デルのソリューション・サービス事業の現状を探る



 デルが、ソリューション・サービス事業を加速している。最新四半期決算でも、米Dellのサービス事業は、前年同期比7%増の14億4900万ドルとなり、減収減益決算のなかでも引き続き成長している。現在、同社では、「プロフェッショナルサービス」「インフラストラクチャコンサルティングサービス」「マネージドサービス」の3つのサポートサービスを提供し、さらに、これらをモジュール化している点が顧客の評価を高めている要因とする。米Dellアジア太平洋・日本地区ソリューション&サービス担当副社長のティム・グリフィン氏と、デル執行役員ソリューション・サービス・デリバリー本部長の諸原裕二氏に、デルの新たなソリューション・サービス事業について聞いた。


米Dellアジア太平洋・日本地区ソリューション&サービス担当副社長のティム・グリフィン氏
―最初にデルのソリューション・サービス事業の現況を教えてください。

グリフィン氏
 デルのソリューション・サービスには、ハードを購入した方々への製品サポートなどを提供する「プロフェッショナルサービス」、ハードを導入する前のコンサルティングサービスである「インフラストラクチャコンサルティングサービス(ICS)」、システムの運用管理などを行う「マネージドサービス」の3つのソリューション・サービス体系を持っています。

 いま、デルが取り組んでいるのは、製品の購入者に対して、単なる製品サポートだけを提供するという、短期間のお付き合いではなく、ソリューションとして、長い期間にわたって、顧客と関係を結ぶという形でお付き合いする環境を構築することです。

 これまでは、それぞれのサービスが個別に提供されていましたが、今後はシステム導入前のコンサルティングを提供し、購入後には、製品サポート、さらに、保守、運用サービスというように、プロフェッショナルサービス、ICS、マネージドサービスが連携した形で、ITライフサイクル全般をサポートするようなソリューションを提供したいと考えています。これは、長い年月をかけて取り組むテーマだと判断しています。


―中でも、プロフェッショナルサポートで提供されるプロサポートが大きく成長しているようですね。

グリフィン氏
 ソリューション・サービス事業の構成を見ると、6~7割はプロフェッショナルサポートによるもので、ご指摘のように、そのなかでもプロサポートが大きく成長しています。プロサポートは、デルが提供する新たなサービスで、ITスタッフ向けに提供しているものと、エンドユーザー向けに提供しているものとがあり、それぞれにユーザーの状況にあわせて、サービスメニューから必要なものを選んでもらえるようになっている。これにより、効率的なサービスプロセスを構築できる。サービスの頻度や、適用性を高くすることで、障害の回数を減らし、ダウンタイム時間を減少させることができます。つまり、これが、顧客へのリターンとなる。オーストラリアでは、当社のハードを導入したユーザーの87%がプロサポートを選択している。それだけ、プロサポートの良さが認知されはじめています。


デル執行役員ソリューション・サービス・デリバリー本部長の諸原裕二氏
諸原氏
 日本においても、プロサポートの契約数が増加しています。日本では、今年5月からプロサポートを開始しており、5~8月の間に、新規にハードを購入した人の8割がプロサポートを選択している。日本では、まだまだオポチュニティがあると考えています。海外で成功した事例を日本に持ち込んだり、日本での成功例をほかの国に導入したりといったこともやっていますから、より顧客の要求にあわせた提案を行っていくことができます。日本では、コンプリートケア(モビリティパック)の名称で提供している、モバイルPCの不可避の事故の際に保証するサービスのアタッチレートが高いですね。これは、PCを無くしたり、落としたりといった場合や、火災、爆発、落雷などの通常のサポートでは保証されないものまで保証するというサービスです。ソリューション・サービス事業全体という観点では、日本においては前年同期比2けた成長を遂げていますし、APJの中でも、最もソリューション・サービス事業の売り上げ構成比が高いエリアとなっています。

グリフィン氏
 一方で、ICSも重要な役割を果たしています。これは、当社の収益性という観点でも重要なものとなっています。ICSは、エンタープライズ向けソリューションサービスで、ITインフラに関する技術コンサルティングから、設計、構築、サポートまでのサービスを提供するものです。

 ICSを適用した好例としては、デル自身があげられます。デルのグローバル・サービス事業のトップである上席副社長のスティーブ・シュッケッンブロックは、デルのCIOを兼務するというユニークなポジションにいます。つまり、デルが顧客に対して約束したことは、自ら実証していかなくてはならない立場にあるのです。そのなかで、当社は、ストレージのアセスメントや、仮想化という点で大きな成果を上げ始めています。今後、1万9000件のサービスを、仮想化環境へと移行させる計画で、すでにデルの施設のひとつでは、ストレージの合理化により、数百万ドルの経費削減を実現しました。

 代表的な仮想化技術に、VMwareがあります。デルは、VMwareの世界第1位のリセラーでありますが、それだけなく、ユーザーとしても全世界で第5位の規模を持っています。そうした経験を、当社が提供するソリューション・サービスのなかに生かしていくことができる。これはデルならではの強みだといっていいでしょう。

 先ごろも、デルのサービスを提供した多国籍型の金融機関では、デルの経験を生かして、ストレージとサーバーの仮想化により、数百万ドルの経費削減を達成したという結果が出ています。


ITaaSの考え方
―もうひとつのマネージドサービスではどんな取り組みがありますか。

グリフィン氏
 マネージドサービスのなかでは、デスクサイドサービス、法人向けヘルプデスクといったサービスを提供してきましたが、こうしたサービスをリモートで提供していくことができる、新たな「ITaaS」を提供する予定です。デルは、この1年半の買収戦略によって、リモートサービスのケーパビリティを社内に取り入れることができ、リモート環境から、IPアドレスのあるインフラをマネージできるシステムを導入している。リモートでパッチを当てるといった各種サービスを提供することができるのです。日本では、まだこのサービスは開始していませんが、来年第3四半期、第4四半期ごろ、早ければ来年8月を目標にサービスを開始したいと考えています。それに先駆けて、来年2月からは、アジア太平洋・日本地域において、約40社を対象に、ITaaSを試験的に導入し、検証を行う予定です。また、これをサポートする設備として、マレーシアのクアラルンプールにあるネットワーク・オペレーションズ・センター(NOC)において、担当するインフラストラクチャ部門を、1月に設置する計画です。


モジュラー化された各種サービス
―ITaaSにおけるユーザーのメリットはどこにあるのですか。

グリフィン氏
 ITaaSサービスの導入対象は、中小企業から大規模エンタープライズユーザーまで幅広いものとなります。また、アウトソーシングを通じた環境での導入も想定されます。このサービスのユーザーメリットとしては、社内に専門のコンサルタントやサポート要員、管理者を配置せずに、サービスを受けることができる点があげられます。

 例えば、ソフトウェア管理という観点から見てみましょう。ユーザー企業のなかには、ライセンス契約でソフトウェアを購入しているが、ほとんど使用していないライセンスが存在する場合がある。一方で、すでにライセンス契約が失効しているのにもかかわらず使い続けている場合もある。こうした管理をリモートで管理することができます。また、パッチ管理についても、担当者を現場に配置しなくても、リモートから実施できるようになる。顧客のITインフラアセスメントも行える。信じられないかもしませんが、顧客のなかには自分が持っているIT資産の全容を把握していないケースが結構多いのです。そのため、IT投資やITシステムの運用において、大きな無駄が発生している。ITインフラの正しく把握することで、使われていなかったIT資産を活用し、稼働の効率化を高めるといったことが可能になります。

 また、ITaaSによるサービスメニューはモジュール化していますから、ユーザーが自らの利用環境にあわせて、選択することができ、カスタム化することができる。項目ごとや、契約期間ごとに、サービスをオンにしたり、オフにしたりといったことができる。企業が移転するのにあわせて、その移行期間となる3カ月間は、eメールを途絶えないようにサービスを提供してほしいというのであれば、3カ月間の契約すればいい。従来のサービスのオファリングは何年間にもわたり、特定のサービス内容でロックオンされ、変更できないものが多い。ITaaSは、それとは違う。昨日も日本のある企業とお話をしましたら、サービスの契約内容と、いまの状況とがかなり乖離(かいり)してきたので、契約を見直したいと思っているのだが、10年契約をしていて、それがあと2年残っている。解約できずに困っているという話を聞きました。ITaaSは、こうしたことも解決できます。日本のユーザーにも最適なサービスだと考えています。


MRIスキャンによるITインフラ診断の自動化
―デルのソリューション・サービスの特徴はどんな点にありますか。

グリフィン氏
 デルのソリューション・サービスは、多くの人数を抱えて時間をかけて提供するのではなく、問題の診断や、問題の特定にフォーカスを置き、効率のいいサービスを提供するというものです。例えば、デルではMRIスキャンというサービスを提供しています。デルがいうMRIには、「Measurable Rapid Insight」という意味があります。ITシステムにおける問題点を迅速に判断し、それを自動的に結果として導き出すもので、このツールを利用することで、人手をかけずに実施することができる。

 デルがソリューション・サービスを提供する目的は、顧客が無駄な時間を消費せずに、問題点を特定でき、それに対するアクションプランを迅速に立案、実行し、これによって、節減された経費を、別のところに投資し、より効率的なIT投資を実現するというものです。

 デルはガートナーから、「アンチ・コンサルタントのコンサルタント」という表現をされています。つまり、コンサルタントは時間を使えば使うほど収入を得て、レポートを出すほど収入を得るという仕組みです。物事をより複雑化しているのがITコンサルティングの現状なのです。これに対して、デルは短時間に、的確に問題点を特定することに力を注いでいる。ここが大きな差となります。

 もうひとつデルが提供するソリューション・サービスの重要な要素は、シンプル化です。企業におけるIT投資の問題点は、既存システムの保守、運用に7割のリソースが使われているという点です。将来の事業拡張などに向けたIT投資比率は3割程度にとどまっている。デルはシンプル化によって、これを逆転させたい。

 しかし、デルがいっている「ITのシンプル化」とは、ITそのものがシンプルだということではありません。ITは非常に複雑です。ただ、この複雑さのなかには、「避けられない複雑さ」と「不必要な複雑さ」がある。デルは、避けられることができる「不必要な複雑さ」を特定し、それに対してデルが実証しているサプライチェーンマネジメントのノウハウ、効率化のノウハウを十分に導入して、ITの複雑さを少しでも取り除いて、ユーザーのメリットにつなげようというものです。

 それに対して、競合他社は、デルとは逆の発想で収益を得ようとしているといえるでしょう。

 ソリューションの導入には一定の複雑さが伴うのは明らかです。デルでは、ワークショップ(W)、アセスメント(A)、デザイン(D)、インプリメンテーション(I)、オペレーション(O)という5つのプロセスを「WADIO」と呼び、これを活用し、短い時間でサービスを導入していただくようにしています。


諸原氏
 ワークショップは、ホワイトボードセッションといういい方もしているのですが、ユーザー企業とデルが、1対1で、フリーディスカッションを行います。約半日から数日にわたって顧客の課題を聞き、方向性についての大枠を決めます。また、アセスメントでは、ツールを活用し、アウトプットもロジカルに、そしてクイックに見せられるようにしています。ワークショップからアセスメントまでの期間は、4週間から6週間。ここで結果を提供している。どの程度の期間で投資を回収できるかということも明確に試算できます。また、これらをモジュラー型で提供していますから、ユーザーが必要とする内容だけを選択し、それにあわせた投資と期間で済む。今後は、ワークショップ、アセスメントという点をもっと強化したいですね、この2点を強化すれば、現行システムをきちっとサーベイすることができますから、その後につながる設計、実装、運用における効果が高まるのは明白です。
―デルにはできて、他社にはできない理由とはなんでしょうか。

グリフィン氏
 他社にできないというわけではないでしょう。ただ、それをやりたいかと思っているかどうかです。デルは、レガシーシステムがないところで、数万人ものコンサルタントを抱えずにビジネスをやるということを目指しています。競合相手のなかには、複雑さを維持することが得になると考えているベンダーもある。これらのベンダーは、毎朝起きると、多数のコンサルタントにどうやって仕事を与えるかということを考える。だから複雑化するわけです。そういうベースがないデルは、顧客の環境を改善すべきかということをゼロベースで考えることができるのです。

 サービスは、2つのサービスがある。時間を売るサービスと、ツールを売るサービスとです。時間を売るのは、花と一緒で一定時間がくるとなくなってしまう。これと同じようなものでしょう。ツールは、何度も使うことができる。デルが提供しているのは、ツールの方であり、ハードに組み込まれているテクノロジーのツールを提供して、それによってサービスの価値を高めている。MRIスキャンは、その最たる例といえます。


―今後、デルはソリューション・サービス事業に積極的に投資をしていくことを明らかにしています。特に、アジア太平洋地区、また日本市場に対して、どんな投資を計画していますか。

グリフィン氏
 人材育成とインフラストラクチャの2つの観点からの投資を推進していきます。特に、ICSとマネージドサービスのところで、もっと投資を積極化していく。日本では、まだ実施していないサービスもありますから、これを実行するための投資を中心に進めていくということになります。

 具体的には、インフラへの投資として、今年8月には東京・三田にソリューション・イノベーション・センターを開設しました。ここは、サービス事業の観点では、プルーフ・オブ・コンセプトセンターと呼ばれている施設で、ICSにおいて、コンセプトを立証するとともに、デモンストレーションする場所と位置づけられています。この施設は、日本におけるICSのポートフォリオを拡張するためには、欠かせないインフラとなります。また、ICSを加速させるためには、いまいる人材の育成や、新たな人材の採用も積極的に行っていくことになる。デルの社内には、優秀なタレントがいますから、こうした人材を活用していきたい。

諸原氏
 当面の日本での目標は、プロサポートの装着率を高めていくこともあり、ICSについては、先ほど触れたように、WADIOのうち、ワークショップ、アセスメントという点をもっと強化していきたい。一方、マネージドサービスも、重要なものと位置づけ、ヘルプデスクなどを年間契約で行えるようなビジネスを増やしていきたいと考えています。宮崎市にあるデル宮崎カスタマセンターは、法人向けヘルプデスク機能を持ち、モジュラーサービスを提供する拠点としての役割がますます重要になっていく。アグレッシブに増員していきたいと考えています。

関連情報
(大河原 克行)
2008/12/10 00:01