トップシステムベンダーに向け大攻勢 Ciscoのあくなき挑戦


 Cisco Systemsがアグレッシブだ。サーバー、仮想化、コラボレーションなどの分野で攻勢を強化。“ネットワーク機器ベンダー最大手”のイメージを変え、世界のシステムベンダーとしての地位の確立を図っている。目指すのはネットワークのもたらす“次の段階”の制覇。不況を好機として、ハイテク業界の勢力図塗り替えを狙う。

 Ciscoの会長兼CEO、John Chambers氏は、11月4日の2010年第1四半期(2009年8-10月期)決算発表で、「景気は底を打ち、上昇に転じる転換点を迎えつつある」と強い自信を見せた。同期は売上高が前年同期比12.7%減の90億ドル、純利益は同18.8%減の18億ドルの大幅減収減益だったが、アナリストの事前予想は上回った。「コラボレーションを基盤とした生産性の新しいモデルが明確に現れつつあり、われわれの25年の歴史のなかで最も大きなビジネスチャンスになるかもしれない」とChambers氏は言う。

 Ciscoはこのチャンスに、成長へ向けた動きを活発化させている。企業買収では、10月だけで、IPベースのモバイルインフラ技術企業Starent Networks、ビデオ通信大手のTANDBERG、WebゲートウェイサービスのScanSafeなどの買収を発表している。

 また製品では11月3日、EMC、VMwareと提携を発表。ジョイントベンチャーAcadiaを設立し、データセンター仮想化のためのインフラパッケージ「vBlock」を提供することなどを打ち上げた。さらに翌週には、一挙計61もの新製品を発表。昨年買収したPostPathやJabberなどの技術を利用して、電子メールやIMなどのコラボレーション分野の強化を図るとしている。

 「vBlock/Acadia」は、Ciscoが「Unified Computing System(UCS)」として今年3月に発表したサーバー分野進出の延長上にある。EMCのストレージ、Ciscoのサーバーとネットワーク機器、VMwareの仮想化技術を組み合わせることで、「Virtual Computing Environment(VCE)」(仮想コンピューティング環境)を実現する。これまで、ばらばらだったサーバー、ストレージ、ネットワークなどのハードウェアが、仮想化とクラウドコンピューティング技術によって、統一的に管理できるようになるという。

 サーバーやソフトウェアから、この分野を狙うのがHewlett-PackardやIBMならば、システムの大動脈であるネットワークから狙うのがCiscoだといえる。同時にこのことは、従来パートナーだったHPやIBMなどとの競合を意味する。VCEへの取り組みでは、単なる提携関係ではなくジョイントベンチャーを立ち上げることで、仮想化というカギを握るVMware(と親会社のEMC)とのコミットを確実にした、というわけだ。

 コラボレーション分野の強化は、これまで「TelePresence」で展開してきたTV会議技術を拡大するものだ。ここでもソフトウェアから展開するIBMなどを敵に回すことになる。「Microsoft Outlook」との相互運用性、モバイル対応を実現したCiscoの電子メールサービス「WebEx Mail」は、Googleとも競合する。

 Ciscoの上級副社長、Tony Bates氏はThe Wall Street Journalのインタビューに対し、電子メールやIMといった個々のアプリケーションではなく、コラボレーションという視点を強調する。「われわれはコラボレーションエクスペリエンスを再定義しており、電子メールはその一部にすぎない」と述べ、他社はコンテンツに、Ciscoはコミュニケーションにフォーカスしていると対比してみせた。

 これらはいずれもネットワークを基盤として拡大する。Chambers氏は決算発表で「コラボレーション、仮想化、ビデオなどの技術を利用して生産性を向上するとともに、ネットワークへの負荷はさらに増加する」としたうえ、「ネットワークのコアの価値を高める機会」と述べている。Ciscoは不況への対応に追われるのではなく、自社のコア事業と拡大戦略を描いている。

 こうしたCiscoの戦略に対し、アナリストの意見はさまざまだ。

 ForbesはVCEを高く評価する。EMCとCiscoという名前だけではなく、「ビジネスのニーズと技術の成熟がマッチ」と提携のタイミングを評価。テクノロジー業界にはさまざまな提携があるが、この提携は重要で意味のあるものになると予言する。Ciscoにしてみれば、これまでサーバー/ソフトウェアベンダー主導から、ネットワーク主導にデータセンターシステムの流れを変えるチャンスとなる。

 一方、新しい流れというよりも、IBM、HP、Dellなどに追いつくための動きとみるアナリストもいる。eWeekは「CiscoにしてもEMCにしても、全体的な信頼性を獲得していない。この提携は新しいトレンドを生むというよりも、必要に迫られたものにすぎない」というForrester Reserachの主席アナリストJames Staten氏のコメントを紹介している。Staten氏はさらに、CiscoのブレードサーバーUCSについて、「顧客は、UCSのような新しいソリューションに対して懐疑的」と述べている。

 見方は分かれるものの、1990年代にインターネットの寵児としてもてはやされたCiscoは、なお挑戦を続けている。TheStreet.comによると、Chambers氏は今年8月、独自性やイノベーションを促進するため、経営統治モデルをこれまでのトップダウンからチーム主導に変更。現在約60のチームが自律的に動いているという。

 Chambers氏は1991年にCiscoに入社。1995年にCEOに就任したベテランで、その経営手腕はだれもが評価するところだ。過去の成功にとらわれることなく、成長へのかじ取りを進めれば、CiscoはIBM、HPなどに並ぶシステムベンダーとして生まれ変わることができる、Chambers氏はそう信じているようだ。



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(岡田陽子=Infostand)
2009/11/16 09:00