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画期的論文を撤回 Microsoftの量子コンピューター戦略に陰り?

「厳密さが不十分」

 なぜ、このような事態が起こったのだろう。Natureニュース部門(ジャーナル部門からは独立している)は、論文撤回に至った経緯を取材・公表している。

 それによると、発覚のきっかけは、論文の共著者の一人であるピッツバーグ大学のSergey Frolov氏が後日、結果に疑問を持ったことだった。

 同氏は論文の元データを入手して精査し、根幹部分の主張と矛盾する証拠を発見した。連絡を受けたNature誌は2020年4月、論文についての懸念を誌上で表明した。

 これを受け、Kouwenhoven氏ら論文の中心著者らは、全ての生データを再分析し、実験をやり直した。その結果、「以前の結論を裏付ける証拠がない」ことがわかり、今年3月8日に撤回文書を出した。「オリジナル原稿の科学的厳密さが不十分であったことをコミュニティにお詫びします」と謝罪している。

 一方、デルフト工科大学も特別委員会を設けて調査を行い、ねつ造などの不正行為はなかったと結論している。原因は「研究者がデータを過度に楽観的に解釈していた」ためとしている。

 Natureは、現在、中国・清華大学に在籍しているKouwenhoven氏ともう一人の主著者に、Frolov氏の分析結果についてのコメントを求めたが、回答はなかったという。

 BBCによると、Nature誌での論文撤回は、1869年の創設以来、79件。約150年の歴史の中でも、決して多くない不名誉な話となった。