「日本品質で、グローバルにつなぎ続ける」
NTT Com 海野 忍副社長

クラウド Watch新装刊記念・特別インタビュー


 「NTTコミュニケーションズの最大の強みは、ネットワークキャリアであること。信頼性の高いクラウド・コンピューティング環境をグローバルで提案することができる」――。

 NTTコミュニケーションズの代表取締役副社長兼法人事業本部長の海野忍氏は、同社のクラウド・コンピューティングの強みをこう定義する。

 国内外のデータセンターの設置、安心、安全に活用できるセキュリティ技術、企業活動を継続させるための強固なネットワークインフラ構築といったネットワークキャリアとしての実績は、そのままクラウド・コンピューティングの差別化策につながると同社では断言する。

 NTTコミュニケーションズのクラウド・コンピューティングへの取り組みを海野副社長に聞いた。

これまでのビジネスの延長線上に、クラウドの世界があった

NTTコミュニケーションズ海野忍副社長

――NTTコミュニケーションズは、クラウド・コンピューティング事業をどう位置づけていますか。

海野副社長:当社がネットワークキャリアとして取り組んできた技術は、クラウド・コンピューティングを構成する要素と重なり合うものが多い。これまでのビジネスの延長線上に、クラウド・コンピューティングの世界があったといえます。

 その点では、大きな意味で捉えれば、当社のBtoBビジネスのほとんどはクラウドビジネスである、と表現することもできます。インターネットの世界の人たちが「クラウド」という言葉を使いはじめ、そのなかで当社の製品やサービスが使われ始めるようになり、まさに世の中の流れが当社の技術、ノウハウを生かせる領域に向かってきた。

 NTTコミュニケーションズにとっては千載一遇のチャンスがきたといえます。あえていえば、当社自身が、最初にそれに気がつかなかったことが悔しいですね(笑)。

――ユーザー企業の関心が、クラウド・コンピューティングに集まっていることはどんな点で感じますか。

海野:かつてのメインフレーム+ダム端末といった世界が約15年、その後、クライアント/サーバー型のコンピューティング環境が15 年、そして、いま、新たなクラウド・コンピューティング時代が訪れようとしています。

 これが15年間続くかどうかはわかりませんが、ユーザーの関心が、この新たなコンピューティングモデルに注目が集まっていることはヒシヒシと感じます。データセンターは急速な勢いで増強していますし、我々の予想を上回る形で需要が拡大している。

 所有から使用へ、といった観点でICTを検討するといった動きも増えています。ただ、その一方で、クラウドに対して、ユーザーが大きな不安を持っていることも感じます。

 たとえば、クラウド・コンピューティングが注目を集めているという背景のひとつとして、個人情報保護法の問題などから、手元にデータを置くというリスクに対する懸念が高まってきたことがあります。

 ところが、その一方で、クラウド・コンピューティング環境では、一体、データはどこにあるのか、データセンターは大丈夫なのかという、セキュリティ面での不安がある。

 データは手元にあるのは不安だが、実は手元になくても不安だということが起きている(笑)。この不安が、どう変化していくのかといったことも、これからのクラウド・コンピューティングの普及においては重要なテーマだといえます。

 手提げ金庫のなかに現金を入れて、押入れの奥にしまうのと、銀行に預けるのとはどっちが楽か。そして、銀行に預けるほうが楽だと思ってくれるまでにどれぐらいの期間がかかるのか。これがクラウドの普及速度にも影響してくることになるでしょう。

クラウド型サービスに対する顧客企業の不安

 もうひとつ課題をあげるとすれば、クラウドならではのメリットをもっと知っていただく必要がある。

 いまや雨水を貯めて、濾過器を作って、飲み水を作る人はいません。水道から蛇口をひねって飲み水を得る。それと同じで、いちいち濾過器を作るように、ITシステムを構築していたら、コストの観点でも、スピードでも競争には勝てない。

 また、あるサービスをスタートさせるのに、サーバーは10台必要なのか、それとも100台必要なのかといったことを予測するにはかなりの時間を要する。それにも関わらず、これはなんらクリエイティブ性がない作業。極論すれば無駄ともいえる。

 クラウド・コンピューティングならば、その作業がいらなくなり、サーバーが足りなくなったら増やし、余ったら返すということができようになる。そして今後、クラウド・コンピューティングが広がっていくには、ユーザー自身が変革していくことも必要だと思っています。

ユーザー企業にも変革が必要~「攻めのICT」と「守りのICT」

――それはどんな点での変革ですか。

 ひとつは、ユーザー企業が、標準にあわせるということに対して、素直に頷くことができるかどうかです。日本には、自らの個性を生かしたいと思うユーザーが多い。ひと昔前までは、隣が使っているから同じものは使いたくないという、いい意味でのライバル意識が強かった。

 ただ、これは結果としてコスト引き上げてしまうことになった。企業における経費圧縮の動きや、地方自治体の財政が苦しくなったことで、少しずつ標準に対して理解が出てきたが、こうしたことがもっと広がる必要がある。

 誰がやっても同じ仕事は、それを専門的に行う企業などに任せた方が、コストもかからず、気を使わなくて済むということも言える。私は、どの企業でも共通的に行う業務はルーティンワークと位置づけ、ここにこそクラウド・コンピューティングが生きると考えています。

 一方で、経営戦略上、戦略的差異化要素になるようなICTの導入の検討など、ブレーンワークといえる部分において、情報システム担当者に汗を流してほしい。もしも、クラウド化したことによって、情報システム担当者が「自分の仕事がなくなる」という危機感を持ってしまったら、競争力を確保するという意味で、それは逆に弊害になります。

 そうではなくて、情報システム担当者にはむしろ高度な仕事が残る。これまで以上に大きな仕事が待っている。情報システム担当者が、進むべき方向に、正しく進むことができないと、ユーザー企業はクラウドのメリットを享受できないといえます。

 世の中全体が、ルーティンワークの部分をクラウドに任せているのに対して、自らの会社だけが、そこを自前でやっているとしたならば、それは濾過機を作って、飲み水を作っているのと同じですから、競争に負けるのは明らかではないでしょうか。私は、ルーティンワークを「守りのICT」とし、ブレーンワーク「攻めのICT」と表現しています。情報システム担当者は、攻めのICTの部分を担ってもらうことが、企業の成長につながると考えています。

ルーティンワークをクラウド活用でアウトソーシングし、浮いたリソースで「攻めのICT投資」を行う。情報システム担当者には攻めのICTを担ってもらうことが企業の成長につながる

――「守りのICT」はクラウド・コンピューティングに適しているというのが、NTTコミュニケーションズの考え方となりますか。

 少なくとも私はそう思っていますし、法人事業本部においては共通の認識です。だが、誤解を恐れずにいえば、日本の企業の情報システム担当者は、守りのIT投資に対して多くの労力をかけている現状から脱却できていない。

 ガートナーの調査によると、日本の企業は、業務プロセスの効率化、業務コストの削減といった、いわば、守りのIT投資を優先しているのに対して、米国の企業は、顧客満足度の向上、競争優位の獲得、売り上げの増加、新規顧客を獲得といった、攻めへのITともいえる観点での投資が、日本の企業よりも多くなっている。

 また、2009年の野村総合研究所の調査によると、日本の企業におけるこの数年間のIT投資配分をみると、業務効率化目的、基盤関連という、守りのIT投資の比率が年々増大傾向にあり、情報活用目的、戦略的な目的という攻めのITへの投資は減少傾向にある。

2007年ガートナー調査(リリースPDF)。日本企業は守りのIT投資を優先にしているのに対し、米国企業は攻めのIT投資を優先している

 見方を変えれば、クラウド・コンピューティングが広がるポテンシャルがあるともいえるが、守りへのIT投資がこれからも増えるようならば、それは日本の企業の衰退につながることになる。守りのICTの領域について、クラウドの活用などによって、アウトソースするといった手を早急に打つべきではないでしょうか。

目指すのは、顧客との運命共同体

――こうした課題に対して、NTTコミュニケーションズはどんな回答を用意していますか。

 NTTコミュニケーションズが目指しているのは、お客様との運命共同体です。

 お客様から言われたから、その通りにネットワークを納めている時代は終わり、お客様のビジネスにいかにお手伝いができるのか、お客様の新たなビジネスをいかに支援できるか。そのためのICTを提案しなければ、生き残れない。

 しかし、当社の様子をみているとまだまだ御用聞き営業であるという反省があります。新入社員などを対象にした社内セミナーで、あるタイヤメーカーが、レストランガイドや地図を作っている事例を引き合いに出し、それはなぜかと質問すると、「車を走らせてタイヤを消費してもらい、タイヤを買い換えてもらいたいからだ」という回答が出る。

 しかし、その時に、ユーザーは他のタイヤメーカーのタイヤを選ぶ可能性もある。それにも関わらずやっているのはなぜか、と質問すると、今度は全員が黙ってしまう。

 実は、このタイヤメーカーがやっていることは、自社のタイヤを売ることだけではなく、タイヤ産業全体が拡大することを目指したものなんです。クラウド・コンピューティングの世界でも、そういうことをやっていく必要があるのでないでしょうか。

 クラウド・コンピューティングにおける競争相手はどこにいるのか。もちろん、同じ市場での競争相手はいます。内側の敵と、同じパイを食い合うという競争もある。だが、そうではなくて、みんなでパイを広げる競争をするという選択肢もある。これは、市場の外にいる敵と戦うということでもあります。

内側の敵と、同じパイを食い合うという競争もあるが、みんなでパイを広げる競争をするという選択肢もある

 当社では最近、テレビ会議システムに対する引き合いが多い。これも考え方によっては、企業の出張費削減という効果とともに、航空会社や鉄道会社と競争するという言い方もできる。

 ICTを活用することで、より便利に効率的な成果をあげることができる。クラウド・コンピューティングもその点で、大きな役割を果たすツールとなるのではないでしょうか。このように、クラウド・コンピューティングの価値がどんなところに発揮できるのか、それによってどんなメリットを提供できるのか、その点をしっかりと説明できる体制を構築することがこれからの課題だといえます。

NTTコミュニケーションズ最大の強みはキャリアであること

――クラウド・コンピューティングにおけるNTTコミュニケーションズの強みとはなんでしょうか。

 最大の強みは、ネットワークキャリアであることです。NTTコミュニケーションズには、現場力、人間力、企業力という言葉がある。これはクラウドビジネスにおいても、大きな力となっています。

 例えば、現場力という点では、交換器、伝送装置を取り扱ってきたネットワークキャリアとしてのオペレーションノウハウを生かし、データセンターの国内広域分散化、海外広域分散化といったことを自然にやっている。

 データセンターでディスクがクラッシュした場合に、自動的にほかのディスクに切り替えたり、東京のデータセンターそのものが災害の影響で駄目になった場合には、大阪のデータセンターに自動的に切り替えるということができる。

 ネットワークキャリアとしては、当然のこととしてやってきたことであり、しかもすべてを自動化で対応している。そこが他社の技術者とは違う人間力という部分でもあります。

 さらに、企業力としては、NTT東西のローカルキャリアの足回りを活用し、NTT ドコモとはFMCの分野で一緒にやっていくほか、NTTデータとはアプリケーション領域でのシナジーを発揮するなど、オールNTTグループとしての対応も特徴だといえます。

 一方、「信頼できるパートナーである」ということも当社の強みです。データを預けた先が倒産したら、企業は継続性の観点から大変困ることになる。また、セキュリティに対する安全性、それを担保するための資金力も求められる。

 NTTコミュニケーションズは、NTTグループの1社であるという安心感だけでなく、これまでの実績からも証明されるように、責任あるサービス提供者として選択していただける地盤を持っているといえます。サーバー技術、ネットワーク技術、そしてオペレーション技術においては、高い技術力とノウハウを蓄積している。

 それは、サーバー仮想化技術における技術的な強み、あるいは地理的な観点からみたネットワークの信頼性といったものとしても表現できる。信頼性という観点では、機械的に稼働率が99.999%ということや、二重、三重のセキュアな環境を構築している点も強調できますが、それだけではなく、むしろ仮に事故があったとしてもお客様を裏切るようなことはしないという実績に裏付けられた信頼性こそが重要ではないでしょうか。

 我々は、できなかったからといって尻尾を巻いて逃げるわけはいかない会社です。契約をしたのであれば、どんなに赤字になっても必ず作り上げる覚悟はある(笑)。そこに、NTTコミュニケーションズの信頼のベースがあるのです。

キャリアとして培ってきた、サーバー仮想化技術技術、保守運用オペレーション、冗長性を備えた設備やネットワークが信頼性を支える

グローバル展開への取り組み

――最近ではグローバル展開への取り組みが目立ちますが。

 そうですね。グローバル展開は当社にとって欠かすことができない強みです。NTTコミュニケーションズは、国内で約 70拠点のデータセンターを持っていますが、海外でも約30拠点のデータセンターがある。

 これだけ多くのデータセンターを海外にもっているのは、日本の企業ではNTTコミュニケーションズだけではないでしょうか。データセンターへの投資はこれからもまだまだ継続的に行っていきます。日本の企業が海外に進出する際に、我々が、そこの国はサポートできませんといった途端に、日本におけるビジネスさえも失うという危機感を持っています。

 日本の企業が、アフリカや、南アメリカにも進出するということになれば、当然我々も投資をして、そこに進出する。空白地帯を埋め、日系企業が、絶対的な信頼感をもって、我々のクラウドを活用していただける環境を作っていきます。

NTTコミュニケーションズのデータセンターは海外にあっても日本品質

「少し価格は高いかもしれないが、品質は確実に担保するのがNTTコミュニケーションズのやり方。どんな国においても「日本品質」であることを徹底している」

――海外企業のデータセンターと、NTTコミュニケーションズの海外のデータセンターとの違いはなんですか。

 海外における当社のデータセンターは、すべて「プレミアムデータセンター」という呼び方をしています。一般的に、それぞれの地域ごとにデータセンターの品質基準というものがありますが、NTTコミュニケーションズが展開している海外のデータセンターは、そのすべてが「日本品質」によるものです。

 例えば、東南アジアの一般的なデータセンターに比べると、当社のデータセンターの品質は高い。郷に入れば郷に従えで、一定の品質に抑えながら、価格を落とさなければ、売れないのではないかという意見もあるでしょう。しかし、そうではなくて、少し価格は高いかもしれないが、品質は確実に担保するのがNTTコミュニケーションズのやり方。

 どんな国においても「日本品質」であることを徹底しています。この考え方は、日本の企業だけでなく、海外の企業からも高い評価を得ている。いま、香港のデータセンターを増強していますが、その背景には、中国本土に進出しようとしている欧米の企業が、中国国内にサーバーを置きたくないという事情とともに、安定した環境を提供できることから当社のデータセンターを選んでいただいていることが見逃せません。

 日本にはまったく拠点がなく、日本でビジネスをしていない企業が、中国をはじめとしたアジアへの進出の際に、当社のデータセンターを活用するという動きにつながっています。

――年度内には、全世界でのデータセンターの数はいくつぐらいなりそうですか。

 データセンターの数というのは、実はあまり気にしていないんです。というのも、データセンターのなかには、ビルを自ら建てて大規模にやるというだけではなく、既存のビルを活用し、あるフロアだけを使ってデータセンターを構築するという小規模なものもあります。デマンドがあれば、半年ぐらいで作ってしまうものもあるわけです。

 また、ひとつの地域に、複数のデータセンターを持っていたものを、一カ所に集約して拡大するというものもありますから、そうなれば拠点数としては減ることになります。1年後にこれだけの数があればいいという指標は当てはまらないわけです。

 とはいえ、データセンターへの投資は継続的にやっていくことは明らかです。いま、当社における海外売上高比率は約10%程度です。為替の影響もあり、連結決算ではあまり表面化してこないのですが、現地通貨ベースで見ると、かなりの成長を続けています。

BizCITY~再編で、対外的にもわかりやすいサービス構成に

――NTTコミュニケーションズでは、こうしたネットワークキャリアとしての実績をベースにして、法人向けサービス「BizCITY」を提供しています。この特徴はなんですか。

 自分のオフィスにいるのと変わらないビジネス環境を、世界中どこにいても、迅速かつ安全に提供することができるサービスが BizCITYです。それを支えるのは、ユビキタスとクラウドであり、SaaS、PaaS、HaaSといったことを含めて、トータルでクラウドサービスを提供できるものです。

自分のオフィスにいるのと変わらない環境をどこにいても迅速安全に、ワンストップで提供するサービスが「BizCITY」キャリアとして培った技術とインフラにより、広域災害時でもデータの安全性を確保する

 大きくは、サーバー仮想化技術を用いたホスティングサービスのBizホスティング、VPN を利用した大容量のファイルーサーバーアウトソーシングのBizストレージ、日本に設置したサーバーによって信頼性の高いWebメールサービスを提供するBizメール、サーバーの脆弱性の診断から社内クライアントPCのセキュリティ管理までを行うBizセキュリティから構成されます。

 また、Biz Communicatorによって、USBだけを所持すれば、どこでもオフィスと同じ環境でPCを利用できるほか、FMCサービスにより、広域分散化されたグローバルなインフラを活用して、会社で使用している携帯電話やスマートフォン、PCを、外出先や海外にそのまま持ち出しても、オフィスと同じ環境で安全に利用できるようにしている。

 なかでも、Bizメールは、高いコストパフォーマンスと、安心・安全を実現する日本品質のサービス、そして、自社構築システムと同じように使えるサービスとして提供できるため、他社が提供する無料のメールサービスなどと比べても、安全、安心の活用が可能となります。

――NTTコミュニケーションズがクラウドサービスを提供する基盤は、BizCITYによって、すでにラインアップは揃ったといえますか。

 私は、ひと通りは揃っていると考えています。ただ、永遠の課題として、これをさら使いやすいものにしていく必要がある。これまで、NTTコミュニケーションズには、様々な関連製品があり、外から見ると、何がどこに使えるのかがわかりにくいところがあった。もしかしたら社員でもわからなかったかもしれないほど(笑)。

 Setten(セッテン)という技術も、当初は製品名としていたが、これも再定義し、クラウド技術基盤として、より位置づけを明確にした。

 この半年ほどで、BizCITYを再編したことで、対外的にもわかりやすいメッセージを発信できるようになったと思っています。

 余談になりますが、最初の製品というのは、実に機能や仕組みが単純なんです。カメラだって、世の中に登場したときには、単にレンズがついたシンプルなものでした。しかし、その後、二眼レフ、一眼レフとなり、さらに数々の付加価値機能が搭載されるようになる。

 そうなると最上位の製品は、プロしか使えないような機能が搭載されるようになる。こうした時期を経ると、その次には改めてシンプルなものが登場するようになる。コンパクトカメラの登場がまさにそうですね。

 一度、機能が行き過ぎるタイミングがあり、そこから普及しやすいものが登場する。BizCITYもそれと同じ道を辿ったといえますね。多くの製品を作り、多機能化し、そして、それを整理していく段階に至った。品揃えが単純になってくると、普及段階に入ってくることになる。その体制が整い始めたといってもいいと思います。

NTTグループ内の棲み分け~海外では明確な分業

――NTTグループなかには、ほかにデータセンター事業を展開している企業もありますね。棲み分けはどうなっているのでしょうか。また、この分野も再編の道を歩むようになるのでしょうか。

 まずグローバル展開という意味では、その棲み分けはうまくいっています。例えば、海外のデータセンターを構築する時には、NTT コミュニケーションズが建物を作り、電力とネットワークを敷いて、ラックサーバーを導入するところまでを担当する。そして、NTT データがミドルウェアやアプリケーションを導入する。分業が明確にできています。

 この仕組みは日本にももってこようよ、という話はしていますが(笑)、いまの段階では、国内ではいい意味で競争をしていますし、現状ではいくらデータセンターを作っても足りないという事情もある。

 ですから、NTTデータやNTT東西が、それぞれにデータセンターを作っても、それほど競合はない。ただ、あと数年もすると、どこかで整理しなくてはならないタイミングが出てくるかもしれません。

 上位レイヤーをNTTデータが、ミドルの領域をNTTコミュニケーションズが、そしてローカルキャリアとしての展開はNTT東西といったように、お互いのプロパティをうまく生かした棲み分けが必要かもしれまません。

キーワードは「日本品質で、グローバルにつなぎ続ける」

「ネットワークキャリアが提供するクラウドの最大の強みは、信頼性に尽きます」

――NTTコミュニケーションズにおける2010年度のクラウド・コンピューティング戦略のキーワードはなにになりますか。

 NTTコミュニケーションズでは、2010年度を最終年度とする「事業ビジョン2010」に取り組んでいます。

 法人ビジネスにおいては、ICT Solution Partnerをスローガンに、法人事業の拡大のほか、新技術による新たなネットワークサービスの創出、グローバル展開の強化といった3つのテーマに取り組んでいる。

 そこでキーワードとしているのが、「日本品質で、グローバルにつなぎ続ける」、「つなぐ、つなぎつづける」ということです。当社のクラウドビジネスにおいても、まさに同じ言葉が当てはまると考えています。

 ネットワークキャリアが提供するクラウドの最大の強みは、信頼性に尽きる。クラウド・コンピューティングの領域でも、私たちに多くの仕事を任せてもらえるのか。グローバルデータセンターを活用したグローバル展開の提案を受け入れてくれるのか。そうした点がこれからのポイントとなります。

――事業ピジョン2010の成果はどんなところに感じますか。

海野:これまでは、横通しする機能がなく、それが重複した製品やサービスを生み出したり、ひとつのお客様に対して、複数の事業部門が提案するといったことにつながっていた。

 3年間の取り組みを通じて、これが大きく改善され、社員同士が、隣近所をみるようになってきたな、という感覚があります。明らかに組織間のコミュニケーションが増え、効率的に事業を進めることができるようになってきた。

 NTT東西やNTTデータとの競合ということも減ってきたといえます。グループ企業のトップレベルでの情報交換が増えていることが背景にあるのではないでしょうか。

 一方で、グローバル展開という意味でも、この3年間で基礎ができてきた。データセンターやケーブルの整備といった投資を積極的に行ってきたほか、海外における営業力も高まってきている。社員の意識が大きく変化していますよ。

 業績は、BtoCの音声通話の減少を、BtoBのビジネスがカバーしきれていないために、厳しい内容となっているのは事実です。トップラインを伸ばすことができていないという点は課題ですが、その一方で、体質改善の成果は評価できるものだといえます。

 クラウド・コンピューティングは、当社にとって大きな追い風となるものです。そして、クラウド事業を通じて日本の企業がもっと元気になるように支援を行っていきたい。お客様が成長に向けて忙しくなったのならば、コモディティ化したICTの領域は、私たちがお手伝いしたい。そのための安心、安全のクラウド・コンピューティング環境を提案できる体制をしっかりと整えていきます。

関連情報
(大河原 克行)
2010/7/21 00:00