仮想化時代のブレードサーバー「IBM Flex System」
サーバーベンダー各社は、省スペースや集約率をアップするためにブレードサーバーを提供している。その中でもIBMのFlex Systemには、仮想化を前提として新たに設計されており、ハードウェア面にもそれ以外の面でも、多くの革新的な機能が盛り込まれているのだが、当初はエキスパート・インテグレーテッド・システム「IBM PureSystems」の専用ハードウェアとして紹介されていたため、水面下に埋もれてしまっている印象がある。
そこで今回は、このFlex Systemを取り上げ、その特長を詳細に解説していく。
■仮想化を前提に設計されているブレードサーバー
日本IBM システム製品事業 システムx事業部 システムズ&テクノロジーエバンジェリスト 兼 プロダクトマネージャーの柴田直樹氏が「Flex Systemでは、今後企業にとって重要になってくる仮想化を考えて、ブレードサーバーを再設計しています」と語るように、Flex Systemは、仮想化を前提とした新しいブレードサーバーである。
Flex Systemのシャーシ | 日本IBM システム製品事業 システムx事業部 製品企画・営業推進 システムズ&テクノロジーエバンジェリスト兼プロダクトマネージャー(BladeCenter担当)の柴田直樹氏 |
もちろん、IBMでBladeCenterというブレードサーバーのラインアップをすでに持っており、相当な数を販売してきているが、両者は具体的にどう違うのか。
「Flex Systemでは、仮想化を前提としているため、BladeCenterよりもさらに仮想マシンの集約率を上げることができます。さらに、多数の物理サーバー、ハードウェアリソースの管理や運用を容易に行えるようになっています。もちろん、BladeCenterでも仮想環境を構築できますが、今後企業のサーバーが仮想化され、プライベートクラウドが構築されていくことを考えれば、Flex Systemの方がメリットが大きいでしょう。何よりも、Flex Systemは、今後10年以上のIT環境を考えて設計されているため、BladeCenterではサポートできないと予想される広帯域の(次世代の)ネットワークもサポート可能な設計になっています」(柴田氏)。
BladeCenterは、1999年に開発が始まり、初代のBladeCenterが発売されたのは2002年だった。この10年間で、x86プロセッサの進化、ネットワークの高速化など多くの革新があり、さすがに10年前の設計を引きずるBladeCenterでは、今後の10年に対応していくには無理が出てきた部分がある。このような背景があってFlex Systemが開発されたのだろう。
今後の仮想化環境には、高い集約率、高速なネットワーク、ネットワークの仮想化、省電力、管理のたやすさ、ビッグデータに耐えるI/Oなどが必要になる | ブレードサーバーのBladeCenterは将来的に縮小していき、Flex Systemに置き換わってくると考えられる。これから10年を考えれば、設計の新しいFlex Systemが中心になっていくのだろう |
■多数の仮想マシンを集約するため大容量のメモリを搭載
それでは、実際にハードウェア構成を見ていこう。
Flex Systemのハードウェアは、2011年に発表されたx86サーバーのIBM System xをベースにしており、例えばコンピュートノードのCPUには、Sandy Bridge世代のサーバー向けCPUであるXeon E5-2600/E5-2400/E5-4600シリーズを採用している。
このように、CPUに関してはほかのサーバーベンダーと(あるいはBladeCenterとも)まったく変わらないが、特徴的なのはメモリの最大搭載容量だ。
仮想化を考えた場合、コア数が増え、性能がアップしてきているCPUでは差がつけにくいため、仮想環境に対して十分な物理メモリを提供できるかが、仮想化を前提としたサーバーでは重要になってきている。
そこで、Flex System x240(2ソケット)では、メモリモジュールを24枚搭載できるようにした。現状では、メモリ最大容量は現段階で768GBをサポートする
また4ソケットのFlex System x440なら1.5TBのメモリ空間を用意でき、より高い集約率を提供できるのである。
【お詫びと訂正】
初出時、型番とメモリモジュールの最大枚数、最大容量を誤っていたので訂正しました。お詫びいたします。
このように、大容量メモリのサポートを前提に製品が設計されているが、さらに将来も見越した設計が盛り込まれている。Flex Systemのコンピュートノードは、将来的に次世代技術のメモリがリリースされた場合を考えて、厚みに余裕の設計が行われているのだ。これは、将来的に DIMMの高さが現在のDDR3よりも高くなる可能性があるためで、こういった部分でも、10年利用できるブレードサーバーを目指して設計されたFlex Systemとしての特長が見て取れる。
Flex Systemの基盤となるSystem xでは、最新のパワフルなプロセッサを採用するほか、、事前障害予知機能(PFA)や、PFAを使ってIBMがシステムを保守するIBMエレクトロニック・サービス・エージェント(eSA)などを搭載している | Flex Systemのコンピュートノードには、2プロセッサと4プロセッサのモデルが用意されている |
なお、Flex Systemのコンピュートノードの写真を見てみると、中央にディスクがあり、左右両側にCPUやメモリが配置されている。こういったデザインになっているのは、冷却効率を考えたから。冷却を必要とする部分を、必要に応じて冷やすというゾーン・クーリングのコンセプトを採用している。
さらに、最高室温40度での動作を前提とした設計が行われているため、省エネや電力不足への対応も可能になっている。
Flex Systemの2プロセッサーのコンピュートノード。HDDが中央に配置され、左右にCPUとメモリが設置されている | 40度での動作を設計時から考えたシステムになっている。必要な部分だけをクーリングすることで、不要な部分にファンは搭載しない |
■仮想化におけるI/Oの重要性を考慮
もう一つ、仮想化を全面的に採用した場合に重要になるのがI/Oだ。
仮想化でサーバーを集約する場合、1つの物理サーバーには多くの仮想サーバーが搭載さえることになるため、ネットワークの帯域がそれだけ多く必要とされる。特に、プライベートクラウドなどでは、コンピュートノード内には大規模なストレージを置かず、SANやNASなどのネットワークストレージを使用することになる。SANでも、FCではなくiSCSIやFCoEを利用するのであれば、Ethernetがインフラとして使われることになるので、Ethernetに対する重要度は以前にも増して高くなっている。
既存の設計では、LANスイッチが多階層化しているのが一般的だが、サーバー間、シャーシ間などのいわゆるEast-Westのトラフィックが多くなっているため、複数のスイッチを経由する多階層のネットワークでは、どうしても遅延が多くなってしまう。
Flex Systemでは、統合された仮想ファブリックと最大32ポートの仮想ネットワークが用意されている。これを利用することで、フレキシブルで高い性能を持つネットワークを利用することが可能になっている。
高速化のニーズにも対応しており、Flex Systemでは現在、Gigabit Ethernet(GbE)、10GbE、8Gbps/16GbgpsのFC(ファイバチャネル)、FDRをサポートしたInfiniBandがリリースされている。
Flex Systemでは、ネットワークの構成を単純化し、仮想化に適したインターコネクトが設計できる | サーバー間(East-West)でのネットワークの高速化と低レイテンシ化が重要 |
そして、興味深い工夫が行われているのが、ミッドプレーンだ。
従来のブレードサーバーでは、各ブレードからスイッチまでのミッドプレーンの線路長が一定でなかったため、ノイズや減衰に対する複雑な処理を行う必要があった。まだ、インターコネクトの速度が遅かったころは対応ができたものの、どんどんそれが高速化するにつれ、対応が難しくなってきたという。
そこでFlex Systemでは、各種のスイッチを縦に置くことで、各コンピュートノードのメザニンカード(NIC)からスイッチまでの線路長を同じにして、経路を高速化しやすいように設計された。
コンピュートノードやスイッチは、将来的に新しい製品がリリースされれば交換される可能性があるが、10年使い続けることを前提としたFlex Systemのシャーシは、そのままで今後の高速化に対応していくことが必須になる。Flex Systemは、こうした点を非常によく考えられているといえるだろう。
Flex Systemではスイッチを縦に設置することで、NICからスイッチまでの線路長を同じにしている |
■高い管理機能や耐障害性持つ
コンピュートノードのベースとなるSystem xは、CPUやメモリ、HDDなどの重要なパーツが故障する前に、障害を予知してアラートを出すことができる。この事前障害予知機能(PFA)は、IBMがメインフレームやUNIXサーバーで培った経験と技術を、x86サーバーにフィードバックした結果だ。
Flex Systemのコンピュートノードは、事前障害予知機能(PFA)により、故障を事前に検知して、大規模なシステムダウンが防げる |
また、Flex System Managerという管理アプライアンスを利用すれば、各コンピュートノードからの事前障害予知の情報だけでなく、シャーシ自体が持つ管理モジュールからの情報も管理することが可能になる。
Flex System Managerは、ウィザードにより簡単にセットアップを行うことができる。Flex System Managerが持つさまざまなノウハウを利用することで、ユーザーに高い専門知識が無くても、システムに最適な設定を行うことが可能になる。
また、さまざまな管理作業は、自動化されるため、ユーザーは、細かな設定を物理リソースと仮想リソース(コンピュートノード、ストレージ、ネットワーク)で繰り返すこともなくなる。
IBMではFlex System用に、VMwareのvCenter Serverにプラグインするモジュール、MicrosoftのSystem Centerにプラグインするモジュールなどを用意している。これらのモジュールを利用することで、Flex Systemの独自機能を管理ツール上で利用することができる。
現在では、企業のITインフラが仮想化を前提することになり、2Uなどのシステムを大量に導入して、プライベートクラウドやパブリッククラウドを構築している。しかしここまで紹介してきたような、仮想化の高い集約率を実現できる点や、ネットワーク構成の柔軟性を考えれば、ブレードサーバーベースのFlex Systemを利用するメリットも、相当にあるといえる。
特に、仮想化されたIT基盤で重要になる管理機能については、メインフレームやUNIXで培った知見が反映されたFlex System Managerも用意されており、ユーザーの助けとなることも多いだろう。
5台程度の物理サーバーを統合する用途ではハイスペックすぎるだろうが、20台やそれ以上のサーバーを統合するのであれば、仮想化時代における有力な選択肢として、Flex Systemの利用を考慮してみる価値はあるのではないか。