データセンター消費電力増がペースダウン、予想を覆す数字の背景は


 クラウドコンピューティングやスマートフォンの拡大でデータセンターの需要がますます高まっている。だが、その莫大な消費電力は、電力不足が叫ばれる日本に限らず、世界の問題でもある。ところが、最新のレポートによると、2010年の世界のデータセンター電力消費は予想を大幅に下回り、成長も減速気味だという。エネルギー問題、温暖化問題の中、歓迎すべき動きだが、果たして一時的なものなのか、それともグリーンITが効果を生み始めたのか――。

 

データセンターが消費するのは世界の全電力消費量の1.1~1.5%

 スタンフォード大学のJonathan Koomey教授が7月31日に発表した世界のデータセンターの電力消費のレポートによると、2005年-2010年のデータセンターの電力消費量は世界で56%増加した。米国では36%増だったという。

 これは大方の予想を覆す数字だった。というのも、2000年-2005年に世界、米国とも電力消費量が倍増したため、2005年以降も同じ傾向が続くと見られていたからだ。たとえば、米環境保護庁(EPA)の2007年の予測では、米国でデータセンターの消費が電力消費全体に占める割合は2011年に3.78%に達するとしていた。

 Koomey氏は過去のデータと一貫性を持たせるため、IDCとEPAのデータを基に、ローエンドのボリュームサーバーのインストール台数とサーバー1台あたりの年間電力消費から、最大の増加要因であるサーバーの消費電力を弾き出し、それにデータストレージ、通信、その他のインフラ機器(冷却、空調、ポンプなど)の消費電力を加えた。

 その結果、2010年の電力消費は世界で2034億~2718億キロワット時、米国では671億~856億キロワット時となった。全体に対する比率は、世界で1.1~1.5%、米国で1.7%~2.2%にとどまった。先のEPAの数字は2011年を予想したものだが、その後も劇的な増加はなく、EPAの予想レベルにまでは増加しないとの見通しを示している。

 

仮想化、業界の取り組みのほか、経済危機も貢献

 なぜ減速したのか? Koomey氏は以下の要因を挙げている。

1)2008年のリーマンショックに端を発する経済危機でサーバーの設置台数の伸びが縮小
2)2007年に始まった仮想化トレンドでサーバー設置台数の伸びが縮小
3)業界全体の効率化の取り組み

 サーバー設置台数の増加と1台あたりの電力消費量増は、電力消費量が倍増した2000年-2005年の間、大きな項目となっていた。逆に今回はサーバー設置台数が伸び悩んだことが、大きな要因になったようで、Koomey氏は「経済危機の影響は大きい」とNew York Timesに述べている。

 2000年から2005年は、ローエンドサーバーの出荷台数が米国でも世界でも倍増したが、2008年のリーマンショックから始まった経済危機で、台数の伸びは減速し、2005年-2010年の増加率は米国で20%、世界で約33%程度にとどまったという。ミッドレンジはさらに予想を下回った。ただしハイエンドについては増加した。Koomey氏は、サーバー1台あたりの電力消費についても減少傾向があり、「業界は2006年から効率化に真剣に取り組み始めた」と評価している。

 またKoomey氏は「データセンターの設計や運営方法が変化している」「これは、実に重要なことだ」とも述べている。少し前に大手ベンダーが売り込んだコンテナ型のデータセンターをはじめ、チップを含むハードウェア側でさまざまな工夫が続いている。さらに、インフラでの大きな消費源となっている冷却や空調などデータセンター設計でも、さまざまな試みが取り入れられている。たとえばGoogleは、ベルギーとフィンランドにチラーレス(冷却装置なし)のデータセンターを持つし、ソーラーパネルの利用も進めている。

 レポートでは上記3つの要因に加え、クラウドコンピューティングについて、「サーバーの利用率が高くインフラの効率も高い」としており、今後クラウドが普及すれば電力消費抑制にさらに貢献するだろうとコメントしている。

 だが一方で、楽観するのは早いという意見もある。コンサルティンググループUptime Instituteの創業者、Kenneth Brill氏はレポートの整合性を認めながらも、「だからといって問題を克服した兆候だと考えるべきではない。エネルギー消費は明らかに増えており、これは誰にとっても懸念事項のはずだ」とNew York Timesに述べている。

 また、CTO Edgeは、調査はボリュームサーバーが主体であり、無停電電源装置やバックアップジェネレーターなどが計算に入っていないのではと指摘。実際はもう少し多いと見る。

 

Googleの総サーバー数は90万台

 Koomey氏のレポートは、Googleのデータセンターについての情報が入っていることでも注目を集めた。Googleは世界最大級のデータセンターオペレーターだが、同社はサーバーをカスタム構築するため、IDCのデータには含まれていない。

 レポートでは、Googleより得た情報から、2010年時点で90万台のサーバーを持つと予想。電力消費にして19億キロワット時と割り出している。2005年は35万台、電力消費量は7億キロワット時だったというから、それぞれ倍以上になっている計算だ。

 Googleのサーバー台数は、世界のボリュームサーバーの設置台数の2.8%を占めるといわれているが、消費電力という点では、0.1%以下、米国だけで見ても1%以下を占めるに過ぎない。「Googleのデータセンターインフラの電力効率は高い」とKoomey氏は述べている。また同氏は「Googleが電力消費の数値が明らかになったのは初めて」と記している。

 データセンターではFacebookが4月に「Open Compute Project」として、自社で立ち上げたデータセンターの設計仕様を公開した。サーバーの熱の再利用、外気による冷却などの取り組みによって、同社のほかのデータセンターと比較して電力効率を38%改善したという。

 心配されていたデータセンターの電力消費の問題だが、解決に向けた努力と、経済危機というおまけもあって、明るい見通しとなった。消費電力を抑えることで、環境に優しくなり、コストも削減できる。まだまだ技術革新とアイデアで、改善できると期待したい。

 

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(岡田陽子=Infostand)
2011/8/8 09:24