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マーケティング活動は自律的に動くエージェント型AIにお任せ――AdobeがCX Enterpriseを発表

基調講演にはNVIDIA ジェンスン・フアンCEOが登壇

 Adobeは4月20日~22日(米国時間)に、同社のデジタルマーケティング系ツールの年次イベントとなる「Adobe Summit」を、米国ネバダ州ラスベガス市の会場で開催している。

 Adobeはこれまでデジタルマーケティング系のクラウドベースのツールとして「Adobe Experience Cloud」を提供してきたが、今回のSummitにおいて、より上位版の「Adobe CX Enterprise」を発表し従来のAdobe Experience Cloudのアプリケーションやサービスを含みながら、自律的にマーケティング活動を行うためのエージェント型AIが充実している点が最大の特徴だ。

 初日となった4月20日の午後には、同社のシャンタヌ・ナラヤン会長兼CEO、顧客体験オーケストレーション事業部門担当プレジデントのアニール・チャクラヴァーシー氏といった幹部、さらに特別ゲストとしてNVIDIAのジェンスン・フアンCEOなどによる基調講演が行われた。

Adobe Summitで講演するAdobe 会長 兼 CEO シャンタヌ・ナラヤン氏(右)、NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏

Adobe Experience Cloudの上位版として投入されるAdobe CX Enterprise

 今回Adobeは「Adobe Summit」において、同社の新しいデジタルマーケティングツールとなる「Adobe CX Enterprise」を発表した。Adobe CX Enterpriseは、従来Adobeがデジタルマーケティングのツールとして提供してきた「Adobe Experience Cloud」の上位版という扱いになる。なお、Adobeによれば、今後もAdobe Experience Cloudの提供は継続される予定という。

Adobe Experience CloudとAdobe CX Enterpriseの位置づけの違い(作成筆者)

 Adobe Experience Cloudは、企業がマーケティング活動を行う上で、顧客体験を向上させるための各種のツールが提供されている。例えばAEM(Adobe Experience Manager)では、DAM(デジタルアセット管理)とCAM(コンテンツ管理システム)などのツールが提供されており、企業がデジタルマーケティングを行う上でのアセット・コンテンツ管理などを実現している。

 Adobe Experience Platformでは、顧客データ管理のAdobe Real-Time CDP、マーケティング施策の分析を行るAdobe Analytics(Adobe CX EnterpriseではAdobe CX Analyticsとブランドが変更されている)などのアプリケーションが提供され、さらにGenStudioでは、マーケティング向けのコンテンツの作成から評価までを一貫で行うといったように、Adobe Experience Cloudでは、企業がデジタルマーケティングを円滑に行うために数々のツールが提供されており、企業は全部を、あるいは一部を契約して利用してきた。

GenStudio

 今回発表されたAdobe CX Enterpriseでは、そうしたAdobe Experience Cloudで提供されてきたアプリケーションはそのまま引き継いだ上で、新しくAdobeやサードパーティーのAIエージェント/エージェンティックAIを活用するための新機能が追加され、より自律的にマーケティング活動が行えるように進化している。

 具体的には、AIエンジンが強化され、「Adobe Brand Intelligence」と「Adobe Engagement Intelligence」という顧客体験に特化した推論エンジンと意思決定エンジンが追加される。

 前者は、常にブランドの方向性変化を認識するための推論エンジンで、ブランドの持つ価値を最大化するために必要な検証、ブランド戦略構築、シミュレーションなどが可能になる。後者は、顧客が持っている価値観に合わせて顧客体験を最適化するための推論エンジンで、最適化し大規模なパーソナライゼーションを実現する意思決定を自動化する。

Adobe Brand Intelligenceのイメージ

 また、Adobe自身のエージェント型AIとして「Adobe CX Enterprise Coworker」が導入される。従来は、例えばキャンペーンを実行する場合に、まずAdobe Analytics(今回からAdobe CX Analyticsになっている)やAdobe Real-Time CDPでターゲットとなる顧客ユーザーを決め、そこにGenStudioでコンテンツを作成する――といった作業を、それぞれ別のAIエージェントがやっているという状況になっていた。

 それに対してAdobe CX Enterprise Coworkerは、それらのエージェントの上位にあって、企業が定義したビジネス目標に向かってタスクを実行できるようにする。今までであれば、そこにプロジェクトマネージャのような担当者を貼り付けていたわけだが、それが必要なくなり、人間がエージェントに指示を出すだけでよくなるということだ。

 このように、Adobe CX Enterpriseではエージェント型AIの機能が拡張され、AIがより自律的にマーケティング活動を行うことを可能にする。それが一つ目の特徴と言える。

サードパーティのSaaSやAIサービスなどと連携可能になり、よりオープンな環境に

 またAdobeは今回、同社が作成して実装しているAIエンジンだけでなく、サードパーティのAIモデルやAIエージェント/エージェント型AIと接続し、顧客のワークフローを拡張できるようにしている。

 大きく分けて3つの拡張が行われている。

1)Adobeアプリケーションとサードパーティーアプリケーションを横断する新AIエージェントの連携
 Adobeが提供するAIエージェントとサードパーティーが提供するAIエージェントが、「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」によって連携可能になる。具体的には、「Adobe Marketing Agent」がAmazon Quick、Anthropic Claude Enterprise、ChatGPT Enterprise、Gemini Enterprise、IBM watsonx Orchestrate、Microsoft 365 Copilotなどと連携可能になるエージェント型ワークフローが導入される。

2)エージェントスキルカタログ
 エージェントスキルカタログを利用することで、企業は自社でカスタマイズしたワークフローを容易に作成可能になる。Adobeが提供するAIエージェントを利用して、マーケティング活動、例えばコンテンツ制作や顧客体験の最適化などのワークフローを自動化するためのスキルがAdobeから提供される。

3)開発者向けツール
 Adobeのエージェントスキル、MCP(Model Context Protocol)サーバー、Adobeが提供するAIインフラにアクセスするための方法が開発者向けに提供される。開発者は、Anthropic、Google Cloud、Microsoft、OpenAIなどが提供するサードパーティのAIインフラに、AdobeのAIエージェント機能を直接取り込み可能になる。

 従来、Adobe Experience Cloudでは、基本的に顧客のデータも、その上で動くAIアプリケーションも、基本的にはAdobeのクラウド上にあるという前提になっていた。しかし、今回、サードパーティーのAIサービスやSaaSベースのAIサービスなどに接続する方法が提供されることになり、Adobe CX Enterpriseでは企業側の自由度が大幅に上がった。これが、2つ目の大きな特徴になる。

Adobe Experience Cloudと比較してAdobe CX Enterpriseで追加された部分(Adobe提供のスライドを元に、筆者が追加)

NVIDIA ジェンスン・フアンCEOが基調講演に登壇し、Adobeとの提携などを説明

 現地時間の4月20日 14時から行われたAdobe Summitの基調講演では、Adobeが発表したAdobe CX Enterpriseを始めとした各種の発表に関する説明が行われた。

 冒頭にはAdobe 顧客体験オーケストレーション事業部門担当プレジデント アニール・チャクラヴァーシー氏が登壇し、Adobeのデジタルマーケティングツールに関する歴史などについて振り返った。その後Adobe 会長 兼 CEO シャンタヌ・ナラヤン氏が登壇し、同社の基本戦略などに関して説明した。

Adobe 会長 兼 CEO シャンタヌ・ナラヤン氏、トレードマークになっているセーターを今回も着用

 そして、ナラヤン氏のSummitでの基調講演では恒例になっている、特別ゲストが紹介された。今回の特別ゲストは、NVIDIAの創業者でCEOのジェンスン・フアン氏。AdobeとNVIDIAは、NVIDIAが3月中旬に開催したGTCにおいて協業深化を発表しており、今回はそうした発表を受けて、フアン氏がゲストとして基調講演に登壇した形になる。

 このゲスト枠には、過去にはAMD CEOのリサ・スー氏も登壇したことがあり、半導体メーカーのトップがよく呼ばれる枠でもある。

NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏が特別ゲストとして紹介される

 AdobeがNVIDIAのために作成した動画が流れた後、フアン氏が登場すると「このビデオはPremiereで作られているの?」とリップサービス。すると、それに対してナラヤン氏もすかさず「ジェンスンは今日も制服の黒い革ジャンを着てるね」とツッコミを入れると、フアン氏は「これ何着もあるし、シャンタヌのもそうだよね?」(筆者注:フアン氏の革ジャンはトレードマークとして知られている。一方、ナラヤン氏は毎回色違いの同じ形のセーターを着用することで知られ、そのファッションセンスが一部で話題になっている)とすかさずツッコミを返す。

 ナラヤン氏によれば「随分前に、おいしいレストランで会合したときに、ジェンスンはずっとコンピューティングの未来を語っていたけど、それはかなり実現したよね」と述べ、NVIDIAが創業した頃にナラヤン氏とフアン氏はレストランに行って夕食を食べたのが最初の出会いだったと紹介した。

 続けて、フアン氏が「あの時はどっちが払ったんだっけ?たぶんあなただな、確かめちゃくちゃ高いレストランだったし」と話すと、会場は笑いに包まれた。このように、まるで長年連れ添ったお笑いコンビのような絶妙なノリ・ツッコミが展開され、会場は笑いに包まれた。

NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏

 ナラヤン氏は最初の質問として、1月のCESなどで大きな話題になったフィジカルAIに関して質問した。フアン氏は「世界の大部分は物理的に定義されている。物理世界を理解することが、自動化やロボットの実現にとって非常に重要で、われわれはデジタルツインとしてて顧客に提供している」と述べ、フィジカルAIやデジタルツインの重要性は今後増していくと強調した。

 また、ナラヤン氏は「最近、あなたはAIが普及すると仕事が増えるといっている。それがどういうことなのか教えてほしい」と質問をした。

 フアン氏は「10年以上前にコンピュータービジョンの能力が人間のそれを超えた時、近い将来に放射線技師はAIに置きかえられるだろうと言われてきた。しかし、10年後、確かにCTスキャンなどでAIが活用されるようになったが、同時に放射線技師の仕事はむしろ増えた。なぜなら、放射線技師がやっていた仕事は分割されたが、AIベースのCTスキャンを迅速に行えるようになったため、検査の数は増え、むしろ放射線技師のニーズが高まったのだ」と回答。

 続けて、「ソフトウェアエンジニアも同様で、エージェントに支援されることで生産性が高まっており、より多くの試作などを行えるようになり、結果としてエンジニアは忙しくなって、より多くのことができるようになっている」と述べ、多くの人が、AIが普及するとエンジニアは失業すると言っていたが、むしろ忙しくなっているのが現状だと説明した。

 また、3月のGTCでAdobeとNVIDIAが発表した両社の協業深化については「AdobeとNVIDIAのプロジェクトは、コンテンツの生成、エージェント型処理により、クリエイティブとマーケティングの処理全体をカバーする。ソフトウェア、エージェント、AIモデルがAdobeのAIファクトリーで動作し、複数のクラウドにまたがってマーケティングキャンペーンの制作、テストまでを支援する。AdobeとNVIDIAは3Dコンテンツとデジタルツイン、Firefly Foundry上のブランド特化モデル、そしてその実行まで構築する"モダンマーケティングファクトリーを目指している」と述べ、AdobeとNVIDIAがAIスーパーコンピューターと生成AIを活用して企業のデジタルマーケティングに変革をもたらしていくのだと説明した。

発表されたばかりのAdobe CX Enterpriseのデモが行われる、Microsoft 365 Copilotとの提携のデモも

 その後、Adobeのチャクラヴァーシー氏がステージに戻ってきて、今回のAdobe Summitの目玉であるAdobe CX Enterpriseに関する発表を行った。

Adobe 顧客体験オーケストレーション事業部門担当プレジデント アニール・チャクラヴァーシー氏

 チャクラヴァーシー氏は、Adobe CX Enterpriseのユースケースを「ブランド可視性、カスタマーエンゲージメント、コンテンツサプライチェーン」だと説明。Adobe CX EnterpriseにはAdobe Experience Manager、Adobe LLM Optimizer、Adobe Brand Concierge、Adobe Journey Optimizerなど、Adobe Experience Cloudでも提供されてきたツールが提供されているほか、Adobe Brand Intelligence、Adobe Engagement Intelligence、Adobe CX Enterprise Coworkerなどが導入されることを説明した。

Adobe CX Enterpriseが発表される
Adobe CX Enterpriseのアーキテクチャ

 そして、Adobe CX Enterpriseの実際のデモが行われた。Marriott Bonvoyの事例が紹介され、同僚からの依頼にAdobe CX Enterprise Coworkerが応答する様子などが紹介された。Adobeによれば、このデモで使われたデータは架空だが、AIエージェントは実際に使用されているものだという。デモでは、あらかじめ設定した内容に基づき処理が行われ、最終的に新しいマーケティング活動として公開できることが示された。

Adobe CX Enterpriseのデモ

 また、MicrosoftのMicrosoft 365やTeams向けに提供されるMicrosoft 365 Copilotとも連携が可能になっており、Microsoft Teams内からAdobe CX Enterprise上で行われたマーケティング活動の分析データにアクセスしたり、そのレポートをPDFで生成し、時間が来たら配布したりする――そうしたことを自動で行えるなどの説明が行われた。

Microsoft 365 Copilotと連携している様子

 また、Adobe デジタルメディア事業部門代表担当 デイビッド・ワドワーニ氏は、Adobe CX Enterprise と連携してコンテンツ制作を行うことができるAdobe Creative Cloudに関するアップデートを説明した。

 ワドワーニ氏はCreative Cloudに関する新しいAIエージェントとして「Adobe Creative Agent」と「Adobe Brand Intelligence」の2つを発表し、それらをAdobe CX Enterpriseで利用する様子をデモした。

Adobe デジタルメディア事業部門代表担当 デイビッド・ワドワーニ氏
Adobe CX Enterpriseと連携して動作するAdobe Creative Cloud
Adobe Creative AgentとAdobe Brand Intelligenceを発表