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画期的論文を撤回 Microsoftの量子コンピューター戦略に陰り?

 量子コンピューターは、従来のコンピューター(古典コンピューター)とは全く異なる原理で計算能力を飛躍的に高める期待の新技術だ。米中技術覇権争いの焦点の一つでもある。その量子コンピューターの最前線で、Microsoftは2018年に発表した“画期的な”論文を撤回した。何があったのか――。

“幻の粒子”、また幻に

 論文は、素粒子の一種である「マヨラナ粒子」存在の証拠を発見したという内容で、2018年3月に著名な科学誌「Nature」に発表された。オランダのデルフト工科大学の物理学者で、Microsoftの科学ディレクターだったLeo Kouwenhoven氏が主導して執筆したものだ。BBCやWiredなどが伝えている。

 量子コンピューターは、「量子ビット」を演算素子に使い、その「重ね合わせ(コヒーレンス)」という状態を利用して計算を行う。しかし、この状態は極めて不安定で、温度や磁場などの環境「ノイズ」で瞬時に失われてしまう。

 マヨラナ粒子は、自身がその「反粒子」と同一で電荷が中性の特殊な性質を備える粒子だ。1937年に理論的に存在が予想されものの、長らく立証されない“幻の粒子”だった。

 これを応用すれば、安定的で高集積が可能な量子ビットを作り出せると考えられている。うまく制御すれば、従来のものより、はるかに環境ノイズに強い「トポロジカル量子コンピューター」が実現できるというのだ。

 Microsoftは、トポロジカル方式を戦略の中心に据え、2004年ごろから研究に取り組んできた。そして、Kouwenhoven氏らの論文は、あるか、ないかも定かでない粒子を観測し、画期的な成果を上げた――はずだった。