VMware vSphere 4を試す【最終回】

vSphere 4の最適なエディションは?


 駆け足ではあるが、ここまででvSphere 4のインストールから各種機能を紹介した。実際に試してわかったのは、vSphere 4はブランド名であり、実体はESX/ESXiということだ。また、vCenter Serverがないと、vSphere 4が持つ機能が利用できないということも理解できた。

 今回は、vSphere 4のエディション構成と価格などを紹介する。


vSphere 4で用意されているエディション

 vSphere 4は、小規模企業向けに用意された「vSphere 4 Essentials」「vSphere 4 Essentials Plus」、中・大企業向けに用意された「vSphere 4 Standard」「vSphere 4 Advanced」「vSphere 4 Enterprise」「vSphere 4 Enterprise Plus」の計6つのエディションが用意されている。Standard・Advanced・Enterprise・Enterprise Plusの4つのエディションは利用できる機能によって分かれていると考えるとわかりやすい。


オールインワンパッケージだが、機能に制限のあるEssentialsとEssentials Plus

 Essentials/Essentials Plusは、3台まで(合計6プロセッサ:2プロセッサのサーバーが3台)のESX/ESXiサーバーを利用できるエディション。利用できるサーバーの台数に制限はあるものの、中・大企業向けのエディションでは別売のvCenter Serverが限定ライセンス版として付属しているオールインワンパッケージという位置づけだ。

 そのため、VMotionなどの機能はサポートされておらず、最低限のサーバー仮想化が行えるエディションと考えるといいだろう。(Essentials Plusは、High AvailabilityとData Recoveryまでサポート)

 なお、EssentialsとEssentials PlusにvSphere 4の機能を単独でインストールすることはできない。このため、購入時に機能をよく見極めておく必要がある。ライセンス的には、Essentials/Essentials Plusはまったく別製品と考えたほうがいいだろう。

vSphere 4のエディション比較(VMware HPより)。Essentials/Essentials Plusは、VMotionなどvSphere 4ならではの機能はサポートしないが、その分安くなっている。Standard、Advanced、Enterprise、Enterprise Plusは、別売のvCenter Serverが必要。なお、vCenter Serverは無償版のESXiでは使えない(vSphere 4のライセンスを購入して、無償版から有償版に切り替えることでvCenter Serverの管理対象にできる)


仮想化の基本機能を提供するStandard

 Standardは、vSphere 4の基本機能が用意されたエディション。無償のESXiでは提供されていない、Update Manager、VMsafe、HA(High Availability)などがサポートされている。


仮想化を便利に使う機能がまとまったAdvanced

 Advancedは、Standardの機能にプラスして、仮想マシンのバックアップ/リストアをサポートするData Recovery、メモリやCPUのHot Addなどがサポートされている。可用性に関しても、HAよりも耐障害性を高め、シャットダウンが行われないFault Tolerance(FT)機能が用意されている。

 なお、動作している仮想マシンを別のESX/ESXiサーバーに、セッションが切れずに移動させるVMotionはAdvanced以上のエディションで利用できる。この機能を使いたいのであれば、Advanced以上のエディションを購入することになる。
 このほか、VMsafeを利用して、各仮想マシンにハイパーバイザーレベルでファイアウォール機能を提供するvShield Zonesなども利用できる。

 ちなみに、Standardでは、1プロセッサあたり6コアまでをサポートしていたが、Adbancedでは12コアまでサポートしている。


ストレージの移動と省電力性をサポートしたEnterprise

 Enterpriseは、Advancedの機能に加えて、仮想マシンが使用しているストレージを動作中に別のストレージに移行できるStorage VMotionがサポートされている。また、仮想化された複数のサーバーのワークロードを監視して、負荷の重い仮想マシンを別のESX/ESXiサーバーに移行させるDistributed Resource Scheduler(DRS)機能もサポートしている。このほか、ESX/ESXiサーバー群を監視して、仮想マシンが動作していないESX/ESXiサーバーをvCenter Serverから停止させて、データセンター全体の省電力化を図るDistributed Power Management(DPM)もサポートする。

 ちなみに、Enterpriseは、1プロセッサあたり6コアまでをサポートする。


DRSは、VMotionを利用して、仮想化されたサーバー群に負荷を分散させる機能Storage VMotionは、稼働している仮想マシンをストップせずに、稼働中の仮想マシンのディスクを別のストレージに移行する機能


すべての機能をサポートするEnterprise Plus

vNetwork Distributed Switchは、複数のESX/ESXiにわたる仮想スイッチを一元的に扱うことができる。また、Ciscoが提供している仮想スイッチソフトNexus1000vを利用すれば、Ciscoのスイッチと連動して管理することが可能だ

 Enterprise Plusは、vSphere 4で提供されるすべての機能をサポートしたエディション。ネットワークの仮想化を行うvNetwork Distributed Switchは、Enterprise Plusでサポートされている。また、ESX/ESXiサーバーの物理メモリの使用数は、ライセンス上無制限となっている。なお、1プロセッサあたりのサポートコア数は12。

 なお、Standard、Advanced、Enterprise、Enterprise Plusの4つのエディションのライセンスは、プロセッサ(物理CPU)単位となっている。つまり、2プロセッサのサーバーで利用する場合は、ライセンスが2つ必要ということだ。


vSphere 4の取得費用はいくらかかる?

 vSphere 4およびvCenter Serverの価格は、販売代理店により異なる。今回紹介する価格は、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が公開しているものを使用した。なお、この価格は、日本HPのIAサーバー「ProLiant」と同時に購入するときの価格なので、あくまで参考価格と理解していただきたい。

エディション1年サポート(税別)3年サポート(税別)
vSphere 4 Essentials12万円15万1000円
vSphere 4 Essential Plus40万7000円51万円
vSphere 4 Standard10万8000円14万1000円
vSphere 4 Advanced30万5000円38万2000円
vSphere 4 Enterprise45万1000円-
vSphere 4 Enterprise Plus54万6000円59万6000円

 Essentials/Essentials Plusは、3台までのESX/ESXiサーバーライセンスとvCenter Server for Essentialsを含めたパッケージ価格だ。これに対して、Standard/Advanced/Enterprise/Enterprise Plusは、1プロセッサあたりのライセンスとなっている。

 各エディションの価格をみていただければわかるとおもうが、vSphere 4を利用する上で、サポート+サブスクリプション(S+S)が必須となっている。このS+Sには、vSphere 4の障害に関する問い合わせや新バージョンへのアップグレードなどの権利が含まれている。そのため、ほとんどの販売代理店は、vSphere 4にS+Sを一緒にして提供しているようだ。

 なお、vSphere 4が提供するさまざまな機能を使うにはvCenter Serverが必要だが、実は各エディションにはvCenter Serverのライセンスが含まれていない。つまり、vSphere 4を利用するには、エディションごとのライセンスとは別に、vCenter Serverを購入しなければいけない。

 vCenter Serverは、ESX/ESXiサーバーを3台まで管理可能なFoundationと、無制限に管理できるStandardの2つが用意されている。vCenter Serverも、vSphere 4と同様にS+Sが必要だ。

エディション1年サポート(税別)3年サポート(税別)
vCenter Server 4 Foundation19万2000円24万5000円
vCenter Server 4 Standard63万8000円82万円
FoundationからStandardへのアップグレードライセンス52万1000円-

 これらの価格情報を元に、いくつかのパターンを検討してみよう。

 たとえば、VMotionを利用したい場合、選択するエディションはvSphere 4 Advancedになる。これを2プロセッサ構成のサーバー3台で使用するには、30万5000円×6(2CPU×3)=183万円の費用がかかる(1年サポートの場合)。これに3台まで管理できるvCenter Server 4 Foundationの費用として19万2000円も別途必要になる。合計で、202万2000円となる。

 VMwareでは、より購入しやすいよう、vSphere 4とvCenter Serverのライセンスを1つにまとめた「Acceleration Kit」という製品を用意している。上記と同じ構成の「VMware vSphere Advanced Acceleration Kit 6P」の場合、141万6000円(税別)という価格で提供されている(日本HPのOEM価格)。これを利用すれば、個々にライセンスを購入するよりも、約30%安くなる。


無償のESXiと有償のvSphere 4の違いは?

 vSphere 4を使おうとすると、それなりの費用が必要なのは理解できただろう。では、無償で提供されているESXiだけを使い続けるメリットはあるのだろうか?

 実は、仮想化という面では、無償のESXiで基本機能をカバーしている。たとえば、iSCSIやFC SAN、NASといったネットワークストレージは、ESXi単体でも利用できる(SANからのブートもサポート)。また、作成した仮想ディスクは、設定した容量を最初に割り当てる(シックフォーマット)だけでなく、使用している容量だけ割り当てるシンプロビジョニングといった機能もサポートしている。

 なにより、メモリオーバーコミットメント機能など、ESXiそのものが非常に強力なハイパーバイザーに仕上がっているのは大きな特長だ。メモリオーバーコミットメントは、仮想マシンで同じOSを動かしているとき、OS部分のメモリを共有することで、実際のメモリの消費量を少なくできる機能だ。仮想マシンを複数台動かすときに、同じOSを複数動かすことが多いので、搭載しているメモリが少ない環境でも効率的に仮想マシンを動作させることができる。また、優先度が低い仮想マシンに割り当てられているメモリを、ページ単位で解放する仕組みも持っている。同じ仮想化ソフトでも、マイクロソフトのHyper-Vにはこういった機能がない。

 このように、無償のESXiでも、仮想化としての基本的な機能は十分に提供されているといえる。

 しかし、今回紹介したように、複数のESXiサーバーを管理できるvCenter Serverからは管理できない。つまり、複数のESXiサーバーを管理するには、1台ごとにvSphere Clientから管理しなければいけないということになる。

 vCenter Serverが利用できないと、仮想マシンのクローニングやテンプレート化といったvCenter Serverが提供する機能が使えない。これ以外にも、仮想マシン全体に対してアンチウイルス機能などを実現するVMsafe API、ESX/ESXiや仮想マシン上のOSなどのアップデートを行うUpdate Managerの機能もサポートされていない。もちろん、vSphere 4で提供されているVMotionやHA、FTなども同様だ。

 つまり、ESXiはハイパーバイザーとして優れた機能を持ってはいるものの、単体で使うには限界があるということだ。本格的なビジネス利用には役不足といえる。無償ということで個人ユースでの利用価値もありそうだが、VMware Workstationのように高度なグラフィックがサポートされているわけでもない。こうした点でみると、無償提供されているESXiは、あくまでもvSphere 4環境を試すためのお試し版といっていいだろう。

 ちなみに、ESXiは60日間の試用版状態では、すべての機能が利用できる。しかし、無償のライセンスを入力したり、60日間経過した段階で、機能が制限される。また、無償のライセンスで使用していても、有償ライセンスを購入して入力すれば、購入したライセンスの機能が使えるようになる。


vSphere 4は仮想化ソフトとしてベストか?

 実際に使ってみて分かったのは、ESX/ESXiの高い性能のおかけで、1サーバーあたり数十台の仮想マシンを動作させられるということだ。これは非常に重要なことで、集約率があがれば、仮想マシンあたりのハードウェアコストとvSphere 4のライセンスコストは安くなる。逆にいえば、数十台の仮想マシンを起動して利用しないと、vSphere 4を使う上でコスト的にメリットが得られない。

 実際、vSphere 4のコストにWindowsなどOSのコストがかかることを考えると、システム全体では結構な費用がかかる。高性能なサーバー、iSCSIストレージなど、仮想化の構築に合わせて新しいハードウェア環境を購入することを考えればなおさらだ。仮想マシンで動かすWindows OSは、既存のライセンスが利用できるといっても、Windows Server Enterpriseでは4つの仮想インスタンスのライセンスがあるだけだ(Datacenterは無制限の仮想インスタンスのライセンスがあるが、OS自体はプロセッサごとのライセンスとなる)。

 仮想化ソフトは、さまざまなメーカーからリリースされているが、価格をみると確かにvSphere 4は高い印象を受ける。ハイパーバイザーの機能をみると、他社製品も徐々に同じようなレベルにそろってきているのでなおさらだ。しかし、管理面や豊富な機能まで含めてみた場合、vSphere 4に強みがあるのは確かだ。ハイパーバイザーの価格・性能だけで評価するのではなく、管理までを含めたトータルコストで仮想化ソフトを評価する必要はあるだろう。



関連情報
(山本 雅史)
2010/2/12 00:00