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成層圏の戦い Googleの気球とFacebookの無人機

衛星携帯電話の失敗

 空から飛行体で通信サービスを提供する試みはそれほど新しいものではない。1990年代には、低軌道衛星を利用する携帯電話サービスが次々に登場した。66機の衛星を使うIridium、48機のGlobalstar が代表で、ほかに、Microsoftの出資を受けたTeledesicなどがあった。

 しかし、衛星携帯電話は期待されたほど需要がなく、いずれも経営的には破綻してしまった。低軌道衛星は地上で比較的小型の端末で利用できる半面、1機あたりのカバーエリアが狭く、多数の衛星を持たないとサービスを提供できない。一方で、地上では携帯電話網が急速に発達し、人口の多い地域に安価に普及していった。

 結局、どのサービスも巨額の設備投資を回収するまでビジネスを成長させることができず、経営的に行き詰まってしまった。IridiumとGlobalstarは同名で現在もサービスを提供しているが、破綻後、その資産を活用して新しいフレームワークで運営されている会社だ。

 それから十数年。空からのインターネット接続が浮上している。Facebookの無人機、GoogleのLoonとも、人工衛星よりも低コストで中継するという点がキモだ。ただし、高度がより低くなるため、相当数の中継機を飛ばすことが必要になる。そこを気球、無人機という比較的安価なプラットフォームを利用してクリアする。これには、省エネかつ高度な制御が現実になったという背景がある。

 また、The Vergeは、衛星携帯電話の失敗には、大型の特殊な端末を使わねばならなかったことも要因だったと指摘している。そして、最近の安価でパワフルなスマートフォンの普及で、いまや大きな問題ではなくなったとも述べている。

 2つのプロジェクトは、ともにまだ実験的な位置づけであり、コスト面での検証が求められる。落下率、リユースなどの要素の検討が必要だ。また、趣旨から言えば、衛星携帯サービスのように高額な料金を設定するわけにはいかない。Zuckerberg氏はMWCのキーノートの中で、インターネットにアクセスできない世界の多くの人に提供するサービス料金は「1ドルから3ドルでなければならない」と述べた。無人機プロジェクトも最終的には、その線を目標にしたいということだろう。

 どちらも世界の人々のための壮大なプロジェクトだが、別の側面もある。すなわち、成層圏が“フロンティア”であるという点だ。航空エンジニアのIain McClatchie氏はThe Vergeに、次のようにコメントしている。「現在のところ、成層圏は広く開かれている。これが今後数十年で大きな価値を持つようになると考えている大手インターネット企業の一等地のゴールドラッシュが起こっているのだ」

行宮 翔太=Infostand