パフォーマンスと省電力化で進化したXeon 5600番台
3月17日にインテルが発表したサーバー/ワークステーション向けCPU「Xeon 5600番台」は、32nmプロセスで製造したWestmere世代のCPUだ(開発コード名:Westmere-EP)。Westmere世代のCPUは、1月にデスクトップやノート向けにリリースされているが、サーバー/ワークステーション向けとしては初めてとなる。今回は、このXeon 5600番台を紹介する。
■Xeon 5500番台と互換性を保ちながらパフォーマンスをアップしたXeon 5600番台
Xeon 5600番台のブロック図。CPUとしてローパワー製品を用意している。ローパワー製品では、CPU間とチップセットを接続しているQPI(Quick Path Interconnect)のスピードが異なる |
Xeon 5600番台は、昨年リリースされたXeon 5500番台(開発コード名:Nehalem-EP)と同じNehalemアーキテクチャのCPUだ。ソケット互換となっているので、Xeon 5500番台を搭載しているサーバーにXeon 5600番台を搭載することも可能だ。
Xeon 5500番台と比べると、CPUコアが最大6つに増設されているので、Hyper-Threading(HT)と組み合わせると、12個の仮想CPUとして動かすことができる。また、L3キャッシュのメモリ容量が12MB(Xeon 5500番台では8MB)に拡張されている(L1、L2はXeon 5500番台と同じ)のも異なる点だ。
メモリに関しては、3チャンネルと大幅な変更はない。サポートされているDDR3メモリは、1333MHz、1066MHz、800MHzで、1チャンネルあたりにDIMMを複数枚挿すと、メモリスピードは落ちていく。唯一変わったのは、1.35VのLow Power DDR3がサポートされたことだ。これにより、大量のメモリを搭載しても、低消費電力でサーバーの運用が行える。
機能面では、AES暗号処理をCPU命令で行う「AES-NI」という命令セットが追加されている。AES-NIは、Windows Server 2008 R2/Windows 7のCryptoAPIでサポートされているので、HDDを暗号化するBitLocker、EFSといったファイル暗号化などが高速化される。また、SSLもAESを使用しているため、AES-NI命令を使ったSSLモジュールなら、CPUに負荷をかけずにSSLが処理できるようになる。つまり、1台のサーバーで、SSLの同時接続できるユーザー数を増やすことができる。
もう一つ、Xeon 5600番台で追加された機能としては、Intel Trusted Execution Technology(TXT)がある。TXTは、OSやベアメタルハイパーバイザーなどのシステムソフトウェアの正当性を保証し、高いセキュリティ性をサーバープラットフォームで実現するもの。デスクトップやノートPC向けCPUでは、すでに搭載されていた。
Xeon 5600番台のTXT機能を利用するには、サーバープラットフォームにTPM(データが改ざんされないセキュリティチップ)チップが必要だが、Xeon 5500番台のサーバープラットフォームのほとんどはTPMチップを搭載していない。TXT機能を利用するには、今後リリースされるXeon 5600番台対応の新しいサーバーとなるだろう。
■仮想化関連の強化点
仮想化関連で注目すべきは、仮想化支援機能のVT-xの改良が上げられる。Xeon 5600番台では、VT-xの機能を改良して、仮想マシン上のOSからハイパーバイザーへ移行する待ち時間を縮小している。1つの移行時間そのものは大してあがっていないが、仮想化では頻繁に仮想マシンとハイパーバイザー間で移行するため、移行の待ち時間が少なくなることはハイパーバイザーのパフォーマンスを大きく改善することになる。
また、Xeon 5500番台から搭載されたEPT(拡張ページテーブル)のパフォーマンスアップも図られている。EPTは、仮想マシンが使用するメモリアドレスと物理メモリアドレスを変換する機能だ。この機能も、ハイパーバイザーにとっては頻繁に使用する機能のため、1回の処理が少しでも向上すると、全体では相当なパフォーマンスアップが図れる。
Xeon 5600番台でTXT機能をサポートすることで、ハイパーバイザーのセキュリティ性がアップする。VMwareのESXも対応を予定している。AES-NIは、Windows Server 2008 R2やOracleのデータベースが対応している |
TXT機能は、OSやハイパーバイザーのバイナリから計算したハッシュ値をTPMに保存しておき、OSやハイパーバイザーの起動時にTPMに保存されているハッシュ値を比較する。これにより、起動したOSやハイパーバイザーが改ざんされていないかをチェックする。
TXT機能をサポートしたハイパーバイザーとしてXenがあるほか、VMware、Parallels、HyTrustなどもサポートを表明している。このため、年内にはTXT対応のESX/ESXiといったハイパーバイザーがリリースされることになるだろう。
【お詫びと訂正】初出時、記載内容に間違いがありました。お詫びして訂正します。
■Xeon 5600番台のパフォーマンスは?
Xeon 5600番台のメリットは、省電力性、高いパフォーマンス、セキュアな仮想化環境の3つ |
インテルでは、2005年リリースのXeonを搭載したサーバー15ラック分のパフォーマンスを、Xeon 5600番台を搭載したサーバー1ラック分で実現できると説明。同じ台数なら、15倍ものパフォーマンスを実現する |
気になるのは、Xeon 5600番台のパフォーマンスだろう。現状では、手元にXeon 5600番台を採用したサーバーがないため、インテルが公開しているベンチマークデータをベースに解説していく。
SPECfpやLINPACKなどHPC向けのベンチマークは、Xeon 5500番台(4コア、2.93GHz)とXeon 5600番台(6コア、3.33GHz)を比較すると、60%ほどのパフォーマンスアップを示している。さらに、一般的な企業が利用するベンチマーク(SAPベンチマーク、VMwareのベンチマークVMmarkなど)では、40%ほどパフォーマンスがアップしている。
パフォーマンスアップの理由としては、コア数が4つから6つに増えたことと、L3キャッシュメモリが12MBに拡張されたことが効いているのだろう。
Xeon 5600番台のもう一つのメリットは、省電力性だ。Xeon 5600番台は、32nmプロセスで製造することで、6コアに拡張し、L3キャッシュメモリを12MBに拡張しても、Xeon 5500番台(4コア、L3キャッシュメモリ8MB)と同じ熱設計(TDP)になっている。このため、Xeon 5500番台で設計したサーバーからXeon 5600番台に変更しても、大きな設計変更は起こらない。
また、コア数の増加やL3キャッシュメモリの拡張で、Xeon 5500番台とXeon 5600番台では、同じワット数でも、性能が40%ほどアップしている。
さらに、Xeon 5600番台のローパワーモデルL5640は、Xeon 5570と比べると、同じパフォーマンスでも、30%ほど省電力化されている。
Xeon 5600番台で追加されたAES-NI命令を使ったSSLを使用すれば、SSL接続のユーザー数を1.6倍ほどサポートできる。SSL自体は、CPUにとって暗号処理が関係するため、ヘビーな処理といえる。それが、ハードウェアで暗号化部分がサポートされたために、CPUの負荷が大幅に軽くなっている。
サーバー仮想化を考えれば、CPUのコア数は、多ければ多いほど、1台のサーバーに集約できる仮想マシン数を増やすことができる。こういった観点から見ても、Xeon 5600番台は、仮想化必須の時代にマッチしたCPUといえる。
ただ、Xeon 5600番台は、メモリコントローラ関連は大きな変更はなかった。メモリを1066MHzのスピードで動かすには、1チャンネルあたり2枚となる。このため、1066MHzで動かす場合、2ソケットのXeon 5600番台では、12枚のメモリDIMMとなる。
1枚あたり、4GBや8GBといったDDR3 DIMMも販売されているが、非常に高額だ。このため、コストを考えれば2GBのDIMMがサーバー分野でも一般的だ。2GBを12枚利用すると、全体で24GBとなる。
多数の仮想マシンを集約する場合、メモリはあればあるほど、各仮想マシンのパフォーマンスがアップする。ハイパーバイザー側で、メモリを圧縮する機能や使用していないメモリを解放する機能などが用意されているが、やはり物理メモリがたくさん搭載されている環境にはかなわない。
サーバーの仮想化をより進めていくためには、メモリ関連の機能強化が必要になってくるだろう。