Project AvalonでVDIのクラウド化を狙うCitrix


 先日、東京で開催されたCitrix Systemsの年次イベントiForum 2012が開催された。今回、このイベントに合わせて来日した、米Citrix SystemsでProject Avalon(アバロン)を担当している、エンタープライズデスクトップおよびアプリケーション部門プロダクトマーケティング担当、John G. Fanelli副社長(以下、ファネリ副社長)に話を伺った。

 

複数のVDI環境をオーケストレーションするのがProject Avalon

――4月に米国サンフランシスコで開催されたSynergy 2012でProject Avalonを発表されましたが、もう少し詳細にProject Avalonを説明してください。

John G. Fanelli副社長
Project Avalonは、Windowsのデスクトップ(VDI)とアプリケーションをプライベート/パブリッククラウド上で提供する

ファネリ副社長
 Project Avalonは、Windowsのデスクトップやアプリケーションをパブリッククラウド、プライベートクラウドを問わずに届けることができるVDIプラットフォームのことです。

 現在、数千、数万のVDI環境を採用している企業は、社内のプライベートクラウドやVDIを提供しているパブリッククラウド(DaaS)など、複数のクラウド、複数のデータセンターを利用しています。

 ただこのような環境では、管理自体が複雑になり、運用しにくいことになっています。一部のユーザーのVDI環境は社内のプライベートクラウドで運用し、ほかのユーザーのVDI環境は、外部のパブリッククラウドを使っているといった環境では、クラウドの管理ツールも異なります。

 何よりも、VDI環境を拡張していく時に、それぞれの環境に対して、オーケストレーションを図ることができません。すべて、管理者が手動で設定したり、変更しなければなりません。

 つまり、Project Avalonは、複数のVDI環境をオーケストレーション機能を提供することで、一元的に管理できるようにしようというものです。

 Project Avalonは、特定のハイパーバイザーやクラウドに縛られるモノではありません。ハイパーバイザーとしては、CitrixのXenServer、MicrosoftのHyper-V、VMwareのvSphereなどが利用できます。ハイパーバイザーの上位層であるクラウド構築プラットフォームとしては、CloudStackを採用しています。さらにVDI環境としては、次世代のXenDesktop/XenAppが使われます。

 現在のXenDesktop/XenAppは、ハイパーバイザー上でVDI環境を構築しています。これがProject Avalonでは、CloudStack環境上にマッチするように改良されます。ただ、Project Avalonでは、既存のXenDesktop 5やXenApp 6の環境もサポートされています。

 上位のオーケストレーション層では、XenDesktop/XenAppのバージョン差、プライベートクラウドやパブリッククラウドの差などを意識せずに、VDIの配置や設定、管理が行えるようになります。

 Project Avalonでは、VDIのために必要なAPIをクラウドAPI化していきます。最初は、CloudStackをターゲットにしてAPIを追加しますが、将来的にはAmazon Web Service(AWS)、MicrosoftのWindows Azure、OpenStackに対してもAPIを追加することで、これらのパブリッククラウドをサポートすることが可能になっています。


Project Avalonは、複数のXenDesktop/XenAppのバージョン、マルチサイト、マルチテナントをサポートするProject Avalonでは、CloudStackをベースとして、次世代のXenDesktop/XenAppが動作する。その上にオーケストレーション層が設置される
Project Avalonの構成図。次世代のXenDesktop/XenAppだけでなく、ハイパーバイザーベースのXenDesktop/XenAppもオーケストレーション層ではサポートされるProject Avalonでは、複数のデータセンター、複数のプライベートクラウド、複数のパブリッククラウドをサポートする

――Project Avalonのオーケストレーションに関して、もう少し説明していただけますか?

ファネリ副社長
 Project Avalonでは、VDIの設定のためにさまざまなテンプレートを用意します。仮想CPU、メモリ、ディスクといった仮想ハードウェア環境だけでなく、OSのバージョン、アプリケーションなどもテンプレート化しておきます。管理者は、このテンプレートを使って、必要なVDI環境を自由に構築できます。例えば、経理部門は会計ソフトが必要だが、営業部門はPowerPointなどのOfficeが必要、という具合です。

 管理者は、どのクラウド上にVDIを作成するのかなども設定することができます。例えば、本社のユーザーは、プライベートクラウド上に構築し、ヨーロッパ支社のユーザーはドイツにあるパブリッククラウド上に構築する、といったこともできるようになります。このように、地域を意識したVDIクラウドの運用を行うことができます。

 XenDesktopでは、個々のユーザー環境やユーザーのデータ領域をPersonal vDiskという方式で切り離しています。これにより、テンプレートで作成されるOS環境とデータ環境が切り離されることになります。この方式を使えば、ユーザーのOSをWindows 7から、Windows 8のバージョンアップすることも簡単に行えます。もちろん、個々のユーザーのデータ領域は保持したままできるのです。もちろん、XenDesktop/XenAppのバージョンアップも簡単に行えます。

 

クラウド側では変更の必要なし

――AWSなどのパブリッククラウドをProject Avalonでサポートするということですが、AWS側の改良は必要ないのでしょうか?

ファネリ副社長
 AWS側の変更は一切必要ありません。Project Avalon側で、AWSのクラウドAPIをサポートするため、AWS側に新たなソフトウェアを導入する必要はないのです。ただ、AWS上でVDIを動かすためには、Amazon Machine Image(AMI)上で動作するテンプレートが必要になります。これは、Citrixが提供することになります。

 XenDesktopを使ったパブリッククラウドのVDIサービスなら、AWSに限らずProject Avalonで利用することができます。ただ、管理などでオーケストレーションを進めるには、それぞれのクラウドAPIをサポートする必要があります。多くのパブリッククラウドでは、AWS互換のクラウドAPIをサポートしていることが多いので、これを使うことも可能です。

 

高いグラフィック機能の提供に向けて

――今後VDIは普及していくと思いますが、VDIはグラフィックをソフトウェアで仮想化するため、最新GPUのパフォーマンスを享受できないという問題点もあると思いますが?

ファネリ副社長
 確かに、現在のVDIはグラフィック機能に重点を置いたアプリケーションはあまり使われていません。例えば、CADなどのエンジニアリングワークステーションの機能をVDIで置き換えるわけにはいきません。

 ただ、ブレードサーバー環境にGPUカードを搭載することで、高度なグラフィック機能を提供する環境を構築することができます。この場合は、ハードウェア環境に依存するため、どのクラウドでも自由に選択して利用できるというわけにはいきません。コスト的にもすべてのユーザー環境にGPUカードを設置するというわけにはいかないでしょう。

 このあたり、GPUカード側とハイパーバイザー側で進化が必要になると思います。複数のユーザーが1つのGPUカードを仮想化して利用できる様な環境ができれば、数百人のユーザーがVDI上でGPUの機能を生かしたアプリケーションやデスクトップなどが利用できるようになるでしょう。

 もう1つ重要なのは、リモートデスクトッププロトコルです。パブリッククラウド上のVDIは、インターネットを経由して、画面が転送されてきます。このため、WAN環境に適したプロトコルや画面圧縮が必要になります。

 Citrixでは、WAN環境でも利用できるHDXプロトコルを使っているため、低ビットレートでも高画質な画面を転送できます。さらにHDX 3D Proプロトコルでは、より高度なグラフィックを低ビットレートで転送できます。

 Citrixとしては、このように必要になる要素テクノロジーは用意しています。ただ、ハイパーバイザーがGPUの仮想化をサポートしなければなりません。さらに、こういった環境をパブリッククラウド側でもサポートする必要があります。このような問題点は、クラウド事業者やハードウェアベンダー、ハイパーバイザーを開発しているソフトベンダーなど、多くの企業が認識をしているので、あまり時間がかからずに最適なソリューションが出てくると思います。

 今後、CADなどの専門的なアプリケーションだけなく、オフィスユーザーが利用するアプリケーションでもGPUが積極的に利用されてくると思います。例えば、PowerPointなどでは、プレゼンテーションのエフェクトにGPU機能を使ったりしています。

 また、今後主流になってくるHTML5のコンテンツでは、ビデオ再生機能などが標準で入っているため、GPU機能を積極的に使わないとビデオ再生の性能が遅くなり過ぎることになります。だからこそ、多くの企業がVDIでも仮想化されたGPUが利用できるようにしていこうとしているのです。

――Project Avalonでは、VDIのライブマイグレーションのような機能はサポートされるのでしょうか?

ファネリ副社長
 ハイパーバイザーレベルでのライブマイグレーションは可能です。実際、Synergy2012では、XenServerのライブマイグレーション機能により、プライベート クラウド上でVDIのライブマイグレーションをデモしています。

 クリスマスシーズン前にパートタイムやアルバイトを大量に採用して仕事を進めなければならない時には、パブリッククラウド上に特定のVDI環境を用意して、不要になればパブリッククラウド上は小さくするといった運用をお薦めします。このような運用でバーストするリソースを収容できると思います。

 

ライセンスについてMicrosoftなどと議論中

――VDIに関してはOSやアプリケーションのライセンスが問題になると思うのですが?

ファネリ副社長
 確かに、ライセンスは大きな問題です。コストだけでなく、パブリッククラウド上にOSやアプリケーションを配置できるかどうかは大きな問題になります。

 Microsoftなどとは、いろいろ議論をしています。現状でもVDI向けにWindowsのライセンスが作られていますが、大規模にVDIを運用していくことになると、よりコストメリットが必要になると思います。

 将来的には、VDIやアプリケーションの仮想化を前提としたコストメリットのあるライセンス体系が必要になってくると思います。まだ、多くのユーザーがProject Avalonが考える大規模なVDI環境には到達していないので、Project Avalonが完成すれば、いろいろな動きが出てくると思います。

――最後にProject Avalonのリリースはいつごろになりますか?

ファネリ副社長
 現状では、Project AvalonのBeta版を2012年の秋にリリースするとしかいえません。Citrixが提供しているさまざまなソフトウェアやサービスを組み合わせているため、正式版のリリースは未定としかいえません。ただ、ベータ版が提供できるようになれば、ある程度の見通しができるのではないかと思っています。


Project AvalonのBeta版は、2012年の秋にリリース予定。11月に欧州で開催されるイベント、Synergy Barcelonaに合わせて発表されるだろう
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