独ミュンヘン市がDebian採用、公共機関で進むオープンソース導入
政府など公共機関で、オープンソース導入のニュースが相次いでいる。2005年5月初めにはドイツ南部の大都市ミュンヘン市が、デスクトップOSとしてオープンソースのDebian GNUを採用することを発表した。同市の約13,000台のPCが一気に、Windowsからオープンソースに切り替えられる。現在、最もオープンソースに期待をかけているセクターは公共機関といえる。ミュンヘン市を中心にその動きをまとめた。
ミュンヘン市がLinux移行計画「LiMux」を最初に明らかにしたのは、2003年のことだ。当時、同市はWindows NTのサポート終了を機に、オープンソースへの移行の検討を開始し、米IBMなどのベンダーに評価を依頼した。翌2004年、移行計画は議会の承認を受けて、正式にゴーサインが出る。だが、LiMuxはスタート時から思わぬハードルに遭遇する。当時、米SCO Groupが特許などの知的所有権(IP)侵害訴訟を複数件起こしたことから、IPというオープンソースの弱点が露呈したからだ。その後ミュンヘン市は法関連のリスクを調べた上、Linux導入続行を決める。以来、計画は少しずつ進められており、今回のDebianも入札プロセスを経た進展となる。
現在、オープンソース導入に積極的なのは、ミュンヘン市のあるドイツをはじめとした欧州諸国、それに中国など一部のアジア地域といわれている。たとえば、ドイツ内務省は2002年、自治に任せている州や連邦レベルでのLinux導入を支援するため、IBMと契約している。フランス政府も同様の推進活動を進めており、ノルウェーのベルゲン市もLinux移行を発表している。他にも、ウィーン(オーストリア)、ローマ(イタリア)と欧州各国の主要都市で移行計画や評価が行われている模様だ。
その理由は、さまざまだ。ドイツの場合、SUSE Linux(現米Novell傘下)誕生の地であり、KDE、Knoopixなどのオープンソース活動が盛んで、オープンソースを育む土壌がすでにあった。ちなみに、オープンソースのWebブラウザ「Firefox」の利用率はドイツでは22.6%(米国は6.8%、日本は2.8%、米WebSideStory調べ)に達するなど、一般ユーザーにも浸透し始めているようだ。
もう1つの背景が、欧州連合(EU)だ。EUは2002年に、Windowsをはじめとしたプロプライエタリなソフトウェアとオープンソースを、技術や価格などさまざまな側面から比較・検証したレポートを作成するなど、オープンソースという選択肢に早くから積極的だった。現在、EUは、相互運用性促進のためとして、加盟国にオープンソース利用を推奨する取り組みも展開している。
このほか、Windowsへのセキュリティ面での懸念や、価格体系やサポートなど、Microsoftのポリシーを好まない声もあがっており、これらも追い風になっているようだ。
市場要因としては、米Sun MicrosystemsやNovellなどが商用のデスクトップLinuxの提供に本腰を入れ始めたことが挙げられる。特にSunの「Sun Java Desktop System(JDS)」は、2003年11月の発売直後に、英国で政府機関の調達を管理する英政府調達庁(OGC)が試験導入を発表するなど、好調なスタートを切っている。
このような動きに押されるようにして、Linux推進団体のOpen Source Development Labs(OSDL)も2004年、デスクトップ分野の取り組みに着手している。OSDLでは、Linuxのサーバー分野の浸透を生かした形でデスクトップにも広まると想定しているようだ。
もちろん、利用できるアプリケーションの増加が必須であることはいうまでもない。中でもオフィスアプリケーションは重要だが、公共機関の導入計画ではオープンソースの「OpenOffice.org」を利用する例が多いようだ。だが、将来的にはMicrosoftがWordなどのOffice製品で互換性を持たせるかどうかが、ある程度のかぎを握ることだろう。
一方のMicrosoftだが、次期Windowsの「Longhorn」(開発コード名)ベータ版を年内にもリリースする予定だ。3Dなどの視覚効果や各種機能でユーザーを引き付けられるかが注目される。また同社は、政府機関では「政府向けセキュリティプログラム(GSP)」、セキュリティでは「Trustworthy Computing Initiative」、一部途上国では廉価版の「Windows XP Starter Edition」を提供するなど、オープンソース対抗策も展開している。