米Microsoftのベンチャー支援の成功例を世界各国の事例に見る


米MicrosoftのLocal SoftwareEconomyのJuliano Tubinoディレクター

 Microsoftには、マイクロソフト・イノベーション・センター(MIC)と呼ばれる施設がある。

 MICとは、「独創的なアイデアを持つソフトウェアおよびハードウェア開発企業やシステムインテグレータ、大学、起業家、グローバルビジネスに挑戦する個人および組織を支援。各国のITソフトウェア産業に貢献することを目標にしている」(Microsoft)もので、この施設を中核にして、各種プログラムを提供している。

 日本の場合は、同社のテクノロジーが利用でき、それに関する支援体制を提供する「テクノロジー イノベーション プログラム」、Microsoft製品をベースにアプリケーション開発を行っているパートナー向けの「アプリケーション プラットフォーム プログラム」、検証のための大規模設備などを活用できる「プラットフォーム サポート プログラム」、人材育成を目的として、技術から、経営、マーケティングまでをサポートしたトレーニングコンテンツを提供する「人材育成サポート プログラム」などを提供。ベンチャー企業を対象にした支援策が数多く用意されているのが特徴だといえる。

 MICは、全世界に110か所あり、日本では大手町のほか、札幌、岐阜、旭川の4カ所に設置されている。

 

各国の立場や状況により支援体制は異なる

 Tubinoディレクターは、「経済状況、政府の協力体制、エコシステムの構築度など、各国の立場や状況によって、ベンチャー企業に対する支援体制は異なる」と前置きし、「ベンチャー企業支援という観点では、基本的には、スキルトレーニング、起業家精神を育成するプログラム、そして、エコシステムを活用するといった観点から支援を行い、3年間で利益を出せることを目指す」とする。

 同社では、各国の状況を10項目に分類してレーダーチャートで示し、どの点が優れているのか、どの点が劣っているのかを明確化。これをもとに国ごとに最適なプログラムを展開する形としている。ちなみに、コンフィデンシャルとされた資料によると、日本の場合は、世界的な平均点から見ても、政府・官公庁が展開するベンチャー支援策に関する評価点が低く、一方でベンチャー企業においてスキルの高い従業員がいるという点ではだんとつに高い評価となっていた。

各国の状況を分析し、それにあわせたベンチャー支援体制を整えている各国に点在するMICの状況

 

フォーチュン500社のうち半数の企業は、不況時に創業した

 そうしたなかで、Tubinoディレクターは、興味深いデータを示してみせた。

 ひとつは、リーマンショックを発端とした世界的な経済不況のなかにおいても、新たにスタートした企業の数は減っていないという事実。そして、もうひとつは、フォーチュン500社のうち半数の企業は、不況時に創業した企業であるという点だ。

 「厳しい状況を打破し、さらに大きな価値を欲する人にそれを提供する姿勢を持った企業。いわばイノベーションを起こす企業こそが生き残る。不況期に創業する企業には、こうした起業家精神を持った経営者が多い」と、Tubinoディレクターは指摘する。

経済環境が悪化したときにも多くの著名企業が創業している

 

韓国とブラジルの事例

 続けて、Tubinoディレクターは海外におけるMicrosoftのベンチャー支援の実例をいつくか示してみせた。

 ひとつめは、韓国における現代(ヒュンダイ)自動車の例だ。Microsoftは、現代と提携し、現代グループ社内のなかにMICを開設。自動車向けのソフトウェア開発において、最大60社への支援を行った。なかには給与まで現代が負担するといった例もあったという。

 現代グループ社内にMICを開設したのが2008年5月。それから1年後の2009年には、2社が開発したプラットフォームを現代の自動車に採用するという実績につながったという。短期間で、優れたソフトウェアの開発に成功するとともに、「これらのベンチャー企業の成功によって、雇用が増えるという効果にもつながっている」としている。

 もうひとつは、プラジルにおける教育機関との連携による人材教育の例だ。

 幅広い学生を対象に教育を実施するとともに、優秀な人材に雇用の機会を与え、ベンチャー企業が優秀な人材を確保しやすくなるという成果につながったとする。

 ここでは第1段階として、3万2000人の学生を集め、4時間に渡る教育を実施。続いてこのなかから1万人を選抜して、4時間のトレーニングとともに、Microsoftからツールの提供などを行うといった支援を行った。続いて、さらに3200人に絞り込み、これらの学生に対しては、40時間に渡る実戦型の教育を施したという。

 「結果として参加者の10%の学生が実戦型のスキルを身につけ、雇用後に即戦力として働けるようになった。事前に1000人の雇用ポジションが用意されていたが、400人以上が初日に職を手にし、スキルを身につけた学生の8割が仕事をみつけることができた」という。

韓国の現代自動車におけるMICの成功事例ブラジルでの学生向け教育の事例

 

スタートアップ企業は人材確保、新技術、マーケティング、営業の仕組みが必要

 Tubinoディレクターは、「スタートアップの企業は、人材の確保、新たな技術の採用、そしてマーケティング、営業の仕組みをしっかりと整えることが必要である」とし、「人材の育成支援では、大学などの教育機関とも連携し、スキルを向上させるためのトレーニングや、新たなツールや技術にもアクセスしやすくするといった支援を行う。Microsoftは世界各国で学生の技能を評価し、インターンシップなどを行うStudent to Businessという制度を導入しており、これはパートナー企業においても優秀な人材を採用するという点で効果があるものといえる」と述べた。

 「だが、このプログラムの導入に関しては、日本の政府とも一度話し合ったものの、実現できなかったという経緯がある」と、一部のプログラムにおいて、日本では実行に移せなかった点を残念がった。

 また、新たな技術の採用という観点では、「新技術の採用に関して、それが果たして妥当性があるのかといったことを検証することを支援する。さらに、Microsoftが開発した新たなテクノロジーを採用することを手軽に行えるようにしている。Innovation Academyを通じた新たな技術の経験や、BizSparkによるソフトウェアの提供もそのひとつだ」。

 「今後、Microsoftが提供する技術ロードマップを明確に示し、その上で、開発者が最新の技術に対して製品ローンチ前からアクセスでき、発売と同時にこの技術に対応した製品を投入できる仕組みを提供していることも、ベンチャー企業支援の取り組みのひとつになる」とした。

 さらに、マーケティングや営業支援という観点では、Microsoftが持つサービスを活用できる仕組みをあげる。

 「Microsoftは全世界に拠点を持ち、グローバルで展開している企業。そのMicrosoftが持つマーケティングプラットフォーム、営業プラットフォームを活用して、世界へ展開することもできるようになる。さらに、全世界のエコシステムを活用することも可能だ」とする。

 

日本には多くの技術と、優れたスキルを持った人たちがいる

 「ベンチャー企業の経営者であれば、優れたアイデアを持っていたとしても、恐怖心が前に立ち、前に進めなかったという経験をもっているはずだ。考えるばかりで時間が過ぎてしまうだけではなにも生み出さない。」

 「いま成功している人たちは、10年前に同じ気持ちを持っていた人たちばかりで、ビジネスのやり方すらわからなかった。だが、アイデアをどう現実のものにするのかを考え、この技術は適切なものなのかを検証し、グローバルで展開するにはどうするのかといったことを考えた上で、それを実行に移し、新たなビジネスモデルとして確立してきた。」

 「ここで大切なことは、ベンチャー企業各社は、自らの強みを明確にする必要があるという点だ。日本には多くの技術と、優れたスキルを持った人たちがいる。また、米国よりも優れたエコシステムが日本では構築されている。これも活用することが大切だ。Microsoftの支援体制を理解していただき、この仕組みを活用してもらうことが、成功への近道になるだろう」と、日本のベンチャー企業に対してメッセージを送った。

 Microsoftのベンチャー支援策は、世界各国で成功事例がある。そして、新たなビジネスを生み出すということにもつながっている。
日本のベンチャー企業も、この仕組みを活用しない手はないといえよう。

関連情報
(大河原 克行)
2010/5/7 09:21