大河原克行のキーマンウォッチ

「保守サービス」から「ソリューション」への変革を実現~キヤノンS&S・神野明彦社長

過去最高の経常利益を達成した要因を聞く

 キヤノンマーケティングジャパングループで、システム機器のコンサルティングセールスおよびサービス・サポート事業を展開するキヤノンシステムアンドサポート(以下、キヤノンS&S)の業績が好調だ。

 2013年度実績では、売上高は前年比13.4%増の1148億8000万円と2けた増を達成、営業利益は27億8000万円と前年の12億2000万円から倍増以上の成長。経常利益で31億円3000万円と過去最高を記録した。

 Windows XPのサポート終了に伴う需要増もあるが、同社が積極的に進めてきた新規顧客開拓が功を奏しはじめている点も見逃せない。2013年3月に社長に就任し、ちょうど1年を経過したキヤノンS&Sの神野明彦社長に、これまでの取り組みと今後の方針について聞いた。

大幅な成長の原動力は?

――2013年3月26日に社長に就任してちょうど1年が経過しました。その初年度となる2013年度(2013年1月~12月)の連結業績は好調でしたね。キヤノンマーケティングジャパン全体では、売上高が前年割れ、営業利益で微増というなかで、キヤノンS&Sは売上高で2けた増、営業利益で2.3倍という大幅な成長を遂げました。原動力はなんでしょうか。

神野明彦社長

 2001年から当社社長を務めた金子さん(=金子徹氏)が、当時、「脱・複写機屋」宣言をしました。「脱・複写機」ではなくて、「脱複写機『屋』」というところがポイントです。複写機屋のままでは生き残れない。なにか新たなことをやろうということで、MG(メンテナンス・ギャランティ=複写機の保守サービス)を収入源とした体制から、「MGレシオ」と表現したように、MGに頼るビジネスから脱却し、ITS(ITソリューション)系ビジネスの構成比を高めることに着手しました。それが10年を経過して、ようやく花が開き、2013年度の業績につながったといえます。10年間の蓄積がいまにつながっているというわけです。

 複写機やPCを中心としたハードウェアのビジネスでは、どうしても商談の対象が総務部門や情報システム部門の担当者となります。そして、結果として、ハードウェアだけの提案になり、結局は価格の話に陥りやすい。

 しかし、ソリューションという切り口になると、話が違ってきます。経営者、役員、部門トップなどの経営層クラスの方々と話をすることが多くなる。私も社長をやっていてわかるのですが、一番欲しいのは「いい話」(笑)。付加価値のない提案ならば、現場に「うまく断っておいてよ」と言うが、ちょっと毛色の変わった話がきたならば「断るんじゃない。俺に一度通せ!」といいたくなる。それはビジネスチャンスを失うんじゃないかという危機感が、経営者の共通認識だからです。

 ソリューションの提案になると、商談の対象者が、企業の上流へとあがっていくことになる。その比率が高まってきたのが、この10年間のキヤノンS&Sの変化だといえます。

――ビジネスが軌道に乗り始めた手応えというのはあったのですか。

 2009年以降は、リーマンショックや東日本大震災の影響もあり、先行きの見通しがつかず、赤字が膨らんだ時期もありました。

 そこで、2011年9月に、当時、社長を務めていた芦澤さん(=芦澤光二氏)が、巻き返しに向けた施策を立案し、そのなかで新たな発想、新しいやり方に取り組みはじめたのです。

 スローガンは、「反転攻勢」。10年前からの変革への取り組みと、「反転攻勢」によって生まれた活力とによって、2011年8月までは真っ赤っかだった業績が、わずか4カ月後の2011年12月の期末には、少しではありましたが通期黒字を成し遂げた。これは社員にとっても大きな自信につながりました。

 2012年度は、この延長線上のなかで新たなことにも取り組み、それが成果につながっている。新規顧客開拓の強化と、ストックビジネスとなるIT保守の契約件数の増加に力を注いだこと、また、情報セキュリティに関するビジネスでも成果をあげてきた。UTM(Unified Threat Management=統合脅威管理)では、その提案が着実に受注へと結びつきはじめるといった動きも出てきましたからね。

 つまり、社員たちの工夫が成果につながるといったことが、繰り返しみられた時期でもあったわけです。私は当時からサンドイッチ作戦と呼んで、ITソリューションにおける提案を、個人のスキルに頼る提案から、会社全体として取り組む提案へと変え、旧来持っているデバイスの提案でお客さまを訪問するのではなくて、一番関心を持っていただけるITソリューションで、お客さまをノックしはじめた。

 すると、いままで当社の営業担当者では会えなかった経営層の人たちにも会うことができるようになったきたわけです。こうした取り組みの成果が、さらなる社員の自信にもつながり、2013年度は一気に走ることができた。「反転攻勢」から「成長戦略」へと軸足が変わりはじめた年。つまり、2013年度は、「波に乗って行こう」という1年であり、「攻める」ことができた1年だったといえます。

(大河原 克行)