Kindleに挑む新製品群-電子書籍端末が続々


 電子書籍ハードが一大ブームを迎えようとしている。Amazon.comが、この分野の大ヒット商品となった電子書籍端末「Kindle」の販売を一挙に世界に拡大。これに続いて、米国書店最大手のBarnes & Nobleが専用の新端末「Nook」を投入すると発表した。これらに前後して、さまざまな種類の電子書籍端末が発表され、ラッシュ状態になっている。

 Amazon.comは10月6日、Kindleの販売を世界100カ国以上に拡大すると発表した。販売するのは2009年2月に発売した第二世代モデルで、重さは289.2グラム。6インチの電子ペーパーディスプレイを搭載し、3Gワイヤレス通信で書籍データをダウンロードして読む。米国外のユーザーもローミングサービスを使うことで米国のユーザーと同じように本を買える。

 合わせて価格も改定し、米国内価格を299ドルから259ドルに引き下げた。インターナショナル版は当初279ドルとしていたが、出荷開始後、すぐに米国内と同じ259ドルとした。
【お詫びと訂正】初出時、価格が間違っておりました。お詫びして訂正します。

 Kindleは2007年に399ドルで発売。現在、電子書籍端末の6割のシェアを持っているという。Amazon.comの7-9月期決算は売上高が前年同期比28%増の54億5000万ドル、純利益が同68%増の1億9900万ドルと好調だったが、この業績にKindleが相当大きく寄与している。「KindleはAmazon.comのエレクトロニクスストアで台数、金額のトップとなっただけでなく、全カテゴリーの中でもナンバーワンのベストセラーアイテムになった」(Jeff Bezos CEO)という。電子書籍端末はもはやニッチではなく、ドル箱となっているのだ。

 これを追うかたちで参入してきたのが、米国最大の書店チェーンBarnes & Nobleだ。同社が10月20日に発表した新端末「Nook」は、やはり6インチの電子ペーパーディスプレイを搭載して、価格もKindleと同じ256ドルで真っ向から衝突する。発売は11月末の予定だ。書籍データは、KindleがAmazon.comから購入するのに対し、Nookは新設のnook.comから購入する。

 Nookは、先行するKindleを十分研究したようで、Kindleにない魅力的な特徴をいくつか持っている。まずモノクロディスプレイとは別に3.5インチのタッチ式カラー液晶ディスプレイを搭載。ソフトキーボードで文字入力したり、本を表示してiPodの“カバーフロー”のように選ぶことができる。また3G通信に加えて、無線LAN機能を内蔵する。さらに購入した本を2週間の期限で友人と共有することが可能で、PCやiPhoneなどの無料ビューワーを使って、Nookユーザーでない人にも貸し出しできるという。

 また、Kindleよりもオープンな仕様になっているのも大きな特徴だ。プラットフォームにAndroidを採用しており、機能面で拡張の可能性がある。書籍フォーマットはKindleが独自のAZNを中心にしているのに対し、Nookは業界標準のePubを採用し、複数のDRMに対応している。レビューなどでの評判も上々のようで、“Kindleキラー”の呼び声も高い。

 しかし、ベンチャーキャピタルInnosight VenturesのマネージングディレクターScott Anthony氏は、Harvard Business.orgのブログで、「Nookは一部のユーザーに好評なのは確かだが、Kindleキラーになると結論するには、早急すぎる」という。

 Anthony氏は、1)Kindleユーザーに乗り換えさせ、さらに広範囲のコンシューマーの心をとらえられるかは不明、2)どれか1つのデバイスが電子ブックリーダー戦争を終わらせることはできない、3)Appleが来年初め、500~700ドル程度のタブレット端末を投入してくると考えられる、を理由に挙げる。

 実際、いま電子書籍端末は百花繚乱(りょうらん)状態だ。Appleのほかにも、これから多種多様な新製品が次々と市場に出てくる。

 KindleとNookを追って間もなく投入されるのが、米Sonyが12月に発売する新モデル「Reader Daily Edition」と、IREX TechnologiesがBest Buyなどで販売する「IREX DR800SG」だ。いずれも3Gネットワークによるダウンロード購入に対応。Sonyは7インチ、IREXは8.1インチの電子ペーパーディスプレイをそれぞれ採用している。価格はともに399ドルで、KindleとNookよりやや高めだ。

 また、ベンチャーのSpring DesignがNookの前日10月19日に発表した「Alex」は、AndroidをOSに採用し、6インチの電子ペーパーとカラー液晶とのデュアルスクリーンを搭載。無線LANに対応するなど、Nookと非常によく似ている。名前を公表していない戦略パートナーと協議している段階で、年末までに製品を投入するとしている。あまりにNookと似ているため、なんらかの関係があるのではないかとの見方もあったが、同社はBarnes & Nobleの機器には関与していない、とCNET Newsにコメントしている。

 さらにユニークな端末も後に続く。プラスチック基板の電子ペーパーを採用して超薄型の電子書籍端末を開発している英国のPlastic Logicは、厚さ6mmの端末「QUE」を発表。来年1月のCESでお披露目した後、Barnes & Noble Storesから発売するという。enTourage Systemsの「eDGe」は、左が9.7インチ電子ペーパー、右が10.1インチのタッチ式液晶という見開き型デュアルディスプレイ端末。来年2月発売予定だ。

 ネットブックメーカーも虎視眈々(たんたん)と狙っている。台湾のDIGITIMESによると、MSIのJoseph Hsu会長は、NVIDIAのモバイルインターネットデバイス(MID)向けチップ「Nvidia Tegra」を採用した電子書籍端末を開発中であることを明らかにしたという。また、Asustek Computerも9インチのグレースケール表示の端末を準備中で、いずれも来年お目見えする見込みだ。

 日本では、かつてソニーとパナソニックが電子書籍端末を発売して、ふるわず、両方とも撤退した。この波が今度こそ押し寄せてくるのか――。楽しみである。



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(行宮翔太=Infostand)
2009/11/2 09:00