デルが重点戦略に掲げるエンタープライズ事業の現状とは?



 デルは、今年2月からスタートした2008年度において「Dell 2.0」を、基本方針に掲げている。同社がDell 2.0で打ち出している「付加価値企業」へと脱皮を図るなかで、エンタープライズ事業、サービス事業の強化は避けては通れない取り組みといえる。エンタープライズ事業を担当する同社・アドバンスト・システムズ・グループ(ASG)本部の町田栄作本部長に、日本におけるエンタープライズ事業への取り組みを聞いた。


アドバンスト・システムズ・グループ(ASG)本部の町田栄作本部長
―アドバンスト・システムズ・グループ(ASG)本部の位置づけを教えてください。

町田氏
 ASGは、デルにおけるエンタープライズ専門部隊であり、デルのエンタープライズ事業を牽引していく役割を担います。プリセールスを含む営業チーム、エンドユーザーとのリレーションを作るエンジニアチーム、ソリューションコンサルティングを行う体制などを擁し、トータルシステムとしての製品提案を行うことができる。デルは、スケーラブル・エンタープライズ戦略を掲げ、最適なソリューションのデプロイメントと、シンプルな運用管理環境の提案に取り組んでいます。これらの提案のすべてを標準技術の上で提供し、顧客の成長をサポートできるのがデルです。デルは、標準技術によって、顧客の価値を最大化でき、それをグローバルクラスで展開している、世界唯一のベンダーだといっていいでしょう。


―エンタープライズ事業におけるデルの付加価値とはなんでしょうか。

町田氏
 ひとつは、ダイレクトモデルによって、顧客の声を直接聞けるポジションにいる点です。言い換えれば、これは顧客の視点でビジネスを推進できることにもつながります。4~5年前には金額ベースではかなりの構成比を占めていたRISCチップ搭載サーバーの比率が減少し、IAサーバーが約5割を占めるようになっている。ダウンサイジングの大きな波が訪れているのは周知の通りです。一方で、仮想化やセキュリティといった観点での要求が高まり、しかも、それをシンプルに管理したいという要求が増えている。そのためには、標準化された技術で、迅速に実現できるデルの体制が求められているというわけです。

 一方で、最新の業界標準技術を取り入れたPowerEdgeサーバーや、EMCとの協業によって投入している競争力のあるストレージ製品を、それぞれトップトゥボトムで用意し、マイクロプロセッサ、OS、ミドルウェアに至るまで、純粋無垢に業界標準だけの技術を活用して、システムをビルディングブロックできるのはデルしかない。業界標準はデルの武器なのです。一般的に、デルは、標準技術を使うだけの企業だと誤解されているようです。デルは、100を超える標準化団体に参画し、なかには、デルの社員が、標準化団体のチェアマンやバイスチェアマンという役割に就いているものもあります。強い立場で、標準化を引っ張る役目も果たしています。

 一方、DPS(デル・プロフェッショナル・サービス)との連動もデルの付加価値です。DPSは、ディザスタリカバリやサーバーコンソリデーションなどのプロジェクトごとに活動を行い、技術コンサルティングを担当します。コスト競争力のある製品と、こうしたサービスとの連動によって、ユーザーに大きな価値を提供できます。


2004年度から2007年度にかけてのエンタープライズ事業の成長率
―デル全体の成長力に比べると、エンタープライズ事業の成長率が低く感じられますが。

町田氏
 デルは、日本国内において、過去3年間に31%増の成長を遂げています。そのうち、サービス事業が66%増、ソフト/周辺機器が33%増、コンシューマ事業は14%増ですから、確かに、それに比べると、エンタープライズ事業の10%増という成長率は低く見えるかもしれません。ただ、ここでいうエンタープライズ事業は、ハードウェアだけをとらえています。ハードウェアは、ストレージのディスク容量比でみれば、90%も価格下落をしているという事実をはじめ、サーバー製品の価格下落が進展しているなかでの2桁増の成長率は、決して低いものではありません。業界全体と比べても、高い成長率となっています。一方で、33%増という高い伸びを示しているソフト/周辺機器のなかにもエンタープライズ関連のミドルウェアが含まれていますから、この伸びも考慮しなくてはなりません。

 また、エンタープライズ事業の構成比率は、米国本社に比べると、日本はまだ低い。つまり、米国並の構成比に達するまで、ビジネスチャンスがあるという言い方もできる。いまの成長に決して満足しているわけではありませんし、これからやらなくてはらないこともあります。


―ここ数年にわたるエンタープライズ分野に対する投資は極めて積極的です。しかし、なにもないところから始めたのですから、それは当然といえば当然でもあります。デルは、エンタープライズ事業で、国産ベンダーや他の外資系ベンダーと戦える体制が整ったと判断していますか。

町田氏
 業界標準の技術を活用した製品が揃い、体制が整い、それによって多くの実績も出ている。ビジネス基盤は整ったといえますし、戦える体制は整った。いや、すでに戦うフェーズに入ったといえます。デルにとって、エンタープライズ事業は最重点領域です。先ごろ、CEOに復帰したマイケル・デルが来日しましたが、その時にも、社内に向けてエンタープライズ事業の重要性を語りました。彼は、成熟した日本のエンタープライズマーケットにおいて、ハード、ソフト、サービスをいかに伸ばしていくかという点に期待しています。人や物の準備には終わりがありませんから、引き続き、体制を強化しているというのが現状ではないでしょうか。


各社と戦略的パートナー関係を構築
―どの分野に力を注ぎますか。

町田氏
 先ごろ、オラクルとの提携を発表しましたが、このような主要なプロダクトを活用したオールインワン型のインフラストラクチャーサービスによって、TCO、利便性、汎用性という点で、顧客がメリットを得られるような仕組みを広く用意したい。その点でも、パートナーシップは、これからますます重要になってくるでしょう。EMC、マイクロソフト、オラクル、シマンテック、あるいはVMwareといった企業や製品との連携によって、さまざまな顧客の要求に応えられるようになる。顧客のシステム構築は、シングルシステムから、スケールアウト、そしてエンタープライズグリッドへと進化している。こうした流れに対して、パートナーシップがより重要になってくるのです。

 一方、デルの営業体制は、従業員規模に応じた体制となっています。こうした観点から見れば、中小企業への展開をさらに強化していきたいですね。中小企業ユーザーは、デルが得意とする分野ですが、ここにソリューションを絡めていきたい。ローカルのISVやシステムインテグレータとのパートナーシップによる「ISVアリーナ」といった展開も推進していますが、こうした地域のパートナーとの協業がこれから重視されます。

 別の観点からの話になりますが、デルを採用したことによる多くの成功事例をもっと露出していくことが必要だとも感じています。ユーザー向けの会報誌である「Insight」や、メディアへのアピールを通じて、デルのメッセージをより強く発信していくことも必要でしょうね。これによって、デルを選択するメリットを、多くの人がダイレクトに感じていただけるのではないでしょうか。


―今年3月の会見では、ジム・メリット社長が、日本独自にサービス関連企業の買収を進めることを明らかにしましたが。これはASGにも深く関連する案件ですね。

町田氏
 まだ具体的にお話できる段階にはありません。ただし、デルが日本でエンタープライズ事業を強化する上で、必要だと思われるものに関しては、積極的に展開していくことになるでしょう。デルは、中国市場向けに、中国でテザインし、中国で生産する低価格モデルを投入することを発表しました。これまでは、ひとつのグローバルモデルで、全世界展開してきたデルにとって、個別の市場の要求に応えるというのは、大きな方向転換です。同様に、日本特有の軽量化というデマンドにあわせて、日本市場向けにデザインした製品投入の可能性も、マイケル・デルは示唆しています。こうした動きに代表されるように、日本の市場に対する個別の動きも出てくることになります。エンタープライズ分野でも同様に、体制強化が必要であれば、日本法人として個別に展開していくことになります。


―町田本部長は、昨年11月にデルに入社するまでは、20年間にわたり、インテルに在籍したわけですが、この経験は、デルにどう生きますか。

町田氏
 私自身、デルに入って、まったく違和感がないんですよ(笑)。また、この5年ほどは、インテルでエンタープライズ事業に携わり、エンドユーザーと直接、利害関係がないような状態で、さまざまな話を聞いてきた。ここでは、顧客の視点で問題点などをとらえる経験をしてきましたから、これがデルのエンタープライズ事業にも生かすことができると思います。さらに、標準化への取り組みやその優位性、標準化した技術こそが顧客の成長を支援できるということを、インテルでも体感していますから、その点でも、違和感はありませんよ。


―インテル時代には、レガシーマイグレーションのひとつの回答として、Itaniumを推進する役割を果たしていましたが、デルではItaniumを搭載した製品はありません。そのあたりはどうとらえていますか。

町田氏
 企業のダウンサイジングをどうサポートするか、という点でItaniumはひとつの選択肢だと思いますし、スケールアップ型のメインフレーマーにとっては、必要なソリューションのひとつでしょう。しかし、デルが打ち出しているスケーラブル・エンタープライズ戦略では、スケールアウトによる提案を行い、そこにデルの付加価値を発揮できる。デルには、IAサーバーという標準技術の上で、標準のOS、ミドルウェアを組み合わせるための優秀なチームがいるのです。IAサーバーの価値を最大限にできるのがデルだといえます。


―ちなみに、インテル退社後、すぐにデルに入社したのですか。

町田氏
 いいえ、昨年10月中旬にインテルを退社し、デルに入社したのが11月中旬ですから、ちょうど1カ月お休みしました。この間、インテルを退社したことをご報告するために、関係者にご挨拶にまわり、また、家族と一緒にいる時間を増しました。頭を休めるという意味でも、自分を改めて遠くから見る、という意味でも重要な1カ月間でしたね。とくに、久しぶりに、家族とのコミュニケーションを持ったことで、家族の重要性を感じましたよ(笑)。米国に2年間赴任していたときも家族とのコミュニケーションを持つ時間はあったのですが、日本にいるとなかなかそうはいかない。いい経験になりました。


―先月のマイケル・デルCEOの来日の際に、気になった言葉はありますか。

町田氏
 エンタープライズ事業に限定するものではないのですが、WiMAXに関して話していたことが印象に残りましたね。次のコンピューティング環境においては、WiMAXは重要な技術となりますから、そこに向けて、デルがこれからどんな取り組むを行っていくのか。私自身も楽しみですよ(笑)。

(大河原 克行)
2007/4/20 09:00