富士通が取り組むミドルウェア戦略-実践、蓄積を生かし、他社と差別化へ
SOAに対する関心の高まり、内部統制ソリューションへの注目度が上昇していることなどを背景に、富士通が、ミドルウェア事業の強化に取り組んでいる。
同社では、IT基盤「TRIOLE」の中核製品として、自社開発のミドルウェア製品をラインアップ。同時にミドルウェア活用のための環境に整備にも取り組んでいる。
富士通のミドルウェア戦略に焦点を当ててみた。
■SOA対応のアプリケーションプラットフォーム「Interstage」
Interstageのコンセプト図(資料提供:富士通株式会社) |
富士通には、自社開発の3つのミドルウェア製品がある。
ひとつは、アプリケーションプラットフォーム「Interstage」である。
1997年11月の発売以来、すでに20万サーバーを超える導入実績を持つ同製品は、SOA対応の長期保証型ミドルウェアと位置づけられるもので、高信頼性/高性能アプリケーションサーバーのApplication Server、オープンミッションクリティカル基盤のBusiness Application Server、SOAを構築するサービスバスのService Integratorなどで構成され、Webベースの業務システム構築する各種機能を搭載。オープンソースのノウハウおよび資産をそのまま活用できるほか、他社アプリケーションからの高い移植性や、アプリケーション管理機構およびマルチコンテナの採用、さらにサン・マイクロシステムズからのソース提供によって開発した富士通製JavaVMを多重化することにより、異常発生時の影響範囲を最小限に食い止めるなど、アプリケーションの高信頼性と高性能を実現。基幹システムでの適用に向けた信頼性、実行性を確保しているという。
「メインフレームで培った多重化技術やキュー制御技術などにより、他社を凌駕する多重性能を実現。システム利用者が増加した場合でも安定したレスポンスを維持する」(富士通ソフトウェア事業本部ミドルウェア事業統括部・山本昭之統括部長代理)という。
また、業種によって異なるものの、基幹業務の3~7割がバッチ処理であることにも着目。パッチアプリケーション実行基盤のJob Workload Serverによって、オープンシステムにおけるミッションクリティカルなバッチ処理業務の安定稼働を実現している。
「Job Workload Serverでは、ジョブ実行制御プロセスの常駐化により、ショブの実行性能を大幅に改善。従来比で処理性能を3~5倍に向上。さらに、XMLベースのショブ定義により、バッチ業務の開発量を最大で9割削減できるなど、バッチ業務に関する開発生産性を大幅に向上できる」としている。
この点も国内において、多くのミッションクリティカルユーザーを抱える富士通ならではのノウハウが生きている。また、細かい話ではあるが、メインフレームやオフコンを含むマルチベンダー、マルチプラットフォーム環境において、さまざまな文字コードおよび外字を一元管理。Web環境における外字利用などの技術をいち早く提供しているのも富士通ならではのこたわりだといっていい。世界で初めて、外字のシンクライアント運用環境を提供したのも富士通である。
IDCジャパンによると、2005年のアプリケーションサーバー市場において、富士通は22.4%のシェアを獲得し、IBMに次いで第2位。前年調査に比べて、金額ベースで51.1%増を達成。5.5ポイントもシェアを上昇させてみせた。
Interstageが着実に勢力を強めていることの証でもある。
■ビジネス環境の変化に柔軟に対応する「Systemwalker」
「PSM(Policy-based Systems Management)」コンセプトに基づいたSystemwalker(資料提供:富士通株式会社) |
2つめは、統合運用管理ソフトのSystemwalkerだ。
企業コンプライアンスを支えるIT運用基盤を実現するSystemwalkerは、仮想・自律基盤からITIL準拠のプロセスまでをトータルにサポート。クライアントからサーバー、ネットワークまで全社レベルの統合運用管理を実現する。
情報システムをいかに経営戦略と結びつけて活用するかを追求する「Policy-based Systems Management(PSM)」に基づき、ビジネス環境の変化にも柔軟に対応できる製品を開発。ITILプロセスの構築支援、業務の安定稼働を実現する統合運用管理のCentric Manager、個人情報保護対策および情報漏えい対策ソリューションであるDesktopシリーズ、ITシステムの全体最適化を実現するエンタープライズグリッドResource Coordinatorで構成され、マルチベンダー環境を含めた統合管理を目指す。
1995年11月に投入したMpWalkerを前身に、98年には商品体系を一新し、Systemwalkerブランドで販売を開始。IDCジャパンの調査によると、2005年の運用管理ソフトウェアでは、日立の24.9%に次いで、僅差となる24.3%で2位となっている。累計では500万本以上のライセンス出荷実績を持つ。
最大の特徴は、ITILをベースとした運用管理ともいえるが、英国の富士通サービスでは、ITILの標準化にも携わっている社員が所属し、同社における実践ノウハウなども製品化に大きく反映されている。2006年秋には、Centric Managerの機能強化において、運用管理プロセス管理のIT Process Masterを投入。これにより、ITILの黄色本(ICTインフラ管理)、青本(サービスサポート)、赤本(サービスデリバリー)で網羅されるITILプロセス全般をカバーできるようになった。
■レガシーシステムで培った技術を活かした高信頼データベース「Symfoware」
Symfowareの製品構成(資料提供:富士通株式会社) |
3つめが、高信頼データベースと位置づけるSymfowareである。メインフレーム時代から培った高信頼性クラスタ技術を採用。競合他社のデータベースが、パーティショニング機能をオプションで提供しているのに対して、Symfowareではこれを標準で搭載。ノーダウン、ロストゼロレベルのディザスタリカバリを実現できる点を強調する。また、ワークグループや小規模システムから、インターネットアクセスによる中大規模までをカバー。サーバーごとにデータを独立させるシェアードナッシング方式の採用によって、業務拡大に伴うデータベースの増設においても、リニアに性能を高めることができる。
1995年の発売以来、レガシーシステムで培った技術を背景に機能を強化。V8ファミリと呼ぶ現行製品では、業務アプリケーションの上位互換性を維持しながら、大規模データベースへの対応、災害対策、セキュリティ対策の強化に力を注いでいる。
「これらのミドルウェア製品は、いずれも富士通が自社開発した製品。トラブル対応などにおいても、海外ベンダーの製品にありがちな調査遅延がなく、日本のユーザー、パートナーに対して、迅速な対応が可能。問題解決の時間短縮ができ、ここに国産ミドルウェアならではの強みがある」と、同社では強調する。
顧客システムにあわせたトラブルシューティング用各種ツールの開発および提供を迅速に行う体制を整えているのも、ミドルウェア製品の開発拠点を国内に置く富士通ならではのものといっていいだろう。
■グローバルでの販売強化が課題に
富士通は、現在の情報システム構築における課題として、ミドルウェアの観点から、2つのポイントをあげる。
ひとつは、企業情報システムが、業務ごとにサイロ型に林立し、統合的な運用環境、管理環境を阻害している点だ。ITリソースの最適な活用、運用プロセスの標準化といった点で、システムが林立した状況の是正が求められている。
もうひとつは、業務サービスとプラットフォームとのライフサイクルの差を背景にしたビジネススピードへの対応を阻害する要素だ。
業務サービスのライフサイクルは、フロント系で3~5年。会計系で7~15年といわれるが、プラットフォーム製品は、サーバーおよびOSで3~5年、ISVのアプリケーション製品で4年というライフサイクル。この格差が、俊敏な業務サービスの構築に影響を及ぼしている。
富士通では、システムの短期構築、安定稼働に加え、ライフサイクルの視点から段階的な進化と成長を実現するために、業務サービス層とITインフラ層に分離。業務サービス層では、SOAによって拡張性を確保するとともに、ITインフラ層では、仮想化による拡張性を担保。これらの統合運用管理において、ミドルウェアの役割があるというわけだ。
富士通ソフトウェア事業本部ミドルウェア事業統括部・山本昭之統括部長代理は、「ビジネススピードに対応した俊敏な業務サービスの構築、内部統制やコンプライアンス対応をはじめとする業務の継続を保証する安心で安全なIT基盤の構築、ITILによる運用プロセスの改善と品質向上、ITリソース活用の効率化および最適化といった点からミドルウェアを展開していく。また、ミドルウェアにおける世界の著名なベンダーとの協調によるオープンな体系化を確立していることが、当社のミドルウェアの特徴といえる」と語る。
ソフトウェアAGとの提携では、富士通のミドルウェア技術と、ソフトウェアAGのSOAベンダーとしての実績、先進のXMLインテグレーション技術との組み合わせによって、日本のみならず世界規模での展開を図っている。
J2EEやOSS(Apache/Tomcat)をベースにした性能、信頼性、拡張性の保証や、OSSや他社製ミドルウェアとInterStageとの業務ポータビリティの保証などもオープン化への取り組みのひとつといえる。
富士通のミドルウェア事業の課題をあげるとすれば、グローバル展開であろう。
富士通では、英国の富士通サービス、米国の富士通コンサルティング、シンガポールのFujitsu Asia Pte. Ltd、オーストラリアのFujitsu Australia Limitedのほか、ドイツの富士通シーメンス、米国の富士通コンピュータシステムズを通じて、各市場において、ミドルウェア製品の販売に乗り出している。
特に成長が著しい欧州、および市場規模が見込める米国における今後の販売強化がポイントとなる。
同社関係者の間からは、「従来は、日本製ミドルウェアに対しては、見向きもされない風潮があったが、この1年でそれが大きく変化してきている」と、海外でのビジネス基盤が整いつつあることを示す。
英国郵便公社や、韓国の証券取引所などにも導入実績を持つなど、海外のシェアを少しずつ高めているところだ。
また、富士通では、国内における認定技術者の育成にも余念がない。
同社では、Interstage、Systemwalker、Symfowareごとにコースを設定。富士通ミドルウェアマスター資格取得者には、専用サイトの利用権利を付与。技術情報などを提供している。また技術者同士の交流による情報交換なども行われている。
昨年12月末時点での富士通ミドルウェアマスターの資格取得技術者は1万6600人。一部パートナー企業においては、新人教育の一環として、この資格取得制度を採用しているケースもあるという。
一方、同社では、Interstageで88社、Systemwalkerで100社のパートナー企業を持つが、これらの企業とも、さらに踏み込んだパートナーシップと、共同での提案活動も必要になるだろう。
大手企業だけでなく、年商で30億円以上の企業規模での導入も促進されており、こうした領域への深耕には、パートナーとの連携が、より重要になるのは間違いない。
さらに、富士通が社内の業務プロセス改革として取り組んでいる「PROJECT EAGLE」による実践ノウハウも、ミドルウェア事業の推進の上で強みのひとつとなりそうだ。
実践やノウハウに裏付けられた富士通ならではのミドルウェアの強みが、今後、どう発揮されるかに注目したいところだ。