イベント
オープンソースはイノベーションを起こすカルチャーだ――、米Red HatホワイトハーストCEOが講演
Red Hat Forum 2016 Tokyoレポート
2016年10月7日 11:11
レッドハット株式会社は5日、自社イベント「Red Hat Forum 2016 Tokyo」を開催した。テーマは、6月に米国で開催されたRed Hat Summitから受け継いだ「The power of participation ~アイデアとテクノロジーが生むオープンイノベーションの破壊力~」。
開会の挨拶に立ったレッドハット株式会社 代表取締役社長の望月弘一氏は、Red Hat Forumは世界中で開催される最大級のイベントと説明。今回のテーマの「The power of participation」について、「開発者、お客さま、パートナーの触媒になって、オープンなイノベーションを加速させたいという思いが、このテーマにこもっている」と語った。
午前に開催されたジェネラルセッションには、米Red HatのCEOのジム・ホワイトハースト氏のほか、同社アプリケーションプラットフォームビジネス シニアバイスプレジデントのクレイグ・ムジラ氏が登場。また、ジェネラルセッションの中の特別講演として、パナソニック株式会社と中国電力株式会社も登壇した。
ジェネラルセッションではさらに、APAC(アジア太平洋地域)のパートナーや顧客企業を表彰する「2016 Red Hat Innovation Award APAC」の日本における受賞者として、旭鉄工株式会社とソフトバンク株式会社を発表した。
「オープンソースはイノベーションのカルチャー」
ホワイトハースト氏は、企業のイノベーションとオープンソースについて語った。まず「これまでに経験したことのない加速度的な変化が起きている」として、「なぜこのようなことが起きているか。それは、現在ではソフトウェアが一部のベンダーによって作られているわけではないからだ」と主張した。
氏は、数年前までは数社がそれぞれR&Dしてソフトウェアを作っていたが、いまはTwitterやFacebook、Googleのような多くのユーザー企業が、新しいものを作ってシェアする時代になったと指摘。「彼らは新しいものを短い時間で作り、その繰り返しがイノベーションになる」と述べ、「オープンソースではコミュニティの協業により、個々の人の総和より大きな力が生まれる。これを“the power of participation”と呼んでいる」と説明した。
ここでホワイトハースト氏は、PWCの調査で「お客様の期待に答えるためのITの活用法を改革していますか?」という問いに90%が「改革している」と答えた結果を引用。「いままでになかった画期的な変化が、業種を超えて企業ITに起こっている。それは『DISRUPT』のレベルに達し、企業が成功するのに必要なものをもたらしている」と語った。
それにはアジャイルやDevOps、CI/CDなどの手法を含めて、社内のカルチャーの変化をいかに実現するかが課題になるとし、「それを身につけるにはオープンソースしかない」と述べた。「かつてはオープンソースは1つの選択肢だったが、クラウドやビッグデータ、コンテナなど、いまではオープンソースは唯一のやりかただ」。
現在では、ITが企業のビジネスの中核になってきており、企業のIT部門にもオープンイノベーションのパワーが必要になっているとし、そのためにRed Hatが必要とされるとホワイトハースト氏は語った。「オープンソースで20年以上の実績を持ち、パフォーマンスやセキュリティ、信頼性を改善して、金融業などのミッションクリティカルなアプリケーションを支えてきた」。
Red Hatでは、2,000以上のオープンソースソフトウェアのアップストリーム(開発元)コミュニティに参加し、そこから必要なものを選び、アップデートや機能追加を加えて、エンタープライズ製品を作るという。「同時にダウンストリーム(利用側)のエコシステムも重要だ」とホワイトハースト氏。そのためにRed Hatでは、ハードウェア認定やエンジニアの認定を進め、パートナーによるサポートを整備し、コンサルティングにも力を入れるという。
「IDCの調査結果では、大半の企業がオープンソースを活用している。しかし自分たちだけで使うにはかなりのスキルが社内に必要になる。そこでRed Hatが、みなさんの社員がイノベーションに専念できるようにする」(ホワイトハースト氏)。
また、ホワイトハースト氏は、Linuxや仮想化によりアプリケーションを動作プラットフォームから切り離すことができたと顧客からよく言われると紹介。現在では、物理サーバー、仮想サーバー、プライベートクラウド、パブリッククラウドのすべての選択肢に対応することが重要だとし、「Red Hatが認証することで、すべてのデプロイメント方法が可能にになる。ロックインをなくして選択肢を手にいれるのがRed Hatの価値の根源であり、これからもさらに進める」と語った。
ホワイトハースト氏は最後に「オープンソースはコードだけではなく、イノベーションを起こすカルチャーだ」と語り、来場者に“participation”(参加)を呼びかけた。
デジタルトランスフォーメーション時代のアプリケーションアーキテクチャとは
ムジラ氏は、すべての企業のビジネスの根幹にITが入り込む「デジタルトランスフォーメーション」時代のアプリケーションアーキテクチャについて語った。
そのためにはまず「スピード」「効率性」「俊敏性」が必要となる。それを実現するための要件としてムジラ氏は、「アーキテクチャ」「(開発)プロセス」「プラットフォーム」の3つを挙げた。
アプリケーションのアーキテクチャとして、1つのアプリケーションが一固まりになった“モノリシック”なアーキテクチャから、自律した小さなサービスを組み合わせて1つのアプリケーションを構成する“マイクロサービス”を挙げ、「柔軟性が高く、機能を実現できる」とした。
プラットフォームとしては、物理サーバー、仮想サーバー、プライベートクラウド、複数のパブリッククラウドといった複数の環境でアプリケーションが同じように動作する“オープンハイブリッドクラウド”を挙げ、「成功の鍵は“一貫性”だ」と述べた。
プロセスとしては、ウォーターフォールからアジャイルへの変化を挙げ、“DevOps”と言われるように開発、テスト、本番システムを行き来するためには自動化が必要と語った。
この3つを支える新しいクラウドネイティブなアプリケーションプラットフォームとして、ムジラ氏はコンテナアプリケーションプラットフォーム「OpenShift」を位置づけた。まずDev(開発チーム)にとっては、言語やフレームワーク、サービスなど開発ストラテジーと構成を選ぶときに、コンテナで一貫性を保てるという。一方、Ops(運用チーム)にとっては、基本となるソフトの脆弱性が発見されたときなどに、迅速なパッチの適用とデプロイが実現できるという。
そうしたRed Hatの取り込みとして、OpsについてはRHEL(Red Hat Enterprise Linux)などの15年の実績を、DevについてはJBossなどの10年の実績をムジラ氏は強調した。さらに、それを進めるものとして、OpenStackやOpenShiftを1つのまとめた「CloudSuite」、コンサルティングの「Innovation Labs」、6月に買収したクラウドベースのAPI管理ソリューション「3scale」を挙げた。
ムジラ氏は最後に、こうした変革はすでに現実のものだとして「みなさんがデジタルトランスフォーメーションへの旅で成功するお手伝いをしたい」と語った。
「Red Hat Innovation Award APAC」を旭鉄工とソフトバンクが受賞
ジェネラルセッションでは、APACのパートナーや顧客企業を表彰する「2016 Red Hat Innovation Award APAC」の日本における受賞者も発表された。「インフラストラクチャ」「モダナイゼーション」「変革/トランスフォーム」「クラウド」「高速化、統合化、自動化」「アプリケーション開発」の6つのうち、日本からは2部門で2社が受賞した。
まず、「変革/トランスフォーム」カテゴリにおいて、自動車部品製造の旭鉄工株式会社が受賞した。IoTによる稼働状況の見える化で生産性を向上し、コストを大幅削減したという。受賞コメントとしては「40年以上たった機械までIoTで接続して、大きな効果が得られた。会社の文化まで変えた」と語られた。
「アプリケーション開発」カテゴリにおいて、ソフトバンク株式会社が受賞した。携帯事業における受付システムのパフォーマンスを向上したという。受賞コメントとしては、「社内でソフトウェアの内製化とオープンソース化を進めている。Red Hatはその保守で助かっている。今後、パートナーとしてさらに次のステップに、いい関係になればと思う」と語られた。
パナソニックと中国電力が特別講演
ジェネラルセッションでは、パナソニック株式会社と中国電力株式会社の特別講演も行なわれた。
パナソニック 全社CTO室 技術戦略部 ソフトウェア戦略担当理事 梶本一夫氏は、「オープンIoT戦略による日本の生き残り」と題して話した。氏は「何でもハードウェアをつなげばIoTになるわけではないと考える」として、代表的な出口として「AIロボティクス家電」「自動運転・コミュータ」「店舗・接客ソリューション」「次世代物流・搬送」の4つを挙げた。
そして、有明のショールームでクラウド時代の生活事例を展示している「Wonder Life Box」を紹介。ビデオで、寝室のプロジェクションマッピングや情報表示、化粧エミュレータ、バーチャルフィッティング、宅配ロッカー、家庭菜園、料理ガイドなどのコンセプトを見せた。
現実の取り組みとしては、トヨタのT-Connectとコラボした家・クルマ連携や、ダイワハウスとのHEMS、アビオニクス(機内エンタメ)、IoT基盤のAPIに皮をかぶせて共通API化するWeb of Things規格が紹介された。
そのうえで梶本氏は、日本企業が世界で活躍するためには、オープンソースによってエコシステムを作るような戦略が必要だとし、「ことづくりファースト」「オープンイノベーション」「ストック型ソフトウェア開発」「コーディング重視・運用重視」「現場へのエンパワーメント」の5項目を挙げた。
中国電力 執行役員 情報通信部門(情報システム)部長 丹治邦夫氏は「中国電力におけるオープン環境への挑戦」と題して話した。
中国電力では、電力自由化によって、スマートメーターやほかの地域からスイッチング、新メニューの料金計算などのシステム対応が必要になった。ここで、商用ソフトに比べて恒常費用のコントロールが可能などの理由から、オープン化とオープンソースソフトウェア導入を行なったという。背景には、東日本大震災を機に社内で策定された「IT構想」で、「信頼確保」「費用低減」「業務革新」が定められたことがあると語られた。
オープン化による変化としては、ベンダーとユーザーの役割分担が変わり、ユーザー企業のできる範囲が拡大しているという。「オープンソースによって、電気という商品は変わらない」としながらも、社内に聞いた言葉として「システム開発後に改善意欲が湧く」「自分たちがやるんだという責任感」「メーカー等の影響を受けにくい体質に変わった」など、行動や意識で変化があったと丹治氏は効果を語った。