News Corp.がGoogle検索を拒否へ-Microsoft「Bing」と提携の動き


 “メディア王”Rupert Murdoch氏率いるメディア企業、News Corp.が、Googleの検索インデックスから自社コンテンツを削除させることを検討しているという。これまでも多くの新聞社が、Googleのニュース記事“ただ乗り”に不満をぶちまけてきたが、Murdoch氏は、ついに実力行使に出ようとしているのだ。そして、Microsoftが自社の検索エンジン「Bing」で、News Corp.に記事利用料を支払う交渉を進めていると報じられた。この動きが苦境に立つ新聞社を救う道を開くのだろうか――。

 News Corp.とMicrosoftの交渉を最初に報じたのは、11月22日付のFinancial Times(FT)紙だ。News Corp.のコンテンツがGoogleの検索対象から外れて、「Bing」の検索結果に掲載される場合、Microsoftが利用料を払う方向で話を進めているという。FT紙は、Microsoftがほかのメディア企業にも同様の話を持ちかけている、とも伝えている。

 これに先立つ11月9日、Murdoch氏はオーストラリアのSky News(News Corp.傘下)のインタビューで「(検索サービス会社は)われわれの記事を盗んでいる」と批判。記事には高いコストがかかっているが、読者には安価に提供しており、よい記事にはお金を払ってもらえるとした。また検索対象になることでユーザーが増える効果があるのではという質問には、すぐには本当の読者になってくれないと反論。「われわれは、数は少なくともお金を払ってくれる読者を選ぶ」と述べた。

 そして、フェアユースの原則からみても、著作権のあるコンテンツの検索結果表示には制限があり、検索サービス会社に対する法的手段も辞さないとした。インタビュアーの「Googleに載せないという手段もあるのではないか」との質問に対しては、「そうすることを考えている」とにおわせた。この模様は、やはりNews Corp.傘下のThe Wall Street Journalがレポートしている。

 新聞社はかつてない深刻な危機に直面している。インターネットの普及で購読者が減少してジリ貧となっているうえ、世界的な不況の直撃を受けて広告収入も減少。米国では有力紙の経営破たんやリストラが相次いでいる。ネット上ではニュースコンテンツは無料という考えが定着していることから、課金も簡単ではない。各社は、記事単位で小額を課金する小額決済、オンライン購読などのビジネスモデルを探っているが、新聞社の経営再建に残された時間は多くない。

 多くの新聞社は以前から、検索やニュースアグリゲーションサービスを攻撃してきた。中でも各紙のヘッドラインが読める「Google News」を提供する最大手Googleは頻繁に名指しで非難されている。Murdoch氏は今年4月にも「Googleがわれわれの著作物を盗むのをこのままにしておいてよいのか」と発言している。

 MicrosoftとNews Corp.との提携の動きは、こうしたなかで浮上してきた。6月にスタートしたBingはGoogleと正面対決しており、オンラインを強化するMicrosoftにとって極めて重要なサービスである。これまでのところ徐々にながらシェアを伸ばしており、Microsoftは当然、さらなるテコ入れを図るだろう。

 交渉が成立すれば、対Googleで利害関係が一致する両社が組むことになる。その後のメディアの報道によると、Media News Group、A. H. BeloなどもMicrosoftとの提携に前向きなようだ。新しい反Google連合ができる可能性もある。

 こうした新聞社とMicrosoftの動きを、技術コラムニストのJohn C. Dvorak氏は厳しく批判。特にMicrosoftの動きを、新聞社側の弱みにつけ込み金でシェアを買おうとする「見え透いた芝居」と非難する。Dvorak氏は、この動きは「自由な取引を抑制するもの」であり、万が一訴訟となった場合は、公正な取引であると実証できないはずだと言う。

 Newsweekも「両者とも顧客のことを考えていない」と批判する。BingでNews Corp.傘下の記事が独占的に表示されるようになったとしても、消費者は使いやすい検索エンジン(=Google)を使い続け、そこで利用できる代替コンテンツでそれなりに満足するだろう、と失敗を予想。結局、コンテンツは読者にとって「それほど特別ではない」というのである。

 一方、News Corp.の本当の狙いは違うとの分析もある。23日付のFT紙続報は、News Corp.の狙いは、Googleに(Microsoftにならって)利用料を支払わせることであるという複数のアナリストの見方を紹介している。また、同じく苦境にあるフランスの大手Le Monde InteractifのCEOは「(Murdoch氏は)BingとGoogleの競合を活用した。市場の原理に頼るすばらしい解決策だ」とMurdoch氏の手腕を称賛した。

 だが、Murdoch氏をはじめとした新聞社側の狙いがGoogleからも利用料を取ることにあるとすれば、微妙な駆け引きが要求されそうだ。Enders Analysisのアナリストは「十分な数がそろわないと意味がない」とFT紙にコメントしている。

 実際のところ、Googleは新聞社のヘッドラインをそれほど重要と思っていないようだ。Googleの英国ディレクターはFT紙に対し、「ニュースコンテンツはわれわれの収益の大きな部分を占めているわけではない」とコメントしているし、Bloombergも「(Googleがもたらす)トラフィックは価値があるもので、新聞社もそれを認識している」というGoogleのニュース部門担当トップ、Josh Cohen氏の言葉を紹介している。

 つまり、「新聞がGoogleを必要としているほど、Googleは新聞を必要としていない」(業界アナリストのAlan Mutter氏、FT紙にコメント)ということのようだ。

 数が集まればGoogleボイコットはそれなりの打撃を与えるだろうが、現時点ではほとんどの新聞社はリスクとメリットをてんびんにかけているようにみえる。新聞社の生き残り策が検索エンジンから利用料を得ることだとすれば、Microsoftがどれだけ支払うのかも重要な要素となる。

 提携交渉について両社は公式なコメントはしていない。なお水面下の話し合いが続いているようだ。



関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2009/11/30 09:10