NECが中小企業向けPCで仕掛ける新施策の狙い



 NECが、中小企業、SOHO向けのビジネスPC事業の強化に乗り出した。

 同社では、ビジネスPCとして、デスクトップPCのMateシリーズ、ノートPCのVersaProシリーズをラインアップしているが、同じ筐体を利用し、ワンプライスによる構成とすることで、中小企業およびSOHOが購入しやすい製品仕様としたMate Jシリーズ、VersaPro Jシリーズを2003年11月から用意。ITに関する専門知識を持たない企業ユーザーが迷わずに購入できる製品として、また、パートナー(販社、システムインテグレータ)が手離れよく販売できる製品として展開してきた経緯がある。

 今回、同社が取り組むのは、このMate Jシリーズ、VersaPro Jシリーズの強化。これにより、中小企業、SOHO向けビジネスの拡大を図る考えだ。


価格、サービスで「ずっと続く、安心。」

NECビジネスPC事業部・橋本欧二統括マネージャー

NECがビジネスPCで打ち出している「ずっと続く、安心。」のキャッチフレーズ

 NECでは、2年前から、ビジネスPC向けのコミュニケーションメッセージとして、「ずっと続く、安心。」を掲げてきた。

 「中小企業、SOHOの方々に安心して、長期間にわたって使っていただくことが、NECのビジネスPCの特徴。そのメッセージをさらに強く訴えるための施策を、今回用意した」と、NECビジネスPC事業部・橋本欧二統括マネージャーは語る。

 「ずっと続く、安心。」を構成する要素に、「低価格」「使って安心」「長く使える」の3つを再定義。「低価格で提供することは長年にわたる課題。それに加えて、使う際に安心していただける品質とサポート、長く使っていただくための支援体制を用意することで、NECのビジネスPCを選択していただける環境を作った」という。

 これまでのJシリーズの展開においては、反省する部分もあった。

 それは、ワンプライスで購入できるというメリットはあるものの、より安心して使ってもらうためのサービスが別メニューとなっており、それを選択しにくい環境となっていたことだ。

 「Mate JシリーズおよびVersaPro Jシリーズでは1年間の保証期間をセットにしてきた。この間、パーツ保証、引き取り修理サービスを受けることができる。一方で、カタログには、3年保証、4年保証といった『標準保証拡張』サービスを表記し、サービスを拡張できるようにしていたが、多くのユーザーが標準保証期間のまま購入する形態になっており、拡張保証サービスを選択するユーザーはほとんどいない。ユーザーの利用環境にあわせて、長期間にわたり、安心して利用していただく状況にはなっていなかった」

 NECのビジネスPCの場合、3~4年の使用期間が一般的。それにもかかわらず、Jシリーズ購入者のほとんどが1年保証のままだった。

 「システムインテグレータや販売店が、ユーザーにサービス内容を説明する形態であれば、標準保証拡張を同時に選択するケースが多かっただろうが、販売形態が箱売りに近いため、どうしても標準保証期間のまま購入してしまうケースが多い」というわけだ。

 そこで、同社では、「J+シリーズ」という名称で新たな製品群を用意。その第1弾として、これまでオプションメニューで提供していた3年の拡張保証をセットにした「J+シリーズ あんしん保証モデル」を発売することにした。

 対応しているのは、Mate JのタイプMAとタイプMC、VersaPro JのタイプVFの3モデル。中小企業、SOHOから人気が高いエントリークラスの製品に用意した。


「J+シリーズ あんしん保証モデル」が用意されるMate JタイプMA同Mate JタイプMC同VersaPro JタイプVF

NECビジネスPC事業部マーケティンググループ・日比野洋一主任

 「オプションで追加すると1万8000円のプラスとなるが、J+シリーズでは、同じサービス内容でありながら、1年保証モデルに比べて、1万円のプラスで購入できる」(NECビジネスPC事業部マーケティンググループ・日比野洋一主任)という。

 この3年間の保証期間中は、翌営業日出張修理サービスが無料で受けられるようになる。

 同社では、来年度以降、J+シリーズのラインアップ強化に乗り出す考えで、さらに期間を延長した「4年あんしん保証」サービスや、天災や不注意による破損などにも対応する「動産総合保険」サービス、将来のバッテリーパックの劣化に備えて、指定した時期に新たなバッテリーパックを提供する「バッテリパック・プリペイドチケット」サービスを、それぞれセットにしたモデル投入も検討していくという。

 また、同社では、これを広く販売させるために、J+シリーズ向けに新たな型番(商品コード)を用意した点も見逃せない。

 「これまでは、本体とオプションサービスが別々の商品コードとなっており、これを組み合わせて提案するには、処理にも手間がかかっていた。ディストリビュータにも幅広く扱ってもらうために、セット化し、ひとつの型番とすることで、ディストリビュータや販売店の手間を軽減でき、提案しやすくなる」(橋本統括マネージャー)と、流通拡大の施策にも余念がない。


月額販売制度の導入により「所有から利用へ」

 同社の中小企業・SOHO向け展開はこれだけにとどまらない。さらに2つの施策を用意している。

 ひとつは、月額導入方式の導入だ。同制度は、NECキャピタルソリューションと協業し、「NEC得選街PC月額ご利用サービス」を、すでに11月から一部でスタートしているが、これをJ+シリーズにも拡大し、月額に分割した方式でのPC販売を強化する。

 さらに、PC資産管理などを対象とした中小企業向けSaaSとも連動し、これも月額で提供するメニューを用意する。

 「SaaSに代表されるように、ソフトの月額サービスはあったが、これにハード本体の月額サービスを加えることで、導入の敷居をさらに低いものにできる」と新販売方式の定着に意欲を見せる。

 Mate JタイプMCおよびVersaPro JタイプVFの「J+シリーズ あんしん保証モデル」の場合、利用期間3年の契約で月額1984円(得選街価格、税込)での導入が可能となる。この価格は最低構成の場合で、機器構成によって価格は変更することになる。月額2000円以下からハードを導入できるという点では、中小企業、SOHOにとっては魅力的なものといえよう。

 「リースよりも低額で導入でき、またSaaSサービスを一部導入してみたいというユーザーや、ハードの新規導入、置き換えの初期費用がかさむことを懸念するユーザーに対して、所有から利用への転換を促す月額制度はメリットのある仕組み。経済環境の激変により、IT投資を抑制する傾向があるが、そうした環境変化にも対応したものになる」(橋本統括マネージャー)と位置づける。


Access 2007の活用促進にも取り組む

 もうひとつがMicrosoft Office Professional 2007をプリインストールしたPCの利用促進に向けた仕掛けづくりだ。

 特に、同社が力を注ぐのが、Office Professional 2007に同梱されているAccess 2007だ。

 「特定のアプリケーション用途に限定されず、マルチパーパスで利用できるというAccess 2007のメリットを生かし、さらにはExcelのデータを利用できるなどの使い方もできる。中小企業、SOHOが利用しやすいようにカスタマイズすることが可能。また、中小企業が利用しているアプリケーションソフトの総額は19万円程度にのぼる。これをOffice Professional 2007で置き換えることで、低コストで利用できる計算になる」(橋本統括マネージャー)という狙いがある。

 マイクロソフトおよびNECラーニングと連携し、NECラーニングが持つAccess 2007に関する教材の提供、マイクロソフトが認定する全国約1万人のMOT(マイクロソフト・オフィシャル・トレーナー)を、NECラーニングを通じて紹介し、Access 2007を利用できる環境を提供する考えだ。

 「昨年11月以降、大手企業におけるIT投資は一気に止まった。中小企業、SOHOの導入意欲は、大手企業ほどの停滞感はないが、それでも厳しい環境にあるのは明らか。今回の施策は、冷え始めたマインドを、高めるための施策に位置づけたい。また、2003年から2004年にかけて集中したクライアントPCのリプレース需要も控えており、こうした需要獲得に向けた施策でもある」とする。

 需要低迷を今回の施策によって、切り崩すことができるかが注目されよう。

関連情報
(大河原 克行)
2009/1/27 00:00