マイクロソフトのビジネスパートナーが語る、新プラットフォーム対応への取り組み



 マイクロソフトが、4月15日から、Windows Server 2008をはじめとする新たな企業向け製品群を投入する。

 それに併せてマイクロソフトが取り組んできたのは、ビジネスパートナーを巻き込んだ「Ready」状態の確立。果たして、マイクロソフトはどこまでこの状況を創出できたのだろうか。ビジネスパートナーに、新プラットフォームに対する取り組みについて聞いた。


Ready状況の創出に投資するマイクロソフト

マイクロソフトの業務執行役員サーバープラットフォームビジネス本部・五十嵐光喜本部長

 マイクロソフトは、4月15日に国内投入する、Windows Server 2008、SQL Server 2008およびVisual Studio 2008に関して、新製品発売時の対応ソリューション数としては、過去最多数となる環境を実現してみせた。

 マイクロソフトの業務執行役員サーバープラットフォームビジネス本部・五十嵐光喜本部長は、昨年11月に開催した「Microsoft Partner Conference 2007」において、ビジネスパートナーを対象に、「2008年4月15日に、Windows Server 2008を発売する時点で、業界全体がReady状態となっていることを目指したい。ハードウェアがReadyであり、アプリケーションがReadyであり、エンジニアがReadyであることを目指す」と宣言した。

 その後、Beta版の配布やテクニカル/セールストレーニングの実施。早期導入プログラムや、早期案件の共同発掘活動のほか、Microsoft Certified Technology Specialistを、製品発売前から開始するという前例のない取り組みや、パートナー各社のソリューションを新製品に対応するための技術情報の提供や教育を行う「マイクロソフトイノベートオンプログラム」、第三者機関によるテスト環境を提供する「Certified for Windows Server 2008」、Windows Server 2008検証用のItaniumサーバーを無償提供するプログラムなどを実施してきた。

 マイクロソフトのサーバープラットフォームビジネス本部Windows Server製品部・藤本浩司マネージャは、「新たなビジネスを立ち上げる準備をパートナーとともに行ってきた。立ち上げのベースができたと考えている」と、これまでの活動を総括する。


日本のパートナーと米本社の距離が縮まる

オービックビジネスコンサルタントの開発本部OTEC(OBC Technology Education Center)の日野和麻呂部長

 では、主要パートナーの新プラットフォームに対する状況はすでにReadyとなっているのだろうか。

 奉行V ERPをいち早く新プラットフォームに対応させたオービックビジネスコンサルタント(OBC)では、「Ready状態に向けて、十分な準備が整った」(OBC開発本部OTECの日野和麻呂部長)と語る。

 同社では、マイクロソフトのTAP(早期評価プログラム)への参加に加え、従来からのマイクロソフトとの強固なパートナーシップを背景にして、早い段階から新プラットフォームをベースとした開発に着手。すでにCertified for Windows Server 2008も申請済みだ。

 「Windows Server 2008やSQL Server 2008の詳細情報の提供を待つまでもなく、Vistaをきっかけとして、新たなプラットフォーム対応に動き出せたこと、日本からのリクエストに対して、マイクロソフトの米本社側のフィードバックが早かったことなどの要素が見逃せない。今回の新プラットフォームでは、われわれと米本社の距離が、これまでにないほど近い関係で開発を進めることができたと考えている」とする。

 これまでの同社とマイクロソフトとの関係を考えれば、同社がいち早く新プラットフォームに対応するのは、当然の動きととらえることもできるが、「内部統制の動きや、グループ会社とのシステム連動といった動きが加速するなか、セキュリティの強化、センター型システムへの移行をはじめとする集約化、パフォーマンス向上やハイスケーラビリティへの取り組みなどが注目を集めてきた。こうした動きに対する当社の回答として、新プラットフォームへの対応は最適なものといえる。さらに、これまで当社が主要ターゲットとしてきた年商30~100億円の企業にとどまらず、年商100億円以上の企業も対象にビジネスが広がることになる」と、新ビジネス創出のきっかけになることを強調する。

 さらに、2008年8月に製品版が出荷される予定のHyper-Vへの対応によって、新たなビジネス領域への対応が加速することにもなるだろう。

 「今後は、NGNによってネットワーク環境の変化が訪れるのは明らか。今年は、それが立ち上がる1年。SaaSなどの案件がリアリティになるのにあわせて、仮想化、セキュア性といった観点での議論も増えていくだろう。こうした進化の流れはロングスパンで見ているが、そのスタートラインに最高の形でつくことができた」とする。


早回しでのサポートに評価

大塚商会のマーケティング本部テクニカルプロモーション部Microsoftグループソリューション担当の下條洋永課長

 一方、「『早回し』でのサポートを評価している」と表現するのは大塚商会。同社マーケティング本部テクニカルプロモーション部Microsoftグループソリューション担当の下條洋永課長は、「当社への早期導入支援、販売体制構築支援、そして、サービスビジネスの構築といった、あらゆる観点において、早い段階から徹底したサポート体制を敷いてくれた。この動きからも、マイクロソフトの本気ぶりを、かなり前から実感することができた」と語る。

 同社では、自らWindows Server 2008の早期導入企業として参加。ユーザーの立場から、スピード稼働、スピード開発に取り組んできた経緯がある。また、その経験、ノウハウをもとに、販売体制およびサービス体制を構築。出荷開始にあわせて、コンサルティングサービスを、「Windows Server 2008総合支援サービス」として、メニュー化することに成功した。

 これだけ踏み込んだ形で同社が準備をしたのは、言い換えれば、大塚商会自身が、新たなプラットフォームによって、大きなビジネスチャンスを得られると判断している証しともいえる。

 「単純なサーバープラットフォームではなく、ソリューションプラットフォームといえるもの。今回、当社が提供するコンサルティングサービスの名称に、総合支援という言葉を用いたのも、サーバープラットフォームにはとどまらないソリューションという観点からとらえているため」という。

 今年2月に東京・品川で開催した実践ソリューションフェア2008では、Windows Server 2008などの展示コーナーを別室に用意。「今年の実践ソリューションフェアでは、機能を紹介することが中心となっていたが滞留時間が長く、ユーザー企業の関心の高さをうかがわせた。来年のフェアでは運用をベースとしたセミナーを中心に開催することができるだろう」として、今後1年で導入が加速するとの見通しを示して見せた。


IPとIDを連動させた新ビジネスにも挑む

三井情報のR&D本部第二研究開発室・大島正行シニアマネージャー

 「Windows Server 2008のラウンチによって、IPとIDを連動させた新たなビジネスに挑む」とするのは、三井情報のR&D本部第二研究開発室・大島正行シニアマネージャー。同社では、Windows Server 2008のTerminal Serverと、Microsoft NAPを活用したソリューションを提供するとともに、顧客に対する付加価値提案として、NAPにIPtoID Managementと、Deveropment IP Management toolsを提供。加えて、自社開発のMACアドレス管理インターフェイスであるMKI Smart Authentication Serverを利用することで、ソリューション全体として、トレーサビリティの向上やMACアドレス認証、効率的な運用管理などが可能になるとしている。

 同社にとっても、サーバープラットフォーム部門と、ネットワークインフラ部門が連動した形での動きが求められることになるものだ。

 「2つの組織は、考え方や言葉、なにをプライオリティとしてとらえるのかといった手法がまったく違う。この1年をかけて、先行事例となるべき導入実績をあげ、統合ソリューションのメリットを提供するとともに、それを横展開できる体制構築を目指したい」とする。

 製品提供の体制としてはReadyの状況となっているものの、同社が指摘するように、製品そのものの機能よりも、ソリューションとしての導入、運用での実績が重視されるのは明らか。その点では、本当の意味で同社がReady状態となるには、導入・運用での実績が達成され、それが横展開できるようになってからということもできそうだ。


仮想化ソリューション提案を加速するきっかけに

シトリックス・システムズ・ジャパンのマーケティング本部プロダクトマーケティング・竹内裕治担当部長

 シトリックス・システムズ・ジャパンでは、「Xenによる仮想化技術を、より具体的なソリューションとして提供できるきっかけになる」(シトリックス・システムズ・ジャパンのマーケティング本部プロダクトマーケティング・竹内裕治担当部長)として、新プラットフォームでのビジネスチャンスに期待を寄せる。

 同社では、XenDesktop、XenApp、XenServerによって、デスクトップ、アプリケーション、サーバーのすべての領域からエンド・トゥ・エンドで仮想化ソリューションを提供。また、Hyper-Vと、Citrix XenServerとの相互互換性の実現によって、Windows Server環境における集約化の推進を背景とした、効率的な運用管理環境の実現や、SaaS型モデルによる運用環境の実現、テレワークなどの新たな利用提案の促進といったビジネス創出に注目する。

 だが、Hyper-Vと、Citrix XenServerとの相互互換性を実現したツールが、日本語環境をサポートした形で出荷されるのは第3四半期。Windows Server 2008の出荷時点には間に合わないという状況になっている。

 「マイクロソフトが、数多くのプログラムを提供してくれたが、これを使い切れなかったという反省がある。また、計画当初から、出荷時点に間に合わないのは明白だった。そのため、安定性、信頼性を高めることを優先して取り組んできた。一方で、Windows Server 2008のターミナルサービスは、機能的にどう違うのかといったこともフィールドに対するメッセージとして発信してきた。その点では、Readyの状況に向けて着々と準備は進んでいる」と語る。

 顧客の技術検証に時間がかかるなど、同社が提供するソリューションの商談は足が長いビジネスとなるのは確か。「今年後半から来年に向けて、ビジネスを顕在化していく方向で、焦らずに取り組んでいきたい」とする。


周到な準備はどんな成長曲線につながるのか

 マイクロソフトでは、「新プラットフォームは、プロダクトファーストではなく、インダストリーファーストによってラウンチすることが重要だと考え、パートナー各社の製品およびサービスの新プラットフォームへの対応を促進してきた」(五十嵐本部長)とし、Windows Server 2008をはじめとした新プラットフォーム発売前の準備を、業界全体を巻き込んで取り組んできたことを示す。

 ここまでの準備はひとまず合格点だといえよう。

 これから導入に向けての本番がいよいよスタートする。これまでとは比較にならない周到な準備が、どんな成果につながるのか。まずは最初の1年の成果がポイントとなる。

関連情報
(大河原 克行)
2008/4/9 00:00