イベント
CNCF アニシュチクCTO、クラウドネイティブやKubernetesへの関心の高まりをアピール
日本初開催の「KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025」レポート
2025年6月25日 06:15
Kubernetesとクラウドネイティブ技術に関する国際技術カンファレンス「KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025」が、6月16日から17日に都内で開催された。
KubeCon + CloudNativeConは、The Linux Foundation傘下のCNCF(Cloud Native Computing Foundation)のフラグシップイベントで、今回は日本での初開催となった。
初日の基調講演には、CNCF CTOのChris Aniszczyk(クリス・アニシュチク)氏が登壇し、CNCFの最近の動向を日本の動向を中心に語った。
同日には会場にて記者説明会が開催され、Aniszczyk氏が基調講演でも語られた内容を説明した。また、The Linux Foundationの日本担当ヴァイスプレジデントの福安徳晃氏が、日本の状況について紹介した。
企業がオープンソースやクラウドネイティブで大きなプレゼンスを目指す動き
福安氏は、Linux Foundationの日本の活動を中心に、日本企業によるオープンソースへの参加状況について語った。
福安氏はまず、今回のKubeCon + CloudNativeCon Japan 2025のチケットが完売になったと同時に、スポンサー枠も完売になったことを紹介。特に後者の意味として、企業がオープンソースやクラウドネイティブの技術に大きな関心を寄せ、大きなプレゼンスを出していきたいと思っているのではないかと語った。
その例として福安氏は、Linux FoundationやCNCFのメンバーになる企業が増えていること、さらにその中でもゴールドメンバーなど高いレベルのメンバーになる企業が増えていることをデータから紹介。「開発コミュニティに大きなコミットメントをしようとしているとアピールすると同時に、テクノロジーの方向性に影響力を行使していきたいという思いで、ハイレベルのメンバーになるのではないか」と語った。
その一方で日本は、日本以外の各国と比べると、クラウド利用もクラウドエンジニアもやや少ないという。これについて福安氏は、米国テック大手から見ると、大きなマーケットだが、まだ普及していないという、未開のビッグマーケットに見えると説明した。
ここで福安氏は、約1年半前に調査したというKubernetesの認定試験の国別受験数を紹介した。それによると、日本の受験者数は、インドの8分の1、中国の5分の1、韓国の2分の1だったという。
しかしその後、2023年12月にCNCFの日本支部であるCNCJ(Cloud Native Community Japan)コミュニティが設立されたのをきっかけに、日本のクラウドネイティブテクノロジーのコミュニティが広がった。そして、最近また受験者数の調査をしたところ、中国の約3分の1まで、グローバルとの差が縮まったという。
この話をもとに福安氏は、Linux Foundationが世界中で運営する技術系地域コミュニティの意義について、「その地域で開発者を育成していく、ゆりかごのような存在」と語った。
Aniszczyk氏、CNCFの最新動向と日本の活動を紹介
CNCFのAniszczyk氏は、CNCFについての最新動向を紹介した。
「CNCFはLinuxに続く第2位の勢いを持ったプロジェクト」
まずはクラウドネイティブの盛況ぶりについての調査結果について。クラウドネイティブ開発者の数は2020年と比較して270万人増加して、920万人になった。クラウドネイティブの導入も、過去最高の89%に増えた。
Kubernetesも広範に導入が進んでいる。インフラを宣言的に管理する手法であるGitOpsの採用も成長を続け、GitOpsに関連するプロジェクトであるArgoやFluxも、CNCFのプロジェクトのトップ10に入っているという。
そしていまAIブームとなり、その裏にあるインフラ技術としてKubernetesやクラウドネイティブの技術が使われていることもAniszczyk氏は取り上げた。
そのような中で、CNCFは設立10周年を迎え、最大級のオープンソース組織に成長した。コントリビューターの数が28万5000人以上いて、200以上のプロジェクトに190以上の国からコントリビューションがなされている。Aniszczyk氏は、「Kubernetesが、Linuxに続く第2位の勢いを持ったプロジェクトになっているのをうれしく思う」と語った。
続いて、CNCFの年間報告書「CNCF 2024 Annual Report」から、成長の様子をAniszczyk氏は紹介した。2024年だけで140以上のメンバーが増えた。
コミュニティとイベントの面では、KubeConをインドで初開催し、今回は日本で初開催と、グローバルに広がっている。コミュニティで活躍する人を表彰するKubestronautプログラムも2024年に開始した。さらに、セキュリティ教育プログラムも展開しているとAniszczyk氏は紹介した。
また、CNCFのプロジェクトの数も、コントリビューターの数も、右肩上がりに成長していることをAniszczyk氏は紹介した。
日本はCNCFプロジェクトへのコントリビューターの国別トップ15に
メンバー企業は750社以上集まり、プレミアムメンバーにはハイパースケーラーなども参加している。日本からは日立や富士通、NECなどがゴールドメンバーとなるなど、24社が参加しており、2019年から60%増加ということで、「日本のメンバーが増えているのは非常にうれしい」とAniszczyk氏は語った。
もう1つうれしいこととして、同氏は、日本からベンダー側だけではなくエンドユーザー側の企業が参加してきていることも紹介した。
国別のコントリビューターのランキングを見ると、日本はトップ15に入り、フランスの1つ上にいる。Kubernetesだけに絞ると日本のランキングがより上位になるという。「日本が正しいことを続けようとしていることが表れている」とAniszczyk氏は語った。
AIワークロードの認定プログラムや、個人を表彰するKubestronautプログラム
「最近最もわくわくした発表」として、Aniszczyk氏は「Kubernetes Certified AI Platform Conformance Program」を紹介した。CNCFではKubernetesの適合性の認定プログラムを設けてエンドユーザーの採用を促進しており、その中でこれはAIワークロードを認定するものだ。
また、人材の分野では、Kubernetesに関連するいろいろな分野で活躍する個人を表彰するKubestronautプログラムを2024年に開始した。現在100カ国以上から1800名弱の認定者がいるという。アジアでは280名が認定されているうち、日本からは63人が認定されているとのことだ。
Aniszczyk氏は日本のKubestronautたちを写真などのアイコンで紹介し、「日本のコミュニティからこうしたすばらしいメンバーが生まれているのは非常にうれしい」とコメントした。
日本のユーザー事例コンテストで東京ガスが優勝
今回のイベントに合わせ、日本のユーザー企業事例を表彰する「CNCFエンドユーザーケーススタディコンテスト」も開催。東京ガスが優勝したことが発表された。
クラウド移行にあたり、レガシーシステムをモノリシックアーキテクチャからマイクロサービスに移行したケースだ。KubernetesやArgo、Istioを利用することで、リリースの迅速化や運用効率化を実現し、コストを30%削減したという。
準優勝となったのが、三菱UFJ銀行だ。Kubernetesの採用により、プロビジョン時間が数週間から数日になり、デプロイをモダナイズし、Blue-Green deploymentでインテリジェントにアップデートするといったことを実現したという。