米Novellと米Microsoftの歴史的提携、コミュニティの疑念



 長年の宿敵だった米Microsoftと米Novellが歴史的提携を結んだ。LinuxとWindowsの相互運用性の実現を目指すものだが、これをめぐってオープンソースコミュニティから議論が噴出している。とくに特許面での合意について不明確な部分が多く、GPL(GNU General Public License)に違反する疑いがあるという声があがっている。Novellは追加情報を公開するなどしているが、コミュニティの抱く疑念を晴らすまでには至っていない。


 両社が11月2日に発表した提携の内容は、技術、特許、ビジネスの3分野にわたるもので、少なくとも2012年まで継続する。

 技術面では、サーバー仮想化、サーバー管理におけるWebサービス、ドキュメントフォーマットの3分野が対象で、LinuxとWindowsの相互運用性に取り組む。ビジネスでは、両社が共同開発したソリューションの営業・マーケティングで協力、Microsoftは「SUSE Linux Enterprise」の保守・サポートが受けられるクーポン7万枚をNovellより購入する。特許では、互いのユーザーに対して特許訴訟を起こさないことを約束する。営利を目的としない個人開発者も対象とする。

 だが、オープンソースコミュニティの反応は決して好意的なものではななかった。もともとオープンソースコミュニティにはアンチMicrosoftの傾向が強い。感情的な批判もあり、Novellについて「悪魔と取り引きした」などと表現する者さえあった。だが、コミュニティの最大の関心事は「この提携がGPL違反ではないか」という疑問だ。GPLは、Linuxカーネルが利用している。

 問題の箇所は、現行のGPLバージョン2にある第7条だ。「もしこの契約書の下であなたに課せられた責任と他の関連する責任を同時に満たすような形で頒布できないならば、結果としてあなたは『プログラム』を頒布することが全くできないということである。例えば特許ライセンスが、あなたから直接間接を問わずコピーを受け取った人が誰でも『プログラム』を使用料無料で再頒布することを認めていない場合、あなたがその制約とこの契約書を両方とも満たすには『プログラム』の頒布を完全に中止するしかないだろう」(GPL 日本語訳より)

 GPLを管理するFree Software Foundation(FSF)の法務顧問、Eben Moglen氏はさっそく疑問を投げかけた。米CNetに、同氏は「GPLソフトウェアを配布する権利を得るためにロイヤルティを払うという合意を結んだ場合、そのソフトウェアはGPLライセンス下では配布できない」と語っている。また、英The Registerの報道によると、Open Source Initiativeの創設者の一人でオープンソース擁護者のBruce Parens氏も、Novellは“第2のSCO”であり、GPL違反だと述べているという。


 Novellは7日、コミュニティからの疑問の声に応える形で詳細情報とFAQを公開した。それによると、MicrosoftはNovellに対し、特許における合意の下で1億800万ドルを前払いするという。一方のNovellは「Open Enterprise Server」などの売り上げに応じ、5年間で最低でも4000万ドルをMicrosoftに支払うという。

 だが、この支払いの名目は、お互いの特許にロイヤルティを払うクロスライセンスではない。自社顧客を特許訴訟から保護するため、というのがNovellの立場だ。「合意した条件はGPLに矛盾するものではない。Novell自身がMicrosoftからライセンス料を受け取るわけではなく、訴訟を起こさないという保証を受けるわけでもない。対象はNovellの顧客であって、これはGPLのスコープから外れる」とNovellは説明している。

 また、MicrosoftもGPL違反にはならないと強調している。英Computer Business Reviewのオンライン版によると、Microsoftのプラットフォーム戦略担当ゼネラルマネージャ、Bill Hilf氏は、今回の提携の特許面について、「特許のライセンスではなく、訴訟を起こさないという保証だ。ライセンスという言葉は出てこない」と述べている。

 GPLに違反していないとしても、オープンソースコミュニティには不安が残る。

 特許訴訟を起こさないという保証の対象となるのは、Novellの顧客、個人レベルでopenSUSE.orgに参加するオープンソース開発者、報酬を受けていない趣味ベースの開発者に限られる。つまり、この枠外はカバーされないということだ。実際、米InformationWeekによると、MicrosoftのCEO、Steve Ballmer氏は「訴訟を起こさないという保証は、SUSE Linux以外のLinuxには適用されない」と明言している。

 オープンソース業界に渦巻く特許訴訟への懸念は引き続き残っている。Microsoftの動きを、オープンソース陣営に対する攻撃ととらえる見方もある。たとえば、Parens氏は「Microsoftはいつでも(Novellとの)約束を撤回し、変更したり打ち切ることができる。この提携を信じることはできない」と警告している。


 一方で、提携を肯定的にとらえる声もある。

 さきごろ来日したOpen Source Development Labs(OSDL)のStuart Cohen氏は「Linuxの重要性を認めたというのが大きなポイント」「プラスのサインと受け止めている」とコメントしている。また米InfoWorldは、Linus Torvalds氏も「誰も敵を持たないという選択肢を喜んで選ぶ」と楽観の姿勢を示したという。米Red HatもMicrosoftとNovellの発表に応じてFAQを公開、「Linuxの勝利を意味する」と宣言した。実際、技術面で両社の約束が実現すれば、ユーザーには喜ばしいことなのだ。

 Novellはこうした混乱が起こることも最初から想定していた模様で、同社のオープンソース・ソリューション担当ディレクター、Justin Steinman氏はLinux.comに対し、次のように答えている。「しばらくはいろいろと言われるだろうが、事態を冷静・理性的な目で見られるようになるだろう。そのときに、この合意はオープンソースコミュニティにとって良いものであることがわかるだろう」。

 今回の一件は、Linuxの抱える問題の1つである特許が無視できない大きなものになっていることを示している。Red HatもFAQで、改めて自社の免責保証について説明している。Microsoftを脅かす存在になったLinuxだが、今後の発展には法的問題の解決が課題である。これは間違いないだろう。

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(岡田陽子=Infostand)
2006/11/13 09:06