新たなIP問題? Linuxの商標騒動
Linuxを巡って、新たなIP(知的所有権)論議が起こっている。今度は商標(トレードマーク)に関するものである。Linuxの利用は無料だが、Linuxという言葉を保護するために、使用料を徴収するというポリシーの強化を受けたものだ。
米国におけるLinuxの商標権者は、“Linuxの生みの親”Linus Torvalds氏だ。商標法は各国で異なるため国ごとに申請が必要だが、今回オーストラリアでLinuxを商標登録することになった。これが、ことの発端だ。
オーストラリアの非営利団体Linux Australiaは8月初め、Linuxを用いた製品やサービスを提供する地元企業、約90社に対し、商標使用料を求める書簡を送ったことを明らかにした。同団体は現在、オーストラリアの商標管理機関であるIP AustraliaにLinuxの商標登録を申請中で、9月7日にもその結果が出ることになっている。この書簡には、もしLinuxが登録商標として認められた場合、商標使用に対して年間約200~5000オーストラリアドルを支払うことを求めるという同団体のポリシーが記されている。
これに対する企業の反応はさまざまだったようだ。「Linuxという言葉の乱用や誤用を防ぐため」とするLinux Australiaの主張を聞いて納得した企業もあったようだが、コミュニティの間では、使用料という名目で、同団体やTorvalds氏は利益を得ようとしているのではないか、と疑う向きもあったようだ。
そこで、Torvalds氏は8月20日、Linuxカーネル開発のメーリングリストで声明文を発表し、商標登録と使用料徴収の趣旨・目的、必要性について説明した。
それによると、所有者が変わることのない著作権や特許と異なり、商標法では所有者がその利用を管理することが義務付けられており、それを怠っているとみなされた場合、権利が消滅したり商標乱用で訴訟を起こしても不利になるという。使用料に関しては、「1セントも自分の懐に入らない」とし、Tolvalds氏や管理団体ではなく弁護士などの維持費にすべて充てられる上、これまでのところ赤字が続いていると説明している。
Linuxの管理・支援団体米Linux Internationalのエグゼクティブ・ディレクター、Jon "Maddog" Hall氏も、オーストラリアのメディアに対し、同趣旨の補足コメントを行っている。同氏はまた、特許などのほかのIPとの違いも説明し、「特許取得済みの技術はライセンスなしには製品化できないが、(「Debian」「Red Hat Software」のように)商標では名前を変えて製品を提供することができる」と述べている。
すでにLinuxが商標登録されている米国では、Linux Mark Institute(LMI)が商標管理団体となり、年間使用料は200ドル~5000ドルと定められている。
なお、オーストラリアにも米国にも、Torvalds氏以外の人物や団体が過去にLinuxを商標申請したという経緯がある。米国ではいったんは申請者に商標が与えられたが、その後Torvalds氏個人の手に渡った。オーストラリアでは、当局が申請を却下している。
今なお継続中の米SCO Groupの訴訟問題で明らかになったように、新しい開発形式であるオープンソースには、なお法やIPの新たな課題が出てきている。
IPには主として、特許、著作権、商標があるが、オープンソースは一般的に、特許には批判的で、反対の姿勢をとっている。今回の論議は、IPに関する知識が混乱していたため「ソフトウェア特許には反対するLinux関係者がどうして商標で課金するのか」という反発を生んで、騒ぎが大きくなった部分もある。オープンソースソフトを使うユーザー側も、こうしたことに関する基礎的な知識が求められる時代になったといえそうだ。また、時代の変化に適応するよう、法体系の見直しも必要なのかもしれない。