シリコンバレー新旧寵児の特許戦争 Yahoo!がFacebookを提訴
Yahoo!が、Facebookを相手取って特許訴訟を起こした。「Facebookがベースとしている技術の多くは、Yahoo!が最初に見いだした」とYahoo!は主張。大手ソーシャルメディア同士の特許紛争で、“Web戦争”とも言われている。同時に、輝きを失ったかつてのシリコンバレーの寵児が、IPOを控えた若く有望なベンチャーに嫉妬(しっと)しているようにもみえる。Yahoo!の狙いは何か Facebookはどう対抗するのか そしてハイテク業界はどうみているのか――。
■準備されていたFacebook提訴
Yahoo!が3月12日にカリフォルニア北部地区連邦地裁に提出した訴状によると、FacebookがYahoo!の保有する10件の特許を侵害して損害を与えたとしている。分野としては、ソーシャルネットワーキング、広告、プライバシー、カスタマイズ、メッセージの主に5つに集約できる。訴状には「Facebookはわれわれの特許技術を使って売り上げとシェアを伸ばしたが、それらの技術を開発するための時間とコストを回収する必要はない。だがYahoo!はこれら技術開発のコストを抱えている」と記されている。
これに対し、Facebookは「Yahoo!の行為を残念に思う。Yahoo!は以前からのパートナーであり、われわれとの提携により大きなメリットを得てきたはずだ」とFortuneなどにコメントしている。Yahoo!の行動は“当惑させる行為”としながらも、対抗する意思を見せている。Yahoo!は、なぜFacebookを訴えたのだろうか?
1つは、特許ポートフォリオの活用だろう。低迷状態が長期化するYahoo!は存続の危機にさらされている。2011年9月にCarol Bartz 氏をCEO職から解任。CFOによる暫定CEO期間を経て1月にeBayからScott Thompson氏をCEOに迎え入れ、何度目かの再建を図っている。そのThompson氏の再建戦略の1つに、これまで築いた知的財産(特許)の活用があるようだ。同氏は2月、New York Timesに対し、Facebookが自社特許を侵害していると述べている。
だが、Fortuneは、Yahoo!に近い知的所有権分野のアナリストへの取材から、この訴訟がThompson氏のCEO着任以前から練られていたことを明らかにしている。投資銀行のMDB Capitalのアナリスト、Erin-Michael Gill氏は2011年秋、Yahoo!の株主であるDaniel Loeb氏のヘッジファンドThird Pointに、Yahoo!の特許ポートフォリオの査定を求められたという。
Gill氏は査定作業中、「(特許が)Facebookに応用できることに気づいた」と述べている。Third PointはGill氏を通じてファンドマネージャーのEric Jackson氏に連絡をとり、Jackson氏は11月、Forbesに「Yahoo!が所有する特許は、FacebookのIPOへの熱望をくじく可能性がある」というレポートを寄稿している。
もう1つ見逃せないのが、対Googleで成功した前例だ。Facebookは今春のIPOに向けて準備を整えているところだが、Yahoo!は2004年にも、やはりIPOを目前に控えていたGoogleに対し、広告関連の特許を主張した。このとき両社は、IPOの約10日前に和解合意。Yahoo!は株式で2億ドル相当の支払いを受けた。
■決着シナリオは?
思惑の下で始まった特許訴訟だが、今後の展開はどうなるのだろうか?
10件の特許の侵害には議論の余地があるとされるが、広範な分野をカバーしており、Facebookがこれらすべてを回避するのは難しいとみられている。だが、Facebook側も特許対策を強化していたようだ。Fortuneによると、Facebookは過去2年間に30件の特許を集めており、その中には対Yahoo!訴訟を有利にできるものもあるという。Arstechnicaも「Facebookの保有特許数は少ないが、そのうちのいくつかはYahoo!が盗んだと主張する分野をカバーしている」と指摘する。一方、BusinessInsiderは、Facebookに投資しているMicrosoftがFacebookに“助け舟”を出すと予想する。
PaidContentは3つのシナリオを予想する。1つ目は「Yahoo!勝訴」。この場合FacebookはYahoo!にライセンス料を支払うことになる。PaidContentは、この確率を20%としている。2つ目は「Yahoo!敗訴」で確率は30%。Yahoo!が主張する特許はあいまい、あるいは先取りされているものが多く、Facebookが特許の無効化を主張した場合、認められるかもしれないという。3つ目は「特許クロスライセンス」。お互いの特許をライセンスしあう提携を結ぶものだ。多くの特許訴訟がこの形に帰着するため、PaidContentも最も高い50%という確率をはじいている。
特許クロスライセンスでは、保有する特許の数がものをいう。Reutersによると、Yahoo!が約3300件の特許を持つのに対し、Facebookは160件。数だけみると、Yahoo!に有利なライセンス合意になると予想できる。
FacebookはIPOを控えていることからも、なんとか早く決着をつけようとし、これに対してYahoo!がどう出るかだろう。PaidContentはクロスライセンスの障害として、「Thompson氏のプライド」を挙げている。
■ハイテク業界と特許訴訟
一方、業界はYahoo!の行動を冷ややかな目で見ている。Yahoo!の元取締役、Eric Hippeau氏は「Yahoo!の最後の戦いだ。無残で心が張り裂ける」とツイートした。The Economistは破産申請と同時に特許を最後のとりでとするEastman Kodakを引き合いに出しながら、「売り上げを求めるあまり、特許ポートフォリオを活用しようとしている」と記している。成功してしまうと、特許を事業の柱とするパテントトロールになるという危惧(きぐ)も見られる。
地元紙San Francisco Chronicleは、少し違った角度から、米国の特許システムそのものの問題を指摘する。「米国の特許商標庁が、重複するもの、値しないもの、定義が広すぎるものに特許を認めてきたことが問題だ」と述べ、結果として、特許は発明を奨励するツールでなく、自由市場の外で戦うための武器に成り下がってしまったというのだ。
ハイテク分野の特許訴訟といえば、ここ1~2年、スマートフォン/タブレット分野でAppleがAndroid陣営と激しい攻防戦を繰り広げている。Yahoo!は今回、これらスマホ訴訟に関与しているQuinn Emanuel Urquhart & Sullivanと組んでいるという。