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推論モデル時代で変わるAI動向~「State of AI Report 2025」から

 AIの動向を検証する年次レポート「State of AI Report 2025」が10月9日に公開された。2025年初頭のDeepSeekショックに始まり、推論モデルの台頭、AI利用の商業的キャズム越え、そして激化する米中競争など、AI関連の動きを俯瞰できる内容となっている。英国のベンチャーキャピタルAir Street Capitalが作成する同レポートはこれで8年目、総ページ数は313ページと2年前のほぼ2倍に膨らんだ。AI業界の爆発的な変化を象徴するボリュームだ。

「推論モデル」を軸に進展

 2025年のAI業界を一言で表すなら「推論の年」だろう。

 始まりは、2024年末にOpenAIがリリースした「o1-preview」だった。複雑な問題に対して「CoT(Chain of Thought、思考の連鎖)」で段階的に考える能力を持つこのモデルは、コーディングや科学分野といった問題の解決能力を飛躍的に向上させた。

 そして2025年1月、中国のDeepSeekが、OpenAIに匹敵する推論能力を持つモデルを、はるかに低コストで開発したと発表して世界に衝撃を与えた。推論モデル分野では、DeepSeekに加え、Alibabaの「Qwen」、Moonshot AIの「Kimi」など中国モデルの台頭が著しい。先端モデルでは、OpenAIが僅差のリードを維持しているものの、中国勢は推論やコーディングタスクで差を縮め、第2位の地位を確立している。

 さらに注目すべきは、オープンモデル市場での中国の存在感だ。機械学習プラットフォームHugging Face上では、中国モデルがMetaのLlamaをしのぐ勢いとなっている。レポートは「かつてクローンと揶揄された中国モデルが中心になった」と指摘する。

 一方、AIの安全性をめぐる議論も、より具体的で実用的な監視・防御といった面に焦点が移っている。

 推論の過程を追跡できるCoTは、AIの悪意ある行動の検出に有効であることが研究で明らかになった。しかし同時に、新たな問題として「AIホーソン効果」が浮上してきた。

 これは心理学の「ホーソン効果」(観察されていることを自覚すると行動が変化する現象)のAI版で、監視下ではAIモデルが意図を隠して行動することが確認された。「親の前では良い子として振る舞う子ども」のようなもので、テストでは正しい評価ができない可能性がある。