立てる。それぞれのやり取りが次に表示するコンテンツの選定に生かされ、生成AIによるパーソナライズが進む。ブランドガイドラインを守りつつ、ページを一から作り直すことなく動的な対応が可能になるツールとなる。

Project Wise Wire

 消費者は毎日、ブランドからのメールやメッセージ、広告に触れているが、それらは多くが画一的で無視されがちだ。マーケターにとっては、スケールさせつつ関連性とパーソナライズを維持するのが難しくなっている。

 Project Wise Wireは、静的なアセットを完全なパーソナライズドメールワークフローに変換するツール。Adobe Expressのクリエイティブアセットを、すぐに使える構造化HTMLテンプレートに素早く変換し、Adobe Journey Optimizerで精緻化・配信できる。

 さらに、エージェントがよりパーソナライズされたコンテンツを提案したり、オーディエンスデータに基づいてHTMLスキーマを更新したり、自然言語プロンプトでコピーを適応させたりする。

 Adobe Experience Manager Assetsでビジュアルを素早く反復でき、Adobe Journey Optimizerでメッセージングとパーソナライズをオーディエンス全体で調整できる。また、組み込みのテストとシミュレーション機能により、異なるバージョンのメールが各オーディエンスやペルソナでどのように表示されるかを送信前にプレビューできる。これにより、1枚の画像から、数分で機能的かつパーソナライズされたキャンペーンを作成できる。

Project Test Kitchen

 視覚的に魅力的なマーケティングコンテンツの制作は、デザインチームやマーケティングチームにとって時間のかかる反復的なプロセスだ。Project Test Kitchenは、AI搭載の画像生成・編集ツールでこのプロセスを支援する。

 ブランドアセットやデザインアイデア、スタイルなどの入力からムードボードやビジュアルガイドなどを作成し、コンセプトを生成・洗練できる。デザイナーはビジュアルインターフェイスで色やレイアウト、スタイルのバリエーションを試しつつ、デザインを再利用可能な要素に分解してそれを利用して別の新しいコンテンツを作れるという。

Project Asset Amplify

 マーケターはすべてのチャネルで一貫性のあるコンテンツを作成することが求められるが、ソーシャル、Web、印刷用に個別のアセットを作るには毎回ゼロから始める必要がある。

 Project Asset Amplifyは、少数のコンテンツからキャンペーン用アセット一式を生成するもの。プロモーション用動画や画像を起点に、シンプルなプロンプトで異なるフォーマットやプラットフォーム向けのブランドビジュアルを生成できる。LLMと拡張可能な背景を活用し、ソーシャルメディア、ウェブサイト、印刷物で使えるアセットを作成し、Adobe PhotoshopやAdobe Expressでさらに洗練できる。

Project Tailored Takes

 異なるオーディエンスや市場向けにコンテンツを適応させるのは、特にキャンペーンを地域やフォーマットごとに一貫性を保つ必要がある場合、作業は非常に複雑になりがちだ。

 Project Tailored Takesは、Firefly Foundry(Adobeが提供する企業向けのカスタム可能な生成AIモデル)を活用し、動画制作とバリエーション作成を効率化する。マーケターはストーリーボードの設計、ビジュアルの適応、オーディエンスごとの製品バリエーション作成が可能。Adobe Experience Managerのブランドアセットを活用し、製品配置の調整やローカライズ版の生成、Frame.ioでの動画編集も行える。これにより、各市場向けに最適化されたコンテンツ制作が容易になる。