仮想化道場

クラウド対応の仮想デスクトップ環境「Project Avalon」が見えてきた

 Citrixは、自社が持つさまざまなソフトウェアテクノロジーを総動員し、クラウド対応の仮想デスクトップ環境(VDI)を構築するProject Avalon(アバロン)を進めている。

 Project Avalonは、昨年の5月に米国のサンフランシスコで開催されたプライベートカンファレンス「Citrix Synergy 2012 in San Francisco」で初めて発表され、昨年11月にスペイン バルセロナで開催された「Citrix Synergy 2012 in Barcelona」で詳細が明らかにされているが、日本国内向けの説明はまだ行われていない。

 そこで今回はシトリックス・システムズ・ジャパン マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアマネージャーの竹内裕治氏に、Project Avalonの現状に関して話を伺った。

クラウド環境でVDIを容易に運用できるようにするもの

――まずは、Project Avalonとはどのようなものなのかという部分からお話しいただけますか?

竹内氏
 Project Avalonは、クラウド上にXenDesktopやXenAppを使ったVDI環境を構築するためのソフトウェアを提供するものです。Project Avalonは、XenDesktop/XenAppだけでなく、Citrixが持つさまざまなソフトウェアを総動員したものになっています。

シトリックス・システムズ・ジャパン マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアマネージャーの竹内裕治氏

 例えば、クラウドのベースとしてはCloudStackを考えています。対応ハイパーバイザーはXenServerだけでなく、CloudStackでサポートされている各社のハイパーバイザーに対応しています。企業としては、CloudStackで構築されているプライベートクラウドにProject Avalonを導入すれば、簡単にVDI環境が構築できます。

 さらに、Project Avalonではパブリッククラウドへの対応も計画されています。当初は、Amazon Web Services(AWS)とMicrosoftのWindows Azureが対象となるでしょう。

CitrixのProject Avalonでは、クラウド上でVDIを実現するアーキテクチャだ
Project Avalonでは、VDIをクラウドで配信できるように、新しい管理ツールや新機能などを提供する

――現在でもVDI環境を提供しているクラウドサービスがありますが、そういったサービスとProject Avalonで構築するVDI環境はどういった違いがあるのでしょうか?

竹内氏
 例えば、クラウドサービス事業者の既存パブリッククラウドサービスでも、CitrixのXenDesktop/XenAppを使ったVDIサービスが提供されています。しかしこういったVDIサービスは、事業者自身が、さまざまな管理ツールなどを自社で開発して利用していると聞いています。

 これに対してProject Avalonでは、VDI環境を管理する管理ツールなどもすべて提供します。これにより、VDIを非常に簡単にクラウドサービスとして提供できるようになるでしょう。

 また多くのパブリッククラウドのVDI環境では、複数のデータセンターやリージョンをまたいでVDI環境を構築・管理することは難しいですが、Project Avalonを利用すれば、世界規模のクラウド上でVDIをフレキシブルに構築することができます。

 つまり、VDI環境に関係するさまざまな管理ツールやシステムを一括して提供することで、クラウド事業者にとっては自社でツールを開発しなくても高度なVDI環境を提供できるようになるわけです。またCloudStackをベースにしているため、プライベートクラウド上でもProject AvalonベースのVDI環境を利用することができます。

Project Avalonでは、マルチサイト、マルチテナント、複数のXenDesktop/XenAppのバージョンが混在可能。プライベート/パブリッククラウド間の自由に、移行、拡張、縮小が可能になる
Project Avalonは、異なるバージョンのXenDesktopを動かすことができる
Project Avalonでは、インフラとしてCloudStack(Cloud Platform)を利用し、その上にXenDesktop/XenAppを動かす。AWSやWindows Azureなどのパブリッククラウドでの動作もサポートされる見込み

ExcaliburとMerlinの2段階で提供を予定

 Project Avalonはさらに、大きくExcalibur(エクスカリバー)とMerlin(マーリン)と命名されているプロジェクトに分かれています。

 Excaliburは、XenDesktop/XenAppの新バージョンです。一方、Merlinは、XenDesktop/XenAppをクラウドベースで運用・管理するツールを含め、環境を統合して提供することを考えています。

 XenDesktop/XenAppの新バージョン(Excalibur)は、新しいFlexCast 2.0、端末やコンテンツに合わせてコンテンツの表示方法を変更するHDX、刻一刻と変化する通信ネットワークの状況を分析して、よりよいユーザー体験を提供するために分析と自動設定を行うHDX EdgeSight、Windows Server 2012/Windows 8のサポートなどが用意されています。

 またMerlinは、Citrix CloudPortalやCitrix XenApp Cloud Provider Packによって現在提供しているようなサービスもあらためて統合し、シームレスに利用できるセルフサービス・プロビジョニング、管理、サービスオーケストレーションの各機能を提供する予定です。

 さらにクラウド上からVDI環境を提供することで、災害時にデスクトップ環境を瞬時に復旧させるといったディザスタリカバリ対策も可能になります。こういった機能もMerlinを使えば、簡単に利用できるでしょう。

 もう一つ大きいのは、Merlinは複数のXenDesktop/XenAppのバージョンをサポートするので、単一のバージョンだけでなく複数の環境を運用でき、現状の環境をそのままAvalonへと移行することが可能になります。ユーザーの作業を中断せずに、自動アップグレードを行う機能も検討しています。

 なおExcaliburは、XenDesktop/XenAppのサブスクリプション契約を持っているお客さまに、テクノロジープレビュー版の提供を行っています。Merlinに関しては、2013年にテクノロジープレビュー版の提供を開始したいと考えています。

 Project Avalonは、ソフトウェアとしてはXenDesktop/XenAppの新バージョン、CloudStackやCloudPortalなどの新バージョンといった製品でリリースされていくと思います。

 ある意味、Project Avalonは、Citrixが持つすべての資産を利用して構築されていくものといえるでしょう。

GPUの仮想化には対応するか?

――VDIがより多くの企業で利用されるためには、グラフィックカードの仮想化が大きなポイントになると思うのですが。

竹内氏
 当社では以前からグラフィック処理能力の強化に取り組んでおり、DirectXやOpenGLを利用するアプリケーションも快適に利用することができます。またGPUパススルー機能によって、VDIの仮想マシン上で高解像度グラフィックスアプリケーションを非常にスムーズに動かすこともできます。

 この分野ではNVIDIAと協力して、GPUの仮想化に関する開発を進めています。この機能を利用すれば、VDI環境においてもGPUを複数ユーザーが共有し、パフォーマンスと効率性を両立できるようになると思います。ただGPU仮想化はハイパーバイザーと密接に関連するため、まずXenServerを利用した環境でサポートされる見込みです。

 GPUを利用するアプリケーションといえばゲームしかないと思われがちですが、最近ではWebブラウザが積極的にDirectXを利用しています。特に、IE 9/IE 10は、HTML5の表示にDirectXを利用することで、複雑な処理をGPUでも処理して、高いパフォーマンスを得たり、CPUの負荷を小さくしたりしています。今後HTML5コンテンツが増えてくれば、VDI環境においてもGPU仮想化は重要なポイントになると思います。

――クラウド上でVDIを展開する時に大きな問題になっているのがネットワーク最適化だと思いますが、Project Avalonではどのようにしていくのですか?

竹内氏
 Project Avalonとして、直接的に含まれるわけではないですが、ネットワークの負荷分散を行うNetScalerは非常に重要なパーツとなるでしょう。単に負荷分散を行うだけでなく、VDIにおけるプロトコルの最適化、通信トラフィックの監視などさまざまな部分にかかわってきます。

 もう一つ重要になるのが、Software Defined Networking(SDN)への対応でしょう。クラウドをまたぐVDI環境を構築し運用していくためには、フレキシブルなネットワークが必要になるため、SDNは重要になるのではないでしょうか。

――Citrixでは、VDI-in-a-BoxなどのVDIソリューションも販売していますが、Project Avalonはこういった製品とバッティングしませんか?

竹内氏
 現状では、バッティングするとは思っていません。VDI-in-a-Boxは、中小規模の企業向けのVDIソリューションです。プライベートクラウドなどを社内に構築していない企業にとっては、仮想アプライアンスとして、汎用x86サーバーに簡単にVDIが構築できるVDI-in-a-Boxは大きなメリットがあります。Project Avalonは、クラウドを対象としているため、当面は異なるニーズをカバーすると思います。

 VDI環境はクラウドで動かすことが当たり前といった時代が来た時は、VDI-in-a-Boxの役割は変わっていくかもしれませんが、当面はそれぞれの製品がバージョンアップされていきます。

 なお、Citrixでは、クライアントPC向けのXenClientを提供しています。ライセンス的には、XenClientはXenDesktopに含まれますが、システムや管理ツールなどはそれぞれ別に存在します。特に、2012年にVirtual Computerを買収して、XenClient環境をVirtual Computer社が提供していた製品に一新し、対応するハードウェアも増加しました。Excaliburでも、さらに使いやすさを強化していきます。

(山本 雅史)