Red Hatを狙い撃ち-米OracleのLinuxサポート進出の激震



 Red Hat Linuxのサポートサービスに進出するという米Oracleの発表に業界は揺れ動いている。以前からLinux市場への興味を示してきたOracleだが、今度はRed Hatへの攻撃という形をとった。


 10月25日の「Oracle OpenWorld」でLarry Elison会長兼CEOが行った発表を再度まとめると、1)Red Hat Enterprise Linux(RHEL)を対象としたサポートサービスを開始する、2)サポートの料金はRed Hatが行う同レベルのサービスの半分とする―ということになる。

 具体的には、既存のサポートプログラム「Unbreakable Linux」を「Unbreakable Linux 2.0」に拡大して行う。Red Hatの商標を除去して法的な問題をクリアしたRHELのソースコードに基づき、Oracleがパッチを作成して配布する。Oracleは、これまで自社製品のサポートの一環としてRHELのサポートを行うことはあったが、2.0では、RHELそのものを対象にして、Oracleユーザーでなくとも利用できるという。

 Red Hat LinuxについてElison氏は、(現バージョンだけでなく)旧バージョンに対するパッチが提供されないこと、高額なサポート料金、訴訟リスクといった問題点があると指摘。Unbreakable Linux 2.0では、RHEL 2/3など旧バージョンのバグも修正し、料金はRed Hatの最大40%の価格で実現し、免責保証を提供するとぶちあげた。

 これを受けて26日、Red Hat株は急落。翌27日には同社の取締役会が3億2500万ドル相当の株式と転換社債の買い戻しを決定、株価を支えた。そしてOracleの挑戦に対する回答として、「Unfakeable Linux」(“fake”は、盗む、でっちあげるの意味)というサイトを設け、迎え撃った。

 Red HatはUnfakeable LinuxのQ&Aで自社のスタンスを説明している。OracleのサポートはRed Hatのハードウェア検証や認定プロセスを受けていないこと、API(Application Programming Interface)とABI(Application Binary Interface)の互換性が保証されていないことなどを指摘。また、OracleがRed Hatとは無関係にコードを変更していけば、Linux OSの分岐が起こる恐れがあると警告している。

 また、Red HatのCEO、Matthew Szulik氏は10月27日のCNBCのインタビューで、「競争を歓迎する」としながら、自社のサービス料金は、対抗値下げしない考えを明らかにした。


 業界の反応はどうだろうか。

 米Dell、米Hewlet-Packard、米EMCなどのハードウェアベンダーはOracleの発表に際して、エンドースを寄せている。中でも、DellのMichael Dell会長は、「社内でのLinux OSサポートにはOracleを利用する」と述べて強く支持を表明。顧客にはOracleのサポートを選択できるようにするという。

 一方、ソフトウェア事業も重視する米IBMの場合、立場は微妙だ。同社はエンドースはしながらも、「OracleがLinuxを分岐するとすれば、これは危険な坂道になる。われわれは(Oracleの動向に)注視しなければならない」(ソフトウェア部門戦略担当のKristof Kloeckner氏、英Financial Times紙のインタビューに答えて)と危惧をあらわにしている。

 オープンソースベンダーは動揺を隠せない。米Mercury Newsによると、米Zend Technologiesの最高マーケティング責任者、Mark de Visser氏は「オープンソース界への敵意ある乗っ取りだ」と非難。(今回のOracleの発表から)「オープンソースの世界でも資本主義のルールが適用されるということを学んだ」と述べている。

 また、米SugerCRMの会長兼CEOのJohn Roberts氏は「コミュニティにおけるイノベーションとマネージングを強化し、プロジェクトをうまくサポートできない場合、分岐が起こる」と警告している。


 アナリストは厳しい目を向けている。

 米CNet Networks傘下のSilicon.comによると、米Gartnerは今回の動きを“オープンソース業界の注意を喚起する目覚まし時計”に例え、Red Hatの長期的将来に疑いを投げかけるものだとみている。Gartnerは、Red Hatユーザーに対しては、Oracleのサービスとの互換性を検証するよう勧めている。

 米InfoWorldが紹介したイスラエルの金融機関Hapoalim Securitiesのレポートは、Red Hatの位置はあまり揺るがないとみている。Oracleのオファーは顧客にとってそれほど魅力的ではないだろうとしたうえ、Oracleは最悪の場合、Red Hatのシェアの2~3ポイントを奪うにとどまると予想している。

 関係者が一様に懸念するLinuxの分岐、分断化については、Linux標準化を進める業界団体Free Standards Group(FSG)のディレクターは、起こらないだろうとの見方を示した。FSGの担当者は米Jupiter MediaのLinuxPlanetの取材に応じ、OracleがFSGのプラチナメンバーになったことに触れて「よい兆候だ」と評価している。

 Oracleの発表により、オープンソース業界にはこれまでにない激震が走った。だがこれで、Linuxサポート市場の競争が激化し、ベンダーがサービス内容と価格で勝負するようになれば、顧客にとっては朗報といえる。

 過去に米Sun Microsystemsなどがアプリケーションサーバーを無料で提供する動きがあったが、IBM、米BEA Systemsなどのベンダーは引き続き有料で提供し、事業を続けている。Red Hatによっては試練となるが、今後のLinuxビジネスのあり方を問う重要なケースとして注目される。

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(岡田陽子=Infostand)
2006/11/6 09:11