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【SAP TechEd 2013基調講演】すべてのアプリケーションをHANAとクラウドへ収束させる (クラウドオファリングの拡充とパートナーシップの強化)
(2013/10/24 10:20)
クラウドオファリングの拡充とパートナーシップの強化
シッカ氏は基調講演において、新たなHANAベースのクラウドオファリングも発表している。メインメモリが128GB、256GB、512GB、1TBの4つのインスタンスから選択できるHANA IaaSがそれで、すでにSAP Marketplace経由でプライベートベータとして提供されている(正式公開の開始時期は未定)。
現在、HANAのクラウドオファリングは、エンタープライズ向けのマネージドサービスである「HANA Enterprise Cloud」、Javaベースのプラットフォームサービス(PaaS)である「HANA Cloud Platform」、AWSを利用したパブリッククラウド「HANA One」が用意されている。また「Business ByDesign」や「SuccessFactors」といったSAPのクラウドアプリケーションの基盤をHANA Cloud Platformに移行する動きも進んでおり、今回の基調講演ではAccentureが独自にHANA Cloud Platformを拡張し、オンプレミスとのハイブリッド環境でSuccessFactorsを展開した事例が紹介されている。
プライベートベータの段階ではあるが、HANA IaaSが加わったことでSAPはより包括的なクラウドベンダとしての方向性を示したといえる。クラウドオファリングを増やすことは「顧客により多くの選択肢を提供するため」とシッカ氏は強調しているが、これはつまり既存のERP/CRMユーザーが、HANAへの移行、クラウドへの移行をしやすいようにその手段を数多く用意していると見ることができるだろう。
既存ユーザーのHANAおよびクラウドへの移行をすみやかに進めるために取っている施策のもうひとつがパートナーとの関係強化だ。すでに触れたIntelやAWSをはじめ、HANAはその登場時からパートナーとの関係を強め、その数を増やすことで成長してきたが、クラウド指向が鮮明になってからその傾向はより強くなってきており、例えばCloudFoundry(Pivotal)のような競合に見える相手とも手を組むことも少なくない。
そして今回の基調講演では新たにSASとの提携が発表され、会場に集まった聴衆を驚かせた。2014年までにHANAプラットフォーム上でSASの分析アプリケーションを稼働させるようにするというもので、SASのアルゴリズムがHANAにネイティブに統合されるようになる。BIソリューションでは競合関係にある両者だが、これもまたシッカ氏が言う「顧客により多くの選択肢を提供する」ための一環であるなら、それほど不思議ではない戦略といえる。
基調講演の冒頭、シッカ氏は「すばらしいテクノロジというものは、いつもわれわれに力を与えてくれるものであり、到達点を高めてくれるものである。テクノロジはそうあるべきだと私は信じている」と明言している。つまりHANAがそういう存在であり続けることをあらためて宣言したと受け取ることができる。
シッカ氏はまた「すべてのアプリケーションは変化し、改善していく必要がある。(改善やバージョンアップを必要としない)完璧なアプリケーションというものはこの世に存在しない」とも語っており、たとえエンタープライズアプリケーションであっても“変わらない”という選択肢はないと強調する。そしてその変化のスピードは確実に速まっており、キャッチアップのタイミングを逃せばビジネスの機会損失につながることは間違いないだろう。
高速性を最大の特徴とするインメモリソリューションのHANA、ビジネスの迅速なローンチを可能にするクラウド、SAPがこの2つを前面に押し出すのは、スピードこそがビジネスを左右する最大の要因だと位置づけているからにほかならない。基調講演ではあまり触れられなかったが同社がモバイルソリューションを推進するのも同じ理由だ。
エンタープライズアプリケーションの世界においては“変化”というのは厄介な出来事だと言っていい。できればこれから何年も変わることなく同じアプリを同じ環境で使い続けたいというユーザーは多い。だが変化は避けて通れない。ならば企業が変わるために必要な手段をできるだけ多く提供し、既存の環境を破壊することなく移行を進める。
シッカ氏の言う「数多くの選択肢」を提供することは、業務アプリケーションベンダとして多くの製品をエンタープライズに提供してきたSAPの義務と責任といえるのかもしれない。