大河原克行のキーマンウォッチ

「保守サービス」から「ソリューション」への変革を実現~キヤノンS&S・神野明彦社長 (百貨店的にあらゆるニーズに対応していく)

過去最高の経常利益を達成した要因を聞く

百貨店的に、あらゆるニーズに対応していく

――キヤノンS&Sが得意なソリューションというのも明確になってきましたか。

 歴史的にドキュメントソリューションの強みはありますが、キヤノンS&Sの場合は、中小企業が主要顧客ですから、やはり幅広い領域に対応していくことが必要です。むしろ得意な領域というのはできにくい。百貨店的に中小企業が求めるあらゆるニーズに対応できることが強みです。

 現在200種類以上のソリューションを持っていますし、パッケージソリューションを中心に展開していますから、パートナーとの連携という点でも強化していく必要があります。基幹系やCAD、あるいは不動産システムといったように対象領域を広げていくことには今後も取り組んでいきたいですね。

 また、サポートについても、アプリケーションサポート、ネットワークサポートの2つのサポート体制も、当社の特徴のひとつとなっていますが、ここでも経験値を広げることができ、仮想化ビジネスへの対応やデータセンターの活用提案なども積極化しています。中小企業においても仮想化が広がり始めていることを感じますね。

――クラウドビジネスへの取り組みはどうですか。

 キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)が持つ西東京データセンターの活用は重要な切り口ですね。当社でも、すでに西東京データセンターを活用したビジネスが一部始まっています。

 ただ、当社自身はSEを持たないので、データセンター運用までは踏み出さず、ハウジング系の提案となりますが、それでも引き合いは増えています。西東京データセンターのほか、コロケーション型や一部出資する形で、都心や沖縄などにもデータセンターを持っていますので、ディザスタリカバリやバックアップの点でも安心してもらえるような提案ができる。

 グループとしての自前のデータセンターの提案だけでなく、サードパーティーのクラウドサービスも提案する体制も整えている点も強みとなります。

――先ほどの新規顧客の開拓、あるいはストック型ビジネスの提案に力を注ぐという話がありましたが、これは営業部門に対する評価や管理の考え方も変わることにつながるのではないでしょうか。

 営業部門に対する管理の基軸としては、何台売ったのかという実績は大切なことですが、それに加えて、いままでお話したような新たなスタイルでビジネスをしているのか?といったことも、管理基準に入れる取り組みを開始しました。

 営業部門の管理手法を、案件管理から、行動管理へと軸足を変えていくわけです。また新規開拓件数や保守契約件数については、直接的な評価対象としました。

――ちなみに、新規開拓の成果はどれぐらい出ていますか。

 実は、毎月新たに4万社に訪問しています。もちろん空振りも多いのですが(笑)、そこからいろいろなものが始まっています。新規顧客4万社への訪問というのはこの2年間毎月続けていることです。キヤノンS&S全体として、新規顧客開拓が定着しはじめているというわけです。

 新規顧客開拓のツールとなるのは、Windows XP(からの移行)、UTM、そして、OBCの勘定奉行をはじめとする基幹系業務ソフトウェアなどです。訪問先の業種をみて、それに適したITソリューションを提案するといったこともあります。

 ただ、情報セキュリティへの関心の高さや、Windows XPからの移行といった点からもわかるように、「IT管理」には多くの中小企業が注目しており、もはや多くの中小企業にとって共通の課題となっています。

 300人以下の中小企業においては、95%の経営者が、自社のIT管理に不安を持っているのではないでしょうか。インターネットが止まったり、メールなしには仕事ができなかったりするにもかかわらず、それが止まったときにサポートできる人がいない、という企業が多い。

 また、下請け企業はセキュリティで問題が起こせば取引が停止する可能性すらあるのに、そこまで対策が講じられていないのが実態です。

――一方で、キヤノンS&Sでは、オフィス向け通販サービス「コレモール」を展開していますが、この戦略はどう描いていますか。

 2013年10月までは「キヤノンワンストップスクエア」という名称でしたが、これを11月から「コレモール」へと変更しました。以前は名前が長すぎて(笑)、お客さまになかなか覚えていただけなかった。覚えていただけないのならば、もっとわかりやすい名前に変えてしまおうということで変更しました。

 まだ認知度は低いのですが、このビジネスを拡張していくとのいうのは重要な課題であり、今後の成長戦略の要となります。

 とはいえ、まだ全社売上高の10%以下のビジネスです。これを早いうちに3割には高めたい。まずは、その目標に向けて、2016年度には全社売上高の15%の構成比にまでは高めたいですね。アスクルやカウネット、たのめーるなどに比べるとまだまだ認知度が低いのですが、新規顧客に対するドアオープナーとしての役割を果たすこと、そして、当社が展開するのは、あくまでも企業向けである、という強みも生かしたいと思っています。

 将来的には、保守サービスも「コレモール」を通じて展開できないか、と考えているんです。物販のメニューだけでなく、PCの修理やネットワークの構築といったサービスメニューを提供する通販。つまり、これまでの通販とは逆の発想のビジネスに乗り出したい。

 物販の場合には、人を介さないで販売することが通販のメリットでしたが、サービスは人が役務を提供することになります。いわば通販を通じて、人が動くようになる。そんなことを考えているんです。

 しかし、当社にとっては、現時点では、「コレモール」そのものの土台を強くすることが先決。新たなサービスメニューが乗っかったときに、しっかりとビジネスができるような基盤を整えておきたい。途中で使えないものになり、一から組み上げなおさなくてはならないということでは困りますからね(笑)。

(大河原 克行)