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CPS/IoTの活用とオープンイノベーションで超スマート社会は実現するか? 日立・東原社長

CEATEC JAPAN 2016基調講演

 10月4日から千葉県幕張の幕張メッセで開催されている「CEATEC JAPAN 2016」において、主催団体のひとつである一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の会長を務める、日立製作所(以下、日立)の東原敏昭執行役社長兼CEOが、「デジタル技術を活用した社会イノベーション」をテーマに基調講演を行った。

日立の東原敏昭 執行役社長兼CEO

 東原社長は、「IoTや人工知能などに関する記事が毎日のように出ている。デジタル化が身近になってきた証である」と切り出し、「社会の変化とデジタル化の進展」という観点から講演をはじめた。ここでは、世界において、都市化、少子高齢化、グローバル化、デジタル化の進展という潮流があることを示す。

世界の課題

 その上で、「2030年には世界人口が約85億人に達し、そのうち、約6割を占める約51億人が、都市に住むと予測されている。都市部における交通渋滞、エネルギー不足などの社会的課題が出てくる。また、65歳の高齢者が20%以上を超える国は、現在の日本、イタリア、ドイツの3カ国から34カ国にまで拡大する。介護医療の仕組みやそれを支える人材確保の問題が出てくるだろう。さらに、ヒト、モノ、カネが国境を超えてグローバルに展開され、それに伴い、セキュリティの問題が出てくる。そして、デジタル化によって、社会的課題がますますクローズアップされることになる」とした。

 しかしその一方で、「だが、世界が直面する社会的課題を、あまり悲観的に見ない方がいい。これらを、未来を形づくるひとつの潮流ととらえれば、イノベーション創出の大きなチャンスだといえる。大きなビジネスチャンスになるととらえるべきである」とした。

社会的課題はイノベーション創出の大きなチャンスだという

 課題を大きなビジネスにつなげた例として、UberやAirbnbなどをあげながら、「センシング、ロボティクス、ビッグデータ、人工知能、セキュリティといったデジタル化の進行が革新的サービスを生み出している。それに伴い、顧客の考え方も大きく変わり、モノの提供からサービスの提供へと変化。占有からシェアへ、クローズからオープンイノベーションへ、そして、個別最適から全体最適へと変化している。まさに、産業構造を変えるパラダイムシフトが起こっている」と語った。

デジタル化の進展によるインパクト
産業構造も変化していくという

 日本では、内閣府が、第5期科学技術基本計画において、「Socity5.0」を今年1月に打ち出し、11のシステムを順次開発し、超スマート社会の実現に向けた取り組みを開始している。

 「一人一人がこのイノベーションに参加することで経済発展が進む。社会課題を世界に先駆けて解決していくことが、『課題先進国・日本』を有効に生かして、国際貢献ができることにつながる」と、東原社長は語る。

 一方で、「超スマート社会の実現においては、さまざまなモノとサービスがつながることが大切である。高度にシステム化され、それが連携し、社会全体に最適に働くことで超スマート社会が成立する。そのためには、フィジカル空間とサイバー空間を高度に融合させるCPS/IoTの活用が不可欠。さらに、多くのステイクホルダーが協調するオープンイノベーションが鍵になる」とした。

Socity5.0
超スマート社会実現の鍵

 CPS/IoTについては、「日本は技術者のレベルが高く、機器の稼働が正確であることから、品質の高いデータを取得できる。結果として、日本は、CPS/IoTを活用しやすい環境にある。センシングの技術や、そこから得た知見を実装する技術も日本が得意とするところである。IT・エレクトロニクス業界に大きなビジネスチャンスがきたといえる」と述べた。

社会課題解決に導くCPS/IoT

 また、オープンイノベーションについては、「産官学が連動することにより、いままでになかった価値を創出することができ、これを、先端技術開発、規制改革、データ流通、規格標準化などにおいて活用できる。日本再興戦略のなかでも、デジタルイノベーションのために産官学が連動することが大切だとしており、日本では、IoT推進コンソーシアムに2400社が参加している」との現状を説明。

 「JEITAも、CPS/IoTの社会実装推進に向けて環境整備を行っており、規制・制度の改革、税制改正の要望、データ利活用のルールづくり、セキュリティ確保、異業種やベンチャー企業との連携などにも取り組んでいる。今回のCEATEC JAPAN 2016は、従来の家電中心の展示会から、CPS/IoT Exhibitionに転換している。CPS/IoTによって社会や産業が大きく変革する未来をみて、ビジネスを作る場として、CEATEC JAPAN 2016を活用してもらいたい」と語った。

新たな価値を創出するオープンイノベーション
日本におけるオープンイノベーションへの取り組み
CEATEC JAPAN 2016はCPS/IoT Exhibitionに転換

日立が取り組む社会イノベーション事業の価値

 続いて、日立が取り組む社会イノベーション事業について説明。「日立は『IoT時代のイノベーションパートナー』になることを目指している。2018年を最終年度とする中期経営計画に取り組むなかでも、OT×IT×プロダクトシステムの3つを持っている強みを生かしながら、日立単独で成長するのではなく、顧客やパートナーとの協創によって、新たな価値を見いだす方向に進んでいる」と述べた。

 OT×IT×プロダクトシステムという3つの領域を持っている企業は少ないとしながら、「そこに日立ならではの価値を提供できる」と発言。鉄道事業においては、鉄道そのものを生産するというプロダクトシステム、列車の運用管理を行うOT、カメラで得た情報などをもとに、駅構内の人流をスムーズに解析するITを提供しているほか、さらには、人の混雑具合を分析して、それをもとに列車のダイヤまで変えることができるという、OTとITの組み合わせの強みについても説明した。

日立が目指す姿
日立が取り組み社会イノベーション事業

 さらに、社会イノベーション事業の推進においては、顧客と課題を共有する協創が大切であるとし、協創への具体的なアプローチとして、現場における潜在的なニーズを発掘し、シェアする「エスノグラフィ調査」、課題の発掘や解決サイクルの迅速な繰り返しによるイノベーションを拡大する「Exアプローチ」、将来の社会問題とそれが解決された姿を描き、破壊的イノベーションを開発する「ビジョンデザイン」の3つを紹介。

 また、日立の顧客協創方法論「NEXPERIENCE」や、今年5月に発表したIoTプラットフォーム「Lumada」が、同社の社会イノベーション事業推進に重要な役割を担っているなどを強調してみせた。

日立のオープンイノベーション「協創」
「協創」のアプローチ
NEXPERIENCEの概要
Lumadaによる社会実装
Lumadaの特徴

 具体的事例としては、人口650万人の都市で、バスとクルマしかない都市に地下鉄を導入すると、渋滞緩和にどれだけ影響するか、駅をどこに、いくつ配置するのがいいのか、運賃をいくらに設定すれば利用が促進され、回収が早期に完了するのかといった検証シミュレーションの様子や、製造および物流現場においては、作業者の導線解析や動作解析によって、作業効率と作業品質の向上につなげることで、労働力の補足や技能継承を実現する例などを示した。

 さらに、柏の葉スマートシティにおいて、日立がエネルギーソリューションを提供。電力の相互融通などにより、地域全体でのマネジネントを実現していることを示したほか、米ハワイ・マウイ島における再生エネルギーマネジメントの取り組みでは、蓄電池だけでなく電気自動車のバッテリーも蓄電に活用し、全体で安定的な電力供給を実現している様子を紹介した。

具体的事例
スマートシティの提案事例
地下鉄導入の検証シミュレーションの様子
製造現場のスマート化の実証事例
スマートロジスティクスの適用事例
柏の葉スマートシティ
マウイ島のバーチャルパワープラント

 「日立は、THE FUTURE IS OPEN TO SUGGESTIONSをキャッチコピーにしている。『未来は、オープン。アイデアで変えられる』という意味がある。一緒になって知恵を出し合って、すばらしい街づくりを考えていけば、超スマート社会の実現は可能である」とした。

 最後に、東原社長は、「デジタル化の進展によって、つながることが大切になってきた。また、つながることの次には、それが広がることになる。単独の企業では解決できない社会の課題をつながることで解決できるとともに、人の生活の質も高め、企業にとっては新たなビジネスチャンスを生み出すことになる。ぜひみなさんと一緒に、超スマート社会の実現に向けて一緒に取り組んでいきたい」と呼びかけて、講演を終了した。

つなぐことに生まれる新しい価値を次の進化へ
超スマート社会の実現を目指す