NECがクラウドコミュニケーター「LifeTouch」に企業モデルを追加した理由


 日本電気株式会社(以下、NEC)は、Androidベースのタブレット端末LifeTouchシリーズにおいて、企業での業務利用を想定した「LifeTouchセキュリティモデル」および「LifeTouch NOTEビジネス向けモデル」を投入した。

 発売当初から、B2B2C型のビジネスモデルを前提として開発されたLifeTouchシリーズだが、新たに投入した製品は、いわば「B in B」と呼ばれる、企業内での利用に最適化したモデルに位置づけられることになる。

 「B in Bとしての利用は、開発当初から視野に入れていたものの、想定以上に早い段階から引き合いが出てきた。今回の製品は、企業に導入するためにセキュリティ面での強化を図ってほしいというニーズに応えたもの」と、NEC パーソナルソリューション事業本部長の西大和男氏は語る。

 LifeTouchシリーズのこれまでの取り組みと、企業向けモデル投入の狙いについて、西大事業本部長に聞いた。


LifeTouchセキュリティモデルLifeTouch NOTEビジネス向けモデル

 

B2B2C型の提案でスタートしたLifeTouch

 NECが、「クラウドコミュニケーター」という呼び名で、LifeTouchを市場投入したのは、2010年11月のことだ。さらに、2011年3月には、個人向け市場を想定したキーボードタイプのLifeTouch NOTEを発売。2011年6月には2画面タイプのLifeTouch Wを発売し、これをB2B2C型の製品として市場投入した。


LifeTouchの初代モデルLifeTouch W

 NECがLifeTouchシリーズの主要な用途として想定したB2B2Cとは、「企業が提供するサービスなどに利用する際の端末として、LifeTouchシリーズを採用。企業がユーザーに対して、LifeTouchを、特定サービス専用モデルとして提供する」というものだ。

 例えば、2011年9月から、ケーブルテレビ会社である東京ケーブルネットワークが実証実験を開始した「TCNタッチコン(仮称)」サービスがそれにあたる。

 東京ケーブルネットワークでは、テレビリモコンおよび情報端末としてLifeTouchを活用。同社のサービスエリアである文京区、荒川区、千代田区の視聴者に対して提供することで、多チャンネル化によって複雑化したリモコン操作を簡易化したり、ケーブルテレビならではの地域情報をLifeTouchに提供したりする、という仕組みだ。

 東京ケーブルネットワーク向けにハードウェアをカスタマイズし、さらに専用ソフトウェアを搭載。現在、約200世帯を対象に実証実験を行っているところで、機械操作が苦手な人、家事や育児に忙しい主婦などに、利便性を提供できるとしている。

NEC パーソナルソリューション事業本部長の西大和男氏

 NEC パーソナルソリューション事業本部長の西大和男氏は、「新たなエンドユーザー向けサービスを実現するためのツールとして導入するといった商談は着実に増加している。だが、それらのサービスを実現するためのソリューションの作り込みや、検証に時間がかかっているのも事実。一方で、さまざまなサービス契約形態が出てくるなかで、企業自らが特定端末を採用することに対して疑問視する経営層もいる。変化が激しいなかで、どんなサービスが最適なのか、どんな形で商用サービスにつなげるのかといった点でさまざまな選択肢があるのが実態。そのなかで、先行事例となるべきものを提示すれば、B2B2C型の提案はさらに加速できるだろう」と語る。

 電子書籍端末としての提案や、ネットショッピング用の端末としての採用のほか、家族が情報を共有できるホームネットワーク端末としての提案により、新たなライフスタイルを実現できる特定サービスに活用するといった商談も想定される。毎日利用される端末として位置づけられるようになれば、1人暮らしをするシニアの健康管理のツールとしても、遠く離れた家族との緊密なコミュニケーションツールとしても利用できる。

 「キッチンにも手軽にデバイスを持ち運べることや、手元に情報を手軽に呼び出せる端末としても利用できるのがクラウドコミュニケーターの特徴。iPadのようなパーソナルタブレットとしての利用だけにとどまらず、『ホームタブレット』という観点からの提案や、組み込み型のタブレットとしての提案も可能になるのがLifeTouchの特徴ともいえる。企業に対しては、クラウドコミュニケーターとして打ち出した当社の概念は浸透し始めたともいえ、今後は、そこで提案したツールやサービスを、実際の生活のなかでどう利用してもらうかが、これからの課題になる」。

 東京ケーブルネットワークの場合には、2011年1月から具体的な商談が開始され、8カ月で実証試験を開始した。こうした事例も、今後のLifeTouchの商談を加速することにつながることになるだろう。

 

Android端末ならではの価値を生かした企業利用を提案

LifeTouchとLifeTouch NOTE

 一方で、キーボードタイプのLifeTouch NOTEは、もともと、PC事業を担当していたNECパーソナルプロダクツ(現NECパーソナルコンピュータ)が開発していたものであり、レノボとの合弁会社設立にあわせて、Android端末である同製品がNECに移管されたもの。同じLifeTouchのブランドを持ちながらも、「生まれが違う」製品である。

 だが、いずれにしろ、B2B2C型のビジネスモデルを想定していたLifeTouch、B2C型のビジネスモデルを想定していたLifeTouch NOTEと比べると、B in B型を狙った今回の新モデルは、明らかに方向性が異なるものだといっていい。

 最終的に端末を利用するユーザーが、「C(コンシューマ)」ではなく、「B(ビジネス)」の利用であり、それを想定した形に作り替えたものだといえるからだ。

 「開発当初からB in Bへの展開は想定はしていたものの、タブレット端末を業務に直接利用するという動きがここまで早く顕在化するとは思っていなかった。iPadが業務利用され始めたことも影響のひとつだろう。また、起動が速く、快適に動作するAndroid端末をビジネスに利用したいという動きも出てきた。タブレット端末を活用して新たなワークスタイルを生み出したいという企業が増加していることの証し」と、西大事業本部長は分析する。

 さらに続けてこう話す。

 「LifeTouchおよびLifeTouch NOTEを企業でも利用したいといった要望が出始めたが、今のままでは、企業向け端末としてセキュリティ面では物足りないものがある。そこで、企業での業務利用にも耐えうることができる端末として、LifeTouchセキュリティモデル、およびLifeTouch NOTEビジネス向けモデルを開発した」。

 新たに投入した企業向けモデルでは、ネットワーク保全、端末保護、MDM(モバイルデバイス管理)連携という3つの観点からセキュリティを強化。暗号化設定された無線LAN接続ポイントとの接続設定や、Webブラウザのプロキシ設定機能によるWeb閲覧制限、アクセスログ管理に対応。

 さらに、VPNへの対応に加え、接続できるIPアドレスを制限する「IPアドレスフィルタ」機能によって、特定のIPアドレス以外に接続しないようにしたほか、アプリケーションのインストールを管理者が制限する機能やパスワードポリシーの設定、SDカードメモリーの暗号化、利用可能デバイス制限などにも対応した。

 また、MDM連携では、端末単体のパスワード以外にも、端末管理基盤との連携により、管理者からの指示で端末内のデータを消去したり、端末をロックしたりすることが可能になり、紛失した端末からの情報漏えいや不正使用が防止できる。

 さらに、Microsoft Exchange ActiveSyncへの対応により、メール、スケジュール、連絡先の同期を可能とした。

 LifeTouch セキュリティパックモデルでは、7型のタッチパネルを利用し、ショールームや店舗で接客時の利用のほか、訪問販売や商品管理、物流検査、保守サービスなどといった現場で利用する用途を想定。LifeTouch NOTEビジネス向けモデルでは、フルキーボードを利用することで、営業担当者や保守サービス担当者員などが、外出先から業務文書を作成し、社内ネットワークに安全にアクセスし、業務の効率化を図る環境を実現できるという。

 「携帯電話やモバイルPCで必要とされるセキュリティとはどういったものか、スマートフォンを紛失した時のリスク対策にはどんなものがあるかといった経験を、2つの製品に盛り込んだものになっている。ガチガチの形でセキュリティ機能を提供するのではなく、最低限必要とされる機能を搭載し、そこからユーザー企業ごとの要求にあわせて、カスタマイズできるようにした。LifeTouchのB in B展開には、NECが持つ企業向けソリューションのノウハウが強く生かされることになる」とする。

 ただし、Windowsを搭載したモバイルPCや企業向けタブレット端末を、LifeTouchですべてを置き換えるという考えはまったくないという。

 「社内には、B in B端末として『行き過ぎるな』ということを言っている。社内基幹システムとの連動という点では、Windowsだからこそ成しえるものも多い。Windowsが生かせる環境、Androidを生かせる環境をとらえて、それぞれの特性を生かせる提案をしていくことが必要である」とする。

 

B in B型の提案を加速する企業向けモデル

 B2B2C型の提案、B2C型の提案に加えて、B in B型の提案が可能になる製品を新たにラインアップしたことで、2011年度下期は、これまで以上に幅広い提案が可能になる。
 同社では、これまでB2B2Cを中心に約200案件の商談があったというが、今後はB in B
型の提案が加速することになり、全体の7割をB in B型の商談が占めるのではないかとも見ている。

 また、2画面タイプのLifeTouch Wは、電子書籍としての利用がまずは想定されるが、教育分野などでの利用提案もはじまっており、2画面に最適化した各種アプリケーションの開発が増えれば、さらに用途が広がりそうだ。

 NEC パーソナルソリューション事業本部長の西大和男氏は、「2011年度下期は、B2B2Cの商談がいよいよ顕在化してくるだろう。これらの商談を大事にしていきたい」と語る一方、「B in Bの商談は、端末そのものを販売するのではなく、NECのソリューション部門と一体となって価値を提案し、新たなワークスタイルを提案することに取り組みたい」とする。

 2011年4月に事業本部になってから、パーソナルソリューション事業にかかわる陣容は約3倍に増加している。そのなかでも、ソフトウェア開発に関する陣容を拡大しているのが特徴だ。

 その点でも、ソリューションを提案できる体制が強化されているといえる。

 B in Bの領域において、LifeTouchシリーズはどんな実績をあげることになるだろうか。ソリューション提案体制が強化されたという観点からも、「LifeTouchセキュリティモデル」および「LifeTouch NOTEビジネス向けモデル」を投入した意味は大きいといえるだろう。

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