ビッグデータ時代にこそ、EMCジャパンの総合力が発揮される
EMCジャパン・代表取締役社長・山野修氏
EMCジャパン・代表取締役社長・山野修氏 |
「クラウドの広がりによって加速するビッグデータ時代は、単に情報が膨れ上がるだけの事象ではない。これまでのコンピューティング手法では通用しなくなる時代が訪れることこそが本質的な変化である」――。
EMCジャパンの山野修社長は、同社が強く訴求する「ビッグデータ時代」の定義をこう説明する。あわせて、EMCジャパンは、単なるストレージベンダーから脱皮。仮想化、セキュリティ、管理、分析までのソリューションを提供する「情報インフラのリーダー」を目指すと語る。
EMCジャパンが目指す道とはなにか。昨年までRSAセキュリティの社長を務め、2011年1月にEMCジャパンへの統合とともに、EMCジャパン社長に就任した山野社長に、新社長としての抱負、そして同社の今後の事業戦略について聞いた。
■これまでのやり方が通用しない「ビッグデータ時代」の到来
――EMCジャパンでは、ここにきてビッグデータ時代の到来という言葉を積極的に発信していますね。これはどういった意味を込めているのですか。
山野氏
クラウド時代が到来し、ITのコモディティ化が進むことで、データ量の増加量はこれまで以上に加速することは明らかです。例えば、クライアント環境ではデータ保存容量に物理的な制約があったが、クラウド環境になればそれが回避できるようになる。また、スマートフォンに代表されるように、手元には複数の情報機器があり、それぞれの端末で情報を活用するケースが増加することもデータ量の増大に拍車をかける。さらに、ビデオ情報が増加し、しかもこれを複数の場所に保存している人が多い。
こうしてみると、データ量が増大するスピードはこれまでの延長線よりも、さらに急角度で増えていくことになります。ただ、我々が示すビッグデータ時代というのは、単にデータ量が多くなるということを指したものではありません。ビックデータ時代というのは、これらの膨大なデータを、従来のような仕組みで保存したり、保護したり、分析したりといったことができなくなり、それを解決するための新たな手法へと変化することを指します。それこそがビッグデータ時代の意味なのです。
構造化データ以上に、急激な勢いで膨れ上がる非構造型データを、果たしてどう活用していくのか、そのためにはなにが必要なのかという切り口が最もわかりやすい例でしょう。これまでのコンピューティング手法では通用しない時代がやってきている。EMCは、その時代において、新たなストレージソリューション、セキュリティ、バックアップ、分析手法を提供する。それこそがビッグデータ時代におけるEMCの役割です。
――これまでの延長線上の考え方では通用しなくなると。
山野氏
あらゆるものが変わっていく必要があるでしょう。もうひとつ理解しておかなくてはいけないのは、これだけデータが膨大になるにも関わらず、IT管理者の人数は変わらない。IT投資予算はむしろ削減の方向にある。効率のいい管理手法、運用手法を提供しないと、どこかで破綻するのは明らかです。デジタルユニバースと呼ばれる新たな社会ができあがる中で、その社会に合致した新たな手法を導入すべき時代に入ろうとしているわけです。
――EMC自身もそれに向けて進化を遂げているというわけですか。
山野氏
もともとEMCは、SAN市場における高信頼、高性能のストレージで評価を得て成長を遂げてきました。周知のように、ハイエンドストレージ分野では多くの実績がある。ただ、SANは構造型データを中心に扱うのに適しているが、膨大に増大する非構造化データに対応するためにはNASにも事業を広げる必要がある。データの保護や活用、分析に向けたソリューションとして、インフォメーションライフマネジメント(ILM)にも範囲を拡大してきた。
しかし、ここもまだまだエンタープライズの領域に留まっており、これをさらにサービス事業者など、パブリックデータの領域にまで広げてきたのが近年の取り組みです。2004年にVMwareを買収して、サーバー仮想化の領域に踏み出すとともに、ストレージの中の仮想化だけに留まらず、複数のストレージを束ねて、ストレージアレイ、ストレージプールを構築し、複数のデータセンターをまたいで仮想化するといった領域にも踏み出している。バックアップソリューションや、2010年のGreenplumの買収に代表されるようなクラウド時代、ビッグデータ時代に対応したサービスにも乗り出しています。
■情報インフラの先進的リーダーを目指す
――EMCでは、「情報インフラの先進的リーダーを目指す」という表現をしています。これに込めた意味はなんですか。
山野氏
大切なのは「ITインフラ」ではなく、「情報インフラ」と表現している点です。情報インフラというのは、あくまでも「データ」をベースにしたインフラによってビジネスを展開していくことを示したものです。データを主役に捉え、ストレージ、バックアップ、仮想化、分析ソリューションなどを提供する。これらはすべて情報インフラのためのソリューションだといえます。
――米国本社の決算をみると、EMCの売上高において、ソフトウェアおよびサービスの構成比が過半数を超えていますね。情報インフラを機軸とするビジネスを展開していく上では、ハードウェアの売上げ構成比はこれからますます減少していくことになりますか。
山野氏
それは十分考えられます。ご指摘のようにすでにハードウェアの売上げ構成比は半分以下ですし、これからもその傾向は強くなるでしょう。また、こんな考え方もできるのではないでしょうか。ストレージは、ディスクはハードウェアであり、外から見える筐体そのものもハードウェアといえますが、中身はソフトウェアの固まりと捉えることができるのです。メモリマネジメントをはじめとする管理ソフトウェアや、仮想化のためのソフトウェアなど、付加価値の部分の多くは最先端のソフトウェア技術で構成されている。
昨年、サーバーベンダーが、ストレージベンダーの買収に積極的に動きましたが、この背景にはストレージに搭載されている最先端のソフトウェア技術と、サーバーに必要とされるソフトウェア技術とはまったく異なるほど技術的な差がある点が見逃せません。最先端のソフトウェア技術がなければストレージを作れない。つまり、ハードウェアの売上げの多くも、ソフトウェア抜きには考えられない。これまでのEMCの買収を振り返ると、ハードウェア企業を買収しているのではなく、ソフトウェア企業を買収していることがわかります。
情報インフラを提供するためには、ソフトウェアが極めて重要な役割を果たすのは事実です。まだ日本市場では売上高の半分以上がハードウェアです。日本の市場ではハードウェアの方が予算をつけやすいというユーザーの傾向がありますから、なかなか米国並というわけにはいかないという事情も背景にはあります。しかし、ハードウェアに含まれるソフトウェアを含めると、日本においても、すでに過半数はソフトウェアだといえます。
■買収戦略の根本にある考え方とは?
――EMCは、積極的な買収に取り組んでいますが、この根本にある考え方はなんでしょうか。
山野氏
2003年以降で、実に40社以上という買収を行っています。2004年のVMware、2006年にRSAセキュリティ、2009年のData Domainといったところが大きな買収案件といえるでしょう。
40社以上に渡る買収に共通している考え方は、すぐに成果を出すスタックとしての積み重ねではなく、4~5年先の市場をみた上で、先行投資の形で買収をしている点です。そして、基本的な考え方は、やはり「情報インフラ」という言葉に集約することができる。ストレージの世界は、従来型のエンタープライズデータの拡大といった動きの一方で、クラウドへの対応、そして将来的なビッグデータへの対応という3つの観点での進化がある。それらを見据えた上での買収だといえます。
――2010年に買収したIsilon Systemsの買収も同じ観点で捉えていいわけですね。
山野氏
100テラバイトを超えると、従来のNASではボトルネックが出始め、対応できなくなってくる。その解決策としてスケールアウト型のNASが注目されている。数年先の将来を予測すると、データ量の増大に伴い、スケールアウト型のNASが主流になってくる可能性は高いでしょう。これも情報インフラという観点で一本筋が通ったものだといえます。
EMCには、エンタープライズ向けストレージのVNXファミリがありますが、これは数10テラバイトのデータを対象にパフォーマンスが要求される場合に活用するものであり、その点では、Isilon Systemsの製品は、方向性が異なるものと位置づけられます。
Isilonは、研究所やメディア企業などで多くの実績があり、EMCが弱い部分を補完する企業でもある。すでに今年1月から、EMCのハイタッチ型の営業部門が、Isilonの製品を紹介しはじめていますし、それをIsilonのパートナーを通じて販売するという仕組みがスタートしている。4月後半にはIsilonに関して、改めて事業戦略などを発表できると考えています。
――同じく2010年に買収したGreenplumに関してはどうですか。
山野氏
これもまだ日本において、具体的な事業方針を発表できる段階にはありません。ただ、日本でもすでに大手企業が導入して成果をあげている。いままでのデータウェアハウスやデータマイニングの仕組みでは処理ができなかったものが、分散環境によってより効率的な処理を実現でき、お客様が新たなビジネス展開の創出を支援することにつながっています。
■クラウド分野での強みはVMwareによる「仮想化管理」
――EMCではクラウド・コンピューティングの市場をどう捉えていますか。
山野氏
クラウド・コンピューティングの定義はさまざまですが、EMCではかなり広い範囲で捉えていきたいと考えています。むしろ、当社からここまでがクラウドであるという定義をする必要もないですし、お客様にとってはクラウド技術を利用して、使いやすくなればいいわけですからね。では、EMCではその市場に対してどんなアプローチをするのか。
プライベートクラウドを構築するユーザー企業に対しては、ストレージのみならず、さまざまな情報インフラを提供していく。また、新たな動きとして、パブリッククラウドに対しても、通信事業者、サービス事業者に対し、同様に情報インフラを提供していく。電気業界に当てはめれば、EMCは発電機を売る企業であり、電力を売るビジネスはやらない。そのスタンスは明確にしていきます。
――クラウド・コンピューティング市場におけるEMCの強みとはなんですか。
山野氏
クラウド・コンピューティング環境のOSともいえるVMwareを活用した仮想化環境の提供は最大の強みです。他社からも仮想化ソリューションはありますが、VMwareの最大の差別化ポイントは、仮想化管理の部分です。クラウドにおいてもこれは強みになる。
また、ハイエンドストレージからiomegaのコンシューマ製品まで幅広いハードウェアを取り揃え、あらゆるスケールに対応できること、スケールアウト型の提案も可能であることも強みです。さらに、ストレージ製品だけに留まらず、セキュリティ技術のRSAセキュリティ、データ管理のDocumentumなどのクラウドに必要な技術を有している。
クラウドの世界で最も大変なのは管理です。エンタープライズシステムでは、情報システム部門が管理できたものが、クラウド・コンピューティングでは管理が追いつかなくなる世界へと突入する。これをワンストップで提供できるのはEMCジャパンならではの特徴といっていいでしょう。
さらに、シスコシステムズとの連携によるVCE(Virtual Computing Environment Coalition)を通じた統合型提案も可能です。ここでは、今後、市場拡大が予想されるコンバージドサーバーに対しても、EMCならではの提案ができると考えています。私はコンバージドサーバーの市場は一気に成長すると考えています。中立的なプラットフォームであり、ベンダーによる囲い込みにはならないVCEの共同活動は、この市場においていいポジションを獲得するだろうと自信を持っています。
■「EMCは高い」という間違ったイメージを払しょくする
――2011年におけるEMCジャパンの取り組みはどうなりますか。年頭の事業方針説明では、「EMCは高いというイメージを払拭する」と発言し、受け取りかたによっては低価格路線へとシフトすることを宣言したようにも聞こえましたが。
山野氏
「安売りをする」という直接的な意味ではないんです。これまでのEMCのイメージは、高信頼、高性能であり、その点では高い認知をいただいています。「ハイエンドストレージはEMCだ」という絶対的な評価もいただいている。ところが、これを裏返して捉えると、「EMCは敷居が高い」とか、見積もりを取る前から「価格が高いだろう」という先入観がある。実は、日本のストレージベンダーと比較しても決して価格が高いわけではない。むしろ安い場合の方が多い。
今回、VNXeという低コストで導入が可能な中小企業向けエントリークラスの製品を新たに投入するわけですから、それにあわせて、シンプルで、高効率であり、お手頃な価格の製品を用意したというメッセージを打ち出したわけです。
私は、「EMCは価格が高い」というイメージを、まず払拭したいと考えているんです。それによって、より多くの企業にEMCのストレージを活用していただきたい。
アプリケーションの寿命に比べて、ストレージの寿命は短い。4、5年もすれば容量が足りなくなり、買い換えたいというのがユーザーの本音です。しかも、ストレージのパフォーマンスは大きく進化する。最新の高性能、大容量のストレージを、導入しやすい環境を作りたいのです。日本のユーザーは、一度導入したシステムを塩漬けにして運用するケースが多いが、もっとうまくストレージを活用していただくための提案を行いたいと考えています。
■パートナー体制の強化が重要
――一方で、2011年における社内体制の強化ポイントはなんですか。
山野氏
EMCジャパンは、ハイタッチ型の営業体制としていますから、それをベースとしたパートナービジネスの強化には引き続き取り組んでいきたいと考えています。販売パートナーであるVelocityパートナーの数も増えていますし、数々の買収の結果、買収先のパートナー各社にも、新たにEMCのパートナーに加わっていただいています。これによって、これまではカバーできなかったようなソリューション提案が、パートナーを通じて行えます。
パートナー支援体制は重要な強化ポイントの1つであり、具体的には、パートナー事業本部の陣容を、この1年で2倍に増加し、パートナー向け営業支援、マーケティング支援、テクニカルサポートを強化している。ただ、まだまだ陣容が不足しているという認識がありますから、2011年末までにはさらに3割程度増やし、40人規模の体制にまで拡大したいと考えています。
一方で、成長領域としては、ストレージ製品を上回る形で、重複排除やD2D(ディスク・トゥ・ディスク)のバックアップソリューションが成長していますし、データウェアハウス型の分析ソリーションにも高い関心が集まっている。情報インフラ関連の各種ソリューションの提案を強化するための体制づくりも進めていきます。
■SAN/NASのユニファイド・ストレージ「VNX」を強力に推進
――2011年度におけるEMCジャパンの重点製品とはなんでしょうか。
山野氏
CLARiXブランドとCelerraブランドを統合した新ブランド「VNX」と、エントリーモデルの「VNXe」は重点的に展開していく製品となります。機能性、効率性を考えれば、他社製品に比べて2~3年先行していると自負していますし、NASだけで利用するユーザーというのは少なくなっていますから、SANとのユニファイド環境を実現する点でも強みが発揮できると考えています。
情報システム部門では、必ずファイルサーバーは残ります。そのため、NASとSANとを別々に管理する必要があった。ユニファイドストレージ環境では、ひとつの筐体のなかで、SANとしても、NASとしても利用できるわけですから、非常に効率的になる。容量についてもどちらがどう増えるのかといった将来の予測がつかないところに、柔軟な割り当てができるわけですから、その点でも効率性が高い。
一方で、NASのユーザーも、Exchange ServerやSQL Serverの活用などにおいて、一部でSANを利用したいというニーズがある。その方が効率がいい場合もある。しかし、これをNASの中で、無理をしながら使っているのが実状です。ここに、ユニファイドストレージの特徴を生かせる。海外では、かなり大きな引き合いをいただいている製品ですから、日本もそれに負けないように伸ばしていかなくてはならない。ユニファイドストレージ製品としたことで、従来のCLARiX、Celerraをあわせた台数よりも、70~80%は成長させていきたい。日本においては、最も力を入れる製品です。
もう1つ重点製品と位置づけているのが、先にも触れたバックアップソリューションです。ストレージでの重複排除を行うData Domain、サーバーでのソフトウェアによる重複排除を行うAvamarといった製品を持つ強みは他社の追随を許しません。そして、これらの製品は、限界に達しつつあるテープバックアップの限界を解決するためのD2Dのキーソリューションになります。
Data Domain製品では、現在、半額にするという戦略を取っていますが、それでも金額ベースでは2倍弱の成長を見込んでいますし、台数ベースでは4倍近い伸びを見込んでいます。かなり強気の見通しではあるのですが、市場はまだまだある。手つかずだったところもあると考えています。また、ここ数年、日本のIT投資は減速していましたが、ストレージに関しては需要が回復しつつある。こうした追い風も考慮しています。
■「技術も分かる社長」というカラーを出したい
――2011年1月に社長に就任してから、どんなことに取り組んできましたか。また、EMCジャパン初の技術畑出身の社長という立場からも、どんな独自カラーを出しますか。
山野氏
1月、2月の2カ月間は、米本社とのミーティングおよびキックオフ、パートナーとの話し合い、そして、社員に対する方針説明、50社以上のお客様への訪問といったことに時間を費やしました。前任の諸星俊男会長は、大変社交的な性格ですし、パートナーやお客様のところに随分通っていました。私も同様のスタイルを踏襲したいと思っていますが、技術的な点からももっと深い話ができるという点で、私のカラーが出せるのではないかと思っています。お客様とは、EMCのストレージ事業の話だけでなく、クラウドの技術動向や、情報システム全体の動きについても深く情報交換をしたい。
EMCは、ストレージというコアコンピタンスを持っていますが、これまでお話したように、ソリューション、サービス、ソフトウェアといったところに差別化できる力がある。だが、それが伝わり切れていなかった反省がある。
言い換えれば、EMCには解決できるソリューションがあるのにそれを提供していなかったともいえる。お客様の要求をもっと深く聞くことで、EMCの技術やサービスによって、お客様の課題を解決していきたいと考えています。まだEMCの姿をちゃんと理解していただけていないという気持ちが強いですから、ストレージだけでなく、バックアップ、セキュリティ、仮想化、分析など、情報インフラに関するさまざまなソリューションを持っている会社であるという認知を高めたい。
それと、もう1つは、もっと機敏にビジネスを推進する体制を作りたい。まだまだビジネスを加速できる余地があるし、EMCジャパンはそのポテンシャルを持っていると私は考えています。エンタープライズ分野で長年ビジネスを展開してきた企業ですから、どこかにおっとりと構えるところがある。しかし、クラウド・コンピューティングの世界でEMCジャパンは事業を拡大していく姿勢を示したわけですから、それに対応したスピード感、機敏性を持たなくてはならない。
一方で、これまでEMCジャパンが培ってきた信頼感をさらに高めたい。EMCは、高性能、高信頼を評価していただき、成長してきた。ストレージはEMCにしておけば安心だという信頼感は絶大です。これをローエンド製品や、バックアップソリューションにもつなげていきたい。我々が売っているのは、ストレージではなく、「安心」や「信頼」です。その姿勢は、ビッグデータ時代にも変わらないものだといえます。