Androidはプラットフォーム-Googleのモバイル進出
ついに米Googleのモバイル戦略が明らかになった。その実態は、過去数カ月間うわさされてきた「GPhone」でも「Google Phone」でもなく、モバイル向けのオープンなプラットフォーム「Android」である。Googleは同時に、キャリアやメーカーなどとアライアンス「Open Handset Alliance(OHA)」も立ち上げ、モバイル業界に殴り込みをかける。Googleの戦略の正否について、メディアや業界の見方は分かれている。
Androidは包括的なモバイルプラットフォームだ。Linuxカーネルをベースに、Googleが開発したミドルウェア、インターフェイス、アプリケーション、それにデバイスドライバなどで構成。「Apache v2」ライセンスを採用して、オープンソースとして無償公開する。モジュール構成をとることで、ローエンドからハイエンドまで、さまざまな携帯電話を開発できるという。Googleは11月12日にソフトウェア開発キット(SDK)をリリースする予定だ。
OHAは、このAndroidを支援するアライアンスで、Sprint Nextel、NTTドコモ、中国China Mobile Communicationsなどのキャリア、Qualcommなどのハードウェアメーカー、台湾HTC、Motorolaなどの携帯電話メーカー、eBayなどのソフトウェアメーカー、それにアプリックスなどの商用化企業で構成され、Googleを入れて総数34社の一大組織となっている。
Androidプロジェクトを率いるのは、Googleが2005年に買収したベンチャー、Androidの創業者Andy Rubin氏だ。Rubin氏は、QWERTYキーボードを搭載した人気端末「SideKick」(その後、シャープが開発を引き継いだ)などの開発で知られる。同氏はGoogleのモバイル戦略発表の場で、「(Googleの構想は)共通の携帯電話向けプラットフォームを構築すること。このプラットフォームは誰の所有でもなく、人々はこれを土台に(サービスを)構築する」と語っている。オペレーターや端末メーカーは共通のベースにAndroidを採用することで、差別化の部分に注力できる、とGoogleが主張する。
こういうアイデア自体は新しいものではない。オープンソースのLinuxをモバイルで活用しようとするアライアンスは過去にいくつもある。だが、Rubin氏自身が、「これはいままで実現したことがないアイデアだ」と語っているように、過去のアライアンスは成功しているとはいえない。多くの場合、オペレーター、端末メーカー、ハードウェアメーカーなどの関係者の利害関係が一致せず、なかなか開発作業は進まないというのが実情だ。
こうした背景から、Androidはともかく、OHAの将来については疑問視する声も多い。米Datacomm ResearchのIra Brodsky社長はTechNewsWorld誌に対して、「(これまでと違うのは)Googleという影響力が加わっただけ」「(Androidは)オペレータがやろうとしていることと衝突するだろう」と述べ、長期的にはオペレーターは、Androidの支援に消極的になると予想している。
懐疑派が指摘するもう一つの点は、OHAの参加メンバーだ。リストを見ると、携帯電話業界では2番手が多い。世界の携帯電話の4割近くを供給しているフィンランドのNokia、売上高世界一のオペレーター英Vodafone、米国最大のAT&Tなどトップ企業は、現時点では参加していない。
広告収益を柱とするGoogleの狙いは、もちろん、インターネットの利用を増やすことだ。携帯端末からインターネットに気軽にアクセスできるようになれば、Googleのサービスの利用が増え、広告収益が増える。
ネット端末としての携帯電話はPCを数で上回っており、なお増加が続いている。途上国では、PCよりも携帯電話でインターネットを体験するケースが当たり前になるだろう。したがって、Googleにとってモバイルへの進出は、きわめて重要となる。
だが、現在の携帯電話は、PCを利用する固定インターネットと比べ、インターネット利用に開かれていない。これまでも、Googleは、オペレーターや端末メーカーと提携することでモバイルインターネットへの進出を図ってきたが、なかなか入り込めなかった。
The Wall Street Jounal紙は、Androidを「Googleがモバイル業界の仕組みにいらだっていることを裏付けるもの」と分析している。TechNewsWorldも「Googleとパートナー社のメッセージは、モバイル業界の競争を大きく変えるというものだ」というJupiter Researchのアナリストの言葉を紹介している。Android/OHAは、「長期的には影響を与えるのは、端末の開発設計というよりモバイル業界のエコノミクス」(The Wall Street Jounal)との評価がみられる。
米ZDNetのブログでは、Android/OHAでGoogleが実現しようとしていることを、より高いレベルで分析している。
時代は「コンバージェンス」(融合)の時代である。通信、インターネット、IT業界が融合する中、PC、携帯電話、ゲームなどのエンターテインメント端末の境界線はあいまいになっている。ブロードバンド接続環境があれば、インターネットやコンテンツにアクセスする端末の種類は重要ではなくなってくると予想される。
Androidが携帯電話にとどまらず、さまざまな携帯端末に利用されるようになれば、PC業界には大きなダメージとなるだろう。つまり、Androidは、PCで圧倒的なシェアを築いたライバルMicrosoftに対抗するOSとなる可能性を秘めているとも分析できる。となると、Androidは、モバイルOS最大手の英Symbian、Microsoft、カナダのResearch In Motionなどのモバイルプラットフォームに対抗するもののではなく、まったく新しい分野を切り開くものとなる。
ブログの筆者Dana Gardner氏は、GoogleのCEO、Eric Schmidt氏が開発・促進に携わった米Sun MicrosystemsのJavaにAndroidをなぞらえている。
「モバイル業界はまだ発展期にあり、Googleとパートナー33社はオープン性を保つ可能性が開かれている」「ここで実現されるゆるやかに結びついたコンテンツモデルは、Microsoftが20数年にわたって定義してきた現在のPCモデルをしのぐだろう」(Gardner氏)。また、Gardner氏は、Android向けに開発されたコンテンツはPCでも利用される可能性が高いと予想している。
モバイル業界は今年、激動の年だ。年初めに登場した、Appleの「iPhone」は大成功を収めた。Googleの野望が実現すれば、今年は、ターニングポイントとして歴史に記憶されることになりそうだ。
Androidを搭載した端末は、2008年に登場する見込みだ。