Grouponが60億ドルの買収提案を拒否~ソデにされたGoogleには厳しい目


 60億ドルの買収話は結局、破談に終わった。Googleが、史上最速成長企業として知られるGrouponと買収交渉を進めているという話が飛び出したのは11月末。メディアを騒然とさせた。60億ドルと伝えられたオファー額は、実現すれば、歴史に残る巨大買収になるはずだった。しかし、12月3日、Groupon側が提案を拒否したと伝えられ、この話もおしまいになった。Grouponは、なぜ60億ドルもの買収提案を断ったのだろう。

2008年DoubleClick買収時の約倍額の60億ドルでも断った理由は

 Grouponは、レストランなどの割引クーポンを、ネットで共同購入できるサービスを提供して急成長した。社名は「Group」と「Coupon」を組み合わせたものだ。1日限定販売のクーポンを毎日売り出し、購入者があらかじめ決めた人数に達すると全員の売買が成立。人数がそろわなければ不成立となる。購入したい人は、成立させるためTwitterやFacebookなどで友人に呼びかけるので“客が客を連れてくる”効果がある。

 こうしたソーシャルネットワークの側面と同時に、地域に密着したローカル広告・販促ビジネスの面も兼ね備える。ユーザーと商店の双方にわかりやすいコンセプトと明確なメリットが受け入れられ、現在、世界300以上の都市で3500万人以上の会員に毎日電子メールを配信しているという。

 Bloombergなどの報道によると、Googleは当初、35億~40億ドルを提示していたようだ。だがGroupon側が首を縦に振らなかったことから、最終的に60億ドルにまで跳ね上がったという。過去のGoogleの企業買収では、2007年のDoubleClick買収(取引完了は2008年3月)が31億ドルで最高額だった。今回はその実に2倍近い、Google史上最高額である。

 それでもGrouponが提案を断ったのは、(1)規制への懸念、(2)株式公開を視野に入れた独立性の維持――の2つの理由があったとみられている。

Grouponは創業8カ月目に黒字転換「歴史上最も急ピッチで成長している企業」

 Googleはインターネット広告で独占的地位にあり、ローカル広告のGrouponとGoogleが一緒になると独占禁止法に抵触するおそれがある。規制当局のゴーサインを得るまでにかかる時間と、その間の事業への影響を考えると(もちろん、承認されない可能性もある)、乗らないほうがよいと判断した、ということのようだ。たとえばBusiness Insiderは、交渉に近い筋の話として、「取締役会は、この取引はGoogle史上最も精査される買収になるだろうと判断した」と伝えている。独立性の維持については、「CEOのAndrew Mason氏がGoogleの下で戦略的方向性がとりにくくなると判断した」という。

 また別のBloombergの記事では、巨額買収を拒否してますます大きくなったFacebookの例を挙げている。2006年にYahoo!から買収を持ちかけられたFacebookは、その申し出を断った。そして、当時1200万人だったユーザー数は5億人に拡大し、評価額は当時Yahoo!が提示した10億ドルから急上昇して、現在430億ドルといわれている。当時のFacebookの判断が正しかったことを実証したものだ。

 Grouponは創業8カ月目に黒字転換しており、歴史上最も急ピッチで成長している企業といわれている。独立したベンチャー企業として将来的にIPOを狙うのだろう、と多くのメディアは分析する。

Google買収の噂でGrouponには大きなプラス効果

 GrouponもGoogleも、ともに取引について公式には何も語っていない。GrouponのMason氏は、12月3日以降に応じたNew York Timesのインタビュー(12月8日掲載)で、「消費者と商店の両方が喜ぶ素晴らしい製品を構築することだけにフォーカスしている」とだけ述べている。だが、Google買収のうわさは同社にまたとないプラス効果をもたらしたようだ。同氏は、この1週間で300万人の新規ユーザーを獲得したことも明らかにしている。

 買収拒否について、多くのメディアはGrouponの判断を正しかったと考えている。Business Insiderに寄稿したベンチャーキャピタルのJames Altucher氏は「Googleを拒否したGrouponの決定が、世界にメリットをもたらす6つの理由」として、Facebookを筆頭とした新しいインターネット企業のIPO時代に道を開くこと、ベンチャー企業への投資増につながることなどを挙げている。

 否定的なのは、同じBusiness Insiderに寄稿したYipit共同設立者Jim Moran氏で、「Grouponを取り巻く状況は難しくなった」と述べている。Moran氏は、Grouponが置かれる競合環境として、(1)ライバルのLivingSocialが1億7500万ドルの出資をAmazonから受けた、(2)GoogleやYahoo!が今後、競合するビジネスを自社で構築するか買収するだろう、(3)今後買収してくれる企業の候補が狭くなった――の3つを挙げている。そのうえで、Grouponが独立を維持し続けることは難しいと分析している。

Googleには厳しい目~Fortune誌は「Web世界での覇権が移りつつあるのではないか」

 もう一方のGoogleに対しては、メディアは厳しい目を向けている。Grouponが300万人を獲得する間、Googleは、ローカル事業とソーシャルネットワークという2つの弱点をくしくも露呈してしまった。高額の提示にもかかわらずGrouponに振られたことも、Googleのイメージには打撃となる。Forbesは「買収は、自社構築よりも手っ取り早い方法だったが、いまやGoogleに残された道は自社構築しかなくなった」と指摘する。

 Fortuneはさらに進んで、Web世界での覇権が移りつつあるのではないかと分析する。「オープンなWebとクローズドなWebの間で戦いが起きている」としたうえ、Googleは前者の代表で、後者はFacebookを軸とする新しいベンチャー企業だと位置づける。そして、流れは後者の方が優勢となり、「(Googleが)ソーシャルとクローズドなWebを理解していることを示さない限り、いかに高額を提示しても新しいベンチャー企業を味方に付けるのは難しいだろう」と予想する。

 苦悩するGoogleとは対照的に、Grouponについての報道は活気にあふれている。先のNew York Timesのインタビューで、12月3日のできごとについて聞かれたMason氏は、「いい日だったよ」と返し、「根底でよい人間であれば、人はあなたが自分自身でいることを認めてくれる。なぜなら、自分自身でいることとは正直なことであり、人々が望んでいるのは正直さだから」と信念を語る。

 Mason氏は30歳、前歴はミュージシャンというハイテク業界では珍しい経営者だが、インタビューからは、軽快で、あきれるほどポジティブ、同時にしたたかなイメージが伝わってくる。Bloombergが引用していた起業家Matt Moog氏のMason氏評「おもしろく、機転がきく人物で、それがブランドにも反映されている」にも重なる。

 BusinessInsiderは、「これまで見た中で最も面白いベンチャー企業」としてGroupon本社をフォトレポートした。50点に及ぶ写真には、ユーモアにとんだ楽しいオフィスとそこで働くスタッフの笑顔が写っている。これらは、ちょうど10年ほど前、カラフルなGoogleの本社が同じように紹介されたことを思い出させる――。

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(岡田陽子=Infostand)
2010/12/13 11:58